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ミュージシャンや音楽ファンには格好の教科書 どれほど多くのミュージシャンがその政治性を理由に、文字通り抹殺されてきたか・・・ おそらく、レゲエ・ファンなら、その犠牲者のひとりやふたりは思いだせるだろう。 「ここは自由の天地だ。どこを歩こうと、俺の勝手だろう!」 そんな言葉を残して暗殺されたのがLKJに次ぐダブ・ポエットとして注目を浴びていたマイケル・スミス。彼の場合、結局遺作になってしまったのがデビュー・アルバム『ミ・キャーン・ビリーヴ・イット』だった。そのニュースを耳にした時、やり切れない思いに駆られたのは私だけじゃないだろう。 また、プリンス・ファー・アイが殺された直後にたまたま会うことになったプロデューサー、そして、ON−Uレーベルの核、エイドリアン・シャーウッドのこんな言葉も脳裏に焼きついて離れない。 「なんでミュージシャンが政治や経済のために殺されなけりゃいけないんだ」 彼らのほかにも、ランキン・ドレッドにヒュー・マンデルといったミュージシャンも醜悪な政治の犠牲者だった。いわば、音楽に込められていたのは政治家が恐れるに足る影響力。それを見事に証明しているのがジャマイカの音楽史であり、その象徴的存在がボブ・マーリィなのだ。 だからなのだろう、私が約2年の歳月をかけて翻訳することになった本『音楽は世界を変える』(ソニー・マガジンズ社)の筆頭を飾るのはボブ・マーリィだ。『キングストン1981年、ロンドン1988年』と題されたイントロダクションはこう始まっている。 「それはかつて私が目の当たりにしたなかで最も力強く、感動的なポップス界の事件だった。81年5月21日の木曜日。ジャマイカの首都、キングストンはボブ・マーリィの葬儀のため、完全な休止状態になっていた」 そして、著者はこう続けているのだ。 「カリブ海の灼熱の太陽に照りつけられたこの日、ポップスと政治に関する全ての議論に解答が与えられたように思えた」 政治と音楽の関係性、というよりは、音楽やそれを取り巻く我々の文化がどれほど強大な影響力を持っているか・・・ おそらく、それを語るのがダブーにされ、嘲笑を持って迎えられるようになってしまったのが日本じゃないだろうか。が、アメリカやイギリスで、あるいはジャマイカやジンバブエでたくましい力となっているのが音楽の持つ影響力。だからこそ、私はこの書籍を翻訳しなければいけないと考えるに至ったのだ。今思えば、その作業に取り掛ったのは3年も前に遡る。が、本の発表だけではなく、血も肉もある音楽を愛する人々にこの事実を伝えなければ意味はない。それがこのページを借りた理由だ。 著者は政治的な音楽を追い続けているイギリス人ジャーナリスト、ロビン・デンスロウ氏。それだけにイギリスの音楽に関する記述が多いのは当然だが、第一章はヒットラーがドイツを支配し始めた戦前にまで遡る。ブレヒトやワイルといった作曲家達が台頭するナチズムから逃れるために渡ったアメリカで、戦後の新しいファシズム『赤狩り』の犠牲者となっていった事実。または、ロックンロール誕生が公民権運動発祥に繋っていたことから、体制側がいかに音楽を恐れていたか・・・ そういったドキュメントがここにはびっしりと詰め込まれている。 それがどれほど影響力を与えてきたか・・・ この本は淡々と語りかけてくれるのだ。アメリカの反原発運動は全米の原発を建設中止や計画延期に追い込み、アパルトヘイト体制打倒のために闘うANC(アフリカ民族会議)の中心人物、ネルソン・マンデラの27年にわたる獄中生活からの解放を勝ち取る要因を作しばらくの後に訪ねたのが、ロンドンのウェンブリィ・スタジアム。ここで開催された解放祝賀記念コンサートで彼は反アパルトヘイト運動を支持し続けてきた数多くのミュージシャンや音楽ファンに感謝の言葉を贈っているのだ。 特にレゲエ・ファンに読んでもらいたいのは、『反逆の音楽』と題された第五章だ。トリニダードのカリプソやアメリカのR&Bの影響とメント、ビュールーなどが複雑に絡んで生まれたのがスカ。そんな音楽的背景に加え、ここで重点的に語られているのはジャーナリズムとして機能してきた音楽の役割だ。レゲエ・レーベルの主でプロデューサーだったエドワード・シーガが首相にもなったジャマイカで、政治闘争に巻き込まれていったのが音楽。ボブ・マーリィ暗殺未遂事件から対立する右派、ジャマイカ労働党と左派の人民国家党をわずかな期間ながらも和解させたワン・ラヴ・コンサート・・・ それがどんなプロセスで生まれては消えていったのかをこの本は詳細にわたって語りかけてくれる。 また、ボブ・マーリィの影響は独立運動を続けていたジンバブエに伝わり、アメリカの反人種差別運動や反アパルトヘイト運動を活性化されている。さらには、イギリスで独自のスタイルのレゲエを誕生させ、これがUK音楽史上初のミュージシャンによる政治圧力団体、ロック・アゲンスト・レイシズム(RAR=人種差別に反対するロック)を誕生させているのだ。それが結び付いていったのが白と黒が合体したスペシャルズに代表される2トーン・ムーヴメント。しかも、興味深いのはそのきっかけを作ったのがボブ・マーリィの『アイ・ショット・ザ・シェリフ』をカヴァーしてカムバックしたエリック・クラプトンの人種差別発言なのだ。 「お前ら、黒ン坊はイギリスから出ていけ」 と、75年のライヴで語った彼の本心がどこにあったのか・・・ 今は謎でしかないが、この本で発見した信じられないような事実も数多い。 むろん、音楽が政治的でなければならないとは考えてはいない。が、なによりも、我々が自身の文化の力を自覚する必要はあるとは思う。だからこそ、日本でも音楽に検閲まがいの圧力が加えられているのだ。『自粛』の名の下に社会性のある音楽がラジオやテレビから締出され、差別用語を理由に差別の告発もできない。その悪循環が無味乾燥な商品音楽の大量生産を正当化し、表現としての音楽を抹殺しているのではないだろうか。 おそらく、そんな状況を考えた時、ミュージシャンや音楽ファンにとって格好の教科書となるのがこの本だろう。特にアメリカで進行する音楽への検閲に対する闘いは我々に多くのことを教えてくれるはずだ。できるだけ多くの音楽ファンやミュージシャン、そして業界関係者にこの本『音楽は世界を変える』を読んでいただきたい。 written in 92. |