(注)・原告の個人名は「*」で置き換えてあります。
・丸数字はカッコと数字に置き換えてあります。
第五章 原判決における違憲判断回避の誤り
一、本件訴訟の重要な憲法的意義
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本件事案は、日本政府が湾岸戦争における主として米国の戦費を負担した事
実は、自ら直接に武力行使はしていなくても事実上憲法九条が禁止する武力に
よる威嚇又は武力の行使のために必要な戦費を負担し、その戦費の負担をしな
ければ戦争遂行が支障するような場合は武力行使に該当するし、また海上自衛
隊の掃海艇をイラクの領海を含むペルシャ湾に派遣し、イラク軍の敷設した機
雷の掃海作戦に従事した事実は、憲法第九条が禁止する武力の行使に該当する
ものであるから、戦費の支出と掃海艇を派遣は憲法に照らし許されないもので
あることから、これらの政府の行為によって憲法の適用を受ける日本国民であ
る控訴人らの平和的生存権及び納税者基本権が侵害され、控訴人らに精神的苦
痛を与えられた事実を請求原因とする訴訟である。日本国民としての控訴人の
本件訴訟を提起した目的は、日本政府の明らかな憲法第九条に違反した武力行
使を阻止し、すでになされた武力行使を違憲行為として確認し、政府が再びこ
のような違憲行為を繰り返さないための保証として控訴人が受けた精神的苦痛
の損害の賠償を求めるものである。
政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないようにすることを決
意した日本国民によって制定された憲法の基本的な平和原則が、湾岸戦争への
荷担行為という現実によって無残に破棄され、政府の行為によって再び戦争の
惨禍を繰り返す事態が現に生じたときに、国民が憲法の番人である司法に対し、
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政府の違憲行為を阻止すること、将来の違憲行為の再発(再犯)を防止する措
置を求めたさいには、司法はこれに応じて、最大限の有効な措置をとるのが司
法の重要な責務であるはずである。
しかるに、原判決は控訴人の意図を無視して、憲法第九条に違反する政府の
行為を明確に指摘して控訴人の請求を認容することができたにもかかわらず、
憲法判断に入る論理過程を意図的に回避して控訴人の請求を退けたのである。
その結果、政府の行為によって、戦争の惨禍を起こしたことを結果的に容認し、
まさに政府の違憲行為に荷担する役割を果たしたのである。
以上の趣旨の上に立って、本章においては、日本政府と国会が戦後政治にお
いて、新しく制定した憲法第九条の規定に違反して、米国の国益に基づく戦略
にしたがって要請された日本再軍備政策を受け入れ、これを発展させた経過を
確認し、その間、国民と国との間に生じた憲法第九条関連訴訟を検討すること
によって、日本の司法が憲法第九条の違反状態に如何なる対応をしたかを明ら
かにし、その上で、原判決を含む憲法九条訴訟に対する日本の司法の対応が、
発展する世界の流れに逆行した誤った方向に進んでいることを明らかにし、原
判決の憲法判断回避の論理の重大な誤りを指摘することにする。
1、自衛隊は憲法九条に違反する、という解釈は通説であり判例である。
国の基本法である憲法は国家存立の基盤であり、国際情勢の変転による政府
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の対外政策に対応して、無闇に憲法で定めた原則を変更してはならないことは
理の当然である。憲法第九条は、国際紛争の解決のために武力を行使すること
を禁止し、一切の戦力の保持を禁止していることは明らかである。したがって、
自衛隊(または駐留米軍)がわが国の戦力として存在することは、憲法第九条
で保持を禁止した戦力を保持していることであり、違憲であると解する他はな
い。
「自衛隊は憲法第九条に違反する」という解釈は、日本の憲法学界における憲
法第九条解釈の通説である。また日本の裁判所が自衛隊並びに駐留米軍につい
て憲法第九条を適用し解釈した場合は、すべて右の解釈と同じ解釈をしている
のである。砂川米軍基地の刑事特別法違反事件の第一審判決と長沼ナイキ基地
の保安林指定解除取消請求事件の第一審判決がそれである。そして日本の裁判
所は、自衛隊並びに駐留米軍について憲法第九条を適用し解釈をした結果、自
衛隊並びに駐留米軍は合憲であると判決したことは一度もない。
2、自衛隊違憲判決を避けるための司法の憲法判断回避の一般的傾向の意味する
もの。
日本の裁判所は原判決も含めて、自衛隊並びに駐留米軍の存在または行動に
ついて憲法第九条の適用・解釈を迫られた場合、憲法第九条の適用を回避する
のが一般的傾向である。これは、憲法第九条の適用を回避しないで憲法判断を
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したならば、自衛隊は憲法違反という判断をせざるを得ないので、そのような
判決をすることを避けるために、さまざまな理由をもって同条の適用を回避し
てきたのである。回避するための理屈は、統治行為論、訴えの利益論、請求権
不存在、あるいは民法理論などの別の法律論などさまざまであるが、それらは
いずれも憲法判断を避けることを目的としていることでは共通の論法である。
尤もらしいこれらの論法は、憲法判断を回避するための手段に過ぎないので
ある。
このような日本の司法の傾向の意味するところは、日本の裁判官にとって自
衛隊並びに駐留米軍について憲法九条を適用し解釈するならば、自衛隊並びに
駐留米軍は、憲法解釈上論理必然的に憲法第九条に違反する、という解釈をせ
ざるを得ないことを示している。
(戦後の主要な憲法第九条に関連する裁判の検討は後述する。)
3、憲法判断の回避がもたらす自衛隊増強の政治的効果の自己矛盾。
日本の司法が憲法判断を回避する理由は、違憲判断をした場合は政治的に混
乱を生ずるかもしれないという政治的配慮から、憲法判断をして行政機関から
の予想される非難を受けたくない、という心理的な傾向にその原因があるよう
に思える。
しかし、このような司法の行為は、裁判官の憲法を順守する義務を放棄する
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ものであり、のみならず行政のなした違憲行為を結果的には追認することにな
ったことも事実である。
右のようにして、日本の司法が、憲法施行後の戦後政治において、自衛隊の
存続と増強という違憲状態に対する抑制機能を自ら放棄し、自衛隊の存在とい
う違憲状態が存在するにもかかわらず憲法判断を回避し続けてきた結果、現在
にいたるまで自衛隊はその違憲状態を限りなく増殖し、あたかも憲法第九条が
存在しない国に転換したかのごとき状態を現出するにいたっている。かくのご
とき状態を現出した日本の司法の責任は極めて重大である。
国の基本法は、政府の対外政策にしたがって、安易に解釈論によって変更し
てはならないことは自明のことである。それにもかかわらず、日本の司法は、
基本法の定めた原則が無視され事実上憲法第九条がなきに等しい状態が現出し
ているのに対して、違憲判断を回避することによって、違憲状態の存続に協力
してきたのである。
憲法第九条問題が、政治的あるいは統治行為の問題であるという理由によっ
て、自衛隊の憲法判断を回避することは、それによって、自衛隊の違憲状態を
阻止することを拒否することになり、自衛隊の存続・強化を要求する政治勢力
を利する、という極めて政治的な行為となることを認識しなければならない。
つまり、司法が憲法判断を回避すること自体が極めて政治的な行為なのであ
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る。だから「政治的である」ことを理由に憲法判断を回避することは、その裁
判官は自ら政治的な行為をしていることになるのである。政治的な問題につい
ての憲法判断を回避することによって、司法の中立・公正が維持されるという
神話がわが国の司法の世界に蔓延していることは由々しきことであり、司法の
自己否定にもつながるものである。これは世界の潮流に逆らう後進性を示すも
のでもあることは後述する。
したがって、裁判官は統治行為論や政治的問題を理由に憲法判断を回避する
のは無意味なことであり、自己矛盾である。
二、憲法第九条に関連する日本と世界の政治的環境
一九四七年五月三日、戦争放棄と戦力不保持を定めた新しい憲法が施行され
た。
第二次世界大戦の終結後、米ソの対立の激化が反映して、一九五一年、朝鮮
戦争が勃発し、日本では連合軍司令部の要請により同年警察予備隊が発足する。
一九五四年には自衛隊法が制定されて、日本は本格的な再軍備時代に入ること
になる。これは米ソ対立による米国の軍備増強政策に従属して、日本の自衛隊
は対ソ作戦のためにアジアに展開する米軍の補完部隊として生成発展すること
になった。その過程において一九六二年から一九七三年まで米ソの代理戦争と
いわれたベトナム戦争が戦われ、日本は米軍の兵站基地・出撃基地となって米
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軍に協力したが、最後は米軍の敗退によって終結した。この間、米ソの核兵器
を中核とする激しい軍拡競争は限界に達し、ソ連は経済的構造的に崩壊し、一
九八九年、米ソは東西冷戦の終結を宣言して和解をするに至るのである。そし
てベルリンの壁は崩壊し、ワルシャワ条約機構も崩壊するにいたった。
これは、世界から大規模な戦争、特に核戦争の可能性は急激に消滅する状況
の到来を意味するものとなった。
ところが、一九九〇年八月、イラクのクエ−ト侵略を契機に米国を中心とし
た多国籍軍の五〇万以上の大軍が中東に派遣・展開し、翌九二年一月、イラク
を敵とする湾岸戦争が勃発した。クエ−トに侵入したイラク軍の撃滅作戦は短
期間で終了した。
この戦争において、米国は最大限の武力を世界に誇示し、それは実力で全世
界に君臨することを宣言することを意味するものとなった。この君臨のために
米国は必要以上の集中豪雨的な大規模の武力を行使し、そのための巨額な戦費
のうち、日本は米国の要請に応じて、その戦費の約四分の一を拠出し、ペルシ
ャ湾に掃海艇を派遣するに至ったのである。
これは、日本政府にとっては、その存在理由を失いかけていた自衛隊に最大
の存在理由を与えてくれた神の恵みであったことを意味する。
三、政治的環境に対応する政府の憲法九条解釈の歪曲の歴史的経過
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右に述べた憲法第九条に関連する日本と世界の政治的背景の経過のなかで、
日本政府は憲法第九条に違反する日本再軍備の現実の進展に応じて、その矛盾
につき弁明を迫られるのであるが、政府がなしてきた弁明はいずれも憲法第九
条解釈の歪曲の連続でしかなかったのである。その経過を概観してみよう。
1、第一期 − 憲法施行後から自衛隊法施行まで。
この間における、政府の憲法第九条解釈は、日本は一切の戦力は保持しない、
という解釈により、警察予備隊も保安隊も憲法第九条で保持を禁止する戦力で
はないと弁明していた。
2、第二期 − 自衛隊法施行から米ソ和解(湾岸戦争)まで(米ソ対立冷戦時
代)。
自衛隊の合憲性の根拠を、急迫不正の侵略に備えて自衛のための最小限度の
実力を保持することは、憲法は禁止していない、と弁明していた。その急迫不
正の侵略の現実的可能性として、ソ連の脅威を強調していた。そのために自衛
隊は、米軍の対ソ軍事戦略の補完部隊としての役割を目的として増強された。
3、第三期 − ソ連の崩壊・米ソ和解後から現在まで。
ソ連の脅威が消滅したために、第二期において政府が主張していた自衛隊の
合憲性の根拠が消滅した。つまり、第二期の米ソ対立冷戦時代において、日本
政府が自衛隊の合法性の根拠として主張した「ソ連の脅威」という弁明が使用
____________(122ページ)_____________
不能となったのである。この状況は、政府・自衛隊にとって、自衛隊の存在理
由の消滅という、かってない重大な事態が到来したことになる。政府が混迷の
なかで、自衛隊の生き残りのための弁解を模索していたところに、まさに地獄
に仏とも言うべき、救世主が現れたのである。それが湾岸戦争である。
つまり、湾岸戦争にさいして、日本は国際貢献のために「金」も「自衛隊員
の血」も出せ、という米国の強い要請を受けた。日本政府は、これに飛びつい
て、ソ連の崩壊・米ソ和解後の自衛隊の存在理由を「国際貢献」に求めること
にした。それは自衛隊の存在理由の根拠についての「ソ連の脅威」から「国際
貢献」への転換である。
そこには憲法第九条(戦力不保持)、自衛隊法第三条(自衛隊の任務−わが
国の平和独立、安全)、日米相互協力・安全保障条約第六条(極東条項)など
の違反についての配慮などは全くないままに、極めて曖昧な「国際貢献」とい
う美名のもとに戦争協力と念願の自衛隊海外派兵を一挙実現する機会到来とば
かりに飛びついたのである。
国際貢献という概念は、中身の不明瞭な曖昧な概念であり、このような抽象
的な如何様にも解釈できる概念をその存在の合法性の根拠とすることは、自衛
隊は「国際貢献」という名目で今後、米国の要請があれば世界の何処にでも如
何様にも軍事行動が可能となることに道が開けることを意味するのである。
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四、第二期(米ソ対立期)の憲法第九条問題での政府と司法の対応とその特徴。
米ソ対立の時代の自衛隊・駐留米軍の存在について、政府の主張する憲法適
合性は、憲法第九条を前提として「ソ連の侵略の脅威に備えて自衛のために必
要最小限度の実力を保持する」という詭弁的な説明ではあるが、一応の自制的
限度を自らに科していた。
そして、自衛隊や駐留米軍が対象となった憲法九条訴訟においても、憲法第
九条解釈をめぐり、厳しい憲法論争が展開されて、裁判所は初期においては違
憲判断を示し、後には憲法判断による政治的影響を恐れて、憲法判断回避に逃
げ込む方向に進むにいたるのである。それは、結果的には自衛隊の増強に手を
貸すことになるという極めて政治的な判決を一般化するに至ったのである。以
下、その経過を概観する。
1、自衛隊・米軍の存在の詭弁的合法論と一定の自制心
日本国憲法施行以後、米ソ対立が激化した時代において、米国は、対ソ連世
界戦略にもとづき、アジアにおける対ソ戦略のために在日米軍基地並びに駐留
米軍を日本政府に要求し、さらに、在日米軍を補完する軍隊の創設と増殖を日
本政府に要求し、政府はこれを受諾して、前者については日米安全保障条約並
びに行政協定の締結をもってこれに応じ、後者については自衛隊法の制定をも
ってこれに応じたのである。
____________(124ページ)_____________
これらの行政行為や立法行為の憲法適合性をめぐって、憲法論争が激しく闘
わされてきた。政府と与党は自衛隊の合憲を、野党は違憲を主張して対立した。
このように、米ソ対立の政治状況下において、その存在自体が憲法違反とい
う非難を受けながら増殖を続けた自衛隊は、憲法第九条に明らかに違反するが
故に、実態は軍隊であるのもかかわらず、自衛隊は憲法第九条で保持を禁止さ
れた戦力ではないという見えすいた詭弁を弄することによって、国民を欺き続
けていたのである。例えば、名称についてさえも「軍隊」の印象を与える名称
は一切使用せず、軍隊を自衛隊、戦車を特車、軍艦を護衛艦、などと名称を詐
称することを敢えてしたのである。
また、その存在理由について、ソ連の脅威と侵攻に対する「自衛のため」を
唯一の合法性の拠り所としていたために、自衛隊の行動範囲も原則としてわが
国とその周辺地域と極めて限定されていたのであった。発足当初においては行
動範囲も日本の領海、領空内を原則とするなど厳しい制約に甘んじなければな
らなかった。その後、次第に国民の目の届かないところで増強を続け、日米防
衛協力ガイドラインの策定に及んで事実上、日米共同作戦が遂行されることが
可能なまでに増強されるにいたるのである。
しかしながら、その厳しい米ソの軍事的対立の時代において、隣国朝鮮で米
軍と韓国軍を中心とする国連軍と中国軍と北朝鮮の連合軍との戦争であった朝
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鮮戦争が激しく戦われていたときでさえ、更なる憲法第九条違反の非難を恐れ
て、日本政府は政府自身が自ら戦争当事国となって、朝鮮戦争に協力または参
加の意思を表明するような行為は、敢えて自制したのであった。すなわち、米
国や韓国の政府が朝鮮戦争のために支出する戦費について、日本政府がこれら
の戦費を負担して提供することもしなかったし、また、内閣総理大臣の指揮監
督のもとに自衛隊の前身である警察予備隊を朝鮮戦争の軍事行動のために日本
の領域外である朝鮮半島地域に派遣することもしなかった。
こうして、憲法上から見ても、制度上から見ても、自衛隊は認知されない非
合法の存在であり、公然と憲法上容認された存在としての地位を得られなかっ
たことには変わりはなかった。したがって、日本政府としても、自衛隊自身に
おいても、「自衛のための最小限度」という限界を踏みはずすことにつき自己
抑制をすることによって、合法性を維持しようとしていたのでる。しかし、そ
のような自己抑制をしたところで自衛隊が合憲的存在に変質するものでもな
く、憲法第九条の適用・解釈からすれば、自衛隊が依然として違憲の存在であ
ることには変わりはなかったのであった。
2、この時期における主な憲法九条裁判
右のような米ソ対立の時代における自衛隊または駐留米軍について、その憲
法適合性を争う国民的な大きな裁判がいくつか提起された。これらの憲法第九
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条裁判の憲法判断の傾向を概観してみると、興味ある特徴が浮かび上がってくる。
米ソ対立の時代において、自衛隊・駐留米軍関係の事件で憲法第九条適合性
が争われた事件のうち、主な事件の結果は次のとおりである。
(○ 政府側勝訴、 ● 政府側敗訴、 ☆ 憲法判断、 ★ 憲法判断回避)
(1) 板付基地訴訟(民事事件)
●★ 第一審 一九五六年二月一三日福岡地裁判決
政府側敗訴 理由:民事上基地使用権終了による不法占拠
○★ 控訴審 政府側勝訴 理由:原告地主の請求は権利濫用・憲法判断なし。
○★ 上告審 政府側勝訴 理由:控訴審判決支持。
(2) 砂川刑特法事件(刑事事件)
●☆ 第一審 一九五九年三月三〇日東京地裁判決
無罪 理由 米軍の駐留は憲法九条違反
控訴審 跳躍上告
○★ 上告審 有罪 理由:統治行為論;高度の政治性を持つもの
で一見極めて明白に違憲無効でない限り司
法審査の範囲外。
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(3) 百里基地訴訟(民事事件)
○★ 第一審 一九七七年二月一七日水戸地裁判決
政府側勝訴 理由:統治行為論;高度の政治性を持つもの
で一見極めて明白に違憲無効でない限り司
法審査の範囲外。
○★ 控訴審 政府側勝訴 理由:基地建設用の土地買収行為は公序良俗
に反しない。
(4) 新島ミサイル基地訴訟(民事事件)
●★ 第一審 一九六六年四月二七日 地裁判決
政府側一部敗訴 理由:住民の入会権
○★ 控訴審 政府側勝訴 理由:住民の入会権を否定
憲法九条問題は統治行為に関する判断
は裁判所が判断すべき性質のものでない。
○★上告審 政府側勝訴 理由 上告棄却
(5) 恵庭事件(刑事事件)
●★ 第一審 一九六七年三月二九日札幌地裁判決
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無罪 理由 構成要件に該当せず。
控訴審 政府側勝訴 理由 訴えの利益なし。
○★ 上告審 政府側勝訴 理由 上告棄却
(7) 小西反戦自衛官事件(自衛隊法違反事件)
●★ 第一審 一九七五年二月二二日判決
無罪 理由 証拠不十分。
控訴審 破棄差戻し
●★ 差戻審 無罪 理由 構成要件に該当せず。
(8) 小松基地騒音訴訟(民事事件)
○★ 第一審 一九八〇年一一月 日金沢地裁判決
政府側一部勝訴 理由 統治行為論;高度の政治性を持つ
もので一見極めて明白に違憲無効でない限
り司法審査の範囲外。
○★ 控訴審 政府側一部勝訴 控訴棄却
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(9) 沖縄刑特法事件(刑事事件)
○★ 第一審 一九八〇年五月二日那覇地裁判決
政府側勝訴 理由 統治行為論;高度の政治性を持つ
もので、一見極めて明白に違憲無効でない限
り司法審査の範囲外。
○★ 控訴審 政府側勝訴 控訴棄却
3、右の時代の憲法九条裁判の特徴
右の時代の憲法九条裁判を検討すると、次のような特徴がある。
第一の特徴:第一審においては、政府側の敗訴判決が比較的多いこと。
すなわち、右の九件のうち、第一審についてみると、政府側敗訴の事件は、
1.板付基地訴訟、2.砂川刑特法事件、4.新島ミサイル基地訴訟(一部敗訴)、
5.恵庭事件、6.長沼ミサイル基地訴訟、7.小西反戦自衛官事件の六件であり、
政府側の勝訴の事件は三件である。すなわち六件は、民衆側(政府に対立する
国民)が勝訴しているのである。勝訴率は実に六六%である。現在では考えら
れない数字である。
第二の特徴:上級審になると、政府側勝訴が多くなることである。
すなわち、上級審での政府側の敗訴判決は7.小西反戦自衛官事件のみであり、
その他はすべて政府側勝訴となっているのが際立った特徴である。
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第三の特徴:憲法第九条を適用して政府側が勝訴した憲法裁判は皆無である。
すなわち、自衛隊または米軍の駐留について憲法第九条を適用し、憲法第九
条に違反しない(合憲)ことを理由として政府側が勝訴した事件は皆無である。
第四の特徴:政府側が勝訴した事件は憲法第九条の適用を回避して勝訴して
いる。
すなわち、自衛隊または米軍の駐留にかかわる憲法第九条裁判において、政
府側が勝訴した事件における判決は、統治行為論、訴えの利益不存在、民法や
刑法などの他の法律にもとづいて、自衛隊または米軍の駐留についての憲法第
九条の適用・判断を回避して、政府側が勝訴するのが一般的傾向である。
第五の特徴:憲法判断をしたのは二件のみであるが、いずれも違憲判断であ
る。
すなわち、自衛隊または米軍駐留について憲法第九条を適用した結果、憲法
第九条に違反すると判断した事件は、2.米軍駐留について憲法判断をした砂川
刑特法事件第一審判決と6.自衛隊について憲法判断をした長沼ミサイル基地事
件第一審判決の二件である。
以上のように、湾岸戦争以前の憲法第九条裁判の傾向をその特徴から検討す
ると、日本の裁判所の第一審が自衛隊または米軍駐留について憲法第九条適合
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性を判断すれば、いずれも憲法第九条に違反する旨の判断に帰着しているので
あるが、控訴審・上告審となると、自衛隊または米軍駐留の違憲判断を回避す
るために、憲法第九条の適用を回避する方針を堅持してきた、という明確な傾
向が読取れるのである。
そして、憲法判断を回避しなかったなら第九条適用・解釈により「自衛隊は
憲法違反」という判断に帰着せざるをえない場合において、自衛隊の憲法判断
をしないで、しかも政府側を勝訴させるために利用された理論が、「統治行為
論であり訴の利益論であった。
一方、憲法判断を回避してなお政府側が敗訴したのは、板付基地訴訟第一審
判決(国の基地用地占有は不法占有)、恵庭事件(構成要件該当性なし)、小
西事件(証拠不十分)である。板付基地訴訟は統治行為論や訴の利益論を利用
しなくても民事事件として憲法判断に入らずに結論が出せたからであり、恵庭
事件と小西事件は自衛隊法違憲判断に入るのを回避するためだけのために、あ
くまでも刑事事件として処理して無罪にしたものであった。
こうしてみると、「自衛隊は憲法第九条違反」は米ソ対立の時代における判
例であるにもかかわらず、日本の司法は、この結論を判決で表明することを極
端に恐れていたこと、自衛隊に憲法第九条を適用して違憲判断をすることの訴
訟上の要求を退けることに腐心してきたこと、これを合理化するために憲法第
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九条問題は統治行為に関する問題であるから司法に判断するべき問題ではない
という原則を立てて憲法判断を回避してきたこと、その結果、司法によって違
憲状態の阻止が可能であったにもかかわらず、政府が米国の要請を受けてなし
てきた日本の軍事力の強化を放置してきたこと、が明らかに認識することがで
きる。
五、右の第三期(米ソ和解時代)における政府の憲法第九条違反行為の特質
かって日本が経験したことのない事態が生じたのである。日本が戦争の当事
国ではない戦争の戦費を日本政府が負担し、かつ海上自衛隊の掃海部隊が極東
を遥かに越えて海外派遣したという事態が生じ、その憲法第九条適合性が問題
となったのである。
前述の第二期時代つまり従来の米ソ対立時代において、政府は自衛隊の存在
理由の根拠として主張していた「ソ連の脅威」は、米ソ和解によってその論拠
を喪失したので、今度は、これに代わる自衛隊の合法性の根拠を「国際貢献」
に転換したのである。
つまり米ソ和解後湾岸戦争勃発によってで自衛隊の憲法適合論が一変するの
である。自衛隊の存在理由の復活をかけた新たな自衛隊合憲論の登場である。
「国際貢献」という新たな自衛隊合憲論は、極めて非論理的な曖昧な概念で
あり、中身のないむしろ情緒的な表現に近いものである。これを自衛隊の憲法
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第九条合憲論の根拠とすることは、憲法第九条解釈論としては成り立ち得ない
ものである。およそ法律論ではないことは明らかである。
第三期における政府の憲法第九条違反行為の特質は、第二期の時代において、
国会での政府と野党議員との間で展開された激しい憲法第九条論争は完全に省
略し、それらの憲法的配慮は排除して、専ら湾岸戦争の支援のための戦費の支
出と海上自衛隊の掃海部隊のペルシャへ湾への派遣という事実のみを先行さ
せ、国会の承認もなく強行されたのである。まさに非常事態におけるファッシ
ズムの再来ともいうべき事態を現出したことであった。国会での十分な憲法論
議もなされないまま事実が先行したのである。
政府は、湾岸戦争を契機に、憲法第九条の戦力不保持の規定に違反の事実へ
の考慮もなく、自衛隊法第三条所定のわが国の平和と独立そして安全という自
衛隊の任務に基づく行動範囲の限界(原則として領海・領空が行動範囲)の厳
守についての微塵の配慮もなく、さらに、日米相互協力・安全保障条約第六条
に規定する「極東の平和と安全」という行動範囲の限定の条項などの違反につ
いての配慮などは全くないままに、曖昧な「国際貢献」という美名のもとに湾
岸戦争への協力と念願の自衛隊海外派兵を一挙実現する機会到来とばかりに飛
びついたのである。
彼ら日本政府の首脳部には、憲法的配慮は一切眼中にないままで、憲法第九
____________(134ページ)_____________
条違反行為を白昼公然と非合法的に強行したのである。
政府の強行した今回の戦費支出と掃海艇の派遣は、いかなる意味においても、
憲法第九条の禁止する戦争行為であることは明らかである。それは、憲法施行
後に発生した最も重大な特筆すべき「憲法違反の政府の行為」である。
原審の裁判官が、この点についての関心と配慮がまったくなかったことが憲
法判断回避の重要な一因である。今回の政府の行為は、第二期の時代における
政府の違憲行為から質的にもより高度な「違憲行為」として弾劾されなければ
ならないことに留意されなければならない。
にもかかわらず、原審裁判官らには、このような重大な違憲状態についての
危機の認識が完全に欠落しているために、相も変わらず、過去の上級審の憲法
判断回避論を何らの疑問もなく漫然と繰り返したにすぎないのであった。
原判決の基本的な誤りは、憲法問題を政治的問題として憲法判断を回避した
点にあり、平和的生存権や納税者基本権の権利性を否定したのは、憲法判断を
回避するための道具に利用したにすぎないものである。
六、司法は政治的であることを理由に法的問題の判断を回避することは許されな
い。
国連憲章第九六条に基づき、国連総会は一九九四年一二月に「核兵器の使用
と威嚇は国際法に照らしいかなる場合においても違反となるか」という法律問
____________(135ページ)_____________
題について国際司法裁判所に対し、勧告的意見を求める、という決議をなし、
この決議を国際司法裁判所に送付した。この決議を受けた国際司法裁判所は、
同裁判所で裁判をうけることが出来る全世界の国に対し、意見の陳述(文書提
出並びに口頭陳述)を求めて審理した結果、一九九六年七月八日、約二七〇頁
及ぶ「勧告的意見」をハ−グの平和宮にある大法廷で言渡し、これを国連総会
事務総長に送付した。この勧告的意見のための意見陳述において、米国やフラ
ンスの政府代表は、核兵器の違法の問題は軍縮交渉に悪影響を及ぼすおそれが
るなど様々な理由を上げて司法が判断すべきではないと強硬に「判断回避」を
要求し、この意見を支持する非核保有国で非核政策をとる政府(例えばオ−ス
トラリアやニュ−ジ−ランド)もあった。
しかしながら、国際司法裁判所のこれに対する見解は次のようなものであっ
た。国連総会の提起した法律問題について「当裁判所が下す意見の結論が、ど
んなものになろうと、国連総会における当該事項に関連する討議の部分が出て
きて、その交渉に新たな材料を提供するであろうことは承知している。それ以
外の点において当裁判所の意見が及ぼす影響がどのようなものであるかは評価
の問題である。したがって、このことをもって管轄権の行使を拒否すべきやむ
にやまれぬ理由とみることはできない」として「判断回避」の要求を一蹴した
のである。
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これをもって、日本の司法を顧みると、自衛隊の海外派遣や外国の戦争の戦
費の支出に憲法第九条を適用して憲法判断をせよ、という司法に対する要求に
対し、政府は、様々な理由をもって憲法判断を回避をするよう司法に対し働き
かけ、司法はこれを受入れてきたのである。
ここで改めて問われていることは、現に違憲状態が日本の政治のなかに存在
している場合に、これに対する憲法第九条の適用による法的判断が司法に求め
られているときに、司法がこれを回避することが正しいのか、という問題であ
る。これに対し、回避するのは正しくない、誤っているというのが控訴人の一
貫した主張であった。
これに対し、原判決は憲法判断を回避する回答をしたのである。そこで、我
々は国際司法裁判所の見解をここに提供するのである。
国際司法裁判所の見解は、明らかに判断回避の要求を拒否し、「核兵器の使
用と威嚇は一般的に国際法に違反する」との判断を宣言したのである。しかも、
国際司法裁判所の表明する結論が軍縮交渉に悪影響を及ぼすおそれがある、つ
まり、日本流に言えば国際間の政治的な交渉に影響を及ぼすことを承知の上で、
敢えて判断回避を拒否したのである。国際司法裁判所の裁判官一五名(現在一
名欠員)のうち、五名は核保有国出身の裁判官である。その裁判官が、自国の
政府代表が、判断回避を求めて陳述しているにもかかわらず、断固として裁判
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官の良心に従って、自国の国益に反する結果となる判断を示したのである。原
審の裁判官を含む憲法判断を回避してきた日本の裁判官は、国際司法裁判所の
裁判官の見識に学ばなければならない。
憲法判断を回避することが、裁判官としての良心の要求と憲法遵守義務に反
することは明らかなことである。
原判決の憲法判断回避は明らかに誤りである。原判決は取消されなければな
らない。