[市民平和訴訟の会・東京]被告(国)準備書面(九)

(注1)ページ数の割降りは、紙の裏表を合わせて「1」と数え、 裏と表の間は "---------------------------" で示してあります。
(注2)原告および証言者の個人名は「*」で置き換えてあります。


平成三年(ワ)第二六一一号、同年傷第九○号、平成四年(行ワ)第六号、
平成六年(ワ)第六三九号

       原 告  ***** ほか一○六六名
       被 告  国

平成七年一月二○日

            被告指定代理人
                 小池 晴彦
                 村田 英雄
                 一方井 克哉
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                 河村 延樹
                 藤重 敦彦

東京地方裁判所民事第二部 御中
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         準 備 書 面 (九)
第一 原告らの違憲・違法確認を求める訴えについて
 併合蕃理されている本件各事件における原告らの各請求のうち,平成三年(ワ)
第二六一一号の変更後の請求の趣旨第一項は,一「披告国において,一九九一
年三月一二日湾岸アラブ諸国協力理事会との間の交換公文に従って,同理事会
に対して九○億ドル(一兆一七○○億円)を支出したこと」が,主位的には違
憲,予備的には違法であることの確認を求める」というものであり,同年(行ワ)第
九○号の変更後の請求の趣旨第一項は,一「被告国において,一九九一年四月
二四日付閣議決定及び同日付安全保障会議決定に基づいて,海上自衛隊の掃海
母艦・掃海艇及び補給艦並びに自衛隊員をペルシ湾に派遣したこと」が,主
位的には違憲,予備的には違法であることの確認を求める」というものである
 しかしながら,このような国が行政主体として行った一定の行政行為に対す
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る違憲又は違法の確認を求める訴えは,被告が平成五年六月二二日付け準備書
面(八)の第一のニで詳述したとおり,原告らが行政訴訟の方法により何らか
の請求をすることができるかどうかはともかくとして,国を相手方として民事
上の確認請求と構成して請求することは不適法であり,かつ,確認訴訟におけ
る対象適格性を欠くものとしても不適法である.
第二 原告らの国家賠償請求について
一 原告らの各請求のうち,平成三年(ワ)第二六一一号,同年(行ワ)第九○号,
平成四年(行ウ)第六号及ぴ平成六年(ワ)第六三九号の「被告は,原告らに対し,
各金一万円を支払え」という国家賠償を求める請求は,主張自体失当である.
 すなわち,被告が平成三年九月一○日付け答弁書の第三の一(第二段落,第
三段落)及び二平成四年六月一○日付け準備書面(四)並びに同年一○月一二
日付け準備書面(五)において繰り返し主張したとおり,被告の違法行為とし
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て主張されている各行為は,いずれも国家賠償法一条一項の適用の前提となる
特定の公務員の個別の国民に対して負担する法的義務違背が問題となる行為で
はないし,また,原告らの被侵害利益とされる平和的生存権及び納税者基本権
も,そのいずれをとっても概念そのものが抽象的で不明確であるばかりでなく,
権利の外延を画すべき具体的な権利内容,根拠規定,主体,成立要件及び法律
効果等がことごとく一義性に欠ける極めてあいまいな権利であって,およそ私
法上の権利保護の対象とすることができないものである.
二 さらに,原告らは,平成五年(一九九三年)四月二七日付け準備書面(七)
の第四章(特に「第二」)において,平和的生存権及び納税者基本権がいまだ
権利として確立されていなくとも,被告の行為が原告らの「法的に保護された
利益」を違法に侵害するものであれば,国家賠償法一条一項の適用が認められ
る旨主張しているため,以下,本準備書面においては,特に右の点について反
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論する.
1 国の不法行為は,確立された権利に対する侵害行為のみならず,いまだ権
利としては明確に確立されていなくとも法律上保護されるべき利益に対する
侵害,すなわち「違法性」が認められれば成立し,右「違法性」の判断基準
は,被侵害利益の種類と侵害行為の態様との相関関係によって判断されるべ
きである.
2 原告らは,人の主観的感情も法的保護の対象足り得るのであり,その主観
的感情の性格,内容とこれに対する侵害行為の態様とを総合的に勘案して,
その侵害が一般市貝の普通の感覚からして社会生活上是認できる限度を越え
ていると判断される場合には法的救済が与えられるとした上,戦争に加担し
ないで平和に生きたいとの原告らの思い,人殺しに加担したくないとの原告
らの信念そして税金を人を殺す戦費に使用させたくないという原告らの切実
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な願いなどは,法的保護の対象とされるべきものであり,他方,原告らが違
法と主張する国が行政主体として行った一定の行政行為の違法性は強度であ
るから,原告らは,国家賠償法一条一項に基づき,被告に対して国家賠償を
求めることができる旨主張する.
3 しかしながら,国家賠償法一条一項は,国又は公共団体の公権力の行使に
当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当
該国民に損害を加えたときに,国又は公共団体がこれを賠償する責めに任ず
ることを規定するものである(最高裁昭和六○年二月二一日第一小法廷判
決・民集三九巻七号一五一ニページ)から,同項が適用されるには,その前
提として,被侵害利益が国家賠償法上の保護を受け得る利益であり,公務員
の加害行為によって現実的な損害が発生していなければならないことは当然
のことである.
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被告としても,不安,焦燥等,内心の静穏な感情に対する侵害については,
いかなる場合においても国家賠償法一条一項の適用が認められる余地が存し
ないとするものではない.すなわち,一般的には,各人の価値観が多様化し,
精神的な摩擦が様々な形で現れている現代社会においては,各人が自己の行
動について他者の社会的活動との調和を充分に図る必要があるから,人が社
会生活において他者から内心の静穏な感情を害され精神的苦痛を受けること
があっても,一定の限度では甘受すべきものというべきであるが,社会通念
上その限度を超えるものについては,人格的な利益として法的に保護すべき
場合があり,それに対する侵害があれば,その侵害の態様,程度いかんによ
っては,不法行為が成立する余地があるものと解されるのである(最高裁平
成三年四月二六日第二小法廷判決・民集四五巻四号六五三べージ).したが
って,精神的苦痛をうけたといっても,これに対して同項を適用し,金銭賠
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償たる慰謝料が支払われるものである以上は,それが,金銭的慰謝によって
除去又は軽減できるものでなくてはならず,その意味で個人的かつ具体的な
損害といえるものであることが必要である.
 そうすると,単に個人の内心に抽象的かつ主観的な不安感等が生じたにす
ぎない場合には,同項の保護の対象となる法的利益とまではいえないし,ま
た,およそ現実的な精神的損害が発生しているとも認められないから,いず
れにせよ同項を適用する余地はないのである.
4 しかるに,原告らが被ったと主張する「精神的苦痛」は,結局のところ,
原告らの憲法解釈等に反して我が国が湾岸アラブ諸国協力理事会に対して九
○億ドル(一兆一七○○億円)を支出したこと又は海上自衛隊の掃海母艦・
掃海艇及ぴ補給艦並びに自衛隊員をペルシ湾に派遣したことによる一種の
不快感,焦燥感ないし憤りといったものに等しいというべきものであり,広
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く原告らと憲法解釈等を同じくする者にとって共通の感情として,いわゆる
公憤の域を出ないものであることは明らかである.そして,いわゆる公憤の
域を出ない感情については,前記3の意味における個人的かつ具体的な損害
といえるものでないばかりか,金銭的慰謝によっては何ら除去ないし軽減さ
れることのないものであるから,慰謝料請求の理由とはなり得ないのである.
 したがって,原告らが侵害されたと主張する精神的苦痛は,いずれも何ら
金銭的慰謝の対象とはならず,国家賠償法上救済すべき損害には当たらない
ものであるといわざるを得ない.
5 仮に,原告らが被ったと主張する精神的苦痛が,個人的かつ具体的な損害
といえるものであるとしても,このような内心の静穏な感情に対する侵害行
為が国家賠償の対象となるのは,前記3のとおり,それによる精神的苦痛が
社会通念上甘受すべき限度と越えるもので,その侵害の態様,程度により不
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法行為が成立すると認められる場合,すなわち,どのような人にとっても異
種独特の深刻な不安感が生じることが無理もないと認めれる客観的状況が存
在することが必要であり,しかも,右状況との相関関係上,加害者の行為態
様が違法なものであると評価できる場合に限られるというべきである.
 そして,前掲の最高裁平成三年四月二六日第二小法廷判決は,水俣病患者
であるかどうかの認定申請をした者は,「難病といわれ特殊な病像を持つ水
俣病にかかっている疑いのままの不安定な地位から,一刻も早く解放された
いという切実な願望からその処分を待つものであろうから,それだけに処分
庁の処分遅延により抱くであろう不安,焦燥の気持は,いわば内心の静穏な
感情を害するものであって,その程度は決して小さいものではなく,かつ,
それは他の行政認定申請における申請者の地位にあるものにはみられないよ
うな異種独特の深刻なものであると推認することができる.」とし,こうし
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た特殊の場面の限りでの法的利益を肯定したと解されるものであり,広く一
般的に内心の静穏な感情に対する侵害行為について不法行為の成立可能性を
肯定したとは到底評価し得ないものである(なお,最高裁昭和六三年六月一
日大法廷判決・民集四二巻五号二七七べージ,大阪高裁平成五年三月一八日
判決・判例時報一四五七号九八ページ参照.).
 ところが,本件において原告らに発生したという「精神的損害」なるもの
は,前記2のとおり,原告らの主張によっても,戦争に加担しないで平和に
生きたいとの原告らの思い,人殺しに加担したくないとの原告らの信念そし
て税金を人を殺す戦費に使用させたくないという原告らの切実な願いなどが
害されたということによる単なる不快感,嫌悪感,憤りないし危倶の念にす
ぎない.その上,原告らが違法と主張する国が行政主体として行った一定の
行政行為は,直接国民に向けられた行為ではないのであるから,国民一般と
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しての立場に立つ原告らにとって,かかる行為が侵害行為とされて不法行為
が成立すると認められるためには,その態様,程度による侵害の客観的状況
が,原告らの立場との相関上極めて明白かつ強度なものでなければならない
ところ,原告らが侵害行為であると主張する行為によって具体的に原告らに
どのような影響が生じているかということ,すなわち,かかる行為によって
誰にとっても異種独特の深刻な不安感が生じることが無理もないと思われる
客観的状況が存在しており,原告らが違法と主張する国が行政主体として行
った一定の行政行為が右状況との相関上違法と評価できるほど直接的な場合
であるということは,いまだに全く明らかにされていない.
 したがって,本件においては,誰にとっても異種独特の深刻な不安感を伴
うことが無理もないと思われる客観的状況が存在するとは到底認められず,
よって,仮に原告らが内心の静穏な感情を害されたことによって個人的,具
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体的な精神的苦痛を被ったとしても,それが社会通念上甘受すべき限度を超
えるものとはおよそ認め難いのである.
6 以上のとおりであるから,原告らの願いないし信念は,国家賠償法上救済
すべき損害には当たらず,又は,国家賠償法上保護に値する利益ということ
はできない.
第三 結語
よって,原告らの本件国家賠償請求が失当というというべきものであること
は明らかである.
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