市民平和訴訟・鹿児島:判決文

1997年1月27日、鹿児島地方裁判所にて

(注)・原告の個人名は「*」で置き換えてあります。
   ・丸数字はカッコと数字に置き換えてあります。


平成九年一月二七日
判決言渡平成九年一月二七日

原本領収
裁判所書記官

平成三年(ワ)第二五八号

          判       決

   鹿児島市桜ケ丘六丁目二○番一九号
        原   告              *****
   鹿児島県出水市緑町四○ー五三
        原   告              ****
   東京都千代田区霞が関一丁目一番一号
        被   告              国
        右代表者法務大臣           松   浦       功
        右指定代理人             岡   村   善   郎
         同                 松 ケ 野   昌   勝
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                  同                           前   田             博
                  同                            塩   屋   朝   治
                  同                            新   居   雄   介
                  同                             宮   内   健   義
                  同                             倉   本   正   博
                  同                             鈴    木   朗   尋
                  同                             堀   地       徹
                  同                             芹   澤       清
                  同                             伊   藤   茂   樹
                  同                             吉   松   英   治

    右当事者間の九○億ドル支出違憲確認等請求事件について、当裁判所は次のとお
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   り判決する。

          主       文
 一 被告が九○億ドルを支出したこと並ぴに被告がペルシヤ湾において機雷の除
  去と処理のために海上自衛隊所属の掃海艇及び自衛隊員を派遣したことが違憲
  であるとの確認を求める訴えをいずれも却下する。
 二 原告らのその余の請求(損害賠償請求)をいずれも棄却する。
 三 訴訟費用は、原告らの負担とする。

          事       実
第一 請求
  一 被告が九○億ドルを支出したことは違憲であることを確認する。
  二 被告がペルシヤ湾において機雷の除去と処理のために海上自衛隊所属の掃海

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   艇及び自衛隊員を派遣したことは違憲であることを確認する。
  三 被告は、原告らに対し、それぞれ一万円ずつを支払え。
第二 事案の概要
  一 前提事実
   1 アメリカ合衆国をはじめとする二八か国は、平成二年八月二日クウェート
    国を占領したイラク共和国(以下「イラク」という。)軍を武力で排除する
   ためにアメリカ合衆国軍を中心とする多国籍軍(以下「多国籍軍」という。)
   を編成し、日本国政府は、同年九月一四日までに多国籍軍を支援するため二
   ○億ドルを支出することを決定し、同年度予算の予備費から一○億ドルを同
   月二一日に、衆議院及び参議院で可決されて成立した同年度第一次補正予算
   から一○億ドルを同年一二月二四日にそれぞれ湾岸平和基金(アラブ首長国
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    連邦、バーレーン国、クウェート国、オマーン国、カタール国及びサウジア
   ラピア王国の六か国で構成された湾岸協力会議内に設けられた特別基金)に
   拠出した。
    〔甲五三、五六、五八、六二、六四、八○、八三、九五、一○五、弁論の
   全趣旨〕
   2 多国籍軍とイラクとの戦争(以下「湾岸戦争」という。)は平成三年一月
   一七日勃発したが、日本国政府は、同月二四日、多国籍軍を支援するため、
   追加資金として九○億ドルを支出することを決定し、同年三月一二日ころ、
   衆議院及び参議院で可決成立した平成二年度第二次補正予算から九○億ドル
   を湾岸平和基金に拠出した。
   〔当事者間に争いない事実、甲七二、七四、七九、八一、一○五、一二七、
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    一三四、一三五、一三七、一三八、一四三〜一四六、弁論の全趣旨〕
   3 多国籍軍とイラクは平成三年二月二八日休戦し、湾岸戦争は同年四月一二
   日終結したが、日本国政府は、同月二六日、イラクが湾岸戦争に際しぺルシ
   ャ湾内に敷設した機雷を除去するため、海上自衛隊の掃海母艦一隻、掃海艇
   四隻及び補給艦一隻並びに掃海部隊約五○○名を同湾に派遣し、右掃海艇等
   及び自衛隊員は、同年六月五日から同湾内において機雷除去作業を始め、同
   年九月一一日同湾における機雷の除去と処理の任務を完了し、同年一○月三
   ○日、日本国に帰還した。
    〔当事者間に争いない事実、甲一○、三一、三四〜三六、三九〜四四、四
    七、一二四〜一二六、乙一、二)。
  二 本件は、被告が、多国籍軍を支援するため右一の2のとおり九○億ドルを支
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   出したこと(以下「本件財政支出」という。)並びに右一の3のとおり湾岸戦
   争終了後にペルシヤ湾における機雷の除去及び処理のため海上自衛隊の掃海艇
   及び自衛隊員を派遣したこと(以下「本件掃海艇等の派遣」という。)が、
   1 原告らの平和的生存権及ぴ納税者基本権を侵害したと主張して、原告らか
   ら、被告に対し、本件財政支出及び掃海艇等の派遣がいずれも違憲であるこ
   との確認を求める(以下「本件違憲確認の訴え」という。)とともに、
   2 原告らの平和的生存権及び納税者基本権あるいは原告らが人殺しに加担す
   ることなく平和に暮らしたいとの願い又は良心等が侵害されたと主張して、
   原告らから、被告に対し、不法行為(国家賠償法一条一項)に基づく損害賠
   償として、それぞれ一万円ずつの慰謝料の支払を求める(以下「本件損害賠
   償請求」という。)
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   事案である。
第三 争点@・本案前の抗弁その1(本件違憲確認の訴えの法律上の争訟性)
  一 被告の主張
   1 裁判所の司法権の発動は、裁判所法三条一項にいう「法律上の争訟」、す
    なわち、当事者間の具体的な権利義務に関する具体的な紛争であって、法律
    の適用により終局的に解決しうる紛争について、裁判所の判断を求めること
    を必要とする立場にある者(当事者適格)が、法的判断を求めるのに適した
    事件(権利保護の資格)につき、実際に判決を求める必要の存在するとき
    (権利保護の必要)に限って認められるものである。
   2 ところで、原告らは、本件財政支出及び掃海艇等の派遣によって、原告ら
    の平和的生存権及び納税者基本権が侵害されたと主張して、同権利に基づき、
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    本件違憲確認の訴えを提起しているが、原告らが主張する同権利は、その根
    拠規定、主体、成立要件、具体的権利内容及ぴ法的効果等のいずれの点にお
    いても明確ではなく、その外延を画することさえできない極めて曖味なもの
    で、裁判上救済の対象とし得べき現実的、個別的内容をもったものとはいえ
    ない(なお、札幌高裁昭和五一年八月五日判決・行裁集二七巻八号一一七五
    頁、水戸地裁昭和五二年二月一七日判決・判例時報八四二号二二頁、東京高
    裁昭和五六年七月七日判決・判例時報一○○四号三頁、最高裁平成元年六月
    二○日第三小法廷判決・民集四三巻六号三八五頁、大阪地裁平成元年一一月
    九日判決・判例時報一三三六号四六頁、福岡地裁平成元年一二月一四日判決
    ・判例時報一三三六号八一頁は、いずれも平和的生存権の権利性を、東京地
    裁昭和六三年六月一三日判決・判例時報一二九四号一三頁、東京高裁昭和五
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    七年四月一二日判決・行裁集三三巻四号八一五頁、名古屋地裁昭和五五年一
    一月一九日判決・行裁集三一巻一一号二四○八頁は、いずれも納税者基本権
    の権利性をそれぞれ否定している。)。
   3 したがって、平和的生存権及ぴ納税者基本権を私法上の権利保護の対象と
    することはできないから、原告らと被告間には、法律を適用することによっ
    て終局的に解決し得べき権利義務に関する具体的紛争は存在せず、本件違憲
    確認の訴えは法律上の争訟には当たらないから不適法である。
  二 原告らの主張
   1 はじめに
    被告に対し納税義務を負う者(以下「納税者」という。)は、憲法に適合
   する形でのみ納税義務を負うところ、これを納税者からみれば、租税は、憲
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   法に適合するところに従ってのみ徴収され、かつ、憲法に適合するところに
   従ってのみ使用されることを要求する権利を憲法上保障されているというべ
   きであり、したがって、憲法の規定に違反するような租税の徴収や支出が行
   われた場合、納税者は、右の権利の侵害を理由に被告に対し違憲確認請求や
   損害賠償請求を行うことができるものというべきであり、かかる権利は、納
   税者基本権と呼ぶにふさわしいものである。
    ところで、被告が支出した九○億ドルの財源には、被告が石油臨時特別税
   の増税によって国民から徴収した税金が充てられ、また、本件掃海艇等の派
   遣は、当然に経費の支出を伴い、その財源も被告が国民から徴収した税金が
   充てられているが、本件財政支出及び掃海艇等の派遣が憲法で保障された平
   和的生存権を侵害することは後記のとおりである。したがって、原告らは、
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   被告に対し、平和的生存権及び納税者基本権に基づき、本件財政支出及び掃
   海艇等の派遣が違憲であることの確認を求めることができる。
   2 争点A(平和的生存権の裁判規範性の有無)
    (一)根拠
     平和的生存権は、肖像権、プライバシ―権、環境権、嫌煙権、日照権、
   静謐権あるいは眺望権等と同様に新しい権利であり、その内容、要件、効
   果は憲法の解釈によって確定していくことができ、具体的な判例の積み重
   ねによって明確にすることができるところ、憲法上、以下のとおり根拠を
   有するものである。
   (1)憲法前文
    憲法前文第一段は「日本国民は・・諸国民との協和による成果と、わ
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   が国全土にわたって自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によって
   再び戦争の惨禍が起こることのないようにすることを決意し、ここに主
   権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。」と規定して、
   主権を有する国民が政府を民主的に統制し、戦争の惨禍を再び起こさせ
   ないことを明確にし、これを受けて、第二段は「日本国民は、恒久の平
   和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するので
   あって、平和を愛する諸国民の公正と信義を信頼して、われらの安全と
   生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、
   圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、
   名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく
   恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認
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   する。」と規定し、国民が平和のうちに生存する権利を有することを宣
   言している。これは、単に国家が政策として平和主義を掲げた結果、国
   民が平和のうちに生存しうるといった消極的な反射的利益を受けること
   を意味するのではなく、むしろ、積極的に日本国民ばかりでなく、世界
   各国の国民に等しく平和のうちに生きる権利、すなわち平和的生存権を
   権利として保障したものである。平和的生存権は、第二次世界大戦に対
   する反省から、平和を確保するには戦争や武装によっては不可能であり、
   また、平和は軍事力を背景とした国家間の関係によっては維持できない
   という歴史的認識に立って、国家に対し、平和の維持を国民に対する関
   係において義務づけ、国民は自らの権利として平和の維持を国家に対し
   要求できる権利として規定している。
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    憲法前文は、国民主権主義、平和主義及び基本的人権尊重主義という
   憲法規範の各条項の基底を形成する基本原理を宣言するもので、憲法の
   主要部分を構成しているから、それ自身で憲法法規としての実質を備え
   ているというべきところ、憲法前文は、前記のとおり、平和的生存権を
   明確に規定している。そもそも、憲法が本来大綱性をもつものである以
   上、憲法上の概念が抽象性を有することは当然であり、また、憲法前文
   が本文より抽象性が大きいとしても、例えば、「公共の福祉」のように
   憲法本文においても極めて抽象的な概念が裁判規範として機能すること
   は最高裁も容認していることを考えると、憲法前文と本文の抽象性の大
   小の差をもって裁判規範となり得るか否かを区別する理由はない。
  (2)憲法九条
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    同条は、戦争の全面的放棄と軍備及ぴ交戦権の否認を定めているが、
   これはいかなる名目にせよ、戦争が自国民のみでなく他国民の平和的生
   存権をも侵害することになることにかんがみると、日本を含め全世界の
   民衆の平和的生存権を確保するためには、一切の戦争と軍備を否定する
   という平和主義を貫徹するほかないという立場に基づくものであり、憲
   法前文で明記された平和的生存権を客観的、制度的な面で保障するため
   に設けられた規定である。
  (3)憲法一三条
    同条は、個人の尊重、生命・自由・幸福追求に対する国民の権利を保
   障する人権の総論的規定として、人間の生存と尊厳にかかわる権利を保
   障しているところ、平和を確保することは人の生命に対する必須不可欠
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   の条件であり、また、戦争が人の生命や個人の尊厳を根こそぎ破壊する
   ことは歴史を顧みれば明らかであるから、個人の生命・自由・人権及ぴ
   個人の尊重の生命線であり、その基礎でもある平和的生存権は、当然同
   条によっても保障されているということができる。
    (二)主体
    日本国民及び日本に居住する外国人は、平和的生存権の主体となる。
    (三)内容
    平和的生存権は、平和の状態を前提として、@平和の下で自由に生きる
   権利(平和的自由生存権)、A平和の下で平等に生きる権利(平和的平等
   生存権)、G平和の下で豊かに生きる権利(平和的社会権)、C公権力に
   非軍事的方法による平和状態を求める権利(平和請求権)、D公権力によ
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   る対内外の平和侵害に対する国民の抵抗する権利(平和侵害抵抗権)から
   構成される基本的人権である。この権利の具体化の一例が「加害者となら
   ない権利」「殺さない権利」である。
    (四)平和的生存権侵害の要件と効果
   日本国政府が、直接的、間接的を問わず、次の(1)ないし(3)に掲げるいず
   れかの行為を行った場合には、日本国民は、それが差し迫ったものであれ
   ばその差止めを、それが現実に起こった場合にはその違憲であることの確
   認と平和的生存権の侵害によって被った損害の賠償を求めることができる。
   (1) 日本国民を戦争による危害を被る状況に置くこと
   (2) これを招く準備行為を行うこと
   (3) 他国民に戦争による被害を与えるか、若しくは他国民を戦争による被
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     害を被る状況に置くこと
    そして、日本が他国間の戦争に人的、資金的、物的に参加し協力するこ
   とは、日本が戦争の直接的な当事国になるのと同様に、他国の平和を破壊
   し、人命を危険にさらすことになる点では、日本自らが戦争をするのと少
   しも変わらないし、また、日本が戦争に巻き込まれる可能性を大きくする
   から、日本国民の平和的生存権を侵害するということができる。
    (五) 判例の評価
    被告は、判例を引用して、いずれも平和的生存権を否定していると主張
   するが、引用の札幌高裁昭和五一年八月五日判決は、憲法前文に「平和の
   うちに生存する権利」が採り入れられるに至った理由やその根本思想につ
   いて全く無知であり、何ら合理的な理由を示さずに憲法前文の裁判規範性
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   を否定するといった杜撰な判断をしているばかりか、憲法前文に掲げられ
   た国民主権主義や代表民主制が絶対的な法的拘束力をもつのに対し、「平
   和のうちに生存する権利」が何故そのような拘束力をもちえないのかにつ
   き具体的な説明を全くしておらず、また、人権と平和主義の関係並びに憲
   法前文、九条、一三条の各条項の解釈及びそれらの一体性に対する理解が
   根本的に誤っており、致命的な欠陥を有する判決であり、最高裁平成元年
   六月二○日第三小法廷判決は、平和的生存権の権利性を直接否定したもの
   ではなく、単に憲法九条の私人間への直接適用、あるいは、平和的生存権
   の私人間での効力を論じた文脈の中で、平和的生存権が私法上の行為の効
   力判断基準にはならないことを述べているにすぎず、また、大阪地裁平成
   元年一一月九日判決、福岡地裁平成元年一二月一四日判決は、いずれも平
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   和的生存権が正面から争点とはなっていない判決である。
    そして、平和的生存権を認めた札幌地裁昭和四八年九月七日判決・行裁
   集二七巻八号一三八五頁を被告が引用しないのは、被告主張の論拠の弱さ
   を示すものというほかない。
   3 争点G(納税者基本権の裁判規範性の有無)
    憲法前文第一、第二段は、平和主義と基本的人権の尊重という内容的原理
   と、国民主権主義という国家構成及び決定形式上の原理が相互に補い合う関
   係にたつべきであることを示しており、そこにうたわれている「国民の厳粛
   な信託による国政」を「人類普遍の原理」であるとしている。
    ところで、国政は財政の裏付けなしには成り立たなくなっており、財政は
   国政の全般にかかわり、政治の内実や経済の動向を積極的に規定するものと
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   して国政の最も重要な構成要素であり、その重要性は現代においてますます
   増大しているが、憲法は、財政収入のほとんどを租税に依存する租税国家体
   制を前提としているから、租税のとり方と使い方は国政のすべてにかかわっ
   てくる重要事である。したがって、憲法上の規範原則は、国政のみならず、
   財政、ひいては、租税のとり方と使い方までも規定しており、憲法前文にう
   たわれている平和主義、基本的人権尊重主義、国民主権主義といった原理は
   租税の徴収面と支出面の双方を原理的に規定しているというべきである。
    国民主権主義からすれば、国の財政は、国民に由来するものであり、国民
   の意思に基づいて処理され、国民全体の利益、幸福のために運用されなけれ
   ばならない(以下「財政民主主義」という。)ところ、憲法は、第七章にお
   いて国会による財政の統制を規定しているが、財政民主主義は、議会による
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   財政のコントロール(財政議会主義)と同一視されるべきではなく、後者は
   前者を保障するための手段の一つにすぎない。憲法八三条が国会の議決によ
   る財政の処理を、同八四条が租税法律主義を規定しているのは、納税者たる
   国民が国会に財政を処理する権限を信託したことに基づくものであるが、右
   の信託は全くの白紙委任ではなく、国会には憲法に従うことが求められてい
   る。同九八条は憲法を最高法規としてこれに反する法律等は無効であるとし、
   同九九条は公務員に憲法を尊重し擁護する義務を課していることからすれば、
   国会は憲法にうたわれた「国民の厳粛な信託」の本旨に従わなければならず、
   例えば、国会で憲法に反する国費支出行為を決めたり、そのための徴税措置
   を議決したりすることは許されない。
    これまで、歳入面と歳出面を分断した上、租税概念は、徴収面のみに関す
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   るものであって、徴収した税金をどう便用するかは納税者の権利義務とは無
   関係であるという考え方が支配し、租税の支出は行政措置であり立法ではな
   いというとらえ方が支配してきた。また、租税の徴収面においても立法以前
   の問題は問わないなど司法的統制は極めて不十分であって、租税の支出面に
   は司法的統制は全く及ばなかった。
    しかし、憲法が国民主権原理を採用し、かつ、財政民主主義が財政議会主
   義に尽きるものではない以上、主権者である国民による財政コントロールと
   いう財政民主主義を実効あらしめるために、租税概念や財政議会主義は、歳
   入面と歳出面を統合した形で一元的にとらえられるべきである。
    憲法三○条は、国民に納税の義務を課しているが、義務は権利と表裏をな
   すものである上、憲法第三章「国民の権利及び義務」中に規定されているこ
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   とから、単に国民の納税義務のみを定めただけではなく、国民に納税者とし
   て憲法に適合する形でのみ納税義務を負うという権利を保障しているという
   べきであり、違憲、違法の租税の支出は、違憲、違法の限度で、同条に内包
   された納税者基本権を侵害し、納税者はその侵害を理由に主観訴訟としての
   民事訴訟を提起することができるというべきである。
    憲法は、国民が参政権を行使することにより、議会制民主主義の過程にお
   いて違憲の支出を防止することを期待していることはいうまでもないが、実
   際に違憲の支出が行われた場合、これを法的にチェックし、司法的救済を図
   ることが必要であり、裁判所がその救済を拒むことは、三二条(裁判を受け
   る権利)、九八条(憲法の最高法規性)、八一条(違憲立法審査権)、九九
   条(裁判官の憲法尊重擁護義務)、七六条(裁判官の独立と憲法、法律のみ
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   による拘束)の各規定の趣旨を没却するものである。
   4 本件違憲確認の訴えの基本権訴訟としての特殊性
   (一)基本権訴訟の意義
  (1) 本件請求第一、第二項は、同第三項の前提となるものである。通常の
    不法行為訴訟では、紛争の解決のためには単に給付命令を求めれば足り、
    前提となる過去の行為の違法性の確認を求めるまでのことはないが、本
    件のように、国の違憲、違法な行為によって、原告らの憲法上の基本権
    が侵害されたことを争う憲法訴訟的国家賠償においては、違憲、合憲の
    判断を正面から求めて紛争を解決しようとしているのであるから、単に
    給付命令を求めるだけでは不十分である。原告らは、国家賠償請求に併
    せて、裁判所による憲法違反の国家行為に対する創造的な救済を求めて
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    いるのである。
  (2) 現行憲法は、司法審査制(八一条)を導入して、明治憲法とは異なり、
    「法律の留保」に服することなく、憲法の実体的基本権規定が裁判規範
    性を有することを認めたが、司法審査の前提となるべき訴訟要件、訴訟
    類型をめぐる憲法訴訟論は不活発なままであった。このため、訴訟要件、
    訴訟類型等は、民事訴訟法、行政事件訴訟法、刑事訴訟法等の実定各訴
    訟法の規定するままに任され、憲法上の制度であるはずの司法審査制が、
    実定各訴訟法の規定する訴訟要件、訴訟類型に適合した場合に初めて発
    動されるといういわば本末転倒した状況が出現した。このように、現行
    憲法は「法律の留保」は克服したが、いまなお「訴訟法の留保」に服し
    ている。
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      「訴訟法の留保」は、わが国の司法審査制度が付随的審査制であるこ
     とから、これまで漠然と正当化されてきたが、付随的審査制の要件であ
     る具体的事件・争訟性とは、あくまでも憲法上の要件論であるべきであ
    り、憲法上の事件・争訟性の要件を実定各訴訟法上の要件に引きなおさ
    さなければならない理由はない。すなわち実定訴訟法の訴訟要件、訴訟
    類型そのものが司法審査の対象とされなければならない(例えば、第三
    者所有物没収規定を違憲とした最高裁昭和三七年一一月二八日判決・刑
    集一六巻一一号一五七七頁参照)。また、実定各訴訟法の訴訟要件や訴
    訟類型が不十分であったり、欠けていたりしていてそのままでは適切な
    権利の救済ができない場合には、司法裁判所は新たな手続そのものを創
    造して救済を図らなければならない(現に最高裁も、昭和四三年一一月
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    二七日判決・刑集二二巻一二号一四○二頁において、補償規定のない場
    合でも直接憲法二九条三項に基づいて財産権侵害の救済を求めうると判
    示し、昭和五一年四月一四日判決・民集三○巻三号二二三頁においては
    選挙無効訴訟を活用して選挙結果における平等権侵害について違憲の判
    断を示すに至っている。特に、同判決中の岸判事の反対意見参照)。
     そして、憲法が違憲審査制を導入した(八一条)こと、そもそも司法
    権(七六条)は権利の実効的個別的救済を図る権能を有しており、その
    担い手である裁判所に、訴訟に関する手続について規則を定める権限が
    付与されている(七七条)こと、裁判を受ける権利(三二条)とは、単
    に適法に出訴したとき、裁判所による裁判を拒絶されないといった形式
    的な「訴訟の保障」を規定しているにとどまらず、憲法上の各実体的基
--29------------------------------------------------------------------------

    本権全部に対して、それらの権利に訴権性を付与し、裁判所に対し、同
    基本権の実効的保護を求める「有効な権利保護の保障」までも規定した
    ものと解されることは、裁判所が創造的救済を行うことができる根拠と
    いえる。
  (3) 以上のとおり、憲法上の基本権を侵害された者は、既存の実定各訴訟
    手続に従ってその違憲性を訴えて救済を求めることができるほか、既存
    の訴訟手続がなく、あるいは、不十分な場合でも、当該基本権に基づい
    て、裁判所にその救済を求めることができ、裁判所は、場合によっては、
    新しい訴訟手続、訴訟類型を創造してでも救済を図ることができるし、
    そうすべきことが憲法上の要請でもある。
(二)基本権確認訴訟の要件
--30------------------------------------------------------------------------

  (1)原告適格
     基本権確認訴訟も主観訴訟の一種である以上、自らの実体的基本権の
    防衛や回復といった裁判的救済を求める者のみに原告適格が認められる。
  (2)訴えの利益
     狭義の訴えの利益が認められなけれぱならず、その具体的な内容は次
    のとおりである。
    イ 基本権的事件・争訟性として、原告個人の基本権に対する具体的な
     侵害が必要である。
    ロ 事件争訟の成熟性として、侵害の現実性、蓋然性が必要で、裁判的
     判断、解釈に相応しい段階にあることが必要である。
    ハ イ及び口が消滅等せずに存続していることが必要である。
--31------------------------------------------------------------------------

    二 基本権の防衛、回復のために確認判決が一応の有効性をもつ場合で
     あることが必要である。
   (3)本件違憲確認の訴えへのあてはめ
    イ 原告適格
     原告らは、本件財政支出及ぴ掃海艇等の派遣によって原告らの平和
    的生存権及び納税者基本権が侵害されたとして、同権利に基づき、本
    件違憲確認の訴えを提起しており、原告らには原告適格が認められる。
    ロ 訴えの利益
     i  基本権的事件・争訟性
            本件財政支出及び掃海艇等の派遣は、日時あるいは支出先等が特
      定された具体的な侵害であり、憲法上の基本権の侵害を問題にすべ
--32------------------------------------------------------------------------

      き具体的事件・争訟性を備えている。
      ii 事件争訟の成熟性
       一般的政策論議の段階をすぎ、具体的な行政国家行為として本件
      財政支出及び掃海艇等の派遣がなされており、裁判所による救済を
      求めうる段階に入っている。
     iii 侵害の継続性
       被告は現在においても未だ本件財政支出及び掃海艇等の派遣が憲
      法違反であり、今後同種の過ちは絶対に犯さないと表明しておらず、
      本件財政支出及び掃海艇等の派遣によって生じた違憲状態は、現在
      も継続している。
     iv  確認の有効性
--33------------------------------------------------------------------------

        裁判所が、本件財政支出及び掃海艇等の派遣について憲法判断を
       示すことは、今後起こり得る憲法の潜脱解釈に歯止めをかけること
       につながり、原告らの基本権の救済に適切有効である。
   (4)  結論
      以上のとおり、本件違憲確認の訴えは、基本権訴訟としての要件を具
     備しており、適法である。
第四 本件財政支出並ぴに掃海艇及び自衛隊員のペルシア湾への派遣の違憲性につ
  いての原告らの主張
 一 争点C・本件財政支出の違憲性について
  1  湾岸戦争の経過
    イラク軍は、平成二年八月二日、国境を越えてクウェート国内に侵入し、
--34------------------------------------------------------------------------

   占領した。アメリカは、石油に関する利権を確保するとともに、その確保の
   障害となるイラクの軍事力を破壊するために、かねてから着々と準備をして
   いたが、右占領を機にイラクの軍事力を破壊することを企図し、アメリカ軍
   をサウジアラビアに派兵するなどし、地上戦開始までに動員したアメリカ海
   軍、陸軍、空軍及び海兵隊の総兵力は後方支援を含めて約五○万人と現役ア
   メリカ軍約二○○万人の実に四分の一に及んだ。
    多国籍軍は、平成二年一一月二九日安全保障理事会で採択された決議第六
   七八号(以下「決議第六七八号」という。)に基づき、平成三年一月一七日
   午前三時(現地時間)、クウェートに侵攻したイラク軍をクウェートから排
   除するとの名目で史上最大規模な空爆を実施した。この空爆では、軍事専用
   施設のほか民生用基盤の施設も攻撃の対象とされたため、軍事専用施設のほ
--35------------------------------------------------------------------------

   か、イラク国内の発電、送電設備、燃料貯蔵、供給施設、通信、運輸、生産
   施設、上下水道関連施設、病院等が破壊され、イラク国内では集中電力供給
   が行われなくなり、水道、下水道処理設備、電話、民間の電気通信システム
   は機能せず、このため未処理の下水が河川に流入して飲料水が汚染され、ま
   た、バクダットから一五マイルの距離にある核施設や化学兵器施設も爆撃さ
   れた。
    多国籍軍は、空爆の際に攻撃目標を厳密に軍事目標に限定せず、あらゆる
   主要都市と大部分の町村の居住地区を攻撃目標に加えた上、空爆に用いた爆
   弾のうち、精密誘導爆弾は重量にして全体の八パーセント、個数にして全体
   の一○パーセントにすぎず、しかも一五パーセントは命中せず、このため爆
   撃の対象とされた付近の住民に多大の被害を与えた。この空爆によって民間
--36------------------------------------------------------------------------

   人を含む多数の死傷者がで、社会基盤もそのほとんどが破壊され、イラクの
   社会機能は完全に停止した。また、イラク国内の大多数の通信施設、道路、
   橋梁、車両等の輸送手段が破壊されたため、イラク軍は組織的、系統的な指
   揮を行うことも、食料、飲料水その他の補給もできず、その戦闘能力は著し
   く低下した。
    多国籍軍は、平成三年二月二四日午前四時(現地時間)、地上戦を開始し
   た。多国籍軍による空爆によってほとんど戦闘能力を失っていたイラク軍は
   イラクに向けて撤退を開始したが、多国籍軍は、この撤退中のイラク軍に対
   して猛攻撃を加え、自らの兵員をほとんど失わずに、少なくとも一○万人の
   イラク兵を殺害した。この戦闘では、多国籍軍はクウェート市から撤退した
   イラク軍の退路を断って猛攻撃を加えて徹底的な殺戮を行ったのであり(い
--37------------------------------------------------------------------------

   わゆる「地獄へのハイウエイ事件」)、攻撃を受けたイラク軍の中には白旗
   を掲げ砲塔のハッチを開けて上空を眺めながら走っている(すなわち、戦闘
   行動を中止し、降伏の意思を明らかにしている)者もいた。
    空爆によってイラクの社会機能は完全に停止し、食料備蓄も底をつき、燃
   料と各種部品の不足は国民生活と農業を初めとする産業に大きな打撃を与え、
   湾岸戦争停止後も伝染病や飢饉により多数の死者がで、また、湾岸戦争によ
   り、多数の難民が発生し、イラクの文化的遺産は破壊され、ペルシア湾に原
   油が流出したり、クウェートやイラク国内で油田火災が発生するなどの環境
   破壊も生じた。
  2  決議第六七八号及び多国籍軍による戦闘行為の違法性
    多国籍軍による武力行使を容認したとされる決議第六七八号は、国連憲章
--38------------------------------------------------------------------------

   に違反し、かつ、アメリカ合衆国により買収された決議であるという意味で
   成立手続に違法があり、国連憲章四二条、一条一項、二条四項、第七章「集
   団的安全保障原則」違反にするという意味で内容が違法であるのみならず、
   多国籍軍による戦闘行為は、同決議の目的であるイラク軍のクウエート国か
   らの撤退及ぴクウェート国民の解放という目的を逸脱するものであったから、
   ニュールンベルグ裁判及び束京裁判においてとられた法概念である「平和に
   対する罪」を構成するほか、国際法(武力紛争法または国際人道法)に違反
   する違法な行為であることは明らかである。
  3 本件財政支出の違憲性
    日本国政府が湾岸平和基金に拠出した九○億ドルの多くは湾岸平和基金を
   通じて多国籍軍の一つであるアメリカ合衆国に支払われており、目本国政府
--39------------------------------------------------------------------------

   による九○億ドルの拠出はまさに戦費の負担である。そして、武力行使には
   戦費が必要不可欠であるところ、前記のとおり湾岸戦争はまさに憲法前文及
   び九条が否定する武力行使であるから、日本国政府は戦費を負担することに
   よって湾岸戦争において多国籍軍による武力行使に加担し、もってイラク国
   民に湾岸戦争による被害を与え、若しくはイラク国民を被害を蒙る状況に置
   いたといえる。
    したがって、本件財政支出は原告らの平和的生存権に内包される「加害者
   とならない権利」及ぴ「殺さない権利」を侵害するとともに、原告らの納税
   者基本権をも侵害している。
 二 争点D・掃海艇及び自衛隊員のペルシア湾への派遣の違憲性の有無
  1 自衛隊は、武力を保有し、防衛出動時の権限を有しているばかりでなく、
--40------------------------------------------------------------------------

   世界第三位になるまで肥大化し、主要装備も強力な攻撃力をもった巨大な軍
   隊というべきであって、憲法九条がその保持を禁止する戦力にあたることは
   明らかである。殊に日本国政府がペルシア湾に派遣した掃海艇は、JM六一
   一M二○ミリ多銃身機関砲、掃海具一式、S一四機雷処分具を搭載する対機
   雷作戦を遂行するための最新型の軍事用艦艇であり、これに随伴する掃海母
   艦「はやせ」は、三五○口径連装速射砲、二○ミリ多銃身機関砲二門、三連
   装端魚雷発射管二台、訓練用機雷投敷設装置一式、補給用各種掃海具一式、
   訓練用機雷揚収装置一式を装備した対機雷作戦の指令部の役割を果たす艦艇
   であり、補給艦は、船舶用燃料、ヘリコプターの航空燃料、砲弾、食料等を
   搭載する艦艇であり、乗組員である自衛隊員は、小火器などを携帯しており、
   これらの艦艇の装備の内容や自衛隊員による武器の携行という事実からすれ
--41------------------------------------------------------------------------

   ば、派遣された掃海艇や自衛隊員はそれ自体軍事力というべきである。
  2 また、一般的に掃海部隊による機雷の除去は、湾岸、港湾、海峡等の封鎖
   解除や上陸作戦の一環として実施される軍事行動であり、機雷敷設が武力の
   行使にあたる以上、機雷の除去も武力の行使となり得るから、掃海艇による
   掃海行為自体が軍事行動というべきである。
  3 したがって、本件掃海艇等の派遣は、憲法前文及び九条に違反し、原告ら
   の平和的生存権に内包される「加害者とならない権利」及び「殺さない権利」
   を侵害するとともに、その費用の支出は原告らの納税者基本権を侵害する。
第五 争点E・本案前の抗弁その2(本件違憲確認の訴えの確認の利益の有無)
 一 被告の主張
   被告はすでに九○億ドルを支出済みであり、被告がペルシア湾に派遣した自
--42------------------------------------------------------------------------

   衛隊の掃海艇及び自衛隊員はすでに日本に帰還している。したがって、本件違
   憲確認の訴えは、いずれも現在の権利又は法律関係についての確認を求めるも
   のではなく、過去のそれについての確認を求めるものであるから、確認の利益
   を欠き不適法である。
 二 原告の主張
    被告がすでに九○億ドルを支出済みであり、被告がペルシア湾に派遣した自
   衛隊の掃海艇及び自衛隊員がすでに日本に帰還していることは認めるが、過去
   の事実または法律関係についての確認を求める場合にも確認の利益が認められ
   ることがあることは、すでに判例上認められている(最高裁昭和四五年七月一
   五日大法廷判決・民集二四巻七号八六一頁、同昭和四七年二月一五日第三小法
   廷判決・民集二六巻一号三○頁、同昭和四七年一一月九日第一小法廷判決・民
--43------------------------------------------------------------------------

   集二六巻九号一五一三頁参照)ところ、原告らは、本件違憲確認の訴えは、原
   告らと被告間の現在の紛争の根本的、効果的解決につながると主張しているの
   であるから、およそ過去の事実又は権利関係についての確認を求める場合には
   確認の利益がないかのような被告の主張は失当である。
    しかも、前記のとおり、本件違憲確認の訴えは基本権訴訟としての要件を具
   備しており、訴えの利益に欠けるところはない。
第六 争点F・不法行為の成否について
 一 原告らの主張
  1 被侵害権利、利益
  (1) 平和的生存権及び納税者基本権が憲法上保障された権利であり、裁判規
   範性を有すること、したがって、国家は、国民との関係で、戦争はしない、
--44------------------------------------------------------------------------

   武器は保有しない、国民を戦争にかり出さない、国費を戦争や武器に使用
   しないという義務及び憲法に適合する形でのみ租税を徴収し、使用する義
   務を負っているところ、本件財政支出及び掃海艇等の派遣が原告らの平和
   的生存権及び納税者基本権を侵害する違憲、違法な行為であることは前記
     したとおりである。
  (二)(仮に、右(一)のようにいえないとしても、)
    憲法一九条は、思想及び良心の自由を保障しているが、思想、良心とい
   う人の精神の自由は、生命、身体の自由と並んで、人間の尊厳を支える基
   本的な条件であり、また、民主主義存立のための不可久の前提でもあり、
   公権力による侵害は許されないところ、原告らは、いずれも良心による信
   条として、たとえ戦争の場合でも、自ら手を下して殺すことだけでなく、
--45------------------------------------------------------------------------

   人を頼んで殺すことも是認できない。また、現在、人を殺すことだけでな
   く、将来、人を殺すための準備をすることも是認できない。このような非
   暴力は原告らが抱いている信念であって、それは原告らの良心の内容の中
   核をなす。原告らは、憲法それ自体の根木規範である平和主義の規定によ
   って「社会的に承認された」非戦主義、非暴力主義を原告らが内面化し、
   自己の信仰や良心の一部としているのであるから、少なくとも、原告らの、
   戦争に加担しないで平和に生きたいとの思いや人殺しに加担したくないと
   の信念、納税者基本権の内実である税金を人を殺す戦争の費用として使用
   して欲しくないとの切実な願いなどは、不法行為法上保護されるべき利益
   である。
  2 本件財政支出及び掃海艇等の派遣の違法性
--46------------------------------------------------------------------------

    不法行為における違法性の有無は、被侵害利益の種類と侵害行為の態様と
   の相関関係において判断しなけれぱならないところ、湾岸戦争における多国
   籍軍による武力行使が国連憲章に違反する重大な違法行為であり、湾岸戦争
   が「平和に対する罪」を構成すること、本件財政支出は湾岸戦争の戦費を負
   担するもので、国際法及び日本国憲法に違反すること、本件掃海艇等の派遣
   が武力の行使に当たることは前記のとおりであり、かつ、その違憲、違法の
   程度が著しく大きいことは明らかである。
  3 被告の故意、過失
  (一)本件財政支出及び掃海艇等の派遣の違憲、違法の程度が著しく大きいこ
   とにかんがみ、被告に故意または過失があったことは明らかである。
  (二)被告は、憲法に従って国政を運用する一般的義務のほか、国民によって
--47------------------------------------------------------------------------

   負担された国費の支出を伴う具体的政策の実施にあたっては、国民の思想、
   良心の自由を侵害しないよう注意すべき義務があり、また、本件財政支出
   及び掃海艇等の派遣については、憲法に戦争放棄の明確な規定が存在し、
   その解釈については議論があるものの、同規定若しくは自己の思想、良心、
   信条に基づいて、戦争への如何なる加担も潔しとしない国民が多数存在す
   ることを認識していながら、あるいは、少なくとも容易に認識できたにも
   かかわらず、本件財政支出及び掃海艇等の派遣を強行することによって、
   原告らをしてその信仰と良心に反して湾岸戦争に対する間接的な加担を受
   忍させたものであるから、被告に故意または過失があったことは明らかで
   ある。
  4  原告らが被った損害
--48------------------------------------------------------------------------

    被告により、原告らの右1の権利、利益が侵害され、これによって被った
   精神的苦痛は、本件財政支出及び掃海艇等の派遣によって、原告らが長年に
   わたって育んできた愛の思想、非暴力の信念に反する痛み、あるいは少なく
   とも本件財政支出及び掃海艇等の派遣を合憲として受忍させられた痛みであ
   り、自己の生き方の根本に反することをさせられ、あるいは少なくともそれ
   を受忍させられた者だけが感じる苦痛である。これは、単に一部の者が共有
   する政治的な信念や倫理感を蹂躙されたことによる不快感にとどまらず、原
   告らが自己の信仰や良心の一部としている非戦主義、非暴力主義を侵害され
   たことによる苦痛である上、アジアの人々による日本国に対する非難の声は、
   原告らの良心に鋭い苦痛を与えるものである。
    そして、原告らの右の精神的損害を金銭的に評価した金額は各一万円を下
--49------------------------------------------------------------------------

   らない。
 二 被告の主張
   原告らのいう良心は、それ自体極めて主観的かつ抽象的な概念であり、その
  内容も個々人の倫理感、価値観等によって千差万別で法律上の権利、利益とし
  て客観的に把握し得るような明確性を有しないから、権利保護の対象として承
  認されない。
   仮に、原告らが本件財政支出及び掃海艇等の派遣によって何らかの不快感情
  を抱いたとしても、それは、単に一部の者が共有する政治的な信念や倫理感と
  いうべく、未だ社会的に承認された権利保護の対象となり得べき客観的利益で
  あるとはいえないから、およそ法律上慰謝するに値しない。また、本件財政支
  出及び掃海艇等の派遣は原告らに直接何らかの作為または不作為を強いるもの
--50------------------------------------------------------------------------
-----
  ではなく、原告らの名誉、良心の自由に制約を及ぼすものではないから、原告
  らの権利、自由が侵害されたということもできない。
第七 証拠の関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録のとおり。

          理       由
第一 本件違憲確認の訴えに対する判断
 一 民事裁判における確認訴訟の訴えの利益は、原則的には、訴訟当事者間にお
  ける、提訴者が定立する現在における一定の権利又は法律関係の存香に限られ
  るものであり、例外的に、過去におけるそれらの存否について訴えの利益が認
  められるのは、訴訟当事者間において、現在も法律上の紛争が存在し、かつ、
  現在の権利又は法律関係の存否の個別具体的な確定が必ずしも当該紛争の抜本
  的な解決をもたらさず、かえって、現在の権利又は法律関係の基本となる過去
--51------------------------------------------------------------------------

  の権利又は法律関係の存否を確認することが、現在の紛争の直接的かつ抜本的
  な解決のために、最も適切かつ必要と認められる場合に限られると解するのが
  相当である(最高裁昭和四七年二月一五日第三小法廷判決・民集二六巻一号三
  ○頁、最高裁昭和四七年一一月九日第一小法廷判決・民集二六巻九号一五一三
  頁参照。)
   右の理は、わが国の民事裁判における確認訴訟制度の効率的運営(法的主体
  となりうる者の現在の権利又は法律関係の存否を確認し、もって、現在及び将
  来の生活の法的安定の確保に資する。)という観点から、確認訴訟制度に内在
  する制約であるというべきであって、憲法三二条(裁判を受ける権利)、九八
  条(憲法の最高法規性)、八一条(違憲立法審査権)、九九条(裁判官の憲法
  尊重擁護義務)、七六条(裁判官の独立と憲法、法律のみによる拘束)の各規
--52------------------------------------------------------------------------

  定の趣旨とは無関係のことであり、憲法上の争点を伴う訴訟であると否とによ
  って別異に解すべき根拠はない。
 二 本件についてこれをみるに、前記のとおり、既に、被告は九○億ドルを支出
  済みであり、被告がペルシア湾に派遣した自衛隊の掃海艇及び自衛隊員は日本
  に帰還している(当事者間に争いがない。)のであるから、本件違憲確認の訴
  えは、いずれも過去の権利又は法律関係の存否についての確認を求めるもので
  ある。そして、原告らは、被告との間に、右の過去における権利又は法律関係
  の存否を確認しなくても、現在の具体的紛争(本件損害賠償請求がこれに当た
  る。)を解決することができるから、本件違憲確認の訴えが、原告らと被告間
  の現在の紛争の直接的かつ抜本的な解決のために、最も適切かつ必要と認めら
  れる例外的場合に該当するとは解されない。
--53------------------------------------------------------------------------

   したがって、本件違憲確認の訴えは、いずれも確認訴訟の訴えの利益を欠く
  不適法なものである。
第二 本件損害賠償請求に対する判断
 一 原告らは、本件財政支出及び掃海艇等の派遣は、原告らの平和的生存権及び
  納税者基本権を侵害する違憲なものであり、仮に平和的生存権及び納税者基本
  権が認められないとしても、原告らの、戦争に加担しないで平和に生きたいと
  の思いや人殺しに加担したくないとの信念や税金を人を殺す戦争の費用として
  使用して欲しくないとの切実な願いなどを侵害する違法な行為であり、これに
  よって、精神的損害を被ったと主張して慰謝科の支払を請求する。
 二 平和的生存権について
   確かに、憲法は、前文第二段で「日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相
--54------------------------------------------------------------------------

  互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであって、平和を愛する諸国
  民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。わ
  れらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しよう
  と努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、
  全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利
  を有することを確認する。」と規定しているところ、これは、前文第一段にお
  いて、憲法制定の目的として宣言した諸国民との協和による成果と自由のもた
  らす恵沢の確保及び政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないよ
  うにするとの決意、換言すれば、平和主義の達成と自由主義の確保を目本国民
  の平和の希求ととらえ、これを志向して、第二段第一文において、日本国民の
  安全と生存の保持という決意、第二文において、専制と隷従、圧迫と偏狭を除
--55------------------------------------------------------------------------

  去して国際社会において名誉ある地位を占めたいという願望、第三文において、
  恐怖と欠乏から免れて平和のうちに生存する権利を有することの確認を述ベ、
  さらに第三段において、右の平和への希求を普遍的な政治道徳の立場から国の
  対外施策に生かすべき理念として表明し、右の平和主義と国際強(ママ)調主義
の見地
  に立ち、九条において戦争の放棄を規定し、九八条二項において「日本国が締
  結した条約及び確立された国際法規」の誠実な遵守義務を規定している。
   右のような規定は、憲法が、国民と国(公権力。以下同じ。)との関係にお
  いて、国に対し、平和の維持を国民に対する関係において義務づけていると解
  することができ、これを国民の側からいえば、憲法上、国民は、国に対し、平
  和を維持するように要求することができる権利(これを、仮に、「平和的生存
  権」と命名することもできよう。)があるというべきである。(もっとも、同
--56------------------------------------------------------------------------

  権利が、原告ら主張のように、裁判規範性を有する具体的権利といえるかどう
  かは、さらに検討を要するので後述する。)
 三 納税者基本権について
  1 また、確かに、
 (一)憲法は、前文で、平和主義と基本的人権の尊重という内容的原理と、国
   民主権主義という国家構成及び決定形式上の原理が相互に補い合う関係に
   たつべきであることを示し、「国民の厳粛な信託による国政」を「人類普
   遍の原理」であるとしているところ、国政は財政の裏付けなしには成り立
   たなくなっており、財政は国政の全般にかかわり、政治の内実や経済の動
   向を積極的に規定するものとして、国政の最も重要な構成要素であり、そ
   の重要性は現代においてますます増大していること、
--57------------------------------------------------------------------------

 (二)憲法は、財政収入のほとんどを租税に依存する租税国家体制を前提とし
   ているから、租税のとり方と使い方は国政のすべてにかかわってくる重要
   事であり、したがって、憲法上の規範原則は、国政のみならず、財政、ひ
   いては、租税のとり方と使い方までも規定しており、憲法前文にうたわれ
   ている平和主義、基本的人権尊重主義、国民主権主義といった原理は、租
   税の徴収面と支出面の双方を原理的に規定していると解すべきこと、
 (三)国民主権主義からすれば、国の財政は、国民に由来するものであり、国
   民の意思に基づいて処理され、国民全体の利益、幸福のために運用されな
   ければならないところ、これは、憲法第七章の定める国会による財政の統
   制と同一視されるべきではなく、後者は前者を保障するための手段の一つ
   にすぎず、八三条が国会の議決による財政の処理を、八四条が租税法律主
--58------------------------------------------------------------------------

   義を規定しているのも、納税者たる国民が国会に財政を処理する権限を信
   託したことに基づくものであり、右の信託は全くの白紙委任ではなく、国
   会には憲法に従うことが求められていると解すべきこと、
 (四)同九八条一項は憲法を最高法規としてこれに反する法律等は無効である
   とし、同九九条が公務員に憲法を尊重し擁護する義務を課していることか
   らすれぱ、国会は憲法にうたわれた「国民の厳粛な信託」の本旨に従わな
   ければならず、国会で憲法に反する国費支出行為を決めたり、そのための
   徴税措置を議決したりすることは許されないと解すべきこと、
 (五)同三○条は、国民に納税の義務を課しているが、義務は権利と表裏をな
   すものである上、第三章「国民の権利及び義務」中に規定され、租税立法
   と納税義務は、憲法の中で憲法規範的な一定の内容、憲法の平和、人権条
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   項に適合した内容を含んだものとして位置づけられなければならないと解
   すべきこと、
  以上の点は、原告らの主張するとおりである(甲一五二、証人北野弘久)。
 2  そして、日本国憲法を含む近代憲法の源流ともいうべき、一二一五年のイ
  ギリスのマグナカルタが国王は議会の同意なくして租税を課することができ
  ない旨宣言し、その後、一六八九年のイギリスの権利の章典もこれを確認し、
  一七七六年七月四日の独立宣言を経て一七八三年のパリ条約で承認されたア
  メリカ合衆国の独立が、母国イギリスによる課税からの脱却を「代表なけれ
  ば課税なし」を掲げて行われてきたこと、一七八九年のフランスの人権宣言
  も租税の賦課は市民の承諾を必要とする旨うたっていること等の近代史、さ
  らに、憲法は、本来、国民と国の関係において、国が国民に対し、国民の人
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  権、権利を保障し(権利の章典。国の権力の行使に対して制約を加えること
  を通じて、国民の人権を保障し)、もって個人の尊厳を守ることを目的とす
  るものであること等に思いを致せば、右1のような憲法の規定と解釈の仕方
  は、国民(納税者。以下同じ。)と国との関係において、単に国民の納税義
  務を定めただけではなく、国に対し、租税を、憲法に適合するところに従っ
  てのみ徴収し、かつ、使用すべきことを義務づけていると解することができ、
  これを国民の側からいえば、憲法上、国民は、国に対し、租税を、憲法に適
  合するところに従ってのみ徴収し、かつ、使用するように要求する権利(こ
  れを、仮に、「納税者基本権」と命名することもできよう。)があるという
  べきである。(もっとも、同権利が、原告ら主張のように、裁判規範性を有
  する具体的権利といえるかどうかは、さらに検討を要するので次に述べる。)
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 四 ところで、右二及び三のように、憲法上、国民が、国に対する関係で、平和
  的生存権や納税者基本権を有するということは、同権利が、民事裁判における
  不法行為に基づく損害賠償請求訴訟において、同権利の侵害を理由に損害賠償
  請求を可能ならしめる根拠となる裁判規範性を有する具体的権利としても首肯
  できることを直ちには意味しない。
   なぜなら、前記のとおり、憲法は、本来、国が国民に対し、国民の人権、権
  利を保障し、もって個人の尊厳を守ることを目的とするものであるから、総論
  として、右二及び三にいう平和的生存権及び納税者基本権が憲法上保障されて
  いると解することには異論がないとしても、各論として、国が国民に対する関
  係において、憲法上義務づけられている平和を維持するということ、及び憲法
  に適合するところに従って租税を微収し、かつ、使用するということの具体的
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  中身に何を盛り込むかは、最も重要な政治課題であって、各政党、各界におい
  て多様な考え方があり、一義的に明確なものといえない(ある行為が一義的に
  明確なものといえない場合の国家賠償法上の問題点の指摘について、場面は異
  なるが、最高裁昭和六○年一一月二一日第一小法廷判決・民集三九巻七号一五
  一二頁参照)ことは、戦後の歴史を紐解いても、また、国政選挙及び日々の政
  策課題を見ても明らかであるからである。この理は、個人の尊厳を保障する上
  での必要不可欠な人格的利益を広く保障しようとする憲法一三条の趣旨を参酌
  しても左右されない。
   換言すれば、右にいう平和的生存権や納税者基本権を裁判規範性を有する具
  体的権利として、同権利の侵害を理由に裁判所による損害賠償による救済を求
  めるには、その前提として、だれに対するどのような事実があればその権利の
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  侵害があったといえるか(成立要件)、だれが損害賠償を請求できるか(主体)
  が明確でなければならないところ、右にいう平和的生存権及び納税者基本権は、
  そのいずれの点においても明確とはいい難く、その外延(右にいう平和的生存
  権や納税者基本権という概念を適用して損害賠償の有無を巡る法的紛争を解決
  すべき範囲)を画することができない曖昧なもので、損害賠償法上、救済の対
  象とし得べき現実的、個別的内容をもった権利とは未だいえないから、これを、
  国家賠償法一条一項に基づき、損害賠償による法的保護を与えなければならな
  い権利に当たると解することはできず、同条項にいう損害が発生したというこ
  とはできない。
 五 原告らは、本件財政支出及び掃海艇等の派遣によって、原告らの「加害者と
  ならない権利」、「殺さない権利」(戦争、ひと殺しに加担したくないとの良
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  心や信念等)が侵害されたとも主張して、被告に対し、慰謝料の支払を請求す
  るので、さらに検討するに、多数決原理の働く代表民主制、議院内閣制の下に
  おいて、一般的に、国が決定した政策の施行には、反対意見者の存在が当然に
  予定されているから、その施行により、反対意見者が精神的苦痛を受けたとし
  ても、それは、特定の個人が一般的に受忍を予定されておらず、かつ、他の人
  と明確に識別可能な特別の精神的苦痛を受けたような特段の事情がない限り、
  一般的に受忍を予定されている限度内のものに該当するというべく、その苦痛
  を免れるためには、自由な言論、政治的活動により、反対者が多数派を形成す
  ることによって克服することが期待されていることであり、しかも、それで足
  りるというべきである。
   このことは、総論で争いようのない権利・利益(右にいう平和的生存権や納
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  税者基本権でもよいが。)であっても、その具体化された中身(各論)につき
  争いがあり、その違法性の有無が一義的に明確でない事柄について、国の政策
  に対する反対者(日本国民のみならず外国人)が、右政策の施行によって良心
  や信念等が侵されたことをもって、国家賠償法一条一項に基づき、損害賠償に
  よる法的保護を与えなければならない利益に当たると解することの不合理(こ
  れを肯定すれば、本来、自由な言論、政治的活動によって克服すべき無数の事
  柄について、反対者の良心、信念等が侵害されたことに法的保護を与えること
  を肯定することになる。)を想起すれば、容易に理解できるであろう。
   そして、本件全証拠を参酌しても、右特段の事情があるとは認められないか
  ら、原告ら主張の精神的苦痛は、いわば、原告らの政治的信条、意見、見解と
  相反することに対する憤怒の情や不快感、焦燥感、挫折感、屈折感といった域
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  をでない、一般的に受忍を予定されている限度内のものに該当すると解され、
  これらをもって、同条項に基づき、損害賠償による法的保護を与えなければな
  らない利益に当たると解することはできず、同条項にいう損害が発生したとい
  うことはできない。
   したがって、本件損害賠償請求はいずれも理由がない。
第三 結論
   よって、本件違憲確認の訴えをいずれも却下し、本件損害賠償請求をいずれ
  も棄却する。

    鹿児島地方裁判所民事第一部
          裁判長裁判官  簑   田      孝  行
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          裁判官     西   郷     雅  彦
          裁判官     野   田     恵  司
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   右は正本である。
 平成九年一月二七日
     鹿児島地方裁判所民事部第一部
       裁判所書記官  山 内 信 男
--裏表紙見返し--------------------------------------------------------------