Hothouse Flowers-People

”まるでブルース・スプリングスティーンとヴァン・モリソンのように……”

 と、そんな書きたしで始まっていたのが英国の新聞、ザ・タイムズで筆を取るジャーナリスト、テヴィット・シンクレアがホットハウス・フラワーズを初めて見た時に加えたレヴューだった。“アイルランドの伝統が持つ美学をコンテンポラリィな音楽に持込み、それを刺激的な形へと発酵させている。”と、彼らの音楽を紹介し、リード・ヴォーカルでキーボードのリアムに対しては“誰もが認めざるをえないカリスマを持っている”と続ける。正直なところ、ブルース・スプリングスティーンを持ち出してくることには若干の疑問を感じなくもない。が、彼らのソウルフルなライヴをわかりやすく伝えるには、結局、こんな言葉が妥当なのかもしれないとも思える。

 実のところ、初めて彼らのライヴを見た昨年11月25日以来、それと同じような言葉やミュージシャンの名前を上げて彼らの魅力について話し続けていたのが僕たった。

「まずはウォーター・ボーイズやな、そんてもって、やっぱりヴァン・モリソンですわ。それに、アメリカ南部のミシシッビィあたりの音、そやね、レオン・ラッセルやジョー・コッカーの音を思い浮ぺてもろたらよろし」

 と、そんな言葉を何人の仲間たちが聞かされたことか…… もちろん、ヴァン・モリソンほどの貫禄はまたないかもしれないけと、それをカヴァーでさるだけのエネルギィを感じるのがリアム、ウォーター・ポーイスのマイク・スコットのちょいと演出されたような悲壮さはないかもしれないが、リアムには実直なまでのストレートさがある。もちろん、ライヴの素晴らしさに関して言うならば、スプリングスティーンとの比較も正しいかもしれない。が、アメリカをしょい込んだようなマッチョなイメージはリアムとはまるで無関係だ。それよりは、彼の出身地であるアイルランドはダブリンの厳しい風土や体臭。そんなところから生れるのだろう、彼に感じるのはグッとハートウォーミングなたくましさだ。それがロンドンはケンティッシュ・タウンにあるタウン&カントリィ・クラブで彼らのライヴを初めて見た時の印象だった。

 言葉を替えれば、まるで一目惚れのようなものなのかもしれない。その数日前にロンドン・レコードのオフィスでビデオを見た時もそうだった。毎回ロンドンヘ取材に出るとまず訪ねるのがレコード会社のオフィス。そこで新しいバンドをチェックするために数々のビデオを見るのだ。退屈なポップ・グループが多いなかで、強烈な印象を与えてくれたのがホットハウス・フラワーズの『ドント・ゴー』。見終えるなり、担当者に矢継ぎばやに尋ねたもんだ、「ライヴ見られないかな? インタヴューはできないのかな?」と、この時なんの知識もないのに、ともかく会わずにはいられない衝動を持たざるを得なかったってぇのか、それほどの魅力を感じたのが彼らであり、あのコンサートだった。

 もちろん、そうなると即インタヴューだ。あのライヴの後、汗まみれになっているリアムに承諸を取り、実現したのが翌日の朝。彼らが宿泊していたハイド・パークそばのホテルで待っていてくれたのがリード・ギターのフィアクナ・オブラニアンとリアムたった。

「天気もいいし、ハイド・パークヘでも出て行ってインタヴューしょうよ。」  いくら天気がいいからといっても、英国の秋は日本よりも肌寒い。しかも、リアムが着ていたのはどこかの古着屋ででも買ったようなジャケットにシャツ1枚。が、そんなことは気にもかけてないようにこう言うのだ。

「ダブリンってめちゃくちゃ寒いからな。今日なんて暖かい方だよ。君が寒いって言うなら、ホテルでやってもいいけど、それほどでもないんだったら外へ出ようよ。湿っぽい部屋で話するより楽しいじゃないか。」

 そうやって始まったのが彼らとのインタヴューだった。それはまたどこかの雑誌で発表するとして、まずは彼らの言葉を使いながら彼らの紹介をしてみたいと思うのだ。

「7〜8歳ぐらいの頃かな、僕とフィアクナは同じ小学校に行ってて…… ゲイリックの学校さ。伝統的なアイルランド人や言葉のことをゲイリックって言うんだけど、それが始まりなんだ。そこでティン・ウィッスル(笛)やバウローン(bodhran)、羊の皮を使ったダンバリンみたいな楽器を使って音楽をやってたんだ。だから、意図的にゲイリックの伝統音楽を吸収したってんじゃなくて、僕らの身体の中にいつもあの音楽があるってのかな。」

 しかも、子供の彼らにとってそんな楽器を演奏するのが楽しくて仕方なかったっていうのが面白い。

「全然難しいなんて思わなかったよ。ただ、いつも心がウキウキしてくるってのか…… もともとゲイリック音楽ってダンス・ミュージックだしね」

 その演奏技術を磨いていった結果がコンテスト荒らしだった、リアムはバウローンで、フィアタナは弦楽器で、アイリツシュ・トラッドのコンテストで軒並み優勝するようになっていったという。そして、脚光を浴びたのが“インコンパラブル・ペンジーニ・ブラザーズ”と名のって展開したバスキング、すなわち、ストリートでの演奏だった。

「たた、楽しみたかったから。ちょっとばかりの小遣い稼げるし…… 実を言うと、その金でビール飲みたかったってのもあった。」

 おそらく、寒さのせいもあるのたろう、アルコール好きなのが多いのがアイルランドやスコットランドなど、北国の人々。特にアイリッシュってのはその典型で、「いやあ〜、それって冗談じゃなくてホントにマジなんだ。」とはリアムの言葉だ。

 そのバスキングが評判を呼ぴ、その年のバスキング・コンテストで優勝。さらに、ベンジーニ・ブラザーズとほぼ同時に結成したホットハウス・フラワーズが、それをキッカケに視聴率No.1のテレビ番組に出たり、ラジオに出たりと、すでにこの時点で彼らはアイルランドで知らない人のいない人気バントになっていたという。また、彼らをその当時、「まだメジャーと契約していないペスト・バンド」と紹介していたのは音楽誌の数々だ。ペンジーニ・ブラザーズ、リアムとフィアクナのふたりに加わったのはドラムスのジェリィ・フェイリィ、かつて木こりをしながら楽器を作っていたというべースのビーター・オトゥール、そして、サックスのレオ・バーンズ。彼らはアッという間にメディアの脚光を浴びるようになっていった。

「バンドの名前に特別な意味はないんだ。昔からの諺から取ったぐらいで…… ただ、暖かい家のようなハートと花のようにいつもオープンでいたいってのか、そんなところかな。」

 そして、そのホットハウス・フラワーズにまずはチャンスを与えたのがU2のボーノ。彼がスタートしたマザー・レコードヘのレコーディングが実現した。

「ボーノが見たのはあのテレビ番組で…… ペンジー二・ブラザーズとして出た時なんだ。あの時演奏した曲を録音しないかって連絡が来て…… あの頃って貧しかったから、金のためにならなんだってやるよって感じて引き受けたんだ。それに、ポーノだけじゃなく、U2の連中はみんなイイ奴ばっかで…… 素晴らしい体験できたと思うね。」

 その時録音したのがこのアルバムにも収められている“Love Don't Work ThlsWay”。それがロンドンの有名なDJ、ジャニス・ロングの耳にとまり、BBCラジオ1のチャートに入るほどのヒットを記録。また、彼らはこの時すでにアイルランドでは軽く2千人の観客を集められるほどのビッグ・バンドに成長していたというのだ。同時に始まったのがメジャーのレコード会社の彼らへの争奪戦で、その結果、ロンドン・レコードと契約。このアルバムの発売となったわけだ。

 僕が見たライヴはちょうど彼らがそのロンドン・レコードからデビュー・シングル「ドント・ゴー」を出した直後。初めての全英ツアー最終目だった。実は、ロンドンを初日として始まったのがこのツアー。ICAでの2日間のライヴがソールド・アウトとなり、チケットを買えないで会場を離れた人たちが600人もいたというので加えられた追加公演だった。そのせいか、会場の熱気はホットそのもの。もちろん、このアルバムも素晴らしい出来なのだが、それ以上の演奏を見せてくれたのがこの夜だった。このライナーにも登場したバウローンを使ってのアイリッシュ・トラッドから、R&Bやブルース色の強いダウン・トゥ・アースなサウンドが強調されていたのもこの時だ。

「ブルースってのはモダンな音楽全てへの門のような気がするんだよ。別に学問ってな意味でいってるわけじゃなくて、ルーツに遡って行けば行くほど、奥の深さがわかる。そして、新しい音楽とそれが密接に結び付いているのを教えてくれるんだ。」  シッカと足を地につけた彼らのサウンド・ポリシイやあくまでライヴを基調とした音楽作り。最近のチャートの主流となっている産業ポップスやロックに食傷気味になっているロック・ファンにとっては実に嬉しいバンドの登場だ。

「基本的にはもう嫌になってんだよ、最近のロックとかに。だって、マトモに演奏も出来ないバンドばかりじゃないか。そんなのが音楽なんて呼ばれてんのが信じられないよ。」

 インタヴューが終って一緒に食事に出た時リアムが口にしたのがこの言葉。そして、それを完全に裏付けてくれるのが彼らのライヴだ。もし、彼らが来日することがあれば、なによりも体験してほしいのがそのライヴ。おそらく、これほど素晴らしいレコードさえをも物足りなく感じさせる醍醐味を味わわせてくれるはずた。

1988年5月16日執筆

PS:リアムによると、現在ダブリンに住んでいるのがウォーター・ボーイズ。なんでもリハーサルを同じ場所でやっているらしく、そのせいか、彼らの次のアルバムにはリアムがゲストで参加しているということだ。

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