JAZZ JAMAICA-The Jamaican Beat Vol.2

「うわあ、こりゃあまた、すんげえラインナップじゃないか。よくもまぁ、これほどの面子を集めたもんだな」

 昨年10月13日のこと、スカ・エクスプロージョン'94の最終日、東京は渋谷のクラブ・クアトロで開かれたライヴを見にやって来たガリアーノのメンバーが目を丸くして、そんな言葉を口にしていたものだ。それに対し、若干のプライドを感じながら、私が彼らにこう応えたのを覚えている。

「当たり前やないか、俺が、このイヴェントのプロデューサーのひとりやねんから」  実際のところ、長年にわたってスカを応援してきたプロモーター、スマッシュの日高正博氏と、スカ・リヴァイヴァルの中心人物となったロンドンのDJ、そして、スカ・バンド、トロージャンズのリーダー、ギャズ・メイオールの弟、ジェイソンと私を中心に(もちろん、レコード会社やスカ・フレイムスの仲間に、日本の熱狂的なスカ・ファンの協力も忘れてはいけないが)練りにねって考え出したのがこのイヴェントだった。

 その狙いは、まず、一般的にレトロやノスタルジーでしか語られていなかったスカのイメージを塗り替え、カリブ海に浮がぶジャマイカで50年代後半に生まれたこの音楽が、実は今もヴィヴイッドな魅力を放ちながら成長を続けている事実を証明することにあった。同時に、そのオリジネイターのひとりで最年長のギタリスト、アーネスト・ラングリン(67歳)やトロンボーン奏者、リコ・ロドリゲスに、サックス奏者、ローランド・アルフォンソにスカのゴッド・ファーザーと呼ばれるヴォーカリスト、ローレル・エイトキンといった60歳代の伝説的ミュージシャンから、リコやエディ・『タンタン』・ソーントンをフロントに若手ジャズ・ミュージシャンが結成したジャズ・ジャマイカと、30歳になったばかりでUKジャズ・シーンをリードするコートニー・パインを同じステージに立たせて、スカが本来抱えていたインプロヴァイゼイションによるジャズ的な魅力を最大限に見せる狙いがあったことも忘れてはいけない。

 また、ジャマイカから、その移民が数多くの2世や3世を生みだしていったイギリスのみならず、アメリカや日本でもオーセンティックなルーツをしっかと抱えた新世代のスカが成長しているのを証明したかったということもある。それを代表するのが日本のスカ・フレイムスであり、ロサンゼルスのジャンプ・ウィズ・ジョーイ。このラインナップをみれば、スカが世代も国境も越えて世界中に根をおろした普遍的な音楽として認知されているのが一目瞭然となると思ったのだ。

 手前味噌になるかもしれないが、その全てが最も完成された形で演奏されたのが、あのスカ・エクスプロージョンの最終日だったように思えるのだ。まずは、ロカビリーやアフロ・キューバンの魅力にジャズ的な要素を強調したジャンプ・ウィズ・ジョーイが登場。ローランドとアーネストをゲストに演奏し、スカのゴッドファーザー、ローレル・エイトキンがヴォーカルとして加わるという夢の共演が実現している。しかも、そこにリコやタンタンが飛び入りしたり、逆にコートニーがゲスト参加したジャズ・ジャマイカのセットではローランドやアーネストが入り込んで、インプロヴァイゼイションのバトルを展開。さらに、ラヴァーズ・ロックからジャズやR&Bに傾倒するキャロル・トンプソンが顔を見せるなど、スカからロック・ステディ、そしてレゲエヘと発展していったジャマイカ音楽の魅力が網羅されたようなライヴを見せてくれたものだ。

 特に強烈な印象を残しているのが、ライウ終盤に飛びだしたコートニーとアーネストのソロ・バトルだろう。おそらく、参加ミュージシャンで最も大きい音を出していたコートニーがソロの途中でアーネストを挑発。音量は違うが、まるで3倍速のシミ・ヘンドリックスのようなギターで会場を沸かせていたアーネストが息子より若いコートニーとの演奏に嬉々として応えていたものだ。ライヴでしか実現不可能なこの瞬間がどれほど観客を興奮させたか… 最前列でこのライヴを見ていたモンド・グロッソのサックス・プレイヤー、マサやんが、後にその興奮を何度も語ってくれたほどだ。

 さて、その来日を前に発表されたのが、ジャズ・レーベルの最高峰、ブルーノートの代表的なヒット曲をジャマイカ風に料理したアルバム『ザ・ジャマイカン・ビート、ブルーノート・ブルービートvol.1』だった。基本的なコンセプトはジャズの名曲をジャズ・ジャマイカ独特のアレンジで演奏することで、スカが多分にジャズ的要素を抱えていることを証明し、同時に、そのプロセスで強烈なジャズ性とジャマイカ音楽が完全に融合された新しい音楽を模索することにあった。まだまだその新しい音楽が完成されたとは言えないが、その光明が垣間見えたのがこの作品だった。

 全曲カヴァーだというのに、そのどれもがまるでスカやレゲエとして作曲されたかのような錯覚を覚えさせるほどの完成度を見せている。ヘレン・メリルのヴォーカルで知られる『ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ』が見事なラヴァーズ・ロックに処理され、ジャマイカン・スイングとして甦ったのがイーディ・ゴーメやハンク・モブリーで有名な『リカード・ホサノヴァ』。また、クリーヴランド・ワトキスのヴォーカルが冴える『モーニン』や『テイク5』に、コートニーのソロが素晴らしい『クリスト・リデンター』や『ウィッチ・ハント』… このアルバムがスカやレゲエ・ファンの粋を遥かに越えて、新世代のジャズ・ファンにも受け入れられたのは、ジャズ・ジャマイカにしかできないジャズに対する独特の解釈があったからだろう。そのせいか、このアルバムがスカの作品としては破格のヒットを記録することになるのだ。あれからちょうど1年ぶりに、その続編として届けられたのが今回のニュー・アルバムだ。

 そのニュー・アルバムの情報を記す前に、伝えて置かなければならないのが変貌を伝えるジャズ・ジャマイカの現状だ。実を言えば、ベースのギャリー・クロスビーのプロジェクトとして誕生したのがこのバンドだったというのは、前作のライナーノーツで書いた通り。彼によると、巨人、アート・ブレイキーのジャズ・メッセンジャーズのような成長を繰り返す有機的なユニットとしてこれを考えていたということだ。だから、基本的なラインナップは決まっているのだが、状況によってバンド・メンバーが入れ替わったり、プロジェクトによっては大胆にゲスト・ミュージシャンを起用してゆくとのことだった。

 おそらく、そのコンビネーションが見事に開花したのが前回の作品だろう。ゲスト・ヴォーカルのクリーヴランド・ワトキスにジュリー・デクスター、あるいはコートニー・パインや、アスワドのホーン・セクションで活躍するブライアン・エドワーズなどが、つわもの揃いのジャズ・ジャマイカの血となり、肉となって素晴らしいサウンドを作りあげていた。が、あれから1年の間に若干のメンバー変動があったようだ。伝説的なトロンボーン奏者、リコ・ロドリゲスは自己のバンドに集中するためにバンドを脱退。といっても、メンバーとして最後の作品となったこのアルバムでも相変わらず枯れたソロを聞かせてくれているし、これからも時にはジャズ・ジャマイカのゲストとして演奏していくようだ。余談になるが、同時になんと13年ぶりのスタジオ録音作、しかも、思わずニコリとさせられるリコのヴォーカルも収録されたニュー・アルバムをこの8月にミックス・ダウンし、年内に発表するという話も伝わっている。そのリコに代わってメンバーとなったのがデニス・ロリンズ。ブラン・ニュー・ヘヴィーズやスティーヴ・ウィリアムソンのザット・ファス・ワズ・アスで活動していた若手のトロンボーン奏者の第一人者だ。また以前から幾度となくジャズ・ジャマイカのライヴに参加していたサックスのブライアン・エドワーズが正式なメンバーとなり、現在、このバンドは9人のメンバーを抱える大所帯となっている。といっても、彼はこの夏に日本人女性と結婚し、日本に移住したということだが……

   さてこの『ザ・ジャマイカン・ビートvol.2』に用意されたのは前作同様、ジャズの名曲の数々。が、前回とは違って、ジャズ界の最高峰レーベル・ブルーノートヘのこだわりを捨て、ここではマイルス・デイヴィスやション・コルトレーン、セロニアス・モンクといった伝説のミュージシャンが他レーベルに残した名曲を料理しているのが特徴だ。かつて、スマイリー・カルチャーというDJが巨人、ギル・エヴァンズと組んで、映画『ビキナーズ』で見事なトゥステイングを聞かせたマイルスの『ソー・ホワット!』がスカ・ヴァージョンに仕上げられ、デューク・エリントンの名曲『A列車で行こう』が、ビッグ・バンド的なニュアンスを持つジャマイカン・スイングに料理されている。と思えば、おそらく、リコが敬愛しつつもライヴァルとしてとらえていただろうカーティス・フラーの名演で知られる『ファイヴ・スポット・アフター・ダーク』で枯れたソロを聞かせ、コルトレーンの『Mr.PC』やモンクの『ベムシャ・スイング』や『ウェル・ユー・ニードント』、それにウエス・モンゴメリーの『4 on 6』が、まるでジャマイカで生まれたかのような響きを持つヴァージョンになっている。特に興味深いのは、ウェザー・リポートの大ヒット・ナンバー、マンハッタン・トランスファーも取り上げていた『バートランド』に挑戦していることだろう。どんなジャズでも独特のジャズ・ジャマイカ・サウンドにまとめ上げるという、彼らの自信が顔を覗かせているようで実に面白い。その他、ヴォーカルものでは、『レゲエじゃなけりゃ意味がない』とシャレてみせたクリーヴランド・ワトキスが大熱演。独特のスイング感を持つ彼のヴォーカルが、前作での『モーニン』や『テイク5』同様、絶妙の仕上がりを見せている。また、若手女性ヴォーカリストとして脚光を浴びるシュリー・デクスターが今回は『ヴァーモンドの月』に挑戦し、レゲエをべースにジャズやR&Bにその世界を広げているラヴァーズ・ロックのクィーン、キャロル・トンプソンが『ミスティ』を歌っているのも興味深い。

 加えて、今回のアルバムにボーナス・トラックのような形で収録されているのが、スカの殿堂、スキャタライツの十八番『イースタン・スタンダード・タイム』。おそらく、今回でジャズ名曲カヴァーのプロジェクトが終わり、これでジャズ・ジャマイカが新たな段階に突入した意志表示のようにも受けとれるのだがどんなものだろう。

1995年7月17日(ロンドンにて執筆)

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