[市民平和訴訟の会・東京]最終準備書面:第9章
(注)原告及び証人の個人名は「*」で置き換えてあります。
丸付き数字はカッコと数字に置き換えてあります。
第九章 納税者基本権
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第一 納税者基本権は実定法上の権利である。
原告らは、日本政府が戦費を支出し、あるいは掃海部隊をペルシャ湾に派遣
たことが、原告らの納税者基本権を侵害するものであること、そして納税者基
本権の実定法上の根拠、その意義と主体、権能について準備書面(三)におい
て細に主張した。そして、********教授の二回にわたる証言により、
納税者基本権の権利性が完全に明らかにされた。
一 租税国家体制
我が国を始め近代国家は、一国の財政収入のほとんどを租税に依存する体制
をとっている。この場合の租税には狭義の租税(所得税・法人税・相続税等の
国税、住民税・固定資産税等の地方税、また直接税と間接税を問わない)ばか
りでなく、社会保険料、公共料金等を含み、国債・地方債も結局国民の負担と
なるので、かたちを変えた租税である。
このように、租税収入のみをもって国家の財政をまかない、運営する体制を
租税国家体制という(****証人第二回調書第二回)。
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二 租税国家における租税概念
日本国憲法は当然のことながら租税国家体制を前提にしている。つまり、国
家は国民から租税を徴収し、租税を使うことが政治(仕事)のすべてである。
租税国家においては、租税のとり方と使い方とが実質的に憲法政治の内容を決
める。憲法三〇条は「国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ」
と規定している。ここに言う「法律」とは税金の使い方(歳出)に関する法律
と、同時に税金の取り方(歳入)に関する法律である。従って、日本国憲法は
租税概念を歳出と歳入を統合したものとして規定している(**証人第一回調
書二〇項)。
三 納税者基本権の意義
前述のとおり、日本は租税国家体制をとっているから、憲法の全条項が租税
の取り方と使い方を決めたものであり、納税者は憲法に従って自らの納税した
税金が使われるということを前提にして、その限度で、そして憲法の規定する
ところに従って納税義務を負うという権利、換言すれば「憲法の規定するとこ
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ろに従って自分たちの税金が使われることを要求する、あるいは税金の取り方
についても憲法の規定するところに従って徴収するよう要求する権利」を持つ、
これを納税者基本権というのである(同第一回調書一八項)。
納税者基本権は、納税者(タックスペイヤー)という憲法上の地位について
生ずる自由権、社会権等の集合的な権利概念である(同第一回調書一九項)。
四 納税者基本権の実定法上の根拠
1 日本国憲法は、租税国家体制を前提としており、憲法の全条項は税金の取り
方と使い方を決めたものである。憲法の規範原則は、徴収した税金の使い方に
関する規範原則であり、憲法の諸条項は実定法的な法的拘束力を有する(第二
回調書六項)。
2 憲法三〇条は無条件で納税義務を規定したものではなく、あくまでも税金の
取り方と使い方を一体として理解し、かつ前述した租税概念(税金のみならず
社会保険料や公共料金、国債等を含む)を前提として、憲法に適合した法律に
従ってのみ納税義務を負うことを規定している。
従って、税金の使い方については、憲法の規範原則に基づいて国民が納税し
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た税金が使われるということを憲法三〇条は国民に約束したものである。
また、国民は能力に応じて税金を負担し、適正手続きの法理に従って税金を
負担するということを憲法三〇条は規定している。
右のような憲法三〇条の文理解釈から納税者基本権は導かれる(同第二回調
書七項)。
3 憲法八三条(財政議会主義)、八四条、八九条等の財政に関する諸条項は財
政民主主義を規定している。また、国民主権の下においては憲法の全条項は税
金の使い方を全部規定しているのであって、すべての租税は憲法上は目的税の
一種である新福祉目的税であり、福祉の目的以外に租税は使わないという前提
で国民は納税義務を負っている。納税者は決して無条件で納税義務を負ってい
るのではなく、自分たちの納税した税金が自分たちの生活をよくするための福
祉に還元される(租税利益説)ことを前提として納税義務を負うのである。
さらに、憲法三〇条「法律の定めるところにより」という規定は、単に形式
的な徴収段階の適正手続きを保障しているのではなく、税金の使い方という実
体的適正を含む適正手続きを保障した規定である(同第二回八項)。
これらの様々な条項を総括して納税者基本権は基礎づけられる。
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4 以上のとおり納税者基本権は日本国憲法に実定法上の根拠を有する。
五 納税者基本権の主体
1 納税者基本権の主体は、言うまでもなく納税者である。納税者の観念は種々
の意味で使われるが、憲法上、租税を負担する納税者であり、形式的な意味で
の納税者に限定しない。例えば、間接税についても、明らかに租税を負担した
ことを証明できれば、間接税を含めて納税者基本権の主体としての納税者であ
る。
従って、所得税とか相続税、固定資産税、住民税とか国税地方税を問わず、
税法上の直接税と考えられる租税を納税した者はすべてここでの納税者であり、
消費税であってもそれを納税したことを証明できさえすれば納税者である。
2 更に、前述のように我が国は租税国家であるから、社会保険料や下水道負担
金等は経済学的には税外負担といわれるものであっても憲法上の租税概念であ
り、これらを負担したことが明確な者も納税者基本権の主体となる(同第一回
調書二二項)。
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第二 政府による納税者基本権侵害の態様
一 本件訴訟において原告らが問題としている政府の行為は、九〇億ドルの戦費
の支出とペルシャ湾への掃海部隊の派遣である。そして、これらの行為が憲法
の基本原理である恒久平和主義に違反することは明らかである。
このような憲法違反の行為が政府によって行われた場合、納税者にいかなる
不利益が生ずるであろうか。納税者基本権の侵害の態様は次のとおりである。
二 まず、相対的に各納税者の納税義務の負担が経済的に増大する。つまり政府
が湾岸戦争の戦費として九〇億ドルを支出した結果、納税者は本来負担すべき
税額よりも多額の税金を負担したことになる。違憲の租税支出がなされると、
経済的な意味で一人当たりの税負担額が増大するのである。
次に、九〇億ドルを憲法に違反する戦費にではなく、憲法が要求する福祉目
的に使われたのであれば、納税者に還元された筈である。その還元される筈の
経済的利益を享受することができなかったという経済的損失が生ずる。
そして、三番目に政府が戦費に支出したことにより、自分の納税した税金が
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戦争に使われ、殺人行為が行われたということにより、極めて大きな精神的苦
痛を与えられ、また人生観・思想信条が傷つくということである(同第二回調
書一一項)。
第三 納税者基本権侵害に対する納税者の権利行使の方法
政府が憲法に違反する目的のために租税を支出した場合、そのような行為は
納税者基本権(納税者は憲法に適合するところに従って租税を徴収し使用する
ことを国に要求する権利)を侵害するものであり、かつ納税者の経済的利益を
積極的、消極的に侵害し、あるいは納税者に精神的苦痛を与えるのであるから、
納税者は違憲の目的に租税を支出することの差止を請求することが許され、ま
た違憲の目的のために支出された後には損害賠償請求訴訟を提起することが可
能である。
また、違憲の目的に対応する分については課税処分が違法であるから、課税
処分の取消訴訟を提起することもできる(同第二回調書一一項)。
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第四 被告国の反論に対する反批判
被告国は、原告らが納税者基本権を主張して本件訴訟を提起したことにつき、
納税者が違憲の国費支出を争って訴えを提起するこことを認めた法律は存在し
ないから、不適法な訴訟であるという反論をしている。つまり、本件は納税者
訴訟であり、客観訴訟であるというのである。
しかしながら、**証人は右のように証言しているばかりでなく、「多国籍
軍への支援と財政民主主義」(同証人著・納税者基本権論の展開・三省堂刊)
においてさらに詳しく、違憲・違法な国費支出を争う納税者の訴えは民衆訴訟
ではなく、通常の主観訴訟として出訴が可能であるとされる(右論文一三頁)。
「筆者は、・・・、日本国憲法のもとでは租税の徴収面と使途面を統合した
租税概念を前提にして納税者は納税者基本権が保障されていると解している。
これによれば、違憲・違法の租税の支出はその限度で彼の納税者基本権を主観
的に侵害することを意味する。それゆえ、客観訴訟である民衆訴訟を許容する
特別の法律の規定がなくても、納税者は右の権利侵害を理由として主観訴訟と
しての通常訴訟を提起する資格を有することになる。・・・
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右の理論構成とは別に、日本国憲法七六条一項の『司法権』はアメリカ合衆
国流の司法権の考え方を踏襲しているという前提に立って、つぎのような指摘
がある。すなわち、アメリカ合衆国流の司法権概念とは、合衆国憲法三条二節
一項が司法権の行使について定めるcase or contoroversy(「事件性」、「具
体的争訟性」)に関して司法権が行使されるということである。日本国憲法の
『司法権』の意味も右のアメリカと同趣旨に解すべきであり、そうでばする財
政上の支援について、現行法のもとでも通常訴訟の形で司法的統制を行うこと
ができることとなる」
そして、神戸大学の棟居快行教授及び浦部法穂教授も、**教授と同様に、
原告らのような訴えを客観訴訟であると批判する国の考え方を誤りであると述
べている。
__________(224ページ 終り)__________
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