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 なにを隠そう、このアルバムの主、キング・プローンと初めて顔を合わせたのは、彼らの地元、ロンドンではなく、イタリアはローマだった。80年代中頃から90年代と、筆者が幾度となく足を運び、日本に紹介してきたのがアンダーグランドなイギリスの音楽シーン。一時は、UKの専門ライターのように呼ばれたこともあるのだが、そのイギリスではなく、英仏海峡を遙かに越えて、さらにヨーロッパをぐっと南下したイタリアで彼らと出会っている。きっかけは、ローマで... というよりは、イタリアで最も政治的で過激な動きを見せるインディ・レーベル、グリダロ・フォルテが企画したストリート・ビート・フェスティヴァルというツアーだった。

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 イタリア語で「大声で叫べ」という意味を持つこのレーベルが立ち上がったのは90年頃に遡る。反人種差別、そして、反ファシズムをアピールするために、バンダ・バッソッティ(ディズニー漫画に登場する囚人のキャラクターで、英語ではビーグル・ボーイズ)と呼ばれていた一団が、文字通り、「大声で、反人種差別、反ファシズムを叫ぶ」コンサートを企画。それがレーベルに成長していったのだが、その主力となったのが、そういった政治運動を通じてバンドへと成長していったバンダ・バソッティだった。

Banda Bassotti 実に不思議なんだが、この話の発端は99年のフジ・ロック・フェスティヴァルに遡る。たまたまここで通訳をすることになったのがチベット人アーティスト、ナワン・ケチョ。彼とチベタン・フリーダム・コンサートで共演していたのが、かつてブルーハーツのドラマーだった梶原徹也で、彼がその数年前から始めていたのが、ここで知り合った日本のバンド、スリー・ピースだった。その彼らが同じフェスティヴァルで仲良くなったのがアルゼンチンのバンド、トドス・トゥス・ムエルトス。その出会いが生み出したのが、両者合同で行った南米ツアーで、トドスの仲間だというのでつながったのが、スリーピースのイタリアやスペインはバスク地方ツアーを手がけることになったグリダロ・フォルテ・レーベルだった。そのツアーに同行取材したことで、本業がライターのはずの筆者が、バンダ・バソッティのオフィシャル写真家となるという転末になるのだが、この展開、まるで「風が吹けば桶屋が儲かる」そのもの。どこかで同じ指向性を持つ人々がこうやって出会っていくというのが実に面白い。

 さて、そのバンダ・バソッティがとんでもない。日頃はとび職的な仕事をしながら、音楽活動をしているのがバンドの中心人物達と、いわば、プロのミュージシャンではない。ところが、彼らのイタリアでの人気が驚異的なのだ。地元ローマだったら、軽く1万人を集め、かなり保守的で南部とは全く違った様相を呈している北部のミラノでさえ同じような人気を誇っている。しかも、ライヴたるや、そのフリークぶりで知られるサッカーの試合を見ているようなもの。オーディエンスはといえば、バンドをカラオケにして歌いにやって来ているような感じで、彼らがライヴの最初から最後まで大声を張り上げて歌っている様はまさに驚異だった。

King Prawn といっても、彼らの歌といえば、スペインに支配されながら、独立を求めるバスク地方やカタロニア、あるいは、ガリシアをサポートするものや、人種差別やファシズムを真っ向から攻撃したもの。さらには第二次世界大戦でヒトラーやムッソリーニに対向して闘ったレジスタンス運動、パルチザンのことなど、「政治的な声が音楽となっていった」バンドの最たるものといってもいい。実際、アメリカの圧力に対向していたニカラグアのサンディニスタ政権をサポートするために現地に飛んで学校を自らの手で建ててしまったり、イスラエルのパティスティナに対する軍事圧力に対向して人間の盾として現地に乗り込んでしまったメンバーもいるほど。口だけではなく行動するバンドとして、まるで全盛期のクラッシュが求めていたものがそのまま形になってしまったかのようなのだ。

 その彼らが中心となるレーベル、グリダロ・フォルテがリリースしているのが、やはり政治的な色彩の濃いバンドの作品の数々。いうまでもなく、キング・プローンもそんな流れのなかでイタリアで紹介されているバンドだ。


 その彼らとバンダ・バソッティがタッグを組んで行ったのが2002年のStreet Beat Festival。この時は、日本からブラフマンがここに加わっているのだが、唯一、この日本のバンドだけが「政治的ではなかった」ということに違和感があるが、まぁ、日本で政治的な姿勢を明白に出しているバンドなんてほとんど皆無だということを考えれば、それも仕方がないのかもしれない。(本来なら、ソウル・フラワー・ユニオンあたりがここに加わるべきだと思う)

King Prawn さて、キング・プローンのライヴを初めて体験したのは4月3日のフィレンツェ。最初の印象はというと... これ、本当にロンドンのバンドなの!?という疑問だった。なにせ、リード・ヴォーカルは日本人にも見える東洋人風で、ベースはインドからパキスタン系。といっても、全然ストレートなそれじゃなくて、どこか仙人のような様相を見せている。一方で、いかにもイギリスの白人的なのっぽのギターがいて、この3人が強烈な印象を残している一方で、ドラマーとトランペットはあまり記憶には残ってはいない。  いくらロンドンでマルチ・レイシャル(人種混合)化が進んでいるとはいえ、これまでアジア系(ここでは中国から韓国や日本といった東アジアを示すが、英国の英語でアジア人とはインド・パキスタン系を示す)のメンバーがフロントに立ったバンドはほとんど見たことがない。そんな事情もあって、彼らがロンドン出身のバンドとは見えなかったのだ。といっても、ちょっと話をすれば、彼らの英語が完全にロンドンの下町のそれであることは明白だが。
 実をいえば、このアルバムのUK盤のCDをケースから取り出すと見えるのが、この日のライヴ写真で、それは筆者自身が撮影したもの。本当は、もっといい写真があったのに、なんでこれを使ったのか、若干疑問が残るが、彼らの公式ホームページに行くと、同じようにこの日の写真が何点か飾りのように使われている。

King Prawn そんなルックス同様に強烈なインパクトを与えてくれたのがこの日から4日間に渡って体験することになった彼らのライヴだった。このアルバムを聴けば想像できるだろうが、そのサウンドはスカ・パンクからラガ、ラップにハードコア的な要素が微妙に絡まったもの。ヴォーカルのアルが激しいアクションと「怒り」を前面に出したかのような形相で歌うと思えば、ベースのババが、さらに激しい形相で飛び跳ねるように彼を援護する。

 彼ら自身のプロフィールでも紹介しているように、彼らの音楽に接点を感じるのは、スペシャルズの最もエッジの効いた部分やエイジアン・ダブ・ファウンデーションのたたみかけるようなリズム、そして、レイジ・アゲンスト・ザ・マシーン全盛期に見られる炸裂するようなエネルギーで、それはこのアルバムを聴いているだけでも充分に想像できるだろう。とはいっても、もちろん、そのライヴの迫力は、比較にならないほどすさまじい。それはこのアルバムが日本で発表された直後に始まる日本でのツアーで充分体験できるはずだ。

 しかも、彼らと接点を持つこういったバンドの政治的なインパクトも忘れてはいけないだろう。人種差別に闘い、政治に欺瞞に真っ向から闘い続ける姿勢はこのアルバムにも如実に現れている。おそらく、彼らが自身が「接点」としてあげているバンドにデッド・ケネディーズが登場しているのもそれが横たわっているからに違いない。「マリワナを解放せよ」といったフレーズがばんばんに飛び出し、「パレスティナ」という言葉も聞こえてくる。英語が理解できなくても、そんなフレーズだけで彼らのスタンスを感じることができるはずだ。

King Prawn バンドが結成されたのは93年。スカカラスか・パンク系のバンドとのライヴを繰り返し、95年にスカンク・アナンシーのACEを共同プロデューサーにデビュー・アルバム『First Offence』を発表。2年後の97年に『Fried In London』が続き、2000年には『Surender To the Blender』をリリースしている。数々のシングルやEPの情報はhtp://www/kingprwn.co.ukで確認できる。

 このアルバム『Got The Thirst』は2002年に発表された最新作。キング・プローンはこのアルバム発表と合わせて精力的にツアーを繰り返していて、英国本土のみならず、ヨーロッパ各地で熱狂的なフォロワーを生み出している。そんな彼らが日本でどういった評価を受けるか... 楽しみで仕方がない。

2003年6月2日


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