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一目惚れってやつだな
このところ頻繁に飲みに出かける店がある。花見で有名な中目黒の川沿いの辻をちょいと入ったところのビルの2階にある店で、バード・ソング・カフェというのだが、ここで鳴いているのは鳥じゃなくて、音楽好きの中年親父たち。それに、猫もときおり鳴き声を聞かせてくれるという、こぢんまりとした店で、ここのマスターと音楽の趣味が実によく合う。というか、合わせてくれているのかもしれないけど、下手な音楽評論家よりも音楽のことをよく知っている(愛している)彼や仲間たちから、いろいろな未知の音楽を教えてもらったり、教えたりと、親父系ロック・オタクたちがここで至福の時を過ごしているのだ。まぁ、この話をするといつも登場する『ハイ・フィデリティ』まんまの世界がここに展開していると思ってくれればいい。
で、例によって例のごとく、青江三奈がマル・ウォルドロンやグローバー・ワシントン・ジュニアあたりと録音したジャズ・スタンダードの傑作『The Shadow Of Love』や裕次郎の『Nostalgia』(レヴューはこちら)といった秘蔵CDなんぞ聞きながら、四方山話に花を咲かせていたある晩のこと、「いやぁ、これ、いいよぉ」と聞かせてもらったのが、三味線弾きのお姉さん、うめ吉という人物の『蔵出し名曲集〜リローデッド〜』。その一瞬に出てきた言葉は「なんじゃぁ、これは?」という雄叫びで、次は「ジャケット見せて!」という、お決まりのパターン。それほど衝撃だったのだ。
日本髪のお姉さんが映っているジャケットなんだが、出てきた音は、どうやらブライアン・セッツァーあたりのビッグ・バンドを意識した音。しかも、ちらっと三味線の音が聞こえて、艶っぽい「女」の声が聞こえてくる。っても、しゃべっているんじゃなくて、歌っているのだ。選曲も面白い。敬愛する服部良一の名曲の数々に、江利チエミで大ヒットした「カモナ・マイハウス」に渡辺マリの「東京ドンドンパ娘」といったクラシックから、ちょいとモダンな(?)ひばりの「真っ赤な太陽」までが登場。唯一残念なのは、うめ吉という女性の、本当はとんでもなく魅力のあるキャラクターがオーバー・プロデュース気味のサウンドに埋もれてしまっていること。というので、手に入れたのが、発表されている時期を見ると最新作となる『明治大正はやりうた』と、『蔵出し名曲集〜リローデッド〜』のベースとなった『蔵出し名曲集』。はまったのは、やっぱり後者だった。
こちらの方はプロデュースが、地味といったら地味なんだが、うめ吉のキャラクターが前面に押し出されていて、彼女の魅力が嬉しいぐらいに伝わってくるのだ。三味線の音にアコーディオン、ドラムスじゃなくて、和太鼓やら鐘の音に、ヴィブラフォンなんてのも入っているし、下世話(失礼!)に聞こえるかもしれないサックス... というよりは、サクソフォンの音がいい絡みをしているのさ。いやぁ、艶っぽい。色っぽい。特に初っぱなの「三味線ブギ」なんて、よくもこんな素晴らしいヴァージョンを録音してくれたものだと、卒倒しそうなほどの感動を覚えたほど。実は、よく似たことを服部良一(音楽中毒者には『僕の音楽人生』が必聴)もずいぶん昔にやってくれていたんだが、うめ吉の場合は、それをなぞっただけの単純なレトロ風味に収まりきれないものを感じるのだ。なんつぅか、ここでは誰にも媚びを売らないで本当に好きなことをやったらこうなったって仕上がり。しかも、今の時代にはなかなか感じることのない、本物の「粋」を感じさせる。ジャズ風味のそういった曲や「ソーラン節」の他にも、正統派(なんだろうと思う)お座敷小唄風の作品なども収録されているというのに、全く違和感なく聞こえてしまうのだ。というか、こういった世界に関しては全く無知だから、説明の仕方もわからんのが、実に歯がゆい。なにせ、こちとら、長唄も、端唄も、小唄もちんぷんかんの門外漢。ロックだのフォークのことだったら語ることができても、こちらは、あの世だってほどにわからない。だのに、普通じゃ聴くことのない音楽の世界にすんなりと吸い込まれてしまったのが驚きだった。
一方で、『明治大正はやりうた』は、そういったジャズの世界とは全く違ったアプローチで録音されたアルバムで、江戸情緒を感じさせる三味線小唄という感じで構成されているんだろうが、この選曲は渋すぎる。どこかで今時の若い三味線弾きのお姉さんとちやほやされるのを十分知りながら、この選曲と、「唄」で「骨」というか、「反骨」精神を込めているように聞こえるのだが、本当はどうなんだろう。というより、それこそがこういった音楽の世界の背後に横たわっていたんだろうとも想像できる。そして、その「骨」に彼女が焦点を当てているじゃないだろうか。実は、一般的な「ウケ」という点では、『蔵出し名曲集』が断然有利なんだろうが、このアルバムを聴けば聴くほどに、うめ吉というアーティストの神髄を感じるようになってしまった。っても、まぁ、おそらく、このあたりの世界の音楽に関していえば、とんでもない先人がいっぱいいるんだろうから、無知なるが故の感想だといわれてしまっても返す言葉はないんだが。
そのうめ吉さんに、ひょんなことから実際に会っていろいろなお話を伺ったのだが、それがきっかけでいただいたのが『お国めぐり〜お座敷民謡〜』。文字通り、いろいろなお国の(といっても、外国じゃないよ)民謡を収録しているんだが、北原白秋や中山晋平といった巨人たちの残した「生きた民謡」の魅力を存分に知らせてくれる。これもはまるなぁ。
と、全く知らない世界の音楽のことを書くのは難しい。知っている人間がこれを読んだら大笑いされるんだろうが、なによりも、そんな音楽への扉を開いてくれたというだけで、『蔵出し名曲集』というアルバムと、その歌姫、うめ吉には感謝しきれないほどの想いを持ってしまうのだ。
2005年7月10日記す。
reviewed by hanasan
-->前回のレヴュー - 『Glastonbury Anthems The Best of Glastonbury 1994 - 2004
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