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待ちに待ったレゲエの名作アルバムのCD化が実現した。かつて「ペッカー・パワー」として発表されていたアルバムと、その続編のように発表された10インチのEP(あるいは、ミニ・アルバム)「インスタント・ラスタ」の2枚を2 in 1という、ファンが最も望んでいた形でCD化してくれたのがこの作品だ。
おそらく、80年代初期の日本のレゲエなんぞ、今ではほとんど知られていないだろうし、あの当時だったら、おそらく、日本人がレゲエ? そんなことできるのかなぁ... といった発想で受け止められたのではないかと思う。レゲエが噂になり始めたのは、実際のところ、エリック・クラプトンがボブ・マーリーのアルバム"Burnin'"に収録されている「I shot the Sheriff」("461 Ocean Boulevard"に収録)をカバーして、初めて全米No.1を記録した70年代半ば。このアルバムが発表される5〜6年ほど前のことだ。といっても、あの当時といえば、reggaeという言葉を「レギー」とか「レガエ」と表記する人もいて、それが議論の対象になるといったこともあった。といっても、今のようにレゲエを知っている人なんてほとんどいなかったと言ってもいいだろう。一部、ラテン系の音楽好きがちらほら噂にしたり、クラプトン経由で根ほり葉ほりしていった人たちがわずかにいたぐらいだったように思える。一方で、ジョン・レノンが「レゲエがとてつもない影響力を持ち始めるはずだ」と予言したこともあり、次第にレゲエが注目されていくことになる。そして、決定的な事件となったのが79年のボブ・マーリー来日だった。これがどれほどの衝撃を与えたか... 当時FM東京が録音したライヴが一時期CD化されていたので、それを聞けばよくわかる。まるで日本じゃないような大騒ぎで、このマーリー体験が日本でのレゲエ第一世代生み出してくるのだ。
今回CD化されたのは70年代半ばからレゲエにはまっていたというパーカッション奏者、ペッカーの作品なんだが、今で言うところのルーツ・レゲエが完成されていた時代にその最もヴィヴィッドな部分を完全に捕らえているという意味で、まずはとんでもない出来となっている。なにせバックを勤めているのはマーリー円熟期のザ・ウェイラーズと、しばらくの後にブラック・ウフルーと一緒に世界に衝撃を与えることになる、鉄壁のリズム・セクション、スライ&ロビー(スライ・ダンバーのドラムスとロビー・シェイクスピアーのベース)を中心としたThe Allstar Rockers。彼らが一緒にやっているわけではないんだが、両方がそれぞれ競い合うように素晴らしい演奏を聴かせているのだ。ウェーラーズの方にはマーシャ・グリフィス、ジュディ・モワットとアイ・スリーズの二人が加わり、一方のスラロビ組には、今は亡きオーガスタス・パブロやマイキー・チャンといった顔ぶれと、これ以上はないというラインアップ。さらにリコ・ロゴリゲスの顔も見えるし... ルーツ・レゲエそのものの中心的なミュージシャンたちがこのアルバムを支えているのだ。
が、それだけではない。ペッカーというミュージシャンを核に、吉田美奈子に、なぜか最近ミジンコのDVDを発表したジャズ・ミュージシャン、坂田明から、松岡直也、大村憲司に向井滋春といった、そうそうたる顔ぶれが揃っている。ライナーでのペッカーとのインタヴューを読むと、元々、ジャズ・ギタリスト、渡部香津美のKYLINのプロジェクトとしてこのアルバムの企画が浮上したということからも、強者どものミュージシャンがここに集まっているもう充分に頷けるのだ。といっても、実際にジャマイカに行ったのはペッカーの他に、吉田美奈子と松岡直也ぐらいだったらしいが、ともかく、このアルバムの魅力は、単純にジャマイカのトップ・ミュージシャンに音を作ってもらった... なんぞという陳腐な発想を遙かに超えて、まるで東京とキングストンの辣腕ミュージシャンたちが化学反応を起こしてジャマイカでもUKでもなく、どこかに強力に硬質な東京という磁場を感じさせる内容に仕上がっているということ。ひょっとすると、このあたりがミュートビートにつながっていくのかなぁ... なんて思ってしまった。
そんな意味でもペッカーのレゲエ・アルバムがとても重要だと思うし、そのあたりの評価が、これがアメリカのレーベルから「21 Century Dub」というタイトルで発表されたところにつながるのではないだろうか。
また、面白いのはほぼ同じ時期に日本人のレゲエ・アルバムが発表されていること。同じように、ジャマイカに渡って、豊田勇造というフォーク・シンガーが"血を越えて愛し合えたら"というアルバムを、はやり強力なメンツと録音している。あくまでフォーク的な歌の世界を保ちながら、レゲエに向き合ったこの作品も注目されるところで、その微妙な「日本的な世界」に「世界を見つめた歌」とレゲエが重なって素晴らしい味を出している。さらに、ジョー山中がウェイラーズをバックにアルバムを録音している作品("レゲエ・ヒストリー"として、入手可能)もあるし、ジャズ・ピアノの奇才、菊地雅章がマイルス・デイヴィスの当時の主要メンバーたちと録音した"ススト"にも、レゲエが収録されている。他の3枚と比べて比較的明るいタッチの仕上がりで、おそらく、なによりもレゲエそのものよりも、そのリズムを使いたかったんだろうなぁと想像する。ちなみに、このアルバムの巻頭に収録されている、まるでトーキングヘッズがジャズをやっているようなサークル/ラインが強力。この曲をフジ・ロックで久々に耳にしたんだが、それは氏の息子が絡んでいるというデイト・コース・ペンタゴン・ロイヤル・ガーデンによるものだった。といっても、そんなことはつゆ知らず、「誰や、こんなセンスのいい曲をカバーしているのは」というのが最初のリアクションだったんだが。
いずれにせよ、このあたりが日本のレゲエ黎明期の作品の数々。なかでもペッカーのディープなレゲエ・アルバムはパーカッショニストとして、きわめて音数を減らしてその魅力を逆説的に聞かせてしまうことになったというたぐいまれなアルバムで、このあたりの発想はどこかで、(このアルバムにも加わっている)リコの名作"マン・フロム・ワレイカ"にもつながっているように思えるのだ。。
2005年11月13日記す。
reviewed by hanasan
-->前回のレヴュー - 『Appalachian Shamisen』The Last Frontier feat. Takeharu Kunimoto
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