[市民平和訴訟の会・東京]控訴審・準備書面(2)

(注)・原告の個人名は「*」で置き換えてあります。
   ・丸数字はカッコと数字に置き換えてあります。



平成八年(行コ)第五九号
戦費支出違憲確認等請求控訴事件

                控  訴  人    *****
                            外一八六名

                被 控 訴 人    国

   一九九七年三月一一日

                控訴人ら訴訟代理人代表
                弁  護  士    加藤朔郎

 東京高等裁判所 第四民事部御中

            準  備  書  面  (二)

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第一、戦争加担行為に触れない原判決
一、本件は、被告国の戦争加担行為について違憲の判断を求める訴訟である。
   憲法第九条を創設し平和的生存権を宣言する日本国憲法が成立して以来、初
 めて国が行った実質的「参戦行為」を、その憲法の恒久平和主義の理念に照ら
 して断罪する訴訟である。
  原告はその請求原因として、湾岸戦争が憲法第九条にいう国際紛争を解決す
 る手段としての国権の発動たる戦争ないしは武力の行使に当たるとしたうえで、
 被告国の湾岸戦争への加担の態様を、九〇億ドル相当の戦費の支出と、掃海部
 隊のペルシャ湾への派遣とに分けて詳細に主張している。
   訴訟の常道として、右の請求原因に関して、被控訴人(原審被告)の認否反
 論を求めたうえ、右請求原因事実についての証拠調べが行わなれなければなら
 ない。
二、請求原因事実の証拠調べを通じて、まずもって明らかにされなければならな
 いのは、我が国が加担した湾岸戦争の実態である。
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   この戦争の背景、原因、戦闘当事者の意図、その回避可能性、戦闘行為の経
 過と実態、過剰な殺戮、民衆への違法な加害、環境への影響、国際法的な評価
 等々、我が国の現行憲法が成立以来初めて加担した戦争の性格を余すところな
 く明らかにする必要がある。これによって、湾岸戦争が憲法第九条に禁止され
 た「戦争」あるいは「武力の行使」に該当することが明らかとなる。
   さらに、当該の戦争に対する我が国の具体的な加担の態様が明確にされなけ
 ればならない。九〇億ドル(邦貨にして一兆一千七百億円)もの戦費支出は誰
 からどのように要請されたのか。その金額はどうして算出されたのか。その巨
 費はどのようにして捻出され、誰の手に渡ったのか。何のために使われたのか、
 誰がどのように費消したのか。この金がいったい何人の殺戮に貢献したのか。
 その使途は、どのように検証されたのか。
  また、掃海部隊とは何か。我が国の掃海部隊の装備。掃海部隊は、何を目的
 に、どこで何をしてきたのか。掃海(啓開)とは戦闘行為そのものではないの
 か。「我が国船舶の航行の安全のための喫緊の必要」という理由付けの真っ赤
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 な嘘。掃海海域はイラクの領海を含むのではないか。他国の領海内の掃海がど
 のような根拠で可能であるのか‥。
   証拠調べによって、これらの諸事実を明らかにすることが、受訴裁判所の責
 務というべきである。
三、しかし残念ながら、原審裁判所は湾岸戦争の実態や我が国の加担態様に関す
 る証拠調べを十分に行うことなく、判決理由においてもこの点に触れるところ
 がなかった。
   原審裁判所の立場は、平和的生存権及び納税者基本権の裁判規範性を否定す
 る以上、戦争の実態や戦争加担についての事実認定の必要はない、況やその憲
 法的評価においておや、というものである。
   平和的生存権や納税者基本権の裁判規範性に関しては、前回準備書面におい
 て述べたところであるが、本準備書面においては別の角度から実態審理と違憲
 判断の必要性を述べる。以下のとおり、原審裁判所は、湾岸戦争の実態と我が
 国の加担態様についての証拠調べを尽くした上、被告における戦費支出と掃海
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 部隊派遣行為の違憲性を宣言すべきであった。
  そして今、その責務は当審を担当される貴裁判所にある。 

第二、請求原因事実判断の順序について
一、原審裁判所の平和的生存権や納税者基本権の理解を前提とした場合、憲法判
 断は不可能だったであろうか。
  実は、そのようなことはあり得ない。平和的生存権や納税者基本権の裁判規
 範性を否定する立場に立った原審裁判所においても、湾岸戦争の実態について
 審理を尽くし、我が国の戦争加担の事実認定をして、その合違憲の判断に踏み
 込むことは可能であった。にもかかわらず、原判決は、敢えて十分な実体審理
 を避け、違憲判断を回避したのである。
二、審理においても判決書理由記載においても、その一事の判断をもって請求棄
 却となるべき事由がある場合に、まずその請求原因に対する判断をして請求を
 棄却すべしという原則は存在しない。「その余の判断をなすまでもなく」と、
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 結論に関連しない請求原因事実の判断を放棄することが、常に正しい審理や判
 決のあり方とは限らないのである。
  むしろ、一連の各請求原因事実に関して、請求権の存在の根拠となる事実に
 関しての、論理的な順序に即して判断していくことが常識的な審理や判決のあ
 り方であり、裁判所への国民の期待に添う所以でもある。それによってこそ、
 裁判を通じて訴訟当事者間の権利の有無を明らかにするというだけでなく、結
 論に至る法的論理を明確化して多くの国民の納得を得るという、重要な司法の
 役割を全うすることができるというべきである。
三、以下に、そのような論理を展開している典型的な判決例を掲記する。
 いずれも、結論としては棄却の判決であるが、その審理も判決理由記載も、棄
 却の結論に至った判断だけに終わることなく、直接には結論に結びつかないも
 のの、原告が提起した重要な法的問題に真正面から取り組み、理由中でその判
 断をしているものである。
   いわば、原告からの問題提起を受け止め、その判断を回避しなかった判決で
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 ある。

第三、東京都カラ接待事件
一、現に原審裁判所自身が、ごく最近このような理を意識した判決を言い渡して
 いる。
   報道によれば、本年一月二一日東京地方裁判所民事第二部(富越裁判長)は、
 東京都の違法接待費用の返還を求める住民訴訟について判決を言い渡した。
   まだ判例集に登載されていないので詳細は明らかではないが、毎日新聞は
 「都のカラ接待  支出の違法性認める  東京地裁『すでに返還』訴え棄却」と
 の見出しで、次のとおり伝えている。
   「東京都の官官接待をめぐり、東京フロンティア推進本部が作成した公文書
 に虚偽の記載があるとして、市民団体代表が当時の幹部に接待費用約一三〇万
 円を都に返還するよう求めた訴訟で、東京地裁(富越和厚裁判長)は二一日
 『使途について日時や金額が真実と相違し、隠蔽されていた』と、事実上違法
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 な支出だったことを認めた。その上で、費用がすでに返還されていることを理
 由に訴えを棄却した。
  訴えていたのは『世田谷行革一一〇番』の後藤雄一代表。都側は、問題にさ
 れた一九九三年の計七回の官官接待で文書が全て虚偽だったことを認め、都の
 幹部職員らが昨年一一月、この件を含め九三から九五年度の三年間に支出した
 会議費(食料費)のうち、不正経理が行われた約八億円分を返還していた。
   判決は、『本件支出は使途の日時、金額などが真実と相違しており、支払い
 自体は隠していなかったとしても、ことさら隠蔽されていた』と指摘。
  毎日新聞の報道をきっかけに後藤代表が出した監査請求には『正当な理由が
 ある』と判断した。しかし、すでに支出命令が取り消され、返還されたことを
 受けて『本件支出そのものが違法であったとしても、請求の理由はなくなった』
 と結論づけた」
二、右の事件において、裁判所は「不法行為の要件としての損害がなくなったの
 だから、当該接待の有無や支出の違法性を判断するまでもなく請求を棄却する」
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 と、木で鼻を括った判決を書くことも可能であった。
  しかし、右の報道のとおり、同裁判所は実際にはそうしていない。結論とし
 ては請求棄却しながらも、理由中で支出の違法性を認め、当該支出についての
 報告書の虚偽や都の支出隠蔽の事実までを認定している。純粋に訴訟経済の観
 点からすれば、「無駄なこと」をしているのである。
   前述のとおり、訴訟の役割は単に訴訟において主張される請求権の存否を機
 械的に判断することにつきるものではなく、訴訟や判決を通じて法的正義の所
 在を明らかにすることが期待されている。右の判決が、カラ出張の事実を認定
 しこれを違法と判断したことは、決して無駄なことではなく、司法が果たすべ
 き役割の一端として、国民の期待に裁判所が応えたものと評価されるべきであ
 る。
三、これを本件に当てはめれば、原判決は木で鼻を括った請求権の有無の判断を
 先行して却下・棄却すべきではなかった。
  原審裁判所においては、まずもって湾岸戦争の実態と我が国の加担の態様を
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 明らかにしその違憲違法を判断することが可能であった。のみならず、司法に
 期待された役割に鑑みれば、原審裁判所が採るべき審理と判決のあり方は、湾
 岸戦争加担の違憲違法の判断をなすべきであった。

第四、「原爆訴訟」
一、このような立場をさらに鮮明にしている判決のひとつとして、著名な「原爆
 訴訟」判決(一九六三年一二月七日東京地裁民事第二四部言い渡し、判例時報
 三五五号一七ページ)を挙げることができる。
   同事件は、下田隆一氏ら広島・長崎の被爆者五名が原告となり、国を被告と
 して原爆による被害の損害賠償を求めたものである。原告の主張の骨格は以下
 のとおりである。
  広島・長崎の原爆投下は国際法・国内法に違反する違法行為である。従って、
 本来原告らは原爆を投下した米国及びトルーマンに対して、被爆による損害の
 賠償請求権をもつ。ところが、国は対日平和条約(サンフランシスコ講和条約)
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 第一九条a項において、「戦争から生じ、又は戦闘状態が存在したためにとら
 れた行動から生じた連合国及びその国民に対する日本国及びその国民の全ての
 請求権を放棄」してしまった。この条約締結による原告らの請求権の放棄は国
 の違法な行為であって、その結果各原告の請求権相当額の損害が生じた。これ
 を国家賠償法に基づいて損害賠償する。
二、この原告の主張に対して、判決はどう応えたか。
   判決理由の第一項は「原子爆弾の投下とその効果」と標題して、原爆投下の
 事実とその被害の実態、原子爆弾の科学的原理と殺傷力、爆風・熱線・放射線
 の有害性の特徴について詳述する。その上で、「このように、破壊力、殺傷力
 において、従来の兵器より遙かに大きいだけでなく、人体に種種の苦痛ないし
 悪影響をもたらす点において、原子爆弾は従来のあらゆる兵器と異なる特質を
 有するものであり、まさに残虐な兵器であるといわなければならない」と結論
 づける。
  判決理由の白眉は、第二項「国際法による評価」である。同判決は紙幅を割
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 いて、一九〇七年第二次ハーグ陸戦規則を中心とする諸条約と、国際慣習法の
 解釈を確定した上で、これを原爆投下に当てはめて次のとおりの画期的な判断
 を示している。
  「原子爆弾による爆撃が仮に軍事目標のみをその攻撃の目的としたとしても、
 原子爆弾の巨大な破壊力から盲目爆撃と同様な結果を生ずるものである以上、
 広島、長崎両市に対する原子爆弾による爆撃は、無防守都市に対する無差別爆
 撃として、当時の国際法から見て、違法な戦闘行為であると解するのが相当で
 ある」
  「原子爆弾のもたらす苦痛は、毒、毒ガス以上のものといっても過言ではな
 く、このような残虐な爆弾を投下した行為は、不必要な苦痛を与えてはならな
 いという戦争法の基本原則に違反しているということができよう」
   以上のとおり、右判決は広島・長崎における原爆投下は国際法違反であると
 断定しているのである。
三、しかし、結論において同判決は、原告の請求を棄却する。個人が国際法上の
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 主体であると考える余地がないことが実質的な理由である。
  同判決は、原子爆弾による爆撃が国際法に違反するとの明言に続けて、「国
 際法上違法な戦闘行為によって被害を受けた個人は、(個人の国際法上の主体
 性を認めた条約の存在する場合など)例外の場合を除いて一般に国際法上その
 損害賠償を請求する途はない」とし、また「日本国の国内裁判所による救済は、
 これを求めることができない。なぜならば、被害者が相手国を被告として、本
 件でいえば原告らが米国を被告として、我が国の裁判所に訴えを提起すること
 になるが、国家が他の国家の民事裁判権に服しないことは国際法上確立した原
 則であり、我が国においてもこの原則を承認しているからである」という。
  つまりは、被爆者の請求権はそもそも存在しなかったというのであり、「さ
 すれば、原告らは喪失すべき権利をもたないわけであって、従って法律上これ
 による被告の責任を問う由もないことになる」と、請求権を放棄した被告の責
 任を否定したのである。
四、原告の請求を棄却した右の結論の当否は措くとして、注目すべきは、請求棄
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 却の結論であるにもかかわらず判決理由において、原爆投下の国際法違反が詳
 細かつ明確に述べられている点である。
   純粋に訴訟経済を貫徹する観点からは、請求棄却の結論を導くためは「原告
 らは国際法上の主体ではなく」「そもそも喪失すべき権利をもたない」という
 一事の認定だけでたりる。しかし、担当裁判所は、直接主文の結論に結びつか
 ない文脈(傍論)において、原子爆弾という人類が作り出した最終兵器の残虐
 性と、それゆえの国際法違反を渾身の力を込めて判決にとどめているのである。
 担当裁判官の良心の証を見る思いである。
   仮に結論においては棄却となるにせよ原告の提訴の意図を汲み、主文の論理
 に直接結びつくものでなくとも請求原因事実のうち肯定できるものは肯定しよ
 うとする積極的な姿勢を見ることができる。そのことは、裁判所に課せられた
 重要な責務の一端である。
   右事件判決の論理を採用するならば、本件の審理と判決において、受訴裁判
 所はまず湾岸戦争の実態を審理し経過を確定したうえ、国際法上の評価を明ら
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 かにすべきである。しかる後に、被告国の戦争加担行為を明らかにして、合違
 憲の判断をなすべきである。
   原告に提訴の資格があるか、また訴えの利益があるか等の判断は、しかる後
 でも差し支えないことを、右事件判決は教えている。

第五、岩手靖国違憲訴訟判決
一、さらに、理由中で明確な憲法判断をした事例として、岩手靖国違憲訴訟控訴
 審判決(一九九一年一月一〇日仙台高裁、判例時報一三七〇号三ページ)を挙
  げることができる。
   同判決は、靖国神社公式参拝の合違憲を争点とする甲事件と、地方自治体の
 靖国神社への玉串料支出の合違憲を争点とする乙事件の両事件についての判決
 である。同判決は、二事件とも明快に曖昧さを残すところのない違憲の判断を
 くだした。しかし、結論においては、二事件ともに原告(控訴人)らの請求を
 棄却している。主文こそ原告側の全面敗訴であるが、その理由中で詳細な憲法
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 判断に踏み込んで、靖国神社公式参拝も、岩手県から靖国神社への玉串料・献
 燈料名目の公費支出も憲法違反であることを明快に宣言しているのである。
二、公式参拝の合違憲判断をめぐる甲事件において原告側が問題とした「靖国神
 社公式参拝」は、現実に行われたものではない。一九七九年一二月一九日に岩
 手県議会で成立した「公式参拝促進要請決議」の中に出てくるものである。保
 守勢力が将来に実現を目指す、「まだ見ぬ公式参拝」を違憲として争ったのが
 同訴訟である。この決議に賛成の票を投じた岩手県議会の議員全員と、これを
 意見書に作成して東京に持参し内閣や衆参両議院などに提出した県議会議長が
 被告である。
  原告の主張の骨子は、「被告らは違憲無効な決議を成立させて岩手県に印刷
 費・交通費相当の支出による損害を被らせた。この損害は、本来岩手県が被告
 らに賠償請求すべきものであるが、地方自治法の規定に基づき原告らが県に代
 位して請求をする」というものである。求める判決主文は、「被告らは、岩手
 県に対して金七一、六五七円を支払え」というものである。
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  核心である憲法論上の争点は、天皇・閣僚らの靖国神社公式参拝が、憲法二
 〇条三項で禁止される「国の宗教的活動」に当たるか、または同条一項後段に
 いう「国の特権の付与」に当たるかというものであった。
  この争点に受訴裁判所は明確な「公式参拝は憲法違反」の宣告をした。裁判
 所は、最高裁の判例となっている目的効果基準の枠組で公式参拝の合違憲を次
 のように判断した。
  公式参拝の「目的」に関しては「参拝の目的が戦没者に対する追悼であって
 も、特定の宗教法人である靖国神社の祭神に対する拝礼という宗教的意義も有
 していると考えざるを得ない」。また、「効果」の点では「内閣総理大臣等が
 公的資格において靖国神社に赴いて参拝するということになれば、国またはそ
 の機関が靖国神社を公的に特別視し、あるいは他の宗教団体に比して優越的地
 位を与えているとの印象を社会一般に生じさせ、政教分離の原則から要請され
 る国の非宗教性ないし宗教的中立性を没却する恐れが極めて大きいといわざる
 をえない」として「天皇、内閣総理大臣の靖国神社公式参拝は、その目的が宗
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 教的意義をもち、その行為の態様からみて国またはその機関として特定の宗教
 への関心を呼び起こす行為というべきであり、しかも、右公式参拝がもたらす
 直接的、顕在的な影響および将来予想される間接的、潜在的な動向を綜合考慮
 すれば、右公式参拝における国と宗教法人靖国神社との宗教上のかかわり合い
 は、我が国の憲法の拠って立つ政教分離原則に照らし、相当とされる限度を越
 えるものと断定せざるをえない。したがって、右公式参拝は、憲法二〇条三項
 が禁止する宗教的活動に該当する違憲な行為といわなければならない」と判示
 した。極めて明快である。
  さらに、天皇の公式参拝について特に一項を起こし、戦前の「親拝」(天皇
 の参拝を特別にこう呼んだ)の模様に触れた上で、「もし、天皇の公式参拝が
 行われるとすれば、それにふさわしい方式と規模を考えなければならず、また、
 天皇が皇室における祭祀の継承者である点も考え合わせると、内閣総理大臣の
 それとは比べられないほど、政教分離の原則との関係において国家社会に計り
 しれない影響を及ぼすであろう」と重い指摘をしている。
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三、また、岩手県から靖国神社への玉串料奉納についても目的効果基準によって
 判断している。目的に関しては「玉串料等の奉納は、戦没者追悼という儀礼的、
 世俗的側面を有する。しかし、その 奉納は同神社の祭神に尊敬崇拝の念を表
 することを指向してなされるものであるから、多分に宗教的側面をも有してい
 るというべきである」とし、効果については「本件玉串料等は、特定宗教団体
 に、継続的に公金の支出を行うものであるから、一回の額が七〇〇〇円であっ
 ても、岩手県が靖国神社を特別視しているとの印象を社会一般に与える。仮に、
 本件支出が適法視されれば、二四六万余柱の英霊の追悼と遺族の慰藉を理由に
 多数の市町村が奉納に及ぶ事態も予想され、全国的規模では相当多額に上るこ
 とが想定される」「本件玉串料等の支出は、特定の宗教団体への関心を呼び起
 こし、その宗教的活動を援助するものと認められるから、政教分離の原則から
 要請される岩手県の非宗教性ないし中立性を損なうおそれがある」と判断する。
 従って、「右支出によって生じる、岩手県と同神社との関わりあいは、その波
 及的効果と諸般の事情を考慮すると、相当とされる限度を越えるものと判断す
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 るのが相当であるから、右支出は、憲法二〇条三項の禁止する宗教的活動に当
 り、違憲・違法である」と結論する。
四、では、なぜ主文において原告敗訴となったのか。まず、分かりやすいのは乙
 (玉串料)事件である。
  判決は、被告とされた岩手県知事と厚生援護課長の被告適格を認めながら、
 知事については、損害賠償責任を負うのは支出権限をもっている部下に対して
 監督責任を怠った場合に限るところ、この場合知事が支出に関与していたとは
 認められないから、怠慢とはいえない、と言う。
  また、課長の責任は、理屈の上からは認めなければならないことになるが、
 結審間際に岩手県は、「公務員の懲戒免除等に関する法律」に基づいて「昭和
 天皇の崩御に伴う職員の懲戒免除及び職員の賠償責任に基づく債務の免除に関
 する条例」を制定しているとしてその条例の効果を主張した。
  この条例は、「職員の賠償責任債務で昭和六四年一月七日(つまり前天皇裕
 仁の死亡の日)前における事由によるものは、将来に向かって免除する」とい
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 うもの。恩赦同様、君主の恩恵を国民に垂れることによって、その死を全国民
 (この場合は全県民)で悼むという発想によるものである。天皇制を俎上に乗
 せた裁判の途中に、被告側は天皇の死を奇貨として、原告の請求権は消滅した
 と主張したのだ。
  判決はこの条例による効果として、厚生援護課長の県に対する損害賠償責任
 が消滅したことを認めて、課長に対する請求を棄却した。
五、公式参拝訴訟(甲事件)の方はやや違った「敗訴」原因となっている。
  判決は、本件決議の違憲違法と、この決議を成立させた各議員の表決行為の
 違法とを分けて考える。公式参拝促進決議は違憲違法であるが、だからと言っ
 てただちにこの決議に賛成の票を投じた議員個人の行動が違法となるものでは
 ないというのである。
  「ある議案に対する法的解釈が一義的でなく、未だ確定しているとはいえな
 い状況にある場合」には、「自己の議員としての見識に基づいて誠実になされ
 た、相当の根拠と合理性を有するものである限り」、後に裁判の結果その決議
  ____________(21ページ)_____________

 や発言が違憲違法と判断されることがあっても、遡って議員の行為もただちに
 違法となるものではない、と判決は述べる。さらに続けて「公式参拝を求める
 決議は違憲の評価を受けるものではあるが、当時の状況では違法が一見明白と
 までは言えず、決議賛成の表決や決議を意見書として各機関に提出したことが
 議員・議長としての見識に欠けるとまでは言えない」と言っている。
六、甲乙両事件とも、請求棄却の根拠となった判断を真っ先にし、「その余の主
 張については判断するまでもなく、原告の請求は理由がない」として、憲法判
 断を回避することが可能であった。
  しかし、担当裁判所は並々ならぬ情熱をもって政教分離原則の本旨を説き、
 靖国神社公式参拝と公費の玉串料支出を、ともに憲法違反と宣言したのである。
 この裁判所のあり方が、民事訴訟の構造上許容されるべきことは当然であるば
 かりでなく、憲法を頂点とする法秩序を擁護する義務を有する裁判所のあるべ
 き姿勢と評価すべきである。
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第六、最高裁判決における前例
一、以上のような、判決の主文の結論とは論理的に直接結びつかない事項につい
 て裁判所の判断を示すことは、下級審のみが行っていることではない。むしろ、
 この点は最高裁が模範を示すところである。
  例えば、「人間裁判」として著名な朝日訴訟がその典型である。朝日茂氏は、
 生活扶助基準の月額六〇〇円を違法に低額であるとして、厚生大臣を被告とし
 た裁決取消訴訟を提起した。その大きな支援運動が福祉行政に影響を与えたこ
 とは良く知られている。朝日さんは、第一審東京地方裁判所で勝訴したが、二
 審東京高裁で逆転敗訴、舞台は上告審に移った。ところが、朝日氏は上告手続
 後三か月で他界した。遺志を継いだ養子の二人が訴訟受継の手続をとるが、こ
 の訴訟受継が可能かどうかが問題となった。
  最高裁大法廷判決の主文は次のとおりである(一九六七年五月二四日、判例
 時報四八一号九ページ)。
  「本件訴訟は、昭和三九年二月一四日上告人の死亡によって終了した」
  ____________(23ページ)_____________

  さして長くない理由が述べられている。「生活保護受給権」は一身専属的な
 権利であって相続の対象とならないから、本件訴訟は相続人が承継し得る余地
 はない、という。ところが、その後に長文の括弧に入ったコメントが続く。
  「(なお、念のために、本件生活扶助基準の適否に関する当裁判所の意見を
 付加する。…)」 この括弧書きの中で、最高裁は憲法二五条の法的性格を述
 べ、保護基準についての厚生大臣の裁量の幅の大きいことに触れて、最後を次
 のとおりしめくくる。
  「…以上のことを念頭において検討すれば、原判決の認定した事実関係の下
 においては、本件生活扶助基準が入院入所患者の最低限度の日用品費を支弁す
 るにたりるとした厚生大臣の認定判断は、与えられた裁量権の限界をこえまた
 は裁量権を濫用した違法があるものとはとうてい断定することができない)」
  裁判は終りだと言いながら、「念のため」と括弧書きの傍論で、重要な憲法
 判断をしているのである。
二、前例は朝日訴訟だけではなく、皇居前広場使用不許可事件最高裁大法廷判決
  ____________(24ページ)_____________

 にも見られる。
  今はなき総評(日本労働組合総評議会)が、皇居前広場を管理する厚生大臣
 に対して一九五二年のメーデー会場として使用許可の申請をしたが不許可とな
 った。そこで、その取消を求める行政訴訟を提起したところ、五二年四月二八
 日一審東京地方裁判所では、原告に「本訴請求をなすにつき法律上の利益を有
 しない」ことを理由に主文では却下されたが、その理由中で厚生大臣の公園使
 用不許可処分を違法と明言する判決を得た(判例時報一号三ページ)。しかし、
 その控訴審東京高裁は「既に五月一日を経過しているから、訴えの利益がなく
 なった」として控訴棄却とした。(この五月一日に、いわゆる「メーデー事件」
 が起きている)。その上告審の最高裁大法廷判決においても、括弧書きの中の
 「念のため」が長々と述べられている(一九五三年一二月二三日、判例時報一
 七号一九ページ)。
  主文は上告棄却で、その理由は原審と同じく「同日(五月一日)の経過によ
 り判決を求める法律上の利益を喪失したものといわなければならない」という
  ____________(25ページ)_____________

 ものである。それで終わりかと思うと、次の文章が続く。
  「(なお、念のために、本件不許可処分の適否に関する当裁判所の意見を付
 加する」「されば同条に基づいた本件不許可処分は、厚生大臣がその管理権の
 範囲内に属する国民公園の管理上の必要から、本件メーデーのための集会及び
 示威行進に皇居外苑を使用することを許可しなかったのであって、何ら表現の
 自由又は団体行動権自体を制限することを目的としたものでないことは明らか
 である」「本件不許可処分は、既に述べたとおり、管理権の適正な運用を誤っ
 たものとは認められないし、また、管理権に名を藉りて実質上表現の自由また
 は団体行動権を制限することを目的としたものとも認められないのであって、
 そうである限り、これによって、たとえ皇居前広場が本件集会および示威行進
 に使用することができなくなったとしても、本件不許可処分が憲法二一条及び
 二八条に違反であるということはできない」)
  ここでも、裁判は終りだと言いながら、「念のため」との括弧書きにおいて、
 請求原因事実の存否と憲法判断をきちんと述べている。憲法判断を示すことに
  ____________(26ページ)_____________

 極めて積極的な姿勢を見せている。
三、人権感覚はなはだ希薄な時代の最高裁判決の結論部分の当否は別として、以
 上のとおり、判決理由の叙述において、主文の結論に論理的に関連する最小限
 の範囲で判示すべきとする原理のないことは明らかである。最高裁がお手本を
 見せているとおり、憲法上必要な判断をなすことに躊躇する必要はない。
   複数請求原因事実のどの点から判断を進めていくかは全く裁判所の自由であ
 る。訴えの利益を欠いて、門前払いの結論が出たあとにおいてさえも、「念の
 ために」と裁判所の考えを付加することが可能なのである。それでも、裁判所
 が具体的事件を離れて抽象的に政府の行った行為の違憲・違法を判断したこと
 にはならないのである。

第七、国際司法裁判所の勧告的意見
一、周知のとおり、一九九六年七月八日、国際司法裁判所は核兵器の使用や核兵
 器による威嚇が合法か否かという、国連総会から問われていた法律問題につい
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 ての勧告的意見を言い渡した。
   「武力紛争における核兵器の使用又は威嚇は、一般的には国際法の規則や原
 則に反している」との結論部分は、アメリカを初めとする核大国の反対にも関
 わらず、一〇対四の大差で多数意見となった。このことはよく知られていると
 おりであるが、本件に関連して注目すべきは、勧告的意見を出すべきでないと
 いう裁量却下の要求が、一対一三という大差で否決されていることである。
   国連総会の要請を却下すべしという意見の根拠の主たるものは、司法機関の
 自己抑制という点にある。その観点から、国際司法裁判所は核兵器使用の違法
 性について判断すべきでないと主張した、たった一人の判事が、被爆国である
 我が国の小田滋氏であったことの意味を重く受け止めねばならない。
二、最上敏樹ICU教授の解説によれば(「婦人之友」九六年一〇月号)、司法
 機関の自己抑制という観点の主張は、「(1)核兵器使用の適法性という問題は高
 度に政治的問題であって、法的(あるいは司法的)判断に馴染まない。(2)この
 種の問題は、むしろ他の適当な場(国連総会やジュネーブ軍縮会議)での交渉
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 に委ねるべきで、司法機関は介入しない方がよい。(3)不用意に介入すると、明
 確に存在するわけでもない法を裁判所が宣言する『司法による立法』になって
 しまう」との三点に要約できるという。本件訴訟の被告側の主張と、なんと酷
 似していることであろうか。
   国際司法裁判所は「司法消極主義」の立場を明快に否定した。核大国の意向
 に反して、国際世論の主たる潮流が、反核平和への大きなうねりとなっている
 ことを如実に示すものである。ただ一人我が国出身判事の「司法消極主義」の
 感覚が、核保有大国の立場に与しているのである。
三、勧告的意見を出すべきでないでないという見解のもう一つの根拠としては、
 事件性の欠如が挙げられているという。最上教授は、この点を次のとおり、痛
 切に批判している(前掲書)。
  「 より重要なことは、こと核兵器の使用に関して、果たして事件主義という
 考え方を当てはめることができるのだろうか、という点です。もし事件主義を
 貫くなら、ICJ(国際司法裁判所)が扱えるのは、『A国がB国に核兵器を
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 使ったのは違法であったかどうか』という問題だけになります。つまり、実際
 に核兵器が使われた後でなければ適法性の判断はできない、ということです。
   核使用の適法性を判断するためには、広島・長崎に加えて、少なくとももう
 一度核兵器が使われなければならないーそれが法の論理であるなら、そこにな
 にがしかの倒錯を感じないわけにはいきません」
   憲法九条をめぐる訴訟事件においても、問題は全く共通している。戦争によ
 って失われるものは、事後的に償うことのできないものなのである。平和が壊
 されるまで具体的権利の侵害はないとして法的救済が拒絶されるならば、「そ
 れが法の論理であるなら、そこになにがしかの倒錯を感じないわけにはいきま
 せん」と言わざるを得ない。
   貴裁判所においても、国際司法裁判所の示唆を汲んでいただくよう願う次第
 である。

第八、まず、憲法判断を
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一、以上、縷説したとおり、平和的生存権・納税者基本権の裁判規範性について
 はしばらく措くとしても、貴裁判所においてまず湾岸戦争の実態と我が国の加
 担態様について証拠調べを行ったうえ、我が国の参戦を憲法九条に違反する違
 憲行為であるとの憲法判断をすることは、紛れもなく可能である。
   仮に、貴裁判所が右の可能な憲法判断を敢えて避け、行政府の違憲行為を放
 置することとすれば、それは客観的には政府の違憲行為を助長することとなる。
 自衛隊という我が国の軍隊は、このような司法の「黙示の支援」を受けながら、
 世界有数の武力組織として成長を遂げてきたのである。
  今や、司法の不作為が憲法を死文化しようとしている。積極的憲法判断が法
 的・政治的インパクトを有するだけでなく、憲法判断を避ける司法の姿勢が、
 極めて「政治的」に有効な役割を演じているのである。
   憲法第九条と現実との乖離甚だしいことは誰の目にも明らかである。ことは、
 法の支配の根本に及ぶ問題として突きつけられている。司法が、法の理念を現
 実に屈服せしめるとすれば、法の死であるとともに、司法の自殺行為でもある。
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二、これまで繰り返したとおり、我が国の憲法上平和という価値は、かけがえの
 ない特別な意義を有する。事後的な救済も不可能である。すでに危うくなって
 いるこの憲法的価値を擁護し顕現するために、貴裁判所に格別の配慮を要望し
 たい。
  先に見た、下田原爆訴訟や岩手靖国訴訟の担当裁判官は、裁判官としての良
 心をかけての憲法判断に至っている。貴裁判所におかれても、控訴人(原告)
 が提起した争点に真正面から取り組んでいただくよう、切望する。

 以上の次第で、当審においては、まず湾岸戦争の実態とそれへの加担について
十分に審理を遂げた上、その違憲性について判断されるよう、切に願うものであ
る。
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