[市民平和訴訟の会・東京]控訴審・準備書面(1)序章

(注)・原告の個人名は「*」で置き換えてあります。
   ・丸数字はカッコと数字に置き換えてあります。


平成八年(行コ)第五九号
戦費支出違憲確認等請求控訴事件
                                                     控訴人 *****
                                                     被控訴人 国
平成八年一一月日
                                                    右控訴人ら代理人代表
                                                        弁護士 加藤朔郎
東京高等裁判所第四民事部 御中

                             準備書面(一)

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      序章 はじめに

一 本件は、イラクと多国籍軍との間で戦われた湾岸戦争に際して、国が戦争当
 事者の一方に九〇億ドル(当時の為替レートで一兆一七〇〇億円)もの戦費を
 支出し、更に戦場であるペルシャ湾に自衛隊の掃海部隊を派遣しようとしたこ
 とについて、全国の多数の市民・納税者が憲法に違反する国(政府)の行為を
 差し止めを求めて提起した訴訟である。
  これらの市民・納税者の思いは、戦争、武力の行使そして武力による威嚇を
 完全に否定し、軍隊を持たないことを全世界に誓約した日本、全世界の国民に
 平和のうちに生存する権利を保障した憲法を持つ日本が、湾岸戦争の一方の当
 事者である多国籍軍に戦費を拠出し、あるいは掃海部隊を派遣してペルシャ湾
 において機雷除去という行動をすることは、憲法が明確に禁止している戦争に
 日本が加担することであって、主権者としてかような憲法違反の行為を黙視す
 ることはできないということであり、本件訴訟は恒久平和主義を基本原理とす
 る憲法を持つ日本の主権者として、やむにやまれず提起した訴訟である。
二 一九九〇年八月二日、イラクはクウエートに軍事侵攻し、一方的に同国を併
 合するという事態が発生した。この「湾岸危機」に際して、日本政府は憲法の
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 精神に基づいた平和回復のための努力を一切しないで、安易にアメリカの方針
 に追随するだけであり、憲法の平和主義も民主主義も踏みにじるものであった
 といわなければならない。
  「全世界の国民」に平和的生存権を保障した憲法は、このようなときこそ、
 日本が他国に先立って紛争の平和的解決のために努力することを世界に誓った
 はずであるのに、日本政府はイラク政府を説得することもなく、戦争を回避す
 るための活動をすることなく、アメリカを中心とする多国籍軍に対する「断
 固たる支持」を表明し、自らの手を縛ってしまった。そして、「憲法上の制約」
 から多国籍軍に参加することはできないという理由で、アメリカの求めるまま
 に湾岸戦争開始前に(一九九〇年中に)四〇億ドル、戦争開始後(一九九一年
 三月)には本件九〇億ドルの「戦費」を負担して戦争に加担した。このような
 対応は、憲法が指し示す「国際貢献」の在り方とは全く反対である。
  原審において陸培春証人は、日本はアジアにおけるイスラムの大国インドネ
 シア等の諸国に働きかけ、湾岸危機を平和的に解決するための国際会議開催を
 提唱することなど、日本の果たし得る役割があり、このような行動をとること
 がアジア諸国の信頼を勝ち取る方法であり、憲法を実践することであると証
 言している。
三 ところが、日本政府は金銭支出だけでは国際的理解を得られず、国際社会で
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 孤立するという理由で(実際にはアメリカの満足を得られないということ)、
 自衛隊を湾岸地域に派遣しようとした。まず、一九九〇年一〇月、「国連平和
 協力法案」を国会に提出した。これは、国連決議を受けて行われる「平和維持
 活動」に協力するための「国連平和協力隊」を設置し、それに自衛隊を参加さ
 せ、派遣するという内容であった。この法案は、広範な国民の反対により結局
 廃案となったが、湾岸戦争開始(一九九一年一月一七日)後、政府は「避難民
 輸送のための人道的措置」ということを理由に、自衛隊の輸送機を中東地域に
 派遣することを可能にするため、自衛隊法一〇〇条の五に基づく特例政令を制
 定した。一九五四年に、参議院において自衛隊の海外派遣を禁ずる決議がなさ
 れているにもかかわらず、そして国会における法律改正もなしに、政令の制定
 のみで自衛隊を海外に派遣しようというのであるから、まさに議会制民主主義
 すら無視したのである。換言すれば、湾岸戦争を通じて「日本の民主主義も空
 爆され破壊された」のである。
  この自衛隊機の派遣は実現しなかったが、湾岸戦争の戦闘行為の終了後、ペ
 ルシャ湾の機雷を除去するため、自衛隊の掃海部隊が派遣された(一九九一年
 四月)。これこそが、自衛隊の初めての海外出動であった。
 この掃海部隊の派遣については、「ペルシャ湾における我が国船舶の航行の安
 全を確保するため」とか、戦争が終わったあとだからとか、様々な正当化理由
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 が主張されたが、自衛隊という軍隊による機雷の除去が武力の行使に該当する
 ことは何人も否定できないことであり、それまで曲がりなりにも守ってきた自
 衛隊を海外に派遣せず、武力の行使をしないという一線を踏み越えたものであ
 った。
  そして、これを契機に一九九二年に「国際連合平和維持活動等に対する協力
 に関する法律」(いわゆるPKO協力法)が成立し、以後カンボジア、モザン
 ビークそしてゴラン高原に自衛隊が派遣された。
四 湾岸戦争と冷戦の終結は、我が国における自衛隊をめぐる論議、憲法の平和
 主義に対する理解に多大な影響を与えた。今や、議論の焦点は「国際貢献」で
 あり、「国際貢献のための軍事力」として自衛隊を位置づけようというのであ
 る。
  湾岸戦争に際して国民に増税を押しつけてまで多額の戦費を拠出したのに、
 アメリカなどから貢献が足りないと非難され、それならば「人的貢献」のため
 に自衛隊を出すしかないということのようである。ここには、平和主義憲法を
 持つ独立主権国家としての矜持はなく、アメリカの意のままにしたがっている
 惨めな姿しか見えてこない。アメリカが九〇億ドルの為替相場の変動による「目
 減り分」を更に拠出するよう平然と要求してきたのは、その証拠である。
 我が国は世界に誇ることのできる「平和憲法」をもっているのである。日本が、
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 この憲法の理念に忠実に、この理念を実現するための努力を一貫してしてきた
 としたならば、一ドルの戦費を出さなくとも、自衛隊を派遣しなかったとして
 も、「貢献が足りない」などと非難されることもなく、かえって世界から尊敬
 されていたに違いないのである。
  近年、憲法の平和主義を徹底して擁護する人々に対して「一国平和主義」と
 いう批判がなされる。しかしながら、憲法の平和主義は、日本が世界の平和実
 現のために先頭にたつことを誓ったものであり、日本だけが平和で在ればよい
 と言う者ではない。平和憲法の徹底擁護を主張することは、一国平和主義とは
 完全に無縁のものである。
  全世界の国民に平和的生存権を保障した憲法前文第二段の「われらは、平和
 を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しやうと努めている
 国際社会において名誉ある地位を占めたいと思ふ」という文言や、同じく「・
 ・・いづれの国家も、自国のことのみに専念してはならないのであって、」と
 いう文言を、自衛隊の海外派遣の根拠として持ち出す議論も目に付く。これほ
 ど、憲法の真の趣旨をねじ曲げる議論はない。
五 ところで、憲法は国連中心主義をとっているともいわれる。しかし、国連中
 心主義ということと、国連が決定したことに唯々諾々と従うこととは全く異な
 る。徹底した平和主義を宣言した憲法を持つ日本が、国連が決めたことだから
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 ということで、PKOであろうと何であろうと、軍事的「貢献」をするという
 のでは、日本は主体性のない国家として、かえって世界の顰蹙を買うだけであ
 る。憲法の平和主義に即した「国連中心主義」というものは、国連の場で積極
 的に全世界の国民の平和的生存権確保のための具体的提案をし、活動をするこ
 とに他ならない。これこそが、日本がなすべき「国際貢献」である。
六 控訴人らは、日本が軍事的な手段ではなく、憲法の指し示す恒久平和主義に
 立って、真の国際貢献のために努力することなく、戦費支出・掃海部隊派遣と
 いう行為を行う政府に対して、憲法を最終的に擁護するのは主権者である国民
 であり、それを担保する機関が裁判所であると信じて本件訴訟を提起したので
 ある。 
  貴裁判所は、控訴人らの真意を十分理解して本件の審理を尽くすべきである。
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