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Tかつて、『キャッチ・ア・ファイア』でレゲエを世界の桧舞台に立たせたのがボブ・マーリィなら、新時代のアフリカン・ポップスで世界に飛ぴだしてゆくのはサリフ・ケイタだ。U と、そんな紹介が英国のジャーナリズムを賑せたのは、彼のソロ・デビューとなるこのアルバム『SORO』が発表された昨年の9月のことだった。そして、それに続いたのがその直後に実現したロンドンやリーズ、さらにはWOMAD(WORLD OF MUSIC AND DANCE)でのライヴ。特に業界中の人間を集めたロンドンでは、誰もがサリフの披露したハイブリッドな新しい音楽に衝撃を受けたのだろう。その翌週にはこんなライヴ評が次々と発表されていった。 T時にスティーヴィ・ワンダーとテレンス・トレント・ダービーが重なり合ったようで、時にデヴィッド・バーンとブライアン・イーノの共同作業を想い浮かべさせる。U もちろん、これが多少大袈裟に聞こえるのは否定しない。なにせ、比較しているのはすでに自分たちの世界を作り上げているミュージシャンたちだ。でも、それが決して誇張ではないと実感したのはその数か月後、12月5日。あまりの人気に、ロンドンはアストリアで再び開催されることになった彼のライヴを見た時だった。ステージに現われたのはサリフの他に女性ヴォーカル、ドラムス、パーカッション、キーボードふたりに、ギターとべース。シンセサイザーの効果的な使用でサウンドにレコード以上の厚みを加えていたのがバック陣なら、Tアフリカの黄金の声Uと呼ばれるサリフも負けてはいない。あの比喩が子供編しに思えるほど伸びがあり、幅があったのがその声。ロンドンでくすぶっていたエスニック・ボップスヘの人気を、彼が一挙に爆発させようとしていると感じたのがこの時だった。 なにせ、この1年来、なにかと話題になっていたのが第三世界のポップスだ。BBCの人気DJ、ジョン・ピールの大プッシュと精力的なツアーでインディ・チャートのトップに躍り出たのがジンバブエのブンドゥ・ボーイズなら、ピーター・ゲイブリエルとの共演で人気の出たのがユッス・ンドゥール。さらにコート・ジポォワールのレゲエ・スター、アルファ・ブロンディからズークのカッザヴなどなど、数え切れないほどのミュージシャンがロンドンにやって来てはライヴを繰り返していたのだ。 「昔は新しいジャズ系アーティストのライヴやってたけど、もっとエネルギィ感じる音楽やりたくなったんだ。」 そう語ったのはサリフを始めとして、アフリカ系アーティストのライヴを次々と企画しているプロモーター、スチュワート・ライオン。さらに、ラジオ・アフリカでDJをしているレニー・ウィリアムスはこう指摘してくれる。 「まず録音技術やその質が良くなったのと同時に、音楽自体もどんどん新しい展開を見せていること。それと、もう西洋の音楽には新しいものがなくなったことがその原因だろうな。」 また、このアルバムを初めてイギリスに紹介したスターンズ・レコードのスタッフは、 「ボール・サイモンやピーター・ゲイブリエルなど、メジャーのアーティストがそのあたりの音楽を紹介したことも原因だな。流行とまではいかなくても、多くの人たちが西洋以外の音楽に耳を傾けだしたのは確かだ、」 と、続けるのだ。 また、それを証明しているのがメジャーのレコード会社の動きだ。WEAにロンドンやヴァージンなどが次々と第三世界のアーティストと契約。そして、マンゴ・レーベルの拡張とともにこんなエスニック系アーティストに本腰を入れだしたのがアイランド・レコードだ。そのマネーシャーに匹敵されたのは、やはり意欲的にアフリカン・ポップスを発表しているアース・ワークス・レーベルのジャンボ。この春の英国取材で彼に会った時、「世界中の国から少なくとも1枚ずつはアルバムを出せるようにしたい。」と語ってくれたのが、実に頼もしく思えたものだ。ただし、そんなメジャーのせいで、スターンズなどから次々とアーティストが引き抜かれているのも事実。なにを隠そう。このサリフもその一人で、日本になかなか輸入盤が入ってこなかった理由はその辺りにあったらしいのだ。 さて、そのサリフの活動歴などは中村とうよう氏にお任せするとして、ぜひともここに記しておきたいのが昨年12月に実現した彼とのインタヴューに出でさた彼の言葉だ。 「僕のやってるのはただの音楽。特別な名前もないし、そんなものを考えようとも思わない。」 このあたりに、感じるのがかつてある種のブームを作ったキング・サニー・アデとの違い。ジュジュ・ミュージックに執着を見せたアデに対し、全く新しいポップスに意欲を見せるのがサリフだ。実際、今回のアルバムでも、ヴォーカルとパーカッションを除いてアレンジを担当しているのはフランス人ミュージシャン、フランソワ・ブレントとジャン・フィリップ・リュキール。さらに、プロデュースを担当しているのはアフリカ系アーティストのサウンドに新風を注ぎ込むテクニックで最近人気の高いイブライム・シラーだ。そのコンビネイションがアフリカと西洋の接点を結ぶ斬新なサウンドを生みだしたのだろう。その成果はこのアルバムを一聴してもらえば、おのずと納得できるはずだ。 最後に、おそらく彼の写真から想像されいている人もいるかもしれないが、アルビーノとして生れたのがサリフ。さらに、視界の半分が見えないという障害も背負っている。そのために随分と苦労したという話はインタヴューの時にも聞かされたのだが、そのせいもあって彼は自分を最低辺の人々や身体障害者たちへのメッセンジャーだと感じるらしい。もちろん、それを反映しているのが彼の歌であることは理解しておくべきだろう。 1988年5月30日執筆 |