button第16章 テレビも忘れずチェック

---音楽、コメディ、報道番組の楽しみ方---


 テレビってぇのは単に数ある娯楽のひとつにしか過ぎない。と、ここらあたりの発想がまずは日本と違うんだろう。ここじゃ一日中テレビが生活の中にしゃしゃり出てきたりすることはまずあり得ない。特に食事中にテレビを見るなんてぇのは言語道断で、ここでも確認できるのがディナ−の意味。これは家庭や友人たちとの語らいの場であり、いっしょに食事をしている人間を無視するような所業は完璧に無視される。そして、そんな彼らから見ると、四六時中テレビを見ている日本人はほとんど中毒患者に匹敵するのだ。もちろん、最近増加中なのが中産階級意識を持った労働者階級で、彼らとなるとけっこうテレビに毒されてはいるようではある。が、それでも日本と比べりゃぁ驚くほど地味で、実際のところ夕食後にテレビへ直行するタイプも少数派に属するのだ。

 一般的な家庭が取るパタ−ンってぇと、たいてい夫婦揃ってパブへゆくか、あるいは散歩や映画に出るか。人をディナ−なんぞに呼ぶのが好きなもんだから、訪ねて来た友人と話しをしたり、酒を飲んだりと、やはりテレビがつけこむ隙はほとんどない。また、若い人たちだってたいていはパブに出て、その後はクラブで踊るか、ライヴに行くか。まるで病気のような面さげてテレビと向かい合っているような貧相な習慣は、ここじゃかなり白い目で見られると思っていたほうがいいのだ。

 その理由を彼らに尋ねると、まずは出てくるのがテレビが退屈だからだという答えだ。チャンネルの数はBBC1に2、それにITVとチャンネル4の4つ。確かに、番組の内容だって過激な興奮を売り物にする日本と比較すりゃぁ面白くないような気もする。実際、こっちで紹介されているなかで最も有名な日本のテレビ番組は "がまん大会" で、よくもまぁこんな過激な刺激物をテレビで放映できるもんだと誰もが口にするのだ。と、まぁ、正気で考えりゃぁ狂ってるとしか思えないようなこんな世界のテレビ番組をコケにするってな構成で作られているこの番組はまぁ面白いのだけど、よ〜く目につくのは旧態依然のクイズ番組かゲストが登場して話ばっかしているチャット・ショウ。それにスポ−ツ番組だ。ダ−ツ選手権試合に英国版ビリヤ−ド、スヌ−カ−(Snooker)、野球の元祖、クリケット(Cricket) に全然迫力のないプロレス... どれを取ってもかなり退屈なのだ。もちろん、サッカ−(こっち風に言うとフットボ−ル=Football)狂で有名なイギリス人のこと。これだけは例外で、ワ−ルドカップなんてのがあった日にゃ全国民がこれを見てるようなもんだ。実際、放送中に電話しようもんなら完全に無視されるか、あるいは受話器を取るなりこう言われるのだ。

「あ〜あ、やっぱり外国人かよ。フットボ−ルやってるのに電話なんかかけてくるのはそんな連中しかいないもんなぁ。」

 と、実はこれは本当にあった話で、この時の相手はBBCラジオ1のDJ、ジョン・ピ−ル。さらに、その直前にビリィ・ブラッグのオフィスへ電話した時にはもっと強力な返事が返ってきたもんだ。相手の名前も聞かないで、こんな叫び声が飛び込んでくるのだ。

「イェ〜イ! イングランド1、スペイン0(ニル)やったぜいぃ。」

そんな事情を知ってる人がかけてきているのならいざ知らず、そうでもなけりゃ大変なことになりそうなのに彼らはいたって平気。これだけでもその人気がわかろうってもんだ。

 が、その退屈の理由は外に出てゆきたがる彼らの習性のせいじゃないかと思えるのだ。それに夏ともなると陽が暮れるのは夜の10時頃。夕方6時に仕事を終えて帰宅してメシを食った後だって充分に遊べる時間がある。その季節になるとまだ10歳にも満たないようなガキがこんな時間まで外で走り回っているのだ。外はパ〜ッと明るいのに、なんで家の中でテレビなんか見てなきゃいけないんだって発想も生まれてきて当然だ。それに、若い人たちにしてみりゃ家ん中でジト〜ッとしてるよりは外に出てパ〜ッと飲んで騒いだ方が楽しいに決まってるもんね。もちろん、冬はその逆で早くから暗くなるんだけど、ロンドンじゃクラブにライヴなんて刺激物がわんさかある。そんなモロモロの事情がテレビが退屈だって答えになって現われてんだろう。

 でも、チンプな興奮は少ないかもしれないが、グッと奥深い刺激がケッコウみつかるのがこっちのテレビ番組。彼らが退屈だと言ってるからって無視するには惜しいものがいっぱいあるのだ。例えば、驚異の視聴率を誇るBBCの "トップ・オヴ・ザ・ポップス"(Top of the Pops)。 これなんぞは日本でも人気のある "ザ・ベストテン" のル−ツのような番組で、毎週毎週日本じゃチト信じられないようなミュ−ジシャンが登場してくるのだ。といっても、口パクばっかりで、ザ・ミッションなんてけっこうオドロドロしいイメ−ジのバンドが腰をくねらせて登場した時にはガ〜ンとショック。彼らがどうしようもないポップ・バンドに見えたもんだ。特に商業主義的な音楽を相手にした典型的な番組がこれだってな風評があって、なかなかこれには出演したがらないア−ティストも数多ってからなおさらだ。そのせいか、昔からこの番組で使われていたのがヴィデオ・クリップ。いわゆる、これはMTVのル−ツと呼んでもいい番組だと思うのだ。

 それに、さすがに音楽で有名な国だけあって、この他にも良質な音楽番組はいっぱいあるのだ。チャンネル4の "チュ−ブ"(Tube) はその代表で、ライヴ演奏を絶対の原則に世界中のミュ−ジシャンが画面に登場するのだからたまらない。それに、時にはレコ−ドも出ていない新しいバンド、もちろん斬新なサウンドを持った才能の固りが突如として登場してくることもある。あるいは、朝早くに放送されている子供番組にだってミュ−ジシャンが出演して、演奏を聴かせてくれることもあるのだ。このあたりの感覚はどうもよ〜く理解できないのだが、例えば、ロンパ−ル−ムに佐野元春が出演するってな状況を頭に思い浮かべてもらえればいいかもしれない。それに、子供向け教育番組の詩の時間にリントン・クゥエシ・ジョンソンが登場したこともある。この時ばかりは腰を抜かすほども感動したもんだ。なにせ、彼の詩の内容ってぇと、もちろん超過激に政治的。だのに、それを10歳前後の子供たちに教えようってんだから、どうゆう神経をしてんだろうね。

 また、エイズなんぞをテ−マにト−クショウなんてのがあったりすると、ゲストに登場するのは決まってポップ・スタ−。ピ−タ−・ガブリエルがコンド−ムを風船もどきにふくらましながらコメントを出したり、デュランデュランのサイモン・ル・ボンが 「いやぁ、初めてぇ... ナニをぉ買った時はですねぇ...」なんて話すところを見ているとオカシくてたまらなくなってしまうのだ。

 そして、やたら面白オカシイのがコメディの数々。以前は9時の時報と共にニュ−スの画面が映り、"9時をお知らせします。が、これから始まるのは9時のニュ−スじゃないよぉ〜" とスタ−トした "ノット・ザ・9オクロック・ニュ−ス"(Not the 9 O'clock News) が最高傑作だと思ってたけど、それに輪をかけて過激に面白かったのが "スピッティング・イメ−ジ"(Spitting Image)。フィル・コリンズのヴィデオ・クリップにも登場したソックリさん人形を使った番組で、これなんぞは日本のテレビ界の常識を遥かに逸脱した大傑作だった。なにせ、背広を着たサッチャ−首相にハマキをくわえさせ、その口から出てくるのは天下の罪悪人のような台詞の数々。しかも、ネタの多くは政治で、毒いっぱいのブラック・ジョ−クが洪水のように流れ出てくるのだ。さらに、コケにされるのは彼女だけじゃなくて、レ−ガン大統領にナンシ−夫人や政府の閣僚たち。フィリピンで革命が起きた時、突如としてマルコスがサッチャ−の仲間で登場したのには踊ろかされたもんだ。また、日本だったら右翼が大集合してテレビ局を焼き打ちにでもしかねないほどの迫力で迫るのが皇室ジョ−ク。バッキンガム宮殿の前でエリザベス女王が、"え〜っ、アンドリュ成婚記念Tシャツはいらんかねぇ〜" と叫び声を上げ、当のアンドリュ−は部屋でスケベな本を読んでいる始末だ。そして、まるで象並の耳を馬並の鼻を持ったチャ−ルズはダイアナに甘えっぱなしで、そのダイアナはウォ−クマンを聴きながらデュラン・デュランなんぞに狂喜。このテレビ番組だけじゃなく、街に出りゃぁ彼らをコケにしたようなイラストが満載されたジョ−ク集やハガキまで売りに出されているのだから、この国の右翼はよほどやる気がないんじゃないのかとも思ってしまうのだ。

 もちろん、あまりの過激さに政府からはかなりのプレッシャ−を受たような話も伝わってはいる。が、一般人は 「右も左もスタ−もみ〜なコケにしてるからいいじゃねぇか。」とテレビ局を断固支持。それに、そんな言論弾圧には絶対に負けないのがこっちの報道関係者たちだ。いつだっけか、アイルランド共和国軍、IRAの政治犯が獄中でハンストを決行。次々と死んでいった時、彼らとのインタヴュ−を放送したのがBBCだった。もちろん、それがサッチャ−保守政権への痛手となるのはわかっている。この時、政府は当然のように異常な圧力を加えてきたのだが、それをも拒否して放映を決行したのが彼ら。そんな歴史のせいか、政治的なものを中心としたドキュメンタリィなどで優れた作品を次々と制作し、放映してきているのだ。これはBBCに限らず、政治的には左翼的な姿勢を持つチャネル4などではさらに顕著になっている。そして、特には政府を動転させるほどの作品も登場するのだ。ただし、そんな大作にかける製作費とふつうの番組との落差がひどいのか、そんなのを見た後にクイズ番組なんぞを見ると全くゲンメツしてしまうのだ。

 また、いつもドキッとするのはカルト的な映画などがテレビで放映される時だ。性的にきわどい場面があるフランス映画からソヴィエトを始めとした東欧、さらには日本やアジア各国の映画などが時に登場。もちろん、それをノ−カット、字幕ス−パ−で放送だ。しかも、通常はCMの入っている民放でさえ、その上映中を中断してCMを入れることはない。途中トイレに行けないのは不便だけど、この姿勢は映画好きには実に嬉しい。

 その他、60年頃からずうっと続いている連続ドラマ "コロネ−ション・ストリ−ト"(Coronation Street)なんてぇのがあって、それも驚異的。他の番組だったら、この本が出る頃には終ってるかもしれないけど、おそらくこれだけは例外だ。できれば、こんな番組でイギリス人の最もイギリス人的な部分をジックリ見てもらいたいと思うのだ。北イングランド、マンチェスタ−を舞台に広げられるこれは、最もイギリス的なドラマだろう。

 さて、そんなイギリスの世界を満載したテレビをどうやって見るか。ホテルに泊まってるのなら、その部屋にあるかもしれないし、B&Bならリヴィング・ル−ムにはたいてい1台置いてあるはずだから問題はない。が、もし格安なフラットに住むようなことがあれば、レンタル・ショップを訪ねればいい。実を言えば、人件費や修理費が高いので、この国ではテレビやヴィデオのレンタルがかなりポピュラ−になっているのだ。だから、レンタルに関してはな〜んの問題もない。ただ、そんな番組をビデオに取っても日本じゃ見られないことだけは知っておかなければならない。というのも、ブラウン管の走査線の数が日本のNTSCとは違うPALを採用しているのがイギリス。その数の多さで日本よりは美しいカラ−を楽しめるのだが、残念なことにそれを日本の一般のテレビで見るのは不可能だ。当然、これは市販のヴィデオでも同じこと。録画したい番組はいっぱいあるのだけど、これだけはどうしようもないのだ。実に残念。なんとかならないもんかね。
chapters

buttonこの本の復刻にあたって...

button第1章 さあ、ロンドンに着いた : - 空港から市内へ -
button第2章 「A to Z」を持って街にでる :- 地下鉄、バスからタクシーまで -
button第3章 高いホテルは要らない : - 泊まり方と住み方 -
button第4章 ソーホーはロンドンの縮図 : - 歓楽街、チャイナタウンからナイトクラブまで -
button第5章 イギリス料理って何だろう : - フィッシュ&チップスからケバブ屋まで -
button第6章 日本食が恋しくなったら : - 材料のそろえ方と自然食ムーヴメントについて -
button第7章 ライヴは"生きた音楽"だ : - 開演前から思いきり楽しむ -
button第8章 真夜中からが本当のロンドン : - ナイトクラブは流行発信地 -
button第9章 ラジオが刺激的 : - BBCから海賊放送局まで -
button第10章 情報誌はジャーナリズムだ1 : - タイムアウトとシティリミッツ -
button第11章 情報誌はジャーナリズムだ2 : - 世界を反映する音楽紙 -
button第12章 オープン・マーケットで掘り出し物探し :- カムデンマーケットはストリート文化の宝庫 -
button第13章 流行はストリートから : - 究極のロンドン・ファッションとは? -
button第14章 とにかく興奮! レコード・ショップ
button第15章 映画館は大騒ぎ : - レイトナイト・ショーで盛り上がろう -
button第16章 テレビも忘れずチェック : - 音楽、コメディ、報道番組の楽しみ方 -
button第17章 誰でも英語は話せる : - 本場の英語を学ぶコツ -
button第18章 パブこそが全て : - 飲んべぇたちの奇妙な生態 -
button第19章 ビ-ル作りの密かな愉しみ : - ビターからホーム・ブリューイングまで -
button第20章 パブがパンク・ムーヴメントを育てた : - トラッド・ジャズなど、パブは音楽のゆりかご -
button第21章 ストリートがステージだ! : - 街頭で演奏するバスカーたち -
button第22章 街を揺さぶる移民のカーニヴァル : - ノッティングヒル・カーニヴァルの光と陰 -
button第23章 ブリクストンの暑い夏 : - 観光客の知らないロンドン -
button第24章 反抗する音楽 : - CNDで知ったミュージシャンの政治意識 -
button「もうひとつの世界」へのアプローチ : - グラストンバリーのヒッピー・フェスティヴァル -
button解説(月刊宝島編集長、関川誠)
buttonあとがき



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