[市民平和訴訟の会・東京]被告(国)答弁書(その2)

(注1)ページ数の割降りは、紙の裏表を合わせて「1」と数え、 裏と表の間は "---------------------------" で示してあります。
(注2)原告および証言者の個人名は「*」で置き換えてあります。


平成三年(ワ)第二六二号
                    原  告  * * ***
                           ほか五七○名

                    被  告  国

  平成三年九月一○日

                    被告指定代理人
                          芝 田 俊 文
                          足 立   哲
                          中 本   尚
                          金 杉 憲 治
                          仲 村 範 明
                          岩 池 正 幸
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東京地方裁判所民事第二部 御中

            答  弁  書

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第一 請求の趣旨に対する答弁

一 本案前の答弁
 1 本件訴えのうち請求の趣旨第一、二項の各訴えをいずれも却下
  する

 2 訴訟費用中前項の各訴えに係る部分は原告らの負担とする
  との判決を求める。

二 本案の答弁
 1 原告らの請求をいずれも棄却する
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 2 訴訟費用は原告らの負担とする
  との判決を求める。

  なお、請求の趣旨第三項の請求について、仮執行の宣言を付する
 のは相当でないが、仮にこれを付する場合に名、担保を条件とする
 仮執行免脱の宣言を求める。

第二 本案前の答弁の理由
   本件訴えのうち請求の趣旨第一項に係る訴えは、「被告国は、湾
  岸協力会議に設けられた湾岸平和基金に対し九〇億ドル(金一兆一
  七○○億円)を支出してはならない。」というもの(以下、「請求
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  の趣旨一の訴え」という。なお、右湾岸協力会議は、「湾岸アラブ
  諸国協力理事会」が正しい。)、請求の趣旨第二項に係る訴えは、
  「被告国は、自衛隊法第一○○条の五第一項についての「湾岸危機
  に伴う避難民の輸送に関する暫定措置に関する政令」(一九九一年
  一月二九目公布政令第八号)に基づいて自衛隊機及び自衛隊員を派
  遣してはならない。」というもの(以下、「請求の趣旨二の訴え」
  といい、右政令を「本件政令」という。)であるが、いずれの訴え
  も、以下に述べるとおり、不適法なものであるから、本案の審理に
  入るまでもなく、速やかに却下されるべきである。

 一 原告らは、湾岸平和基金に対する九○億ドルの支出、本件政令に
  基づく自衛隊機及び自衛隊員の派遣により原告らの「平和的生存権」
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  及び「納税者基本権」が侵害されるとし、「平和的生存権」及び
  「納税者基本権」に基づいて支出及び派遣の差止めを被告国に求め
  るものであって、その趣旨は、必ずしも判然としないものの、いわ
  ゆる通常の民事上の請求として右のような不作為の給付請求権があ
  ると主張してこれを訴求するものと解される。
   ところで、国が行政主体として権限の発動を行なうためには、行
  政機関が必要であり、この行政機関が一定の権限関係において組織
  され、これによって初めて行政主体としての活動が可能となるもの
  であるが、右訴えにおいては、そもそも、国のいかなる行政機関の
  権限行使が問題とされ、いかなる権限の行使の差止めを求めている
  ものであるのかが明らかでないが、その実質は、一定の行政行為を
  することを行政庁ないし行政機関に禁止することを求める訴訟にほ
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  かならないものというべきである。そうだとすると、原告らが行政
  訴訟の方法により何らかの請求をすることができるかどうかはとも
  として同内容の請求をすることは不適法であるといわなければなら
  ない。
 二 仮に、請求の趣旨一、二の各訴えが民事上の請求として許容され
  得るとしても、以下の理由により右各訴えはいずれも不適法である
  といわなければならない。
   原告らは、被告に対し不作為を求めるものであるところ、不作為
  を求める訴えは、その性質上常に将来の給付の訴えの性質を有する
  ものであり、将来の給付の訴えは、「予メ其ノ請求ヲ為ス必要アル
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  場合ニ限リ」(民事訴訟法二二六条)、これを提起することができ
  るものである。
   請求の趣旨一の訴えに係る一兆一七○○億円(当時のレートード
  ル一三○円換算で九○億ドル相当)は、平成三年三月一二日付けの
  湾岸アラブ諸国協力理事会との間の交換公文に従って既に拠出済み
  であり、請求の趣旨二の訴えに係る本件政令は、平成三年四月二三
  日に公布され即日施行された「湾岸危機に伴う避難民の輸送に関す
  る暫定措置に関する政令を廃止する政令」(平成三年政令第一四六
  号)によって廃止され、将来にわたってその効力を失っている。
   したがつて、請求の趣旨一、二の各訴えは、その目的を失ってい
  ると同時に、あらかじめその請求をする必要性もなくなったもので
  あるから、訴えの利益を欠き、不適法な訴えとして却下されるべき
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  である。

第三 本案についての主張
   原告らの請求は、実体法的にみても、以下のとおり、いずれも主
  張自体理由がないから、何らの証拠調べを必要とせず、速やかに棄
  却されるべきものである。
 一 請求の趣旨一、二の各訴えについて
   請求の趣旨一、二の各訴えが民事訴訟であるとするならば、原告
  らが当該行為の差止めを求め得る私法上の権利(差止請求権)を有
  していることが不可欠の前提となっていなければならない。しかる
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  に、原告らが差止請求権の法的根拠として主張していると思われる
  「平和的生存権」及び「納税者基本権」なるものについては、いず
  れもこれらを私法上の権利として認知した明文の規定が存在しない
  ばかりか、それ自体、差止めを求め得る排他的権利性を何ら有しな
  いものであるから、右請求は主張自体失当というほかないものであ
  る。
   すなわち、まず、原告らが本件差止請求の法的根拠として掲げる
  「平和的生存権」なるものは、その概念そのものが抽象的かつ不明
  確であるばかりでなく、具体的な権利内容、根拠規定、主体、成立
  要件、法律効果等のどの点をとってみても一義性に欠け、その外延
  を画することさえできない、極めてあいまいなものである。したが
  って、このような「平和的生存権」なるものを排他性を有する私法
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  上の権利であるとして権利性を付与することは到底できないものと
  いわなければならない。裁判例の上でも、「平和的生存権」なるも
  のの権利性が繰り返し明確に否定されてきたところであっで(札幌
  高裁昭和五一年入月五日判決・行裁例集二七巻八号一一七五ページ、
  水戸地裁昭和五二年二月一七日判決・判例時報八四二号二ニページ、
  東京高裁昭和五六年七月七日判決・判例時報一○○四号三ページ、
  最高裁平成元年六月二○日第三小法廷判決・民集四三巻六号三八五
  ページ、大阪地裁平成元年一一月九日判決・判例時報一三三六号四
  六ページ、福岡地裁平成元年一二月一四日判決・判例時報一三三六
  号八一ページ等。なお、前掲最高裁平成元年六月二○日第三小法廷
  判決は、「上告人らが平和主義ないし平和的生存権として主張する
  平和とは、理念ないし目的としての抽象的概念であって、それ自体
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  が独立して、具体的訴訟において私法上の行為の効力の判断基準に
  なるものとはいえず」と判示しており、私法領域において平和的生
  存権なる概念の機能する余地のないことを明らかにしたものである。
  )、もはや「平和的生存権」の権利性を否定するのが、確定した判
  例であるといっても誤りではない。したがっで、「平和的生存権」
  なるものが差止請求の根拠たり得ないことは明らかであって、原告
  らの主張は主張自体失当というほかないものである。
   次に、原告らは本件差止請求の法的根拠として「納税者基本権」
  なるものを主張しているもののようであるが、これについても、
  「平和的生存権」と同様、その概念、具体的な権利内容、根拠規定、
  主体、成立要件、法律効果等のどの点をとってみても何ら明確では
  なく、その外延を画することさえできない、極めてあいまいなもの
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  であって、このような「納税者基本権」なるものを排他性を有する
  私法上の権利であるとすることは到底できないところである。原告
  らは、そのいうところの「納税者基本権」は憲法の財政条項(同法
  三○条、八三条ないし九一条)をもって基礎づけられる旨主張する
  ようであるが、右原告らの主張する憲法の各条項のうち、同法三○
  条・八四条は法律の根拠に基づくことなしには、国家は租税を徴収
  ずることができず、国民は租税の納付を義務づけられることはない
  ということを規定したものにすぎず、同法八三条・八五条ないし八
  八条は国の財政を処理する権限は国会の議決に基づくことを要する
  旨規定しているものであっで、いずれも、原告らの主張のような
  「納税者基本権」なるものを規定したものでないことは明らかであ
  るし、そのほか憲法秩序全体から考察してみても、現行法の解釈上
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  原告ら主張のごとき権利を導き出すことはできない。結局、原告ら
  の主張するところは、自己の主観的利益に何らの係わりのない、国
  民一般ないしは紬税者としての一般的な資格、地位をもっで権利と
  唱えるものにほかならない。このように、「納税者基本権」なるも
  のをもって、差止請求の根拠とする原告らの主張は、何ら普遍性を
  有しない独自の理論に立脚するものであって、それ自体失当という
  ほかない。

 二 請求の趣旨第三項の訴えについて
   原告らは、被告が九○億ドルの文出及び本件政令に基づく自衛隊
  機等の派遣を内閣で閣議決定したことより「平和的生存権」を侵害
  され、これによって精神的苦痛を被ったとして、被告に対し、原告
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  一人あたり各金一万円の慰謝料を請求している(以下、「請求の趣
  旨三の訴え」という。)。
   原告らの被告に対する右請求は国家賠償法一条一項に基づくもの
  と思われるが、最高裁判所昭和六○年一一月二一日第一小法廷判決
  (民集三九巻七号一五一ニページ)によれば、同法一条一項にいう
  違法性とは「国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別
  の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背」することをいう
  とされているところ、閣議決定は、内閣の内部的な意思決定にすぎ
  ないものであって、直接国民に向けられたいわゆる対外的行為では
  ないのであるから、そもそも内閣の閣議決定行為が各原告個人との
  間で職務上の法的義務違背の問題となる余地はないというべきであ
  る。
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   また、原告らが被侵害利益として主張するところの「平和的生存
  権」は、前述のとおり、極めてあいまいなものであって、裁判上救
  済の対象とし得べき現実的、個別的内容をもったものとはいえない
  から、これを私法上の権利保護の対象とすることができないことは
  自明というべきである。
   したがって、原告らの被告に対する慰謝料の損害賠償請求は、閣
  議決定が原告ら個人との間で国家賠償法一条一項にいう違法とされ
  る余地は全くなく、また原告らが被侵害利益として掲げる「平和的
  生存権」は、私法上保護されるべき権利ないし法的利益とは認めら
  れないものであって、これを被侵害利益とする原告らの損害賠償請
  求は、主張自体失当というべきである。
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第四 まとめ

   以上述べたとおり、本件訴えのうち請求の主旨一、二の各訴えは
  不適法であり、仮に右各訴えが不適法なものでないとしても、右各
  訴え及び請求の種子三の訴えは、いずれも主張自体失当であって、
  証拠調べの必要は全く存しないのである。
   よって、御庁において速やかに弁論を終結され、前記第一におい
  て答弁したのと同趣旨の判決の言渡しをされることを希望する次第
  である。

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