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 オーセンティックなスカのファンにとって大きな楽しみになっていたスカ・エクスプロージョンが最後に開かれたのはいつのことだったろうか... 本当はそれほど昔のことじゃないはずなのに、遙か彼方の話のように感じるのはなぜだろう。

 確か、ジャズ・ジャマイカがブルーノートを中心としたジャズの名曲をカヴァーしたアルバムを発表したのが94年。そのほぼ1年後にその続編が発表され、同時期にスカ・フレイムスの結成10周年記念アルバム、『ダム・グッド』が登場している。また、トロンボーンの巨匠、リコ・ロドリゲスの13年ぶりのスタジオ録音作、『Wonderful World』もそのあたりに発表されているはずだ。それにこのアルバムの主、トロージャンズのリーダーで、ロンドンで最長不倒の歴史を誇るクラブ、ギャズズ・ロッキン・ブルースのDJでもあるギャズ・メイオールによるR&Bのコンピレーション・アルバム、『ウィスキー、ワイン&ウイメン』が発表されたのも95年。思うに、その頃に最後のスカ・エクスプロージョンが開かれたんじゃないだろうか。どうも記憶が定かではないのだが、正直言ってしまえば、それがいつだったか断言できないほどに昔のように思えるということだ。

 当時、ジャズ・ジャマイカが前述の、『ザ・ジャマイカン・ビート』でちょっとしたヒットを記録し、オーセンティックなスカがかなりの盛り上がりを見せたと思うのだが、あれ以来、なにやらぷっつりとその話題がシーンから消えてしまったような気がするのだ。実際、かつて毎年のように日本にやってきていたギャズ・メイオールもしばらくは来日していなかったし、そのあたりのアルバムが日本で発表されることも久しくなかったような気がする。

 が、スカがシーンから消え去ることはなかった。それどころか、派手にメディアで扱われることはなくとも、着実にそのパワーを蓄積しながら、20世紀を目前に控えた今、大きく羽ばたこうとしているように思えるのだ。考えてみれば、20年ほど前に(もう20年だよ、信じられない!)一世を風靡した2トーンや10数年前にギャズが本格的に日本に紹介したオーセンティックなスカ、あるいは、熱心なレゲエ・ファンがその歴史を遡ることで再発見したロックステディやスカの種がゆっくりと地下に根を張り、今になってやっと芽を出してきたといったところだろうか。

 例えば、様々なスタイルのスカが大きな盛り上がりを見せているアメリカだ。まずはインターネットの情報をチェックしてみればいい。レゲエよりも遙かに多くのスカ関連のページがみつかるのだ。また、スカ・バンドの最高峰、スキャタライツは過去最大のライヴ数を消化し、日本でも大きな人気を獲得したジャズ・ジャマイカも長らく宙に浮いていたデビュー・アルバム「スキャラヴァン」をアメリカでも発表している。加えて、同じように日本でまずデビュー・アルバムを発表し、日本での人気が先行したジャンプ・ウィズ・ジョーイも本国でのアルバム・デビューを実現。そのドラマー、ウィリーによると彼らも仕事が増えて、スカ・シーンの顔になっているというのだ。

 特にめざましいのがスカ・コアからスカ・パンクといった一連の流れだろう。オーセンティックなスカ・ファンにはピンとこないかもしれないが、このあたりが猛威を振るっていると言われている。今年1月に来日したマイティ・マイティ・ボストンズやトースターズらの活躍なども忘れてはいけないだろうし、そんな流れの中で実現したのが日本のバンド、ケムリの全米ツアーだ。残念ながら、そのあたりのシーンに、筆者はそれほど詳しくないのだが、この5月に実体を取材しにアメリカに出かけていく予定だ。そのときにはきっと詳しいレポートをどこかの雑誌で発表できるだろう。

 一方、しばらく音沙汰のなかったロンドンのスカ・シーンでも面白い動きが出始めている。その好例がシーンの中心人物、ギャズ・メイオール周辺の動きだ。昨年は、スカからレゲエと言ったジャマイカ音楽を語るときに欠かすことのできないレーベル、アイランドの設立40周年を記念して、『Ska Island』というアルバムを企画プロデュース。彼が世界中を旅して各地のバンドにスカの名曲をカヴァーさせるというプロジェクトを実現している。このアルバムに参加しているのは、存在そのものがスカだといってもいいだろう、スキャタライツやプリンス・バスター、アーネスト・ラングリン、ローレル・エイトキンといった日本でもおなじみの超大物たち。そういった伝説的なアーティストが今も衰えることのないパワーを見せつける一方で、若い世代のアーティストたちも負けてはいない。フィッシュ・ボーン、ジャンプ・ウィズ・ジョーイといったアメリカ勢に、スカ・フレイムスやデターミネイションズなど日本勢、ほかにもヨーロッパあたりのバンドまでがこのプロジェクトに参加しているのだ。

 また、80年代半ばのポテト5やスカ・フレイムス以来、トロージャンズのアルバムしか発表していなかったギャズのレーベル、ギャズズ・ロッキン・レコーズも動き出している。つい最近発表されたのがバグダディーズというバンドのデビュー・アルバム「ラスト・タンゴ・イン・バビロン」。ちょっと中近東風のエキゾチックなタッチを持つと同時に、サウンドの広がりにジャマイカから南米までを飲み込んだ彼らの新しいタッチのスカが今、ちまたで静かな話題となっている。

 さらに、起用されれば必ず大ヒットを記録しているリーヴァイスのテレビCFに使われたのがプリンス・バスターの「Whine and Grine(ワイン・アンド・グライン)」。そのシングルにカップリングされているのはギャズとの共作による「Bad Bad Bad(バッド・バッド・バッド)」という曲で、これが発売第一週にナショナル・チャートのトップ21に入るなど、にわかにスカが脚光を浴びてきているのだ。

 加えて、ジャズ・ジャマイカもついに新作、『DOUBLE BARREL』を発表している。実は、この原稿を書いている今日(4月11日)、ドラマーのケンリック・ロウからのその新作を見せてもらったのだが、マーヴィン・ゲイの「悲しい噂」やバカラックの「ウォーク・オン・バイ」といったポップス系の曲、あるいは、ウェイン・ショーターの「ナイト・ドリーマー」にハービー・ハンコックの「バタフライ」といったジャズ系の曲、それにドン・ドラモンドの手による「コンフューシャス」やトゥーツ&ザ・メイタルズでヒットした「モンキー・マン」といったスカ&レゲエ・ファンにはおなじみの曲が収録されたこの作品も大きな話題を呼ぶことになるだろう。そのアルバムの発表に合わせて、彼らはこの4月からフランスを皮切りにツアーを繰り返していくことになるのだが、昨年のニューオリンズ・ジャズ&ヘリテイジ・フェスティヴァルで、10,000人近いオーディエンスを熱狂させ、「ベスト・オヴ・コンゴ・スクエア」の栄誉を受け取るなど、ライヴには定評のあるのがジャズ・ジャマイカ。このあたりで一段と人気あるバンドへと成長しそうな気配を感じる。

 そんな勢いにのったわけではないのだが、日本でほぼ5年ぶりに発表されることになったのが、トロージャンズの新作だ。といっても、その間、彼らが活動していなかったわけではない。数年前に古巣のディーン・ストリートからふたつほどストリートを隔てた店に場所を変えたものの、今でも彼のクラブは順調に「ロンドンで最も長い歴史を持つ」という記録を更新しながらその活動を続けている。ギャズのほか、ジョン・スペンサー、エディといったいつもの顔ぶれがDJを担当し、時にはプリンス・バスターあたりがやってきてお皿を回していることもあるのだ。

 また、クラブの運営だけではなく、ヨーロッパ各地のツアーもこなしているし、順調にアルバムも発表している。96年には15曲入りの、『Cool Rulers』を発表し、続く97年に登場したのが18曲が詰め込まれた「Earth First」。そのあたり、おそらく、輸入盤で見かけたファンもいると思うのだが、とにもかくにも、マイ・ペースで足を地につけて活動してきたということだ。

 さて、今回、スカのオリジナル、スキャタライツと共に、ひさびさに開催されるスカ・エクスプロージョンでのステージに立つために来日することになったのがトロージャンズ。その来日を記念する形で発表されるのがこのアルバムだ。といっても全編新録音ということではなく、前述の2枚のアルバムから数曲ずつを選び出し、そこに新録音の曲を加えるという形で構成されている。

 幕開けはトロージャンズ・ファンならおなじみの「ゴッド・ファーザーのテーマ」を使った曲で、これをうまくカヴァーしたヴァージョンが収められているのが、彼らの日本でのデビュー・アルバム、『ザ・スピリット・オヴ・アドヴェンチャー』だった。これはその新しいヴァージョン的なニュアンスを持っているもので、ギャズ独特のスタイルでトースティングからヴォーカル、さらにはドラマ仕立ての詩の朗読までがここで披露されている。ルード・ボーイ、ギャングスター(ちんぴら)をテーマにしたこの曲といい、続く、「たった一日の億万長者」そして、インストゥルメンタルの「YAKUZA」といい、ギャズの視点に感じるのはいつもストリートに生きる人々の悲哀やたくましさ。その視点は全く変わってはいない。

 そして、4曲目から9曲目までが、『Cool Ruler』というアルバムから選ばれた曲だ。ちょっとクラシックなロックステディでそのタイトル・トラックが流れ、カリプソを感じさせるスカ・ナンバーの「Take Her To JA」に入っていく。そして、日本好きのギャズが「エンカ・スカ」なんてご機嫌なインストゥルメンタルをここに続けている。ちまたで有名なギャズのカセット・コレクションに演歌のシリーズが数本あったと思うのだが、これはそのあたりからインスピレーションを受けて作られたのだろう。メロディの一部に懐メロの名曲のフレーズを感じるのだが、数曲がごっちゃになって構成されているような気がしないでもない。いずれにせよ、ラテンの音階と日本の音階には接点が多いらしく、こういった音がすんなりとスカにはまっていくのは日本人にとって実に嬉しい。それに、彼の日本好きが「ちょっと待って」なんて曲を生み出したんだろう。ちなみに、その昔、外国人が歌ってヒットした「ちょっと待ってください」ってタイトルの曲がなかったっけ?あと、「The Grim Reaper」には、かつてギャズのレーベルからシングルを発表していたフォレスト・ヒルビリーズ(だったと思う)による「アダムズ・ファミリー」のテーマ曲のカヴァーのニュアンスも感じる。

 そして、収録されているのが新曲2曲。いずれもちょっとした色恋沙汰がネタの歌で、ギャズの歌によく登場するテーマのひとつだ。 続いてオリジナル・アルバムとしては最新作の「Earth First」から選ばれた4曲が収録されている。ギャズのネイティヴ・アメリカンに対する敬愛と愛情、さらには、環境問題などに対する鋭い視点が如実に現れた曲の数々だが、このあたりはじっくりと訳詩をチェックすべきだろう。そのアルバムのタイトル・トラックなどはそれほど英語の知識がなくても理解できると思うが、まるで語りかけるように、洪水のように言葉があふれ出る「レッド・インディ」やグリーンピースの「虹の戦士」を連想させる「アイム・ア・レインボウ」など、叫びのようなギャズの声の裏になにが隠されているか、やはり耳を傾けてほしいと思うのだ。ちょっとおかしくて、風変わりでB級的な感覚でトロージャンズが受け取られている趣があるのは否定しない。が、その叫びは本物であり、大まじめ。そんな部分が無視されるのはあまりに悲しすぎる。

 その4曲の後に新録音の1曲が加えられているというのがこのアルバムの構成なのだが、それから想像できるようにこの作品は、しばらく日本で発表されることのなかったトロージャンズのここ数年のベスト・アルバム的な色彩を持っている。これをじっくりと聞き込んで今年のスカ・エクスプロージョンに望むのも悪くはないと思うのだが、どんなものだろう。

1998年4月12日 ロンドンにて執筆


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