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涙なくして見られません、聞くことができません
とてつもなく重たい。
このDVDに登場しているウォーレン・ジヴォンそのものが、ではなく、このDVDを作る背景そのものが、とてつもなく重たい。なにせ、医師に言われたんだそうな。
「あなたはあと三ヶ月しか生きられない」
どうする? こんな話を聞けば、誰だって自分の胸に手を当てて、自問自答してしまうだろう。自分だったら、どうするんだろうか.... さらに、仲のいい友人がそんな状況になったら、どんな顔をして会えばいいんだろう...
といって、そんなこと、実際にそうでもならなければわからないし、できれば、そんな体験はしたくない。
このDVDはその三ヶ月で最後のアルバムを作ろうとした、そして、完成させた、たぐいまれな才能を持つシンガー&ソングライター、ウォーレン・ジヴォンの人生を、そして、その終わりをドキュメントした作品だ。が、この映像にでてくるウォーレン自身は飄々としているようにも見えるし、ひどく冷静なようにも見える。そして、実を言えば、逆に周辺の人たちの方がとまどっているようにも見えるのだ。
それでも、いつものように友人のためにとんでもない演奏をする仲間のミュージシャンたちがいる。ブルース・スプリングスティーンはとびっきりのロックンロールでワイルドなリードギターをとてつもなく楽しそうに弾きまくっているし、いつも通りの表情でスライド・ギターを鳴らせているが化け物、デヴィッド・リンドレー。ドン・ヘンリー、ジョー・ウォルシュ、ティモシー・B・シュミットというイーグルスのメンバーは、いつも通りの素晴らしいコーラスを残し、ジャクソン・ブラウンからトム・ペティといったミュージシャンたちがウォーレン最後のアルバム制作につきあいながら、人生の幕を下ろすことになる瞬間に向けた最高の作品作りに手を貸しているところがここに収められている。
ひとりの人間の死を、そして、それに直面している人間の表情を簡単な言葉で語ることさえもがはばかれるのだが、このDVDを見ていると、ウォーレンが残された時間で、人生の全てを凝縮した作品作りに没頭していたのがわかるのだ。
「何枚もアルバムを出してきて、何年も活動してきたというのに、これほどメディアの脚光を浴びたことはなかったよ」
と、そんな言葉が記された彼の日記が紹介され、ヘヴィでしかなかっただろう、最後とわかっているインタヴューもここに収録している。もちろん、録音されたスタジオの表情だけではなく、実際の音楽も聞こえてくるという意味で、彼の生きた最後の時間がここに詰め込まれているといってもいいだろう。実を言えば、そうやって生まれたアルバムそのものはまだ聴いていないのだが、断片的に聞こえてくる曲を聴いているだけでも、この最後のセッションで生まれた『WIND』が、とてつもない傑作となっていることは簡単に想像できる。
特にボーナスとしてここに収録されているプロモーション・ビデオの曲『Keep Me In Your Heart』は、涙なくしては聞けない名曲だ。「しばらくでもいい、君の心の中に僕をとどめておいてくれ」と歌われるこの声は、なんでも全てのレコーディングが終わった最後の最後に録音されたという。アーティストとして、ミュージシャンとして、僕らが聴くことのできるウォーレン・ジヴォンの最後の声。その声が、そう語りかけている。
なんてドキュメンタリーなんだろう... と、そう思う。同時に、これを見ることができて良かったとも思う。死を前にして、生きることの本当の意味を、あるいは、歌うことの本当の意味を思い知らされたように思えるのだ。
2004年7月15日記す。
reviewed by hanasan
-->前回のレヴュー - 『Nine Hundred Nights』Big Brother and the Holding Co. with Janis Joplin
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