[市民平和訴訟の会・東京]訴状(第3次)

(注)原告及び証人の個人名は「*」で置き換えてあります。
   丸付き数字はカッコと数字に置き換えてあります。
第一  はじめに                              2頁
第二  湾岸戦争の勃発とわが国の戦費負担の違憲性              4頁
第三  掃海部隊の海外派遣は違憲・違法                  14頁
第四  戦争加担は、平和に生きる権利の侵害である。            34頁
第五  湾岸戦争に加担することは納税者の権利(納税者基本権)を侵害する。 43頁
第六  損害                               48頁
第七  まとめ                              52頁


          訴      状

    原告の表示  別紙原告目録記載のとおり
    原告訴訟代理人の表示  別紙原告代理人目録記載のとおり
  〒一〇〇 東京都千代田区霞ヶ関一−一−一
          被      告  国
          右代表者法務大臣  田原 隆

平和的生存権侵害国家賠償請求事件
     訴訟物の価額  金一、六九〇、〇〇〇円
     貼用印紙額   金   一三、五〇〇円

          請 求 の 趣 旨

 一、被告国は、原告らそれぞれに対し各金一万円を支払え。
 二、訴訟費用は被告の負担とする。
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との判決並びに第一項につき仮執行の宣言を求める。

          請 求 の 原 因

第一 はじめに
 一 本訴訟は、恒久の平和を希求する主権者の熱誠の表明である。
   先の大戦の惨禍を経て、わが国は戦力の不保持を宣言し、武力をもってす
  る国際紛争解決手段を放棄した。しかるに被告国は、いわゆる「湾岸戦争」
  における交戦当事国の一方に対して九〇億ドルという巨額の戦費を支出し、
  ペルシャ湾に海上自衛隊の掃海部隊(掃海母艦・掃海艇・補給艦及び約五〇
  〇名の自衛隊員)を派遣した。
   右は実質的に戦争に加担するものであり、国際紛争の解決に武力を用いる
  ことにほかならない。湾岸平和基金に支出された九〇億ドルは、国際紛争を
  解決する手段としての戦費に充当されることが明らかであり、またペルシャ
  湾への自衛隊部隊の派遣と併せて、その違憲違法性は自明といって過言でな
  い。
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 二 原告らが理解するところでは、憲法前文の字義のとおり「全世界の国民が
  ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有する」。この
  人権が国の行為によって侵害されようとするとき、国民はその人格の尊厳を
  保持するために、当該の平和を侵害する行為を差し止める権利を有する。こ
  れは、憲法の平和主義のみならず、基本的人権を最上位の価値とし、国民を
  主権者とする民主主義原理の当然の帰結である。
 三 さらに本訴訟は、納税者たる原告らの異議申立権の行使でもある。
   国の財政における民主主義の要請は、単に徴税を適法手続きによらしめる
  ことにつきるものではない。主権者たる国民は、また納税者として、政府の
  財政支出に異議を申し立てる権利を有する。
 四 原告らは、いずれも日本国憲法の適用を受ける日本国内に居住するものと
  して平和的生存権の主体であり、かつ納税者である。
   被告国は前記のとおり、事実上の「参戦」行為によって、原告らの平和の
  うちに生存する権利を侵害した。
   原告らは、原告らの平和的生存を脅かし、人格的利益を損なう決定をした
  被告国に対し、慰謝料としての損害賠償を請求するものである。
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 五 憲法の平和主義の理念を政府が打ち捨て、国会が多数の横暴をもって少数
  の正論を封殺して政府の違憲の行為に追随しようとするとき、国民の拠るべ
  きところは憲法の砦である裁判所以外にはない。原告らが本訴訟において求
  めるものは、貴裁判所の憲法に忠実な判断である。
   貴裁判所にあっては、本訴訟の意義を十分に理解され、平和を希求する原
  告らの声に真摯に耳を傾けられるよう願う次第である。

第二 湾岸戦争の勃発とわが国の戦費負担の違憲性
 一 湾岸危機から被告国の湾岸戦争の戦費負担に至る事実経過
 1 イラクは一九九〇年八月二日、クウェートに対し軍事力による侵略行動を
  開始し、同月八日にはクウェートの併合を発表した。これは、国際連合憲章
  第二条に違反する行為であることは明らかである。
   これに対し、国際連合安全保障理事会(以下安保理事会と略す)は、同年
  八月二日、イラクのクウェート侵攻を非難し、即時かつ無条件撤退を要求す
  る決議(決議六六〇)をした。
   しかし、イラクが、右安保理事会の決議六六〇を順守せず、クウェートの
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  合法政権の権力を剥奪したことから、同年八月六日、安保理事会は、すべて
  の国がイラクに対する経済制裁をすることを決議(決議六六一)した。この
  決議は、国際連合憲章第四一条に基づく非軍事的措置であり、平和を破壊す
  るに至る虞れのある国際的紛争の解決を平和的手段によって実現することを
  目的とする国際連合の目的(国際連合憲章第一条)に合致するものであり、
  かつ、すべての加盟国はその国際紛争を平和的手段によって解決しなければ
  ならず、武力による威嚇又は武力の行使を慎まなければならない、という国
  際連合の行動原則(国際連合憲章第二条)に合致するものであった。
 2 ところが、右の安保理事会の決議六六一の、平和的・非軍事的手段による
  イラク制裁措置の効果を待たずして、米国大統領は、右の安保理事会の決議
  がなされたその日において、「砂漠の楯」作戦行動を決定し、翌日(八月七
  日)には、サウジアラビアに米軍を派兵する旨発表した。米国大統領のこの
  決定は、安保理事会の決定とは全く無関係のものであり、国連の名において
  行動するものではなく、又国連の名をもって行動することも出来ないもので
  あることは明らかであった。何故なら、国際連合憲章では、国連の名で行動
  することの出来る軍事的措置(空軍・海軍又は陸軍の行動)は、安保理事会
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  が国際連合憲章第四二条に基づき軍事的措置を決定した場合に限られるから
  である。
 3 このようにして、米国は、国連とは関係なく、クウェート政府に協力する
  国連加盟国に呼び掛けて、米軍の派兵に協力することを要請した。日本政府
  は、これを受け、同年八月二九日、海部首相が湾岸危機貢献策を発表して協
  力を表明し、翌三〇日には、米軍及び多国籍軍への一〇億ドルの援助を発表
  し、同年九月一四日には、右援助額を更に一〇億ドル上積みをすること、及
  び周辺国に二〇億ドルを支援することを決定した。そして、同年九月二一日、
  日本政府と湾岸協力会議(GCC)は、米国多国籍軍支援のための湾岸平和
  基金を設立した。
 4 一方、イラクは、安保理事会決議六六〇を無視して、依然としてクウェー
  トからの撤退をしないので、常任理事国である米国の強い要請により、安保
  理事会は同年一一月二九日、「イラクが一九九一年一月一五日までにこれま
  での決議を完全に履行しなければ、クウェート政府に協力する加盟国に対し
  て安保理事会決議六六〇とこれに続く関連決議を支持、履行し、国際の平和
  と同地域の安全を回復するため、あらゆる必要な手段を行使する権限を付与
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  する」旨決議(決議六七八)をした。
   米国大統領は、右の安保理事会決議六七八を、イラクに対する武力行使の
  国連による承認と解釈し、他のクウェート政府に協力する加盟国とともに大
  量の軍隊を派遣して、イラクへの軍事攻撃の準備を整えた上、一九九一年一
  月一七日、「砂漠の嵐」と命名した大規模なイラク攻撃作戦(湾岸戦争)を
  開始した。
   湾岸戦争は、多国籍軍によるイラクに対する空爆、二月二四日からの地上
  戦を経て、二月二八日事実上の停戦を迎えた。
 二 掃海部隊派遣に至る経緯
 1 イラク政府は一九九一年四月一一日に国連の安保理の停戦決議を受諾した。
   これと前後して日本において、ペルシャ湾の機雷の掃海問題が急浮上してき
  た。先ず四月八日に経団連の平岩外四会長が、日本の湾岸貢献策に絡んで、
  (1)平和時に限定する,(2)アジア諸国が理解を示す,(3)法制上も問題がない、
  の三条件が満たされれば政府としてペルシャ湾に掃海艇を派遣すべきだ、と
  する異例とも言うべき会長見解を発表した。また一〇日にはサウジアラビア
  のカフジに精油所を持つアラビア石油(小長啓一社長、本社・東京)から、
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  政府に対してペルシャ湾近海における機雷除去のために海上自衛隊の掃海艇
  を派遣できないか、との打診を行った、とされる。自民党の国防部会、安全
  保障調査会など国防三部会を代表して山崎拓安全保障調査会長代行(元防衛
  庁長官)は一一日午前に海部首相にペルシャ湾への海上自衛隊の掃海艇の派
  遣決断を促す要請を行った。こうした動きを受けて、海部首相は、掃海艇の
  派遣の方針を固めた、と四月一二日の各新聞紙上で報道された。
 2 池田防衛庁長官は四月一六日に佐久間海上幕僚長に対して、政府の派遣決
  定があった場合に即応できるように出発準備を指示した。この指示を受けて、
  佐久間幕僚長は一六日の記者会見で(1)現地の機雷の状況などの情報を米軍や
  外交ルートを通じて収集する、(2)派遣する掃海部隊を選定する、(3)必要な器
  材について準備する、との考えを示した。防衛庁では、派遣の場合の部隊は、
  掃海母艦、補給艦各一隻、掃海艇四隻の計六隻で編成、補給のためフイリッ
  ピンなどの四ヵ所程度に寄港する、としている。
 3 政府・自民党は、四月二三日の海部首相の与野党首との個別会談後に、ペ
  ルシャ湾への海上自衛隊の掃海部隊の派遣を正式に決定し、四月二六日に掃
  海部隊が出発した。
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 三 日本政府は、右の事実経過のなかで、米軍を中心とする多国籍軍の武力行
  使(湾岸戦争)に必要な戦費を負担することを決定した。即ち、
 1 中山外務大臣は、湾岸戦争が開始される三日前である同年一月一四日、米
  国大統領に対し、「湾岸戦争が開始された場合日本政府は全面的協力をする
  」旨、戦費の負担を約束し、橋本大蔵大臣は、一月一九日、主要七ヶ国蔵相
  中央銀行総裁会議において、米軍を中心とする多国籍軍に一〇〇億ドルを越
  す追加支援をする旨を表明するなど、日本政府の閣僚は、こもごも米軍らの
  武力の行使のための費用を積極的に負担する意向を表明していた。
 2 そして、同年一月二四日、首相官邸で開かれた湾岸危機対策本部並びに安
  全保障会議の決定を経て、日本政府は次の閣議決定をした。
   (1) 多国籍軍への九〇億ドル(一兆一七〇〇億円・一ドル一三〇円換算)
  の追加戦費負担とそのための一九九〇年度第二次補正予算の編成
   (2) 自衛隊機による難民輸送のための自衛隊施行令の改正
   (3) カイロ−ベイルート間の民間機による難民輸送
 3 同年一月二五日、閣議で自衛隊機派遣のための「湾岸危機に伴う避難民の
  輸送に関する暫定措置に関する政令」を決定し、同月二九日公布した。
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 4 同年一月二五日、海部首相は、衆参両院本会議における施政方針演説にお
  いて、多国籍軍への九〇億ドルの追加戦費負担と自衛隊機による難民輸送を
  実施する旨表明し、これに基づき政府は、同年一月二五日から開催された国
  会に、多国籍軍への九〇億ドルの追加戦費負担のための一九九〇年度第二次
  補正予算案を提出し、同年二月二七日、衆議院予算委員会は、多国籍軍への
  九〇億ドルの追加戦費を盛り込んだ一九九〇年度第二次補正予算案を可決し、
  同年二月二八日、衆議院本会議は右補正予算案を可決した。
   参議院本会議は三月七日同補正予算案を可決し、同日補正予算は成立した。
  そして、政府は三月一三日に湾岸平和基金に九〇億ドルを支出したと伝えら
  れる。
   なお、右の「戦費」とは、広辞苑(岩波書店)によれば、「戦争に要する
  費用」という意味である。
 四 政府の「戦費負担」行為は、憲法第九条に違反し無効である。すなわち、
 1 憲法第九条は、国際紛争を解決する手段として、武力の行使をすることを、
  永久に放棄する旨規定し、これを禁止している。前述した米軍を中心とする
  多国籍軍のイラクに対する武力行使は、国際紛争を解決する手段としての武
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  力の行使であることは明白な事実である。したがって、日本は、国家として、
  この湾岸戦争の当事者として参加することは、憲法第九条の禁止するところ
  であり、許されないことは当然である。してみれば、今回のイラクのクウェ
  ート侵略に端を発した国際紛争の解決に際しとられた、米国を中心とする多
  国籍軍のイラクに対する武力行使による解決方法は、日本国憲法第九条(前
  文及び憲法全体を貫く恒久平和主義の原則を含む)の原則とは、相容れない
  ものである。
   政府は、多国籍軍のイラクに対する武力行使が、国連安保理事会の決議に
  基づき実施された、国連の名による軍事行動であるかのごとき印象を与えよ
  うとし、その誤解により多国籍軍への戦費負担の合法性を得ようとしている
  が、それは事実に反するものである。本項一2で述べたように多国籍軍の武
  力行使は国連憲章第四二条で定めた軍事措置とは全く無関係であり、まして
  や、国連軍としての地位などあるはずもない軍隊であることを確認しておか
  ねばならない。
 2 ところが、日本政府は、今回の湾岸戦争にさいして、日本国が国家として
  この戦争に参加することは右に述べた如く憲法上禁止されているところから、
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  その代りに、戦争当事国として参加を禁止されているその湾岸戦争の遂行に
  必要な戦費を、米軍を中心とする多国籍軍のために、国家予算の中から支出
  することを決定したのである。
 3 この政府の行為は、憲法第九条(前文及び憲法全体を貫く恒久平和主義の
  原則を含む)に照らし許されないことは明らかである。なぜなら、「湾岸戦
  争遂行に必要な戦費」を提供することにより、湾岸戦争即ち「国際紛争を解
  決する手段としての武力の行使」が現実に、継続、遂行されるのであるから、
  どのように弁解しようとも、結果的には、戦争行為に加担したことになり、
  直接、日本政府の行為によって、武力の行使が遂行されるのと何等かわりは
  ない。刑法の理論では、このような行為を「間接正犯」あるいは「共謀共同
  正犯」として、犯罪の実行行為をしなくても、その実行行為のために金員を
  提供した者を、実行行為者と同じ刑罰に処することは、法律家の世界では周
  知のところである。また、前記の如き、政府による他国への戦費支出を憲法
  上の禁止に当たらないと解釈するならば、政府の行為によって憲法第九条の
  脱法行為が自由となり、事実上、憲法改正手続を経ることなく、憲法第九条
  が改変されるという重大な結果となるのである。
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 4 本件の憲法解釈において、日本国民が政府の行為によって再び戦争の惨禍
  が起こることのないようにすることを決意して、この憲法を確定した憲法前
  文の趣旨を銘記し、これを、裁判所、被告、そして国民である原告の全てが、
  共通の前提として確認したうえで、憲法解釈をするべきである。
   このことは、湾岸戦争が、米軍を中心とした多国籍軍のイラクに対する圧
  倒的軍事力による勝利をもって終結したからといって、国際紛争を解決する
  ために武力を行使することを禁止する憲法第九条の平和主義の原則は、その
  正当性と先見性は些かも損なわれるものではなく、むしろ、今回の湾岸危機
  の解決が「武力の行使」によってなされた、ということに正当性が認められ
  る風潮が定着することになれば、それこそ憂慮すべきことである。
   核時代において、人類が生き残るためには、憲法第九条の「国際紛争を解
  決するために武力を行使してはならない」という原則を、すべての国の原則
  とする以外にないのである。
   被告国は勿論、湾岸戦争に勝利した米国をはじめ共同行動をした諸国が、
  日本国憲法のこの平和主義の原則を疎かにするならば、人類は自ら作り出し
  た武器によって、愚かにも自滅することになるであろう。被告国は、明らか
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  に、この愚かな自滅への道を進みつつある。これを憲法によって阻止するこ
  とが出来るのは憲法の遵守義務を課せられた裁判所である。原告ら、日本国
  民は、本件訴訟での裁判所の判断に大きな期待を寄せているのである。

第三 掃海部隊の海外派遣は違憲・違法
 一 掃海部隊の海外派遣の違憲性
 1 自衛隊の存在自体が憲法第九条に違反
(一) 憲法第九条第二項の「戦力」
   政府がペルシャ湾に掃海部を派遣することは、憲法に違反するものである。
  憲法第九条は、第一項において「国権の発動たる戦争」とともに「武力によ
  る威嚇又は武力の行使」を「永久に放棄」し、第二項において「陸海空軍そ
  の他の戦力は、これを保持しない。」「国の交戦権はこれを認めない。」と
  明記し、侵略戦争にかぎらず、自衛および一切の戦争を放棄し、すべての軍
  備や戦力を禁じている。
   自衛隊は正規軍二四万六、〇〇〇人、予備兵力四万七、九〇〇人の世界有
  数の近代的な武装組織となり、一九八七年度には、防衛関係費が三兆五、一
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  七四億円となり、ついに歯止めとされていたGNPの一%枠を突破し、九〇
  年度防衛関係費は四兆一、五九三億円(一九九〇年度防衛白書一八九頁)で、
  五〇年度の実に三二倍に拡大し、軍人恩給費を加えると、米ソにつぐ世界第
  三位の軍事費となり、主要装備も大型で強力な攻撃力をもつものとなってい
  る。
   このような実態を有する自衛隊は、憲法第九条第二項で禁止されている「
  戦力」に該当することは明白である。
(二) 「政府統一見解」の誤り
   政府も警察予備隊設置以前の段階では、憲法は「自衛のための戦力」をも
  禁止していることを認めていたのである。一九四六年六月二八日衆院本会議
  において、吉田茂首相は、「第九条第二項に於いて一切の軍備と国の交戦権
  を認めない結果、自衛権の発動としての戦争も、又交戦権も放棄したもので
  あります」と答弁している。その後、一九五〇年八月の警察予備隊の設置と
  ともに、再軍備への第一歩が画され、一九五二年一〇月の保安隊への改組、
  一九五四年六月九日成立の自衛隊法と防衛庁設置法によって、自衛隊が成立
  し、軍備の増強・拡大が続けられる中で、「自衛のための戦力は禁じていな
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  い」という方向に政府の解釈は推移し、政府統一見解として、憲法第九条第
  二項が保持を禁じている戦力は、「自衛のための必要最小限度を越えるもの
  である」と定式化するに至っている。
   しかしながら、「自衛のための戦力」と「侵略のための戦力」とは区別で
  きないし、仮に区別できたとしても、「自衛のための戦力」は何時でも「攻
  撃的・侵略的戦力」に転化、利用できるのであるし、相手国を攻撃・侵略す
  るという目的、名目で戦力を保持する国はなく、全て、自衛のための戦力を
  保持するという形をとっているのであり、「自衛のための戦力」は軍隊でな
  いという見解にたてば、世界中、どこの国にも軍隊は存在しないということ
  にならざるをえない。しかも、「自衛のための必要最小限度」とは、具体的
  には、「その時々の国際情勢、軍事技術の水準その他の諸条件によって変わ
  る」という相対的定義であり、「自衛のための必要最小限度の範囲内にとど
  まるものである限り核兵器も保有できる」(一九七八年三月九日政府見解)
  と明言されており、自衛力に歯止めをかけることには全くなっていないので
  ある。
(三) 憲法学多数説も違憲
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   自衛隊の存在が、長きにわたって既成事実化されているにもかかわらず、
  憲法第九条の一切の戦力の禁止は、規範としての生命を失っていないばかり
  か、九〇億ドルの戦費の負担、自衛隊機を派遣して、戦争に加担し、平和的
  生存権が侵害されようとしている今日こそ、客観的には、憲法第九条の意義
  は益々、重大となっているのであるし、憲法学の多数説も、自衛隊の存在自
  体を違憲としているのである。
   九州大学横田耕一教授(憲法)は、
    「自衛隊機派遣および多国籍軍にたいする九十億ドルの資金援助には憲
    法上重大な疑問があり、政策の当否や法律上の根拠を論じる前に、いっ
    たん憲法の原点に返って冷静に論議すべきである。・・・中略・・・自
    衛隊の存在自体が、自衛の目的での戦力の保持をも禁止した(一九五二
    年の政府統一見解もそれを認める)憲法第九条に違反するということだ。
    確かに自衛隊の既成事実化は進行しているが、この点をあいまいにする
    から、すべてのボタンのかけ違いが起きている。多くの憲法学者が認め 
    るように、自衛隊が違憲の存在であるなら、そもそも自衛隊の海外派遣
    などは問題にもなり得ない・・。」(一九九一年一月二一日・朝日)
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  と論じられている。
   このように、自衛隊は合憲であるとの政府の見解は、憲法学界の支持も、
  不断の努力によって平和主義の基本原理を擁護しようとする多数の国民の支
  持も得ていない。
(四) 合憲とする判例も存在しない
   自衛隊の違憲性が争われた事件は次の通りであるが、合憲とする判例も存
  在しない。
   (1) 恵庭事件札幌地裁判決(一九六七年三月二九日)は、実弾射撃演習の
  騒音振動に抗議し、自衛隊の通信線を切断したため、自衛隊法一二一条で起
  訴された事件で、自衛隊の違憲性が争点となったが、判決は、「自衛隊法一
  二一条の構成要件に該当しないとの結論に達した以上、もはや、弁護人ら指
  摘の憲法問題に関し、なんらの判断をおこなう必要がないのみならず、これ
  をおこなうべきでもないのである。」と判示し、自衛隊の合憲性についての
  判断を回避している。
   (2) 長沼事件第一審札幌地裁判決(一九七三年九月七日)は、自衛隊の編
  成・規模・装備・能力等の実態を事実調べをなしたうえ、「外敵に対する実
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  力的な戦闘行動を目的とする人的、物的手段としての組織体」すなわち「軍
  隊」であって違憲であるとしている。
   (3) 長沼事件控訴審札幌高裁判決(一九七六年八月五日)は、傍論として、
  第九条が自衛のための戦力の保持を認めているかどうかは一義的に明確でな
  い、また自衛隊は一見極めて明白に侵略的なものであるとはいい得ないとし、
  その判断はいずれも統治行為に関する判断であるとし、裁判所が判断すべき
  でないとしている。
   (4) 百里基地第一審水戸地裁判決(一九七七年二月一七日)は、自衛隊が、
  侵略的戦争能力を有する組織体にあたるかどうかは「一見極めて明白」とは
  いえないとし、合憲性判断は統治行為に関する判断であるとして、結論を下
  していない。
   判例は、既成事実の重さゆえ、正面からの違憲判断をさけ、現状を事実上
  容認するという消極的傾向にある。
(五) 長沼事件第一審判決の今日的意義
   このようななかで、長沼事件第一審判決は、国家権力が憲法秩序の枠を越
  えて行使され、その結果、重大な違反の状態が発生している疑いが生じ、国
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  民の権利が侵害され、または侵害される危険があり、憲法判断以外の方法で
  は、基本的に解決できないと認められる場合には、裁判所には、その国家行
  為の適法適合性を審理判断する義務があるとしている。
   現在の戦争は、無辜の民衆をも大量に殺傷し、地球的規模での環境破壊を
  もたらし、地球的規模で、人類の生存自体を危うくする。
   このような状況の中で、自衛隊を違憲とし、平和的生存権を確認した右判
  決の意義は高く評価されなければならない。現に、多国籍軍による空爆は、
  連日、猛烈をきわめ、尊い多数の人命を奪い、イラクの原子炉二基の破壊に
  よって放射能が放出された危険もあり、原油のペルシャ湾への大量流出、ク
  ウエ−ト各地の油井火災による大規模な環境破壊をもたらしている。
   憲法第九条で徹底した平和主義を掲げている我が国は九〇億ドルの戦費支
  出、自衛隊機を派遣して戦争に協力する方向ではなく、平和解決の方向で努
  力し、国際社会において「名誉ある地位」をうるべきである。
 2 派遣される掃海部隊は戦力である。
(一) 派遣される掃海部隊の内容
   政府は、掃海艇四隻、掃海母艦一隻(はやせ)、補給艦一隻(八〇〇〇ト
  _____________(20ページ)______________

  ンクラスのもの)、機雷処理に当たる水中処分隊を含む五〇〇人の部隊員を
  ペルシャ湾岸海域へ派遣しようとしている(一九九一年四月一七日付毎日新
  聞朝刊)。
(二) 掃海部隊は、最新の軍事力を有している。
   掃海艇はJM61−M二〇ミリ多銃身機関砲、掃海具一式、S−4機雷処分
  具を搭載する最近型の対機雷作戦を行う軍事用の艦艇である。
   派遣される掃海艇は敷設された機雷がいかなる位置のいかなる深度にある
  かを感知する最新型のセンサーを搭載した無人航走機を搭載している。
   機雷は艦船の発する音、水圧の変化などの信号を受信して爆発するが、セ
  ンサーを有する無人航走機には感知されないよう工夫して設計されている。
  そこでこの工夫を上回っていかなる型の機雷をも感知できるセンサーが開発
  されている(井川宏「掃海艦艇の特質と種類」『世界の艦船』一九九〇年一
  〇月号六九頁より)。海上自衛隊の有する掃海艇は従来の危険物処分の経験
  が豊富でありかつ、センサー技術において先進的でありこの意味において西
  側諸国からの軍事的期待が寄せられているのである。
   派遣される掃海艇は、こうした最新技術の粋をこらした掃海具一式を備え
  _____________(21ページ)______________

  ているのである。
   掃海母艦『はやせ』は海上自衛隊が有する唯一の掃海母艦であり、掃海部
  隊の行なう対機雷作戦の司令部の役割を果たす。また掃海作戦を行うヘリコ
  プターが発着できるフライトデッキを有する。
   掃海母艦『はやせ』は3"五〇口径連装速射砲、二〇ミリ多銃身機関砲二門、
  三連装端魚雷発射管二台、訓練用機雷投敷設装置一式、補給用各種掃海具一
  式、訓練用機雷揚収装置一式を有する。
   補給艦は、船舶用及びヘリコプターのための航空燃料、砲弾、食料等を搭
  載する力量を有し、補給対象となる艦船のミサイル化に対応できるように設
  計されている(装備年鑑一九九〇年版二一五頁)。
(三) 掃海部隊は自衛隊の軍事作戦部隊の重要な構成要素である。掃海艦艇は自
  衛隊の軍事作戦、軍事組織の重要な要素を構成する。
   海上自衛隊は掃海艇を三八隻、掃海母艦を一隻有し(一九九一年四月一二
  日付朝日新聞)、第一掃海艇群(呉)、第二掃海艇群(横須賀)などに別れ
  て構成されている(平成二年版防衛白書三二六頁)。
   掃海部隊は海上交通の安全確保のための作戦の中に位置付けられている(
  _____________(22ページ)______________

  防衛白書一三三頁)。ここでは、「洋上における哨戒、護衛、公安、海峡の
  防備などの作戦を行うことにより、敵の進出を阻止し、・・・敵の有効な作
  戦を阻むなどの累積効果によって・・・」(同一三四頁)等として海上作戦
  の概要が語られ、その中に「脅威の態様に応じ、対潜戦、対機雷戦などを行
  う」とされている(防衛白書第三部第一章第一節「主要作戦における防衛力
  の概要」3「海上交通の安全確保のための作戦と能力」前同白書一三三〜一
  三四頁)。
   防衛白書では別の章で危険物の処分としての掃海作業について言及してい
  る(第四部第一章第一節3「危険物の処分」)。
   つまり、防衛庁自体軍事作戦の一部としての掃海作業と国の周辺の危険物
  の処分とを明らかに区別している。
   今回は我が国から遠く離れたペルシャ湾で交戦国の一方が敷設した機雷を、
  その敵国であった多国籍軍の掃海部隊と共に除去するのである。
   本件掃海部隊の派遣が、軍事行動の意味を有することは明らかである。
(四) 掃海艇は国際法に言うところの軍艦である。
   軍艦とは一国の海軍に属する船舶であって、その国の国籍を有する軍艦で
  _____________(23ページ)______________

  あることを示す外部標識を掲げ、政府によって正式に任命された士官の指揮
  の下にあり、かつ海軍の規律に服する乗組員が配置されるものである(公海
  に関する条約八条二項、横田喜三郎『国際法U』一三七頁)。
   本掃海部隊の艦艇はいずれも右の要件を実質的に備えており、国際法上軍
  艦として扱われ、公船、私船とは区別した扱いを受ける。
   特に他国の領海で不可侵権、治外法権を有し、浮かんでいる領土として種
  々の特権を保証される(横田喜三郎『国際法U』二三五〜二三七頁)。
   前記のごとき軍事機能をもち、戦力の一部として、軍隊組織である自衛隊
  に属する軍用艦艇が旧交戦国付近の公海、領海を航行し、旧交戦国の一方と
  ともに、その敵国が敷設した軍事施設を実力を行使して破壊する軍事行動に
  従事するのである。
   これこそ戦力の不保持を謳っている憲法第九条に完全に違反する措置と言
  わざるを得ない。
 3 掃海部隊の派遣は、「武力の行使」である。
(一) 上述のとおり、掃海部隊は海上自衛隊の不可欠な構成要素として、紛れも
  なく戦力に該当する。戦力たる掃海部隊を、その本来の任務である掃海業務
  _____________(24ページ)______________

  の遂行を目的としてこれを海外に派遣することは、憲法九条にいう「武力の
  行使」に該当し、憲法上許容されず、またこれを許容する国際法理も存在し
  ない。
(二) 近代海軍の作戦遂行において、機雷の敷設ならびにその掃海が、不可欠な
  戦術であることはいうまでもない。特に、機雷の性能が向上し、複雑化した
  第二次大戦以後、その重要性は更に増大するに至っている。
   機雷の敷設と掃海とは、表裏一体をなす軍事力の行使に当たる。機雷の敷
  設は、戦闘終了後に敷設国における速やかな除去を予定されているものであ
  って、掃海設備と技術の保持を前提として実行されるものであり、掃海能力
  と切り離された態様の機雷敷設はありえない。また、機雷の性能と敷設技術
  は、掃海技術の進歩に対応して精緻化し複雑化して来た。掃海技術も同様で
  ある。
   機雷の敷設と掃海とは、いずれも高度な軍事設備と能力と軍事情報を前提
  として、初めて可能となるものであって、掃海業務がそれ自体「武力の行使
  」に当たるものであることは自明と言って差支えない。
(三) しかも、派遣掃海部隊は、現地において米軍の「中央軍,中東統合任務部
  _____________(25ページ)______________

  隊」の指揮下において右米軍の部隊と一体となって掃海業務を遂行すること
  となる。掃海対象の機雷に関し、その種類、個数、位置等につき何らの情報
  も有せず、現地の地勢、気象についても知識のない以上、右は当然の成り行
  きである。
   外国の軍隊の指揮下において、これと一体となった軍事業務が武力の行使
  にあたることは論ずるまでもない。
(四) 湾岸「戦争」は、宣戦布告なく始まった戦闘が現在事実上終了した状態に
  ある。しかし、その正式な終戦手続きについてはつまびらかにせず、決して
  戦争終結手続きが完了したとは言いがたい。この時期、交戦当事国の一方の
  意を受けて、これと一体となり相手国に対する掃海作業を行うことは、国際
  法上参戦することに外ならない。
   仮に、戦争終結に至っているとしても、少くもイラクは、現在まで機雷の
  所有権を放棄する意思表示をしていない。その掃海作業は、武装部隊を派遣
  して軍事的装備と軍事技術を駆使して、他国の所有動産を破壊する行為に他
  ならず、「武力の行使」に該当するものである。
(五) さらに、掃海作業は国際法上交戦当事国において実施すべきものであり、
  _____________(26ページ)______________

  中立の第三国がこれを行うべき筋合いではない。
   一九〇八年の(第八次)ハーグ条約(「自動触発海底水雷ノ敷設ニ関スル
  条約」)によれば、機雷の除去は本来敷設国がおこなうべきものである。そ
  の他の国がこれを行う場合には、条約その他の合意の成立を待ってするのが
  国際慣行であり、我が国がペルシャ湾の機雷に関しこれを除去する権利も義
  務もない。したがって、緊急避難的な自国近海の掃海業務が許容される余地
  はあっても、地球を半周した彼方での掃海業務は、国際法的にも許容される
  ものではない。
(六) 「居留民の安全と在外資産の保護」、これが戦前の我が国における対外出
  兵の常套の口実であり、侵略戦争の発端であった。日本船舶の航行の安全の
  確保から「在外邦人の安全の確保」までの距離は薄皮一枚でしかない。掃海
  部隊の派遣を許せば、その護衛艦・補給艦の派遣と拡大に歯止めのないこと
  も目に見えている。
   現行憲法の恒久平和主義は、まさしく眼前にあるこの事態を避止するため
  に創設されたものである。
 4 日米共同防衛体制の進展と掃海部隊派遣のもつ意味
  _____________(27ページ)______________

   六〇年日米安全保障条約自体が、アメリカ合衆国の行なう戦闘作戦行動に
  日本をまきこむ危険を有していたが、一九七八年の日米安全保障協議委員会
  が了承した防衛協力小委員会の報告」すなわち日米共同防衛指針(ガイドラ
  イン)策定以降、自衛隊が米軍と共に作戦行動に巻き込まれる可能性が格段
  に広がってきた。
   掃海部隊派遣は、日米ガイドライン以降の共同作戦体制の一層の進展の意
  味を有するとともに、同ガイドラインの桎梏になっていた、日本の憲法的制
  約を取り払おうとする意味をもつ二重の意味で危険な試みである。
(一) 六〇年安保条約
   日本国施政下の両国の施設への攻撃が行なわれたときには、これを防衛す
  る条約上の義務を負うことになった。これは、日本国内という制約があるが
  集団的自衛権の行使を条約上予定していることになった。
(二) 日米共同防衛指針(ガイドライン)と憲法第九条
   ガイドラインは、非核三原則、憲法などの研究を行なわないとした。これ
  らの制約を顧慮しないこととしたとの批判が行なわれている。
   次に、作戦、情報、後方支援等の分野における自衛隊と米軍との間の協力
  _____________(28ページ)______________

  姿勢の整備に努めるとして、自衛隊の共同作戦への参加を位置づけた。
   これ以降、攻撃的武器の輸入、環太平洋共同軍事演習(リムパック)など、
  公海上の共同軍事演習、一〇〇〇海里シ−レ−ン防衛構想など、政府のいう
  個別的自衛権の行使のワクをはるかに越える日米共同作戦体制が追及されて
  きた(この点について憲法学的考察を加えた文献として杉原泰雄・憲法一〇
  七頁、一五九頁)。
   指針では、日本国施政下の米軍施設に攻撃が加えられるおそれがあるとき
  にも自衛隊と米軍との共同対処行動がありうるとしており、自衛隊が出動す
  る機会も格段に増加する。地域的にも出動のきっかけがアジア一帯から中東、
  南米などあらゆる地域に広がる可能性もある。
   これらの共動作戦体制にとって、海外出動できない自衛隊の制約はきわめ
  て大きな桎梏であった。海外平和協力法案の企ては、この桎梏を取り払おう
  とするものであったが挫折した。
   今回の掃海部隊派遣は、日米共同作戦体制を推進しようとする政府が果そ
  うとして果せなかった、自衛隊の憲法的制約除去を政府の決定でなそうとす
  るものである。
  _____________(29ページ)______________

(三) 掃海部隊派遣は大規模な海外派兵への第一歩
   政府は軍備の拡張と、安保体制に基づく日米共同作戦体制の強化にあわせ
  て自衛隊に関する憲法上の解釈を変えてきた。一方この変化に対する国民の
  厳しい批判に対応し、一定の憲法上の限界を積み上げてきた。〔深瀬忠一「
  戦争放棄と平和的生存権」第四章第二節(以下、政府見解の引用は主として
  同書によった)〕
   掃海部隊派遣は、政府が自ら課してきた憲法上の限界を一挙に捨て去り、
  海外派兵に道を開くものである。
 (1) 政府見解の変遷
   憲法制定直後政府は憲法第九条は国家の自衛権の発動としての戦争も、交
  戦権も放棄したとの見解を表明していた。〔第九〇帝国議会における吉田首
  相答弁(一九四六年六月二六日)〕
   保安隊、警察予備隊の創設直後、近代戦争遂行能力を戦力とし、保安隊、
  警察予備隊は戦力でないとして、現実との矛盾を糊塗していた。〔閣議了承、
  戦力解釈に関する法制局要綱(一九五二年一一月二五日)〕
   その後、海外派兵はしないとの国会決議(一九五四年六月二日、参議院本
  _____________(30ページ)______________

  会議決議)もなされている。
 (2) これらの変化に対する国民の批判の前に政府は一定の重要な枠づけを行な
  ってきた。なかでも、自衛隊の海外派兵との関係では次の三つの点はとりわ
  け重要である。
   その一は、個別的自衛権の行使は合憲だが集団的自衛権の行使は違憲だと
  していることである。(外務省条約局長下田武三、一九五四年六月三日衆・
  外務委、内閣法制局長官高辻正己、一九六九年二月一九日衆・予算委)、楢
  崎弥之助の質問趣意書に対する一九八〇年一〇月一四日付答弁書等)
   その二は、「海外派兵」は違憲であるとしてきたことである(佐藤達夫答
  弁、一九五四年四月一六日衆院内閣外務連合審査、自衛隊海外出動禁止決議
  一九五四年六月二日参議院本会議)。
   その三は、武力行使の目的を以てなす自衛隊の海外派遣は憲法違反である
  が、右目的を有しない海外派遣は合憲である、とする見解である(一九八〇
  年一〇月一四日、楢崎弥之助議員に対する答弁書)。
 (3) 前述したように、日米防衛共同指針策定以降、武器、共同演習、その他の
  動きの中で、自衛隊は限りなく集団的自衛権行使の実体を備えてきている(
  _____________(31ページ)______________

  深瀬忠一前同書、杉原泰雄憲法 一五九頁同旨)が、政府は海外派兵の一点
  は国民の抵抗をこえることができていない。このことは自衛隊の対外的共同
  作戦体制を進める政府にとって大きな障害となってきた。
   今回の掃海部隊派遣は、危険物除去という名目を掲げて、従来の見解とつ
  じつまを合わせる外見をつくりながら、一方では、国民の憲法意識による抵
  抗によって聖域とされてきた武力行使の目的をあからさまにした海外派兵へ
  の突破口を作ろうとするものである。
   この措置は、政府の行為によって戦争の惨禍を招かないとし、戦争の放棄、
  戦力の不保持をうたった日本国憲法前文ならびに憲法第九条一項、二項に違
  反する。
   いま日本国憲法の恒久平和主義は誕生後最大の危機にたっているといって
  過言ではない。行政権をして憲法規範を遵守させるべく重要な使命を担う主
  権者たる国民と裁判所の役割は、極めて重大であるといわねばならない。
 二 掃海部隊のペルシャ湾派遣の違法性
   海上自衛隊の掃海部隊のペルシャ湾への派遣は自衛隊法第三条・第九九条
  に違反する。
  _____________(32ページ)______________

 1 自衛隊法第三条一項は「自衛隊は我国の平和と独立を守り、国の安全を保
  つため、直接侵略及び間接侵略に対し我国を防衛することを主たる任務とし、
  必要に応じ公共の秩序の維持にあたるものとする。」と規定し、海外での軍
  事行動を一切予定せず、海外軍事行動がありえないことを前提としている。
   従って、自衛隊法(以下この項において単に法という)には、自衛隊の海
  外軍事行動なるものの規定やそれを根拠づけ関連づけるような規定は一切な
  い。それだけでなく軍事的目的のみならず非軍事的目的についても法は限定
  的に規定されている。
 2 自衛隊は防衛出動(法七六、七七条)が本来の任務であるが、法第三条一
  項の「間接侵略や公共の秩序の維持」に当るものとして治安出動(法七八、
  七九、八一条)や災害派遣(法八三条)などの権限も与えられているが、こ
  れらはあくまでも日本国内の公共の秩序の維持に限られている。右業務以外
  に追加立法された自衛隊法一〇〇条から同条の五の規定も、いずれも平常時
  及び非紛争国を想定しており、今回の掃海部隊派遣の根拠としている法第九
  九条は、第二次大戦後の日本近海に放置された機雷の処理を目的として規定
  されたものである。
  _____________(33ページ)______________

   このような自衛隊法の基本構造及び同法第九九条の立法趣旨からみて、今
  回の湾岸戦争が停戦となったとしても、紛争当事国のイラク軍が日本から遠
  く離れたペルシャ湾に敷設した軍事機雷を除去するため、憲法第九条に違反
  する軍隊としての実態をそなえた海上自衛隊の軍用艦である掃海母艦・掃海
  艇・補給艦及び自衛隊員を海外に派遣することは、前記自衛隊法の基本構造
  及び同法第九九条にも違反するものである。

第四 戦争加担は、平和に生きる権利の侵害である。
 一 今回の湾岸戦争で多くの人々の生命が失われ、身体が傷つけられ、そして、
  環境が破壊された。日本政府は、この戦争の一方当事者である多国籍軍に戦
  争費用の二〇パーセントに及ぶ九〇億ドルもの巨額な支援を決定して支出し、
  さらにペルシャ湾の航行の安全の確保、国際的な貢献を名目に、国会の同意
  すら得ることなく、掃海部隊の派遣を決定した。
   既述のとおり、これらの行為は、明らかに憲法で禁止された戦争への加担
  であり、憲法が保障した「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、
  平和のうちに生存する権利」を侵害するものである。
  _____________(34ページ)______________

 二 平和に生きる権利の意義と殺さない権利等の侵害
 1 日本国憲法の「平和のうちに生存する権利」の保障(憲法前文)と戦争放
  棄・戦力不保持・交戦権の否認(憲法第九条)は、一切の戦争・戦力の保持
  を禁止することによって、戦争による国民の人権侵害を排除しようとするも
  のであって、他の憲法に類をみない。
(一) 近代市民革命によって成立した近代国家は国民の人権を保障することをそ
  の最大の目標とした。しかし、戦争と平和の問題については専ら国家間の現
  象として扱い、国家の戦争遂行の権利(自衛権)とそのための軍事力によっ
  て対外的に平和を確保しそのことを通じて間接的に国民の人権を保障しよう
  とした。
   もっとも、当初無制限とされた国家の戦争遂行権も、一九二八年の不戦条
  約が締結されて侵略戦争が禁止されるに至り、第二次世界大戦後には国際連
  合が設立され、国連憲章では、一定範囲の限られた自衛戦争以外はすべての
  武力行使を禁止するに至ってはいる。
   しかし、このような流れにもかかわらず、世界の各国の憲法は、いまだに
  「国家の自衛権」とそのための「軍事力」によって国民の安全を維持しよう
  _____________(35ページ)______________

  としている。その結果、戦争か平和かの選択は、国家の意思決定の問題であ
  って、民主主義の下でも多数決の問題に過ぎず、いったん戦争が始まれば、
  国民の人権が戦争のために制限されることは基本的に当然と考えられている。
  いわば人権保障について、平戦(平和時と戦時の)二元の体制をとっている
  のである。
   ところが、戦争や平和に関する外交や防衛の問題は、国家間の問題として
  もっとも専門性が強くかつ秘密を要する部門であり、素人の国民が口をはさ
  むことが困難な問題であるとされてきた。したがって、戦争が最大の人権侵
  害とされ、平和が失われれば人権は内部から朽ち果てるにもかかわらず、戦
  争と平和については、「秘密」「専門性」「緊急性」等を理由に実際には国
  民の政策決定参加が排除されているのである。
 2 日本国憲法は、右の平戦二元の基本構造を克服して、国民に「平和のうち
  に生存する権利」を保障した。
   その結果、これまではいかなる民主主義制度のもとにおいても、戦争と平
  和は国家の意思決定にゆだねられ、国民は選挙を通じて平和的な政府を選ぶ
  方法によって間接的にしか戦争と平和について関与できなかったのに対し、
  _____________(36ページ)______________

  日本国憲法のもとでは人民が平和のうちに生きる権利を人権として行使でき
  るようになったのである。
   この平和に生きる権利は「戦争と軍備および戦争準備によって破壊された
  り侵害ないし抑制されることなく、恐怖と欠乏から免れて平和のうちに生存
  し、またそのように平和な国と世界を作り出していくことのできる核時代の
  自然権的本質を持つ基本的人権であり、憲法前文、とくに憲法第九条および
  一三条、また第三章諸条項が複合して保障している憲法上の基本的人権のこ
  とである。」(深瀬忠一「憲法と平和的生存権」)
   もとより、この制度は深刻な戦争の惨禍に対する歴史的反省に根差すもの
  である。太平洋戦争を含む一五年戦争において、日本軍国主義のアジアに対
  する侵略による二〇〇〇万人以上といわれる殺戮と、広島・長崎における人
  類初の核戦争被害を含む日本国民三〇〇万人の犠牲という痛切な体験から、
  国家の自衛権と武力による安全という危険な方法を捨てて、武力によらない
  「全世界の国民」の「平和に生きる権利」への保障のための連帯によって平
  和を達成しようとする途を選択したのである。
   即ち「政府の行為によって再び戦争が起こることのないやうに決意し・・
  _____________(37ページ)______________

  この憲法を確定」し、「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ平和
  のうちに生存する権利を有することを確認」(憲法前文)したのである。
   このような「平和のうちに生存する権利」の保障は、実定法的に憲法第九
  条の交戦権の否認と軍備の撤廃によって裏付けられるのみでなく、兵役の義
  務・国防義務・戒厳・軍法会議等の戦争遂行を前提とした規定が一切設けら
  れておらず、完全に平和に徹し、一元化した憲法構造を取っていること、及
  び憲法第九条が第二章とされ、第三章の基本的人権の本質を規定した第一〇、
  一一、一二、一三条の前に規定されていることからも明らかである。
 3 そして、前記のような憲法の前文の規定内容、成立経過、理念からみて平
  和的生存権は、日本国民の戦争の被害者にならない権利だけではなく、他国
  民に被害をもたらさない、いわば「戦争に加担しない権利」「加害者となら
  ない権利」「殺さない権利」(以下総称して「殺さない権利等」という)を
  も保障しているものと言わなければならない。
 ゥ まず、文言上憲法前文が「全世界の国民の・・・平和のうちに生存する権
  利」と規定していることから、単に自国民の生命だけではなく、敵国民の生
  命も守らなければならないと考えられる。
  _____________(38ページ)______________

(二) これまで国家の自衛権と戦力のもと、国民は戦争に勝つことを望んできた。  
  自国民の生命等を守るだけなら、軍備の増強は意味のないことではないかも
  しれない。
   しかし、このような立場に立つかぎり、負けるような戦争をしないという
  ことにしかならず、結局は、軍備の増強と敵意の悪循環しかもたらさない。
  この点、今回の湾岸戦争についても全く同様であろう。そして、これでは全
  世界の国民の平和に生きる権利の保障にはならず、国家の存立の前に保障さ
  れるべき権利としての基本的人権、つまり自然権としての承認にもならない。
   このような悪循環からの脱却こそが憲法の平和主義の基礎であり、そのた
  めには被害者として「殺されない権利」が保障されるだけではなく加害者と
  はならない、即ち「殺さない権利等」を保障することが必要である。
   そして、この「殺さない権利等」は、あらゆる戦争と両立しない。そして
  各国がこの権利を保障することによって、憲法が宣言する「全世界の国民」
  の「平和のうちに生存する権利」の享受と国際的恒久平和が可能なのである。
   なお、この権利からみたとき、今回の国連安保理の六七八決議がいかにこ
  の権利を侵害するものであり、これに対する政府の支援策が憲法に違反する
  _____________(39ページ)______________

  かも明らかであろう。
(三) また、「殺さない権利等」の保障は、人権の本質にも合致する。
   基本的人権の保障は「個人の尊厳」に立脚しているが、個人の尊厳は、人
  間の自律的な意思に基づいて人間社会の関係と行動を律することに基礎を置
  いている。ところが、国家の命令ないしは政策に基づき人殺しを命じられ、
  戦争に協力することは、もっとも個人の尊厳を踏みにじる。
   自衛戦争と戦力の保持を認めるヨーロッパ各国でも国家の戦争遂行に対峙
  する人権として「良心的兵役拒否」の権利が広く認められるようになりつつ
  あるのは、「殺さない権利等」の保障が人権の本質にねざしていることの証
  左である。
   日本国憲法は、戦争への反省、とりわけ侵略戦争に対する反省から「政府
  の行為によって再び戦争の惨禍が起こることがないようにすることを決意し
  」て「この憲法を確定」したものであり、国家として「良心的兵役拒否」を
  誓ったものとも言われる。
   戦前の日本が、個人の尊厳を捨て去って国家の命令に服従することをもっ
  て国民の道義とする社会のうえに成り立っていたことを考えれば、「殺さな
  _____________(40ページ)______________

  い権利等」の保障が、平和を確保するうえでいかに重要かがよく理解できよ
  う。
 4 ところで、一九九一年一月一七日の多国籍軍の空爆から始まった湾岸戦争
  は、多くの被害を生み出して、二月二四日からの地上戦をへて、二月二八日
  事実上の停戦を迎えた。この間の航空機出撃数は、延べにして一〇万六千機
  を越え、その投下した爆弾量はベトナム戦争の六ヶ月分を越えたといわれる。
   戦争中のイラク側の死傷者は八万五千から一〇万人とも言われており、現
  在不明の民間人の死傷者数は、今後さらに増加すると思われる。イラク側の
  死者の中には、二月一三日の多国籍軍のバグダッド住宅地の防空濠への空爆
  や、ファルージで死亡した者も含まれ、バグダッドの空爆については、子供・
  女性を含め、五〇〇人以上が死亡したとの報道もある。
   このような生命への侵害のみならず、今回の戦争によって多くの環境破壊
  が行われた。イラクでは稼働中の原子炉が史上初めて爆撃・破壊された。こ
  の爆撃による被害について、未だ明確ではないが「アメリカ・スリーマイル
  島の原子力発電所事故より大きな被害が考えられる」とする学者もある。
   また、今回の戦争で大きな環境被害を生み出したのは、油田破壊による被
  _____________(41ページ)______________

  害である。湾岸戦争でペルシャ湾に流出した原油の量は、数百万〜一〇〇〇
  万バレルともいわれ、海洋生物に多大な被害をもたらし、その回復には一〇
  年以上の年月がかかるだろうと言われている。また、今回の戦争末期には、
  イラク軍の焦土作戦により炎上した油井・石油施設は五〇〇ヶ所以上と言わ
  れ、アジアの穀倉地帯に酸性雨を降らせる恐れがあると言われる。
   そして、今回の戦争で多くの人々が家を失い、難民となっている。さらに、
  財産的被害だけでも数十兆円に上るといわれる。
 5 このような戦争に、政府は湾岸戦争費用の約二〇パーセントに及ぶ九〇億
  ドルを支出し、また、掃海部隊を派遣したが、これらが戦争への加担行為で
  あることは明らかである。
   現代の戦争が、技術力による大量の兵力を基礎とした総力戦として戦われ
  る以上、戦費の調達が最も基礎的な戦争遂行能力を形成することは言を待た
  ず、また前線とその補給に基本的な差異はなく(例えば、殺さない権利の侵
  害から見て、ミサイルを発射する人間とミサイルを運ぶ人間にどれだけの差
  異があるだろうか)。しかも、今回の戦争において、日本の軍事費の援助が
  戦争の開始・遂行にとって、決定的に重要であったことはアメリカの経済状
  _____________(42ページ)______________

  況から見て明らかであり、日本の戦争費用支援は「人殺し」と同視しうる行
  為、少なくとも人殺しの「共犯」と評価される行為と言わなければならない。
  原告らはその意に反して戦争加担国の国民とされ、その拠出する租税が戦費
  として使用されることにより、自らも「共犯」の一員となることにとうてい
  堪えられない。
   したがって、湾岸平和基金への九〇億ドルの支出は、「殺さない権利等」
  を侵害するものと言わなければならない。

第五 湾岸戦争に加担することは納税者の権利(納税者基本権)を侵害する。
   納税者は、憲法に適合するところにしたがって租税を徴収し使用すること
  を国に要求する権利を有している。
   日本政府が湾岸戦争に関して九〇億ドルという巨額の資金を湾岸平和基金
  に拠出すること、そして掃海艇等と自衛隊員を派遣することは、既に十分論
  証したとおり憲法に適合しないものである。
 一 日本国憲法の財政に関する基本原理、納税者の権利(納税者基本権)の保
  障
  _____________(43ページ)______________

 1 日本国憲法の財政条項(第三〇条及び第七章)は、憲法の基本原理(国民
  主権・平和主義・基本的人権の保障)下における財政条項であり、国が財政
  権(課税権・支出権)を行使する上で厳格に遵守しなければならない。
   また、憲法は租税国家体制を前提にしている。租税国家体制とは、国家の
  財政収入のほとんどを租税に依存している体制である。租税国家体制のもと
  では、憲法で規定する規範原則はすべて租税の徴収と使途に関するものであ
  る。憲法の規範原則に反する租税の徴収と使用(支出)は憲法違反である。
 2 財政条項の内容
   憲法の財政条項の内容を概観すると、以下のとおりである。
(一) 憲法第八三条は、国会中心財政の基本原則を定めており、政府の専権によ
  る財政処理は許されない。
(二) 第八四条は、租税法律主義を規定しており、第八三条の基本原則を収入面
  に具体化している。
   右条項とともに第三〇条(国民は、法律の定めるところにより、納税の義
  務を負ふ)は国民の納税の義務を規定するが、右に言う「法律」は憲法の諸
  条項に適合した合憲の法律でなければならない。よって国民は、合憲的な租
  _____________(44ページ)______________

  税の使用を前提とし、その限度で納税の義務を負う。
(三) 第八五条は、国費の支出と国が債務を負担するには国会の議決が必要であ
  ることを規定し、国費支出に関する国会のコントロールについて規定する。
  基本原則の支出面への具体化である。
(四) 第八六条は、国費支出は予算という形式で国会の議決を経るべきことを規
  定し、第八五条を国費支出の形式の面から重ねて規定している。
(五) 第八七条(予備費に関する規定)、第八八条(皇室財産・皇室費用に関す
  る規定)、第八九条(公の財産の支出利用の制限に関する規定)、第九〇条
  (決算と会計検査院に関する規定)、第九一条(財政状況の報告に関する規
  定)もすべて財政民主主義を強化・徹底する条項である。
 3 納税者の権利(納税者基本権)
   右の基本原則から、国の財政すなわち国民に対する課税及び国費の支出は、
  ともに憲法に適合していなければならず、国民(納税者)は「憲法に適合す
  るところにしたがって、租税を徴収し使用することを国に要求する権利」を
  有することが導かれる。
   この納税者の権利(納税者基本権)には、租税によって購入された財産(
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  国有財産)が、憲法に適合するように管理され、使用・運用されるよう要求
  する権利を含む。
   この納税者の権利(納税者基本権)は、日本国憲法前文第二段(そもそも
  国政は、国民の厳粛な信託によるものであって、その権威は国民に由来し、
  その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民が享受する)及び
  憲法の基本原理、そのもとでの財政条項に根拠を有する実定法上の権利であ
  る。
 二 納税者の権利(納税者基本権)が侵害された場合、納税者は救済を求める
  手段が与えられる。
 1 前記のとおり(第二ないし第四)、湾岸平和基金に九〇億ドルを支出する
  こと、掃海艇等及び自衛隊員を派遣することが日本国憲法に違反することは
  明らかであり、したがって本項一で述べた納税者基本権(憲法に適合するよ
  うに租税を徴収し、使用・支出するよう要求する権利)を侵害することも明
  白である。
   右の九〇億ドルの支出は憲法前文第二段、第九条による絶対的禁止事項を
  逸脱しているのであり、納税者の九〇億ドル支出を許さない権利は「支出行
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  為」に対して絶対的優位を占めており、納税者基本権は「支出行為」との間
  に利益衡量を許さない不可侵性を有する。
 2 納税者は納税者基本権を侵害された場合、司法裁判所に救済を求めること
  ができる。
   日本国憲法において、財政民主主義・納税者基本権を確保する方法として
  は、国会による統制(第八三ないし八八条、九〇、九一条)、会計検査院に
  よる統制(第九〇条)が規定されているが、納税者にとってはいずれも間接
  的な手段・方法である。
   納税者基本権を実質的に保障するためには、納税者が直接司法裁判所に救
  済を求めることを認めなければならない。憲法第七六条、第九八条、第八一
  条により納税者は司法裁判所に救済を求めることが許される。
  (この権利は地方自治体の違憲・違法な公金の支出に関して地方自治法第二
  四二条の二が地方自治体住民に訴権を認めていることとの対比においても承
  認されるべきである)
 3 また、九〇億ドルを支出する財源として石油臨時特別税及び法人臨時特別
  税を新設することになる。石油臨時特別税により納税者は直接に租税の負担
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  が増大し、法人臨時特別税により間接的に負担が増大することになる。
   納税者は具体的・現実的な損害を蒙るのである。

第六 損害
 一 損害内容
   すでに述べた被告国の九〇億ドル支出決定並びにその実施、並に掃海部隊
  の湾岸への派遣という戦争加担行為によって、原告らを含む日本国民は、そ
  の平和的生存権並びに納税者基本権を侵害され、重大な精神的苦痛を味わっ
  た。
 1 第一には、戦争によってもたらされる原告ら自身の生命、身体に対する侵
  害への恐怖と不安である。
   すなわち、戦争は一旦戦争状態に陥るとこれが拡大する危険性を常に孕ん
  でいることは歴史的事実が物語るところであり、また、現代における戦争が
  一般国民をも直接巻き込んだ形で行われ、戦争による一般国民の被害が直接
  的かつ膨大なものになるということは、過去二度の世界大戦の経験からして
  明らかである。さらに、このような一般国民に対する膨大な被害を端的に象
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  徴しているのが核戦争である。核戦争のもとでは、戦争当事者のみならず全
  世界的規模に於ける戦争被害が発生するのである。
   現に、今回の湾岸戦争において発生した石油の流出による海洋汚染は人類
  の生命体系に深刻な影響を及ぼすものであるし、多量の石油燃焼がもたらす
  大気汚染、核使用による人類破滅への脅威、そして、原子力発電所への爆撃
  による放射能汚染の可能性が現実の問題として論議されたのである。
   このように、戦争は、一般国民に膨大な被害を生じさせるのであるから、
  戦争の一方当事者に加担した被告国の行為は、原告らを含む日本国民を戦争
  に巻き込み、その結果原告らの生命・身体を危険に曝すことに他ならない。
   この結果、原告らは、その生命・・身体への侵害についての恐怖と不安を、
  日々の生活において感じることになったのである。
   平和的生存権は、戦争が一般国民に対して直接被害をもたらすものである
  ことの自覚から、平和と人権の密接不可分性が認識されるに至って実定法化
  された経過に鑑みれば、戦争に加担することは即ち、国民をしてその全ての
  権利を奪われるかねないという精神的苦痛を強いることとなるのである。
 2 第二には、被告国が戦争に加担することによって、原告らは必然的に人間
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  に対する殺戮を強要され、そのことによって感じる良心の呵責である。
   すでに述べたように、平和的生存権は、自ら平和に生きる権利とともに、
  何人の生命・身体をも侵害しないという権利(殺さない権利等)を保障する
  ものであって、このことによって平和的生存権は真に保障されるのである。
   かつて、戦争によって日本国民が味わった肉親・友人そして同胞を失うこ
  との苦しみを何人に対しても味合わせたくないという心情、そして戦争によ
  る殺戮には絶対に加担しないという良心の宣言が、平和的生存権の内容とし
  てあることは既に述べたとおりである。現に、湾岸戦争によって多くの生命
  が失われ、多くの人々が身体的・精神的苦悩を受けており、原告らは被告国
  の戦争加担によって、殺戮と破壊の加害者になることを強要されたのである。
  そしてその結果として原告らはその精神的苦痛を否応なく感じさせられてい
  るのである。
 3 このように、原告らは被告国の行為によって、自らの生命・身体に対する
  侵害への恐怖・不安、そして他人の殺戮に加担することに対する良心の呵責
  という深い精神的苦痛を味合わされているのである。
 4 被告国の九〇億ドルの支出の実施は、前述したとおり原告らの納税者基本
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  権を侵害し、原告らが実際に納めた税金が平和的生存権を侵し違法に使用さ
  れることから利益を侵害された。
 二 損害の重大性
   右のような原告らの精神的苦痛は極めて重大である。
   生命に対する権利は絶対的で取り消し不能かつ不可侵のものであることは
  自明である。平和的生存権の侵害は、原告らにとって自らの生命への危険を
  もたらすと同時に、他国の人民の生命侵害に加担せしめられるのであるから、
  この権利の侵害によって受ける原告らの精神的損害は、人間として生きる上
  での最も基本的かつ重大なものというべきである。
 三 侵害行為の態様について
   被告国は、原告らの重大かつ基本的な権利である平和的生存権並びに納税
  者基本権を侵害するに際して、心ある研究者、言論人、政党その他、平和を
  愛する人たちの違憲違法の指摘に敢えて耳を貸すことなく、故意に「戦争加
  担」行為を行うことによって、原告らに損害を発生させているのであって、
  その侵害行為の違法性は高い。
 四 以上のとおり、原告らは、被告国の行為によって、右記損害を受けた。し
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  たがって、その精神的損害は計り知れないほど大きい。
   原告らは被告国に対し、その損害のうち各金一万円を請求する。

第七 まとめ
   本日、原告らは湾岸戦争開戦一周年に当たるこの日に、本提訴におよぶ。
   この一年を振り返ってみれば、湾岸戦争が日本国憲法の恒久平和主義の理
  念に深刻な影響を及ぼしたことが明らかである。「国際貢献」の名のもとに、
  自衛隊の海外派兵が公然と呼号され、政府は「多国籍軍」への戦費を支出し、
  掃海部隊の湾岸への派遣を実施したばかりか、従前の憲法解釈を公然とかな
  ぐり捨てて、PKO協力法案を国会に上程し、自衛隊を海外の紛争地域へ派
  遣する立法作業を進めるに至っている。
   原告らは、このような「平和憲法の危機」の状況下にあって、あらためて
  「恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚」
  し、「平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しよう
  と努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと」念願して、本
  訴訟を提起する。それは、主権者たる国民の「責任」と「義務」の履行の一
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  端でもある。

          証 拠 方 法

口頭弁論において提出する。

          添 付 書 類

一 訴訟委任状                   一六九通

     一九九二年一月一七日

            右原告ら訴訟代理人代表
            弁 護 士  池田真規

東京地方裁判所 御中
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