[市民平和訴訟の会・東京]最終準備書面:序章
(注)原告及び証人の個人名は「*」で置き換えてあります。
平成三年(ワ)第二六一一号
平成三年(行ウ)第九〇号
平成四年(行ウ)第六号
平成六年(ワ)第六三九号
原 告 ***** 外 一〇六六 名
被 告 国
一九九六年二月七日
原告ら訴訟代理人代表
弁 護 士 加 藤 朔 郎
東京地方裁判所民事第二部 御中
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序 章 本件訴訟の憲法訴訟としての特別の意義
一 憲法第九条の規範の歴史的・国際的・普遍的価値
憲法第九条の規範は、戦争による惨禍を経てきた人類が、この戦争の惨禍を
繰り返さないために、武力によらざる国際紛争の解決への道を模索するなかで
到達した現代における最良の規範である。
憲法第九条の規範は核兵器の登場した現代における人類が生き残るための唯
一の道を示す規範であり、普遍的価値を有する。
日本国民は、この普遍的価値を「全世界の国民は平和に生きる権利を有する」
と憲法に規定することによって公的に確認したものと言うことができる。
歴史的にみれば、憲法第九条の規範は、今世紀に入り第一次世界大戦を経て
無差別戦争観から戦争違法観への戦争観の展開や、不戦条約から第二次世界大
戦を経て国連憲章へと発展した戦争観の発展の歴史の延長線上にあり、また、
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一九世紀後半以来の戦時国際法による戦争の手段の規制(戦闘外に置かれた者
へ不必要な苦痛を与える兵器の禁止など)及び戦争の方法の規制(攻撃の軍事
目標主義、市民を巻き込む無差別攻撃の禁止など)から更に進んで、第二次世
界大戦後に顕著となった戦闘外に置かれた者の人権保障を基本に考える国際人
道法への国際法の発展の歴史を背景にしていることも明らかである。
国家間の戦争がその規模において世界的となり、武器の発達において人類の
滅亡を可能とする終局兵器(核兵器)が登場するに及んで、国際紛争を武力で
解決しないという規範を人類が確立しない限り、人類は自滅することが現実的
となった以上、憲法第九条の普遍的価値はもはや疑う余地はない。
二 最悪の湾岸戦争に協力した日本政府
1 湾岸戦争は憲法第九条に対する否定であり挑戦であった。
米ソ和解による世界の人々の恒久平和への期待と夢を乱暴に粉砕したのが湾
岸戦争であった。アメリカを中心とする多国籍軍は、イラクの侵略に対し短期
間に五〇万人以上の軍隊を出動させ、侵略軍を国境線まで排除するだけに留ま
らず、逃亡するイラク軍隊の退路を遮断して殺戮の限りを尽くし、侵略国イラ
クの国家の存立の基本にかかわる社会的機能までも破壊し尽くす集中豪雨的攻
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撃を展開し、無差別大量殺戮を強行したのである。
この米国主導の湾岸戦争は、国際紛争を最大限の武力行使によって解決する
という国家意思を世界に誇示する政治的キャンペ−ンであった。それは戦争の
惨禍を繰り返すことを避けるために、国際紛争を武力で解決しない方向へと進
んできた人類史の流れに逆行する、理不尽極まるものであった。それはまた人
類の平和と生存に対する犯罪であり、憲法第九条の国際紛争を武力で解決しな
いという平和原則を真向から否定するものであり、全世界の国民の平和的生存
権への挑戦であった。
2 米国は何故このような乱暴な武力行使を強行したか。
@ 米ソ和解による恒久平和の実現を恐れる産軍複合体の戦争願望
それは、まず米ソ対立によって、大規模な軍事行動を予定して極端に肥大
化した西側の産軍複合体が、その存立の根拠を失うことを恐れた結果、大規
模な軍事紛争を仕掛ける必要に迫られたこと。
A 国際石油資本の中東の石油資源の武力による確保の要請
一九八〇年のカ−タ−米大統領が年頭教書で言明した政策に基づき、今後
とも、中東の石油の安定的かつ安価な供給を継続するために、これを妨害す
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る国に対しては武力行使も辞さないとして、中東地域に展開するための二〇
万人の中央軍の創設計画を立て、一九九〇年にはその計画は完成して中東へ
の出動戦闘準備が完了し、出動命令を受けるばかりの態勢にあったこと(こ
れについての詳細は既出の原告準備書面四を参照)。
B 米ソ和解後の世界の警察官としての米国のキャンペ−ン
米国は米ソ和解後の唯一の世界の警察官として、今後生ずる地域紛争にお
いて、平和的解決ではなく、核戦略体制を基本とする圧倒的軍事力を行使す
るという米国の強い意思を湾岸戦争によって世界に誇示したのである。
このような戦争に加担することに如何なる正当性も合法性もないことは明
らかである。
三 湾岸戦争と新たな自衛隊合憲論の登場
米ソ和解によってその存在理由を失っていた自衛隊合憲論者にとって、湾岸
戦争は地獄に仏の救世主であった。湾岸戦争は、新たな自衛隊合憲論の登場の
引金となったのである。それは、地域紛争への軍事的国際貢献は普通の国家と
しての当然の義務であり、自衛隊がこれに参加するのは国際的任務であるとい
う正義の装いをして登場したのである。
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「ソ連脅威論」に代わって「国際的軍事貢献論」が新たな自衛隊合憲論の根
拠として登場した。それは、地域紛争を平和解決ではなく、最大限の武力を行
使によって解決することしか考えない軍事大国の最悪の戦略に巻き込まれた、
特殊政治的現実を無批判に受入れた上での自衛隊合憲論である。
憲法第九条の普遍的価値が国際的に通用する絶好の機会を、日本政府は世界
史の流れに逆行して、憲法第九条の普遍的価値を愚かにも無視し、放棄したの
である。
彼らは、憲法第九条の国際紛争の平和解決の原則に対し、一国平和主義だと
か軍事的国際貢献を拒否するものであるなどと悪罵の限りを尽くて、これを機
会に一足飛びに違憲の自衛隊の公然たる海外派遣へと飛躍したのである。
しかし、憲法第九条が如何なる戦争にも加担することを許さないことは明ら
かである。憲法第九条は一国平和主義では成り立たない。それは多国間国際平
和主義であり、これを多国間に採用して国際紛争解決の原則とすることが真の
国際貢献である。
四 米ソ和解後の政治状況のもとでの本件訴訟の特別な意義
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1 米ソ和解後の今こそ国際紛争は戦争ではなく憲法第九条による平和的解決を
湾岸戦争に九〇億ドルを拠出した政府の行為及びペルシャ湾に掃海艇を派遣
する行為は、戦争への事実上の加担であり、憲法第九条の普遍的価値に照らし、
許されないことは明らかである。
米ソ対立による核戦争を含む武力紛争の危機に常に脅かされていた世界にお
いて、米ソの和解は世界に恒久平和への期待と夢を与えたのであった。米ソ対
立の故に、国際紛争を武力で解決することを否定し戦力の放棄を宣言した憲法
九条の規範が無視されてきたのが、米ソの対立の解消によって、まさに憲法九
条による規範によって国際紛争が解決されるという原則が世界に通用する時代
が到来したのであった。
ところが湾岸戦争は、この人類の夢と期待を乱暴に粉砕するという最悪の政
治選択をしたのであった。そうして、日本政府はこの最悪の湾岸戦争に加担し
た。これは、憲法第九条の規範の普遍的価値を真っ向から否定するものであっ
た。
本件訴訟は、この政府の湾岸戦争加担行為に対し、多くの目覚めた市民達が
自然発生的に反対運動に立ち上がって、政府の行為を弾劾し、政府の戦争加担
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行為の差止を請求し、また政府の戦争加担行為により原告(国民)の平和的生
存権と納税者基本権が侵害されたとして損害賠償を請求したものである。同様
な市民による湾岸戦争加担を違憲とする訴訟は、名古屋、大阪、広島、鹿児島
の各地においても提起された。続いて、PKO法に基づく自衛隊のカンボジア
派遣に対しても同様な理由で差止め請求・損害賠償請求訴訟が提起されている
のである。
2 本件訴訟の憲法訴訟の歴史における特別の重要な意義
本章の冒頭に述べたように、憲法第九条の規範は、戦争による惨禍を経てき
た人類が、戦争の惨禍を繰り返さないために武力によらざる国際紛争の解決へ
の道を模索してきたなかで到達した現代における最良の規範であり、核兵器の
登場した現代における人類が生き残るための唯一の道を示す規範であり、普遍
的価値を有する。
しかるに、侵略戦争を支えた旧き精神的・思想的土壌をそのまま戦後に承継
した日本の政府は、特に米ソ対立の時代は米国の戦略に基づく政治的要請を受
け入れて、再軍備政策を強行し憲法第九条の規範の普遍的価値を無視してきた。
その後、米ソ対立が解消したことによって、憲法第九条の規範の普遍的価値
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を世界に広めることに障害がない政治状況が生まれたにもかかわらず、日本政
府は憲法の普遍性を世界に訴える代わりに、憲法と全く相容れない最悪の湾岸
戦争に積極的に加担するという大罪を犯すに至ったのである。
本件訴訟は、日本政府のこのような憲法上許すことの出来ない、しかも米ソ
対立時代においてでさえ出来なかった極東の範囲を遥かに越えた中東にまで自
衛隊を派兵するのみならず、最悪の湾岸戦争に巨額の戦費を提供するという戦
争加担行為を違憲として告発する訴訟である。
また、本件訴訟は、湾岸戦争における米国の政治的選択とこれに協力した日
本政府の行為が、核兵器の登場した現代における人類共通の最良の規範に反す
るものであることを明らかにし、憲法第九条の規範の普遍性を世界と後世に訴
える意義を持つものでもある。
裁判所は憲法の番人としてその職責を果たして頂き、後世に悔いのない憲法
と良心にしたがった公正な判断をすることを望むものである。
3 憲法判断回避は許されない
以上のように日本国民の真摯な願いを代弁する原告らの望むのは貴裁判所の
堂々たる憲法判断である。ところが憲法第九条訴訟において特に顕著なことは、
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裁判所が自衛隊に対する憲法第九条に基づく判断を回避する一般的傾向である。
自衛隊の憲法第九条適合性が争われた過去の主な憲法第九条訴訟において、
自衛隊の憲法第九条適合性について正面から判断したのは、長沼ナイキ基地訴
訟の第一審の判決(自衛隊違憲)だけである。
それ以外の自衛隊に関する憲法第九条訴訟の判決は悉く自衛隊の憲法第九条
適用とその判断を回避した。
これは憂慮すべき司法状況である。つまり、憲法で明示されている最優先的
に尊重されるべき普遍的価値が、特殊な政治的事実のために司法の名において
無視されるという現実が一般的傾向として定着していることの重大性である。
しかも、その重大性を司法自身が認識していない、という悲劇である。
個々の裁判官が「良心に従い、独立して職権を行い、この憲法及び法律にの
み拘束される」(憲法第七六条三項)という憲法上の裁判官の義務に忠実に従
って裁判をすれば、このような政治的特殊性の現実を憲法の普遍的価値に優先
させる点で一致した裁判傾向が生ずることはあり得ないはずである。
本件訴訟においても貴裁判所が原告に損害がないなどという暴論をとり憲法
判断を回避することのないよう念のため申し添えるものである。
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