button解説

 花房浩一のことを、会ったことのない人に説明するとしたらどうしたらいいだろうか。ぼかくはメチャクチャ絵が下手だけど、花房の顔なら描けそうな気がする。まずマルをかく、完全なマル。そして中央上部にその1/10ぐらいの小さなマルをかく。ブタの鼻のような形になったところで、その小さなマルをメガネにする。そして口ヒゲをかく。髪はちょっと上のほうに、鼻も小さめにつけといて上げて下さい。まあこの根本敬氏の描く"村田さん"のようなニクめない顔の男が花房浩一だ。体形はというとこれも小ぶとりのニクめなさがある。そして関西弁を操る。ふだんは、ジーンズにベストやサープラスのジャンパー、ときにはショート・パンツにサンダルというファッションである。

「ちょっとイメージが違うじゃない」と思ってる君、超ショート・ヘアにゴルチエのジャンパーを着た人でも想像していたのかな。しかし、それでも花房は新しい。新しさはファッションじゃない。花房はロンドンでも東京でも見事に新しさの中心にいる。都市の新しいことは、小さな仲間か同志が集まるクラブや、まるっきりお金を持っていない移民のミュージシャンや、退屈しきったアーティストたちの間から始まる。花房がいつも出会っているのはそういう連中だ。

 花房がぼくに教えてくれた新しいことは数多い。出会ったときから彼が毎年行っているCNDクラストンバリィ・フェスティヴァルのこと、ロンドンのクラブのこと、最近ではテレンス・トレント・ダービーのことも、輸入盤屋に音が出回る前にテープをもらった。ここで誤解しないで欲しいのは、彼は別に新しいことのハンターではないということだ。面白いことを探していることには違いないが、彼にはしっかりした彼自身があるということだ。それは音楽の趣味から政治にいたるまで、はっきりとした考え方がある。日本の音楽関係者で、あれほど社会意識の強いロンドンのミュージシャンとちゃんと話ができる人間がどれだけいるだろうか。だからこそ、ミュージシャンにも信頼があるのだろう。ビリィ・ブラッグ、ドクター&ザ・メディックス、ジャズ・ディフェクターズなど、彼が日本に直接紹介したミュージシャンも多い。また彼は、ロンドンヘ行くたびに、日本の面白い音楽、笠置シヅ子やディック・ミネの音を持って行く。ワグ・クラブなどでそれがかけられるそうなのだ。その影響か、先日来日したあるロンドンのクラブ・バンドは「お祭りマンボ」を演っていた。

 花房とはよく口ゲンカもするし、プライヴェートなことも話し合う。本音では、インドや中東に一〜二年旅に行きたいらしいのだ。ネオ・ヒッピーな奴だ。

 ひとつだけ花房が持っているものをくれるとしたら、ぼくは彼の英語をもらいたい。英国のトップDJ、ジョン・ピールが来たとき、花房が彼と話していたのを見た。本当にうまい。商社員や通訳がしゃべる流暢で機械のように正確な英語じゃないけど、本当の意味でコミュニケートしていた。彼は、大好きだった『カサブランカ』を何十回も見て英語を覚えたと言う。信じられる話だ。ごく親しい友人は、花房浩一を"クマさん"と言う。クマのプーさんから連想したんだろうが、確かにこんなネオ・ヒッピーな彼を"プーさん"と呼んだんじゃあんまりだもんな。

関川誠(1987年12月、「月刊宝島」編集長)
chapters

buttonこの本の復刻にあたって...

button第1章 さあ、ロンドンに着いた : - 空港から市内へ -
button第2章 「A to Z」を持って街にでる :- 地下鉄、バスからタクシーまで -
button第3章 高いホテルは要らない : - 泊まり方と住み方 -
button第4章 ソーホーはロンドンの縮図 : - 歓楽街、チャイナタウンからナイトクラブまで -
button第5章 イギリス料理って何だろう : - フィッシュ&チップスからケバブ屋まで -
button第6章 日本食が恋しくなったら : - 材料のそろえ方と自然食ムーヴメントについて -
button第7章 ライヴは"生きた音楽"だ : - 開演前から思いきり楽しむ -
button第8章 真夜中からが本当のロンドン : - ナイトクラブは流行発信地 -
button第9章 ラジオが刺激的 : - BBCから海賊放送局まで -
button第10章 情報誌はジャーナリズムだ1 : - タイムアウトとシティリミッツ -
button第11章 情報誌はジャーナリズムだ2 : - 世界を反映する音楽紙 -
button第12章 オープン・マーケットで掘り出し物探し :- カムデンマーケットはストリート文化の宝庫 -
button第13章 流行はストリートから : - 究極のロンドン・ファッションとは? -
button第14章 とにかく興奮! レコード・ショップ
button第15章 映画館は大騒ぎ : - レイトナイト・ショーで盛り上がろう -
button第16章 テレビも忘れずチェック : - 音楽、コメディ、報道番組の楽しみ方 -
button第17章 誰でも英語は話せる : - 本場の英語を学ぶコツ -
button第18章 パブこそが全て : - 飲んべぇたちの奇妙な生態 -
button第19章 ビ-ル作りの密かな愉しみ : - ビターからホーム・ブリューイングまで -
button第20章 パブがパンク・ムーヴメントを育てた : - トラッド・ジャズなど、パブは音楽のゆりかご -
button第21章 ストリートがステージだ! : - 街頭で演奏するバスカーたち -
button第22章 街を揺さぶる移民のカーニヴァル : - ノッティングヒル・カーニヴァルの光と陰 -
button第23章 ブリクストンの暑い夏 : - 観光客の知らないロンドン -
button第24章 反抗する音楽 : - CNDで知ったミュージシャンの政治意識 -
button「もうひとつの世界」へのアプローチ : - グラストンバリーのヒッピー・フェスティヴァル -
button解説(月刊宝島編集長、関川誠)
buttonあとがき



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