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Just A Dream



 96年12月に発表されることになった前作「Just A Dream」の延長線上で生まれたアルバムです。詳しい話はすでに、このアルバムのレコーディング時に、VOICE OUTで幾度かレポートしています。特に98年3月から4月のロンドンからのレポートをチェックしていただければ、このプロジェクトがどういったいきさつで生まれてきたのか簡単に想像できると思います。

 また、前作の... 結局は発表されることにはならなかったライナーノーツを読んでいただいてもいいでしょう。そこに全てを書いています。

 今回は、このアルバムに収録されることになったプロダクション・ノーツをここに掲載しています。ちなみに、ライナーノーツを書いてもらったのは、友人でレゲエ関係の研究家、藤川毅さん。それに加えて、このプロジェクトをいろんな場所やメディアでサポートしてくれている友人のラジオDJ、ヒロ寺平さん(FM802)とクラブDJ(The ROOM, Cosmic Villedge)の沖野修也さんがノートを書いてくれています。もちろん、その著作権は彼らのあるので、ここには掲載していませんが。

 アルバムの発売は98年6月下旬となっています。ぜひレコード屋さんで注文して下さい。なにせ、私が今まで制作に関わったなかで最高傑作だという自負を感じる作品。絶対に満足させる自信があります。(もちろん、私の音楽の趣味と共通のものを持っていたらということですが)  

プロダクション・ノーツ

1.「Jjust A Dream」から「Dreams Come True...」へ

 前作「Just A Dream」で目指したのはジャズとレゲエを融合して、ジャズ・レゲエ(あるいは、レゲエ・ジャズ、レゲエ・スイング....?)という新しい音楽の土台を作ることでした。といっても、明確な設計図があったわけではありません。ジャマイカ音楽の歴史がそれを物語り、プロデューサーのアランを中心としたミュージシャンたちが可能性を具体化していったということでしょう。特に重要な役割を果たしたのがドラムスのケンリック・ロウでした。レゲエのリズムを崩すことなく、ジャズ的なニュアンスを加える... 従来のスタイルにとらわれることなく、ゆったりとロックする(身体を揺り動かす=ジャズのスイングに匹敵すると考えています)リズムを生み出さなければいけなかったのです。

 その夢がある程度かなったのがあのアルバムでした。レゲエのリズムが底辺に流れ、同時にジャズのスイング感も顔を覗かせています。おそらく、1曲を除いてジャズ・スタンダードで固めるという選曲に助けられていたからでしょうが、この時、ジャズ・レゲエという新しいサウンドの土台が築き上げられたと考えたものです。

 が、暗中模索しながらジャズ・レゲエというサウンドを探しだしたのが前作。それは暗闇でほのかに輝く光を見つけるようなものでした。ですから、楽器の構成からアレンジなど、さまざまな局面で試行錯誤を繰り返しています。それが完全なジャズ・レゲエというサウンドへの布石でした。これが新しいジャンルとでも言えるほどの可能性を秘めていることや明確なサウンド・スタイルを確信したのがプロデューサーのアラン。加えて、そのサウンドでこそ成立しうるヴォーカル・スタイルを直感したのがサンドラでした。そんな意味で、今回は前回よりも遙かにスムーズに制作が進行し、より完成されたサウンドを打ち出すことができました。

 サウンドの構成に関してはベース(約半数がエレクトリック・ベースです)を除いて全てアコースティックな楽器で構成するという方針が早い段階から決定されています。ジャズの最もジャズ的な魅力とでも言える、それぞれの楽器の存在感を明確に打ち出すことの意味がここに込められています。また、録音は基本的にライヴで進めるという、実にアナログな録音方法です。さらに、前回以上に、レゲエ色を強め、同時にジャズ色を強める... それでも、その両者が対立することなくまるで美しい織物のように紡ぎ合わさっていなければいけません。それこそが完成されたスタイル、あるいは、新たなジャンルとしてのジャズ・レゲエなのです。

 まず選曲が決定した時点でアランがアレンジのイメージを組み立て、リハーサルで実際に録音に参加するミュージシャンたちとそれを確認。リハーサルの現場でレコーディングのデッサンをするということでしょう。録音は3月28日から始まっているのですが、基本的にライヴで行われています。ドラムス、ベース、ピアノ、ヴォーカルが一緒にスタジオに入り、「ワン、トゥ、スリー...」とカウントをとって一緒に演奏。サウンドのタッチはこの時点でほぼ決めたれたと言っていいでしょう。そうすることによってジャズの要、ライヴのスリリングさをうちだそうとしました。

 基本的に数回演奏することになるのですが、曲によってはワン・テイクで録音されたものもあります。また、曲によっては、テイクが決まったと思った翌日に、微妙なニュアンスの違いによって、新たなスタイルで録音し直したものもあります。いずれにせよ、ほぼ5日間でベーシックな録音を終え、あとはスケジュール的に一緒に録音できなかったソロイストたちを迎えてソロの部分を録音し、時間のあるときにアランがギターを加えるという形を取りました。また、ヴォーカルに関してもワン・テイクで録音できたものもあるのですが、納得できないものに関しては幾度もテイクを繰り返しています。

 最終的に録音からミックスまでわずか2週間の作業で完成されたことになります。才能あるプロデューサー、そして、卓越したミュージシャンが集まり、ライヴを重要視して録音に挑んだからこそ、こんな離れ業が実現できたのだと思います。

2.こぼれ話

 今回のレコーディングに参加しているメンバーの中核はジャズ・ジャマイカというグループのギターとドラムスです。彼らはジャズとレゲエやスカを融合するというスタイルで知られていて、つい最近、アメリカのライコと契約して、「ダブル・バレル」というアルバムを発表しています。

 そのメンバー、ケンリックとアランが「ジャズ・ジャマイカの今度のアルバムは悪くないし、気に入っているけど、今回のこのプロジェクトほどは興奮しなかった」と語っています。なにせ、「全く新しい音楽のジャンルを作っているんだから」というのがその理由です。

 今回のアルバム・タイトル「ドリームズ・カム・トゥルー...」のきっかけになったのはベースのネヴィル・マルコムの言葉でした。

「前回は『JUST A DREAM』だったけど、これは夢じゃなくてリアリティなんだ」 それが引き金になって、このタイトルが生まれました。  また、サンドラがかつてシンプルなレゲエで録音していた曲を、初めて思い通りの、あるべき形で録音できたこともその理由です。

「このサウンドのドラムスをたたけるのはケンリックしかいない。彼は完全にパイオニアになってしまった」というのがアラン。おそらく、このアルバムの成功で彼の名前が世界中に知れ渡ることでしょう。

 前回のアルバムがまだイギリスで発表されていないこともあって、イギリスのレゲエ界ではまだこのサウンドが知られてはいないのですが、実は、UKジャズのサーキットのミュージシャンたちはみんなこのアルバムの存在を知っているとのこと。日本にやってきたときに必ず買って帰るそうです。いわば業界で隠れた話題となっているのがこのサウンドです。(ちなみに、英国では前作が今年発表される予定です)

 かつてスティーヴ・ウィリアムソンのバンドで来日し、日本にもファンの多いトロンボーン奏者、デニス・ロリンズ。かつてブラン・ニュー・ヘヴィーズのメンバーで、現在はジャズ・ジャマイカのメンバーとして活動するかたわら、ブラーのホーン・セクションとしても仕事をしているのですが、彼がこんな言葉を吐いています。 「このサウンドこそ、ジャズジャマイカが進む道だったと思っている」

 今回レコーディングしたのは、最近ブレックファスト・バンドを再結成したばかりの日本人ベース奏者、クマ原田氏が所有するベアーフット・スタジオでした。そこで働いているのが発表されたばかりのUB40のアルバム「THE DANCEHALL ALBUM」でミックスを手がけ、レゲエ業界では有名なエンジニア、バーティ・グラント。彼も「これは新しい時代のレゲエだ」と興奮を隠せない様子でした。

3.曲目解説

1 (Intro) LONELY Instrumental(後述)

2 YOU'RE LYING

 サンドラのオリジナル曲で、85年に大ヒットを記録したアルバム「カントリー・ライフ」に収録されています。原曲のニュアンスを残し、レゲエ色を前面に打ち出してはいるんですが、ブラシを使ったドラムスでオリジナルよりも柔らかい、ジャズ・レゲエの特徴を生かした仕上がりにしています。サンドラによると、曲の始まりはオリジナルを意識しているのですが、曲が進むに従ってスタイルを微妙に変化させたとのことです。のびのびとした羽ばたくようなヴォーカルが魅力です。

3 MOON RIVER

 オードリー・ヘップバーン主演の名作映画「ムーンリバー」の主題歌で、彼女がギターを片手に歌ったのがオリジナルです。フランク・シナトラからアンディ・ウィリアムズなど、数え切れないアーティストに取り上げられています。今回、ここで暖かく、ソフトでメロウなトロンボーンを演奏しているのはデニス・ロリンズ。UKジャズ界きってのトロンボーン奏者。スカからレゲエ界の巨人、「リコ・ロドリゲスを意識した、語りかけるようなサウンドを提供したかった」ということで、それを見事に証明するソロを聴かせています。

4 SOMEONE TO WATCH OVER ME

 実は、当初、この曲を録音する予定はなかったのですが、アラン・ウィークスがぜひ挑戦したいと取り上げられたものです。ポップス界ではスティングが同名の映画のために録音しているヴァージョンが比較的よく知られています。

5 ALL OF ME

 スタンダード中のスタンダードですが、ポップス・ファンに有名なのはカントリー界の大御所、ウィリー・ネルソンが録音したヴァージョンでしょう。78年に発表された大ヒット作「スターダスト」に収められています。ちなみに、このヴォーカルの録音に関して「スイングした声を聴かせてくれ」とサンドラに頼んだのですが、「スイングってなによ?」というのが彼女の反応でした。「私は、ジャズ・シンガーじゃないんだから...」と語ったのがこの時。ところが、曲や演奏によってその表情をがらりと変えるサンドラの最もジャズ的な歌がほかの曲で楽しめることになってしまいます。

6 OH ME OH MY

 このアルバムのために作られたオリジナル曲です。スタンダードのなかにあって、違和感がない曲をアラン・ウィークスが作り上げています。リハーサルでラフを演奏した後にサンドラが詩を書き、アッという間に仕上がった曲。恋する女心を告白するような歌なのですがが、ちょっとラテンっぽいタッチのサウンドが初夏のすがすがしい雰囲気を作り出しています。

7 AGUA DE BEBER

 サンドラ曰く、今回のアルバムで最も難しかった曲。ブラジルの影響を持つジャズ・レゲエに処理するというので、サウンド的にも難しいものがあったようです。イントロ部分や間奏部分のサンドラのアドリブがききものなのですが、この部分だけは幾度もやり直しています。が、ジャズどころか、ブラジル音楽もほとんど聴いたことのなかったサンドラが突然、バイーアを思い起こさせるラインを歌い出したときは、スタジオ中のミュージシャンがビックリしたということもありました。

8 THE GIFT (RICARDO BOSSANOVA)

 80年代終わりに日本でたばこのテレビCFに起用されて、突然ヒットしたのがイーディ・ゴーメが英語で歌ったもの。(63年録音)また、同じころ、ダンス・ジャズの傑作としてクラブでよく流されたのがハンク・モブレーのブルーノート録音「ディッピン」に収められているヴァージョンです。今回のヴァージョンではボサノヴァとレゲエの微妙な関係がうまく出ています。

9 MY BABY JUST CARES FOR ME

 イギリス人なら誰でも知っている曲として有名なのがニーナ・シモンのこの曲。87年に英国で香水のテレビCFに起用され、全英チャートのトップ5に登場したという経緯があります。そんなところからこの曲がアランによって選曲されたのでしょう。ここでのサンドラのヴォーカルには全員がKOされています。あれほどアップ・テンポの曲を、さらりとクールに押さえて歌われたときには、卒倒しそうになったものです。サンドラのヴォーカルの成長がてきめんに出たのがこのヴァージョン。しかも、ミックスの段階でドラムスを押さえて、コンガを中心にしたあたりも素晴らしいと思います。

10 I WANT YOU

 今回のセッションで初日に録音されたのがこの曲です。オリジナルとは違って、ミディアム・スロウのバラード的なニュアンスを持った、しかも、ルーツ・レゲエの感触を与えたヴァージョン。これを取り終えたとき、全員が「今日のハプニングは、この曲だ」と語っています。アーバン・ソウル・ジャズ・レゲエ...とでも呼べそうなもので、サックスとヴォーカル以外は、実に、ワン・テイクです。特に聴きものはヴォーカル。レゲエ独特の節回しにジャズがブレンドされ、ゴスペル的なニュアンスも感じさせています。

 アルバム・ヴァージョンでアルトを吹いているのは、今注目のミュージシャン、ケヴィン・ヘインズ。また、シングル・ヴァージョンは短縮版で、ここではインコグニートのオリジナル・メンバー、レイ・カーレスがソプラノ・サックスを披露。実は、これもワン・テイクで、わずか5分で録音を完了しています。加えて、シングル用に作られたデュエット・ヴァージョンでヴォーカルを入れてくれたのはマキシ・プリーストがシーンに登場するまでUKレゲエを代表するヴォーカリストとして知られたトレヴァー・ウォルターズ。まるでマーヴィン・ゲイを思い起こさせるスタイルに、ぞくっとさせられるファンも多いはずです。

11 THIS MASQUERADE

 鬼才、レオン・ラッセルの作による名曲で、アルバム『カーニー』に収められているのがオリジナルです。後に、絶頂期のカーペンターズが『ナウ・アンド・ゼン』という大ヒット・アルバムで取り上げています。さらに、ジョージ・ベンソンが名プロデューサー、トミー・リプーマの下で録音したヴァージョンもよく知られています。

12 I'M A FOOL TO WANT YOU

 ビリー・ホリデーの名作『レイディ・イン・サテン』の頭に入っているのが、おそらく、最も有名なヴァージョンでしょう。これも見事な情感を込めてサンドラが歌ってくれています。また、ここでのテナーに注目して下さい。まるでアイク・ケベック(ブルーノート・ファンならご存じのはず)のようなディープで枯れたサウンドを出しているのはマイケル・バミー・ローズ。さすがです。

13 CRAZY HE CALLS ME

 実は、この曲は選曲段階でそれほど話題になっていなかったのですが、ほぼ決定した曲の数々をカセットに入れてサンドラに送ったとき、たまたま入れたのがこの曲でした。アレサ・フランクリンが「ソウル'69」というアルバムに収録しているものです。でも、曲名もアーテイスト名も書き忘れるというミスがあったのに、サンドラが「きっとアレサ・フランクリンだと思うけど、あのCRAZYって曲、絶対にやりたい」と打診してきたのがこの曲を取り上げた理由です。結局、サンドラがこのアルバムで最も気に入っているのがこの曲だということです。

14 LOOK OF LOVE

 バート・バカラックの名曲。また、ここでもデニス・ロリンズのトロンボーンが素晴らしい味を出しています。ちなみに、このアルバムを録音したときに発表されたのがジャズ・ジャマイカの3年ぶりのアルバムなのですが、そこでも取り上げられていたのがバカラックのナンバーとマーヴィン・ゲイの歌った曲でした。彼らが取り上げたのは「ウォーク・オン・バイ」と「悲しい噂」。実のところ、この「ルック・オブ・ラヴ」と「アイ・ウォント・ユー」に関しては日本側から生まれた選曲で、ここでもまた不思議な偶然を感じることができます。

15 FOUNDATION OF LOVE

 サンドラがマッド・プロフェッサーをプロデュースにヒットを続けていたARIWAレーベル時代に録音した曲で、おそらく、今回最も難しかった曲でしょう。実際、レコーディングを前にし、アランが「やはりこの曲の再録音はあきらめた方がいいんじゃないか」と弱音を吐いていたものです。が、最初にスローなバラードにしようと言い出したのはサンドラ。それを受けてピアノのアーノルドが中心にこのヴァージョンが生まれました。「でも、こうなることはわかっていたのよ」と言ったのはサンドラです。この曲を作ったとき、バラードとして作曲していたというのです。ただ、当時、レゲエの世界ではバラードは録音させてもらえず、ラヴァーズ・ロック独特のレゲエに処理されたという事情があったといいます。そんな意味で「やっとこの曲が思った通りの出来になって、完成された感じ」と彼女は語っています。また、きわめてスローなバラードであるにもかかわらず、ドラムスがレゲエのリズムをきちんと刻んでいるのが驚異的です。前作ではこれほどの完成したジャズ・レゲエのドラムスには至っていなかったケンリックが彼にしか演奏のできない独特のスタイルをものにしたのがよくわかります。

16 LONELY

 今回の録音で最も不安だった曲でしす。なにせ、リハーサルを終わった時点でもこの曲には全く手つかずだったのです。アランに言わせれば、「ラフなイメージはある」と言うことだったのですが... 実際、ほとんどの録音が終わり、最後に録音されたのがこれです。インコグニートで活躍するキーボードのグラハム・ハーヴィがスタジオに来た日、「今日は7時までに帰らなければいけないんだ」と言いながら、約2時間で完成させています。グルーヴィで新しいタイプの曲なんですが、大変だったのはそれにメロディをつける時。これにはまた半日が必要になりました。「本当は、あきらめて逃げ出したかった」というのがサンドラの後述です。サンドラと一緒にアランがヴォーカル用のブースに入り、幾度も幾度も言葉を換え、ハミングでメロディを加えていきます。そして、楽器のレンタルが終わる直前の深夜、やっと完成していす。ちなみに、このアルバムの最初にあるのはこれのインストゥルメンタル・ヴァージョンの短縮版です。

1998年5月


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