[市民平和訴訟の会・東京]上告理由補充書

(注)上告人の個人名は「*」で置き換えてあります。
平成九年(行ツ)第二四二号 戦費支出差止等・掃海部隊派遣差止等・
各損害賠償請求上告事件        

            上 告 人   * * * * *
                           外五五名
            被 上 告 人    国

       一九九八年四月一〇日

            右上告人ら代理人
            弁 護 士  白 谷 大 吉
                          外

  最高裁判所
    第一小法廷 御中

      上 告 理 由 補 充 書
  __________(1ページ)_________

一、上告理由書提出後の動きと湾岸戦争加担の意味

1 新たなる湾岸危機の教訓
  イラクの大量破壊兵器(核・化学・生物兵器、長距離弾道ミサイ
 ル)査察拒否を理由とするこの間のアメリカのイラクへの武力行使
 体制づくりの動きは七年前の湾岸戦争を思わせる緊迫した空気を世
 界中にもたらした。
  国際連合とイラク政府の合意により当面アメリカの武力攻撃は回
 避されたが、アメリカは駐留を続けており武力攻撃の可能性を否定
 していない。先の湾岸戦争停戦決議の実行として国連がイラクに求
 めてきたことはイラクによる停戦決議の不遵守を理由としているが
 武力攻撃を合法化するものではない。今回の危機に際してはアメリ
 カの余りに理不尽な武力攻撃準備が世界中の非難を浴び国際社会に
 おいて多数派を形成できず、日英提案の国連決議もアメリカの判断
 で直ちにイラクに対し武力攻撃をできる内容とはできなかった。
  以上の事実は、湾岸戦争当時の状況を冷静に判断するうえで参考
 とすべきである。
  __________(2ページ)_________

2 湾岸戦争とその後の経過
  九一年四月の湾岸戦争停戦後も、イラクへの武力攻撃は九三年一
 月飛行禁止区域へのミサイル配備等を理由に米英仏のミサイル攻撃、
 九三年四月から七月にかけて地上から対空砲レーダー照射を受けた
 ことを理由に米軍のレーダー設備攻撃、九六年六月ブッシュ元大統
 領暗殺未遂事件をイラク政府の計画として米軍の情報機関本部への
 報復攻撃、九六年九月クルド自治区への侵攻を理由としての米軍の
 レーダー設備等の攻撃と続き今日に至る。

3 武力行使拒否の国際世論とアメリカ
  今回アメリカが武力行使をしようとしている発端は一九九七年一
 〇月イラクが国連大量破壊兵器廃棄特別委員会との関係凍結を打ち
 出し米国人査察官を国外追放したことからだった。イラクは停戦決
 議に違反した行為を繰り返していたが、世界情勢はアメリカによる
 武力行使を容認していなかった。
 湾岸戦争時と比較しても武力行使についての合法性が疑われた。も
 ちろん大量破壊兵器は破棄されなければならないが、査察妨害があっ
  __________(3ページ)_________

 たとしても、武力行使までは許されないというのが国際世論だった
 のである。湾岸戦争前においては一審・二審でも述べたように、ア
 メリカによる多くの情報操作と恐喝等により国連安保理において武
 力行使容認決議が行われ、正当性が与えられたかのように見えた。
 しかし二、以下に述べるように、その後の事実調査等からも、湾岸
 戦争は「正義の戦争」ではなかったし、武力行使すべきでなかった
 ことが明らかになってきたのである。(実際はアメリカの石油利権・
 新世界戦略等のためでクウェートという国の自決権擁護は口実とさ
 れた)
  今回の危機に際して、国連での安保常任理事国のロシア・フラン
 ス・中国の武力行使反対意見をはじめとする安保理事国の一五カ国
 の内の多数の国は、引き続いて武力攻撃に反対している。多くのア
 ラブ諸国も武力攻撃に基地を使うことに反対した。サウジアラビア
 でさえ反対した。アメリカ国内においての市民集会でも国務長官・
 国防長官などの米高官の正当性の訴えは支持されなかった。それで
 もアメリカは軍事的脅迫体制を維持して駐留を続けている。そして
 駐留費用についても同盟国へ負担を求めるとアメリカ国防長官は表
  __________(4ページ)_________

 明している。

4 日本のアメリカへの追随
  右のような武力行使反対の国際世論の中でも日本は全面的にアメ
 リカに理解を示し続けた。二月一三日には橋本首相は「最終的に武
 力行使するのであれば日本は支持する」としている。またイラクの
 合意事項違反を理由として直ちにアメリカが武力攻撃をできるとす
 る安保理決議の提案国となり、その武力容認決議の成立の為にイギ
 リスと共に力を尽くした。
  先の湾岸戦争で第一撃を加えたのは横須賀基地に駐留していた米
 軍のバンカーヒルであることが現在では明らかになったが、今回イ
 ラクへの攻撃準備に初めて公式に日本の米海軍横須賀基地から米第
 七艦隊の空母インディペンデンス(動く海上都市、乗員五五〇〇人、
 七四機の艦載機)、ミサイルトマホークを搭載した巡洋艦バンカー
 ヒル、駆逐艦等がペルシャ湾へ集結し「いかなる作戦行動にも対応
 できる」攻撃態勢の中心を担った。イラク情勢が緊迫していた時期
 に東アジア最大の米空軍基地嘉手納基地にはKC空中給油機が飛来
  __________(5ページ)_________

 していたし、日本全国の米軍基地は出動の体制を取っていた。
  そしてその直前には夜間離着陸訓練・低空飛行訓練(イタリアで
 ロープウェイ惨事を起こしたのと同様の)を初めとする実践的訓練
 が日本各地で展開されたのである。それらの訓練には自衛隊は勿論、
 民間人も多くの点で協力させられた。思いやり予算等で確保した費
 用も有効に活用された。
  それにとどまらず現在では湾岸警戒体制を含む経費負担を日本に
 も求めるとアメリカ国防長官は言明している。近代戦争においては
 国民の税金である資金提供も直接加担と同様な意義を持つことも明
 らかにされてきた。それでも日本政府はそれへもいち早く賛成しそ
 うな気配である。
  日米安保条約の下で日本を護るという自衛隊・米軍は日本を護る
  ためではな  くア メリカの世界戦略の為に行動しているというこ
  とが今や明らかにされた。

5 アメリカの世界戦略への日本の体制づくり
      (安保共同宣言・新ガイドライン・有事法制化へ)
  __________(6ページ)_________

  アメリカは一九九五年に東アジア太平洋戦略として、太平洋国家
 として、軍隊を前 方に展開し、軍隊一〇万人体制とし沖縄の海兵
  隊を中心に内四七、〇〇〇人を在日米 軍とするとしている。一昨 
 年の日米安保共同宣言には「アジア太平洋地域の平和と安 全のた
 めには米軍の存在が不可欠」とするなどの戦略内容を盛り込んだ。
 そして昨年 の日米防衛協力のための指針(新ガイドライン)では
 その具体化が準備された。この 新指針は官僚と軍人によってつく
 られたもので、国会においても承認を求められてい ない(このよ
 うな日本が、本来の民主主義国家と言えるかも問題)。
  しかし、新指針は旧指針とは異なり安保条約を再定義するもので
 ある。即ち「極東条項」から「周辺事態」への協力を明文化したの
 である。新ガイドラインについて政府は膨大な予算を使って大新聞
 等へ広報広告を出し、「新ガイドラインは日本国憲法と合致し、日
 米両国の行為は国際法の原則に合致し、日本は状況に応じ主体的に
 決定し、各国へも説明をしていく」と弁明した。しかしアメリカの
 今までの行動(国連総会でも非難された、グレナダやパナマへの侵
 略等)を見ると、アメリカは自分の気にくわない国に対してどのよ
  __________(7ページ)_________

 うな行動をするか分からないのであり、日本は常にそのアメリカを
 支持し、反対したことは一度もないのである。そのようなアメリカ
 の決める「周辺事態」に対しての協力として施設の利用(基地を含
 む施設である)、後方地域支援(補給・輸送・整備・衛生・警備・
 通信・その他)、運用面において日米が協力し、指針の下で行われ
 る効果的な防衛協力のための日米共同の取り組みをするというので
 ある。
  そしてこの具体化としての包括的メカニズムは、軍人による共同
 計画検討委員会を中核に、防衛・外務官僚による「日米防衛協力小
 委員会」、日本の一七省庁が参加する「関係省庁局長会議」等での
 共同作戦づくりとしてすでに開始した。
  その法的整備としては、日本「周辺事態」対処への新立法として
 は米軍支援のための新法、有事日米物品役務相互提供協定(ACS
 A)ー実際には有事と同様な相互提供が既に行われているー、自衛
 隊法改正、PKO法の改正等が準備されている。

6 日本の軍備強化とアメリカの戦略への参加
  __________(8ページ)_________

  日本の一九九八年度予算案は防衛関係費四兆九三九七億円(一般
 歳出に占める割合一一・一%)であり、一九九七度よりは少し減っ
 たが日本は世界第二位の軍事費大国である。この予算で、多連装ロ
 ケットシステムMLRS(一両二〇億円)九両発注予定、対人地雷
 禁止対策費(一五億四〇〇〇万円)、法的根拠のない米軍への思い
 やり予算(二五三八億円)、第二の思いやり予算といわれるSAC
 O費予算(米軍基地移転費等ー一〇七億円)が支出される。また最
 近では自衛隊の最新兵器、空飛ぶ司令部と呼ばれる早期警戒管制機
 AWACS(一機五七〇億円を四機発注済)配備や制限なしの高性
 能化により日本では訓練ができない射程をもつ戦車・ミサイルの保
 持、LCAC(エルキャック)ー湾岸戦争でイラクに占領された島
 を奪還するために使われたーを艦内に収めた大型巡洋艦(これも攻
 撃性が高い揚陸艦格)の「おおすみ」(一隻三七五億円で二隻目)、
 最新鋭のミサイル防御システムを備えたイージス鑑(一隻一二〇〇
 億円)の配備等が次々とされている。又即応予備自衛官体制もスタ
 ートする。 これらの事もアメリカの戦略の線上に位置づけられる。
 日本の支援策として行われた九〇億ドル支出のことや、今後の経済
  __________(9ページ)_________

 的支援と併せて戦争における費用負担の決定的意義を深く捉えなけ
 ればならない。
  右の一連の日本政府の方針は、米軍沖縄攻撃基地の固定強化を前
 提に、米軍と自衛隊との一体となった共同作戦を展開するというも
 のであり、沖縄基地機能の本土への拡大・拡散、港湾・空港を初め
 とする施設の優先的使用、公務員(地方公務委員を含む)・民間人
 を問わない強制徴用等を含んでいくものであり、国を挙げての米軍
 支援体制の確立を目指すものである。
  四月の国会へその一連の有事法案を上程すると橋本首相は言明し
 ているが、その内容において憲法の平和主義・平和的生存権は一顧
 だにされていない。政府は「日本の憲法上の範囲内において」と言
 いさえすれば、何をしようと憲法の範囲内のことになるかのように
 繰り返し述べているにすぎない。
  これらの内容は歴然たる日本の攻撃的軍事同盟への参加であり、
 憲法を全く意に懸けないアメリカの世界戦略への日本の完全な組入
 れであり日本の軍事大国への道である。さらに被爆国日本の横須賀
 へ次期空母として原子力船さえあえて配備しようとしている。
  __________(10ページ)_________

7 裁判所も戦争加担の吟味を
  上告人は、元々は先の湾岸戦争に際してなそうとしていた被上告
 人国の加担行為(自衛隊機の派遣・自衛隊掃海部隊の派遣・九〇億
 ドルの支出)の差止と、その加担行為が上告人に対して耐え難い苦
 痛をもたらしているとして損害賠償を求めて提訴した。現在はその
 加担行為の違憲・違法確認と損害賠償を求めている。
  湾岸戦争後に明らかになったこの戦争及び被害等を詳しく見れば、
 上告人の一・二審及び上告理由書で述べた主張が正しいことが、明
 らかである。国民の選挙における一時の多数者が支持した政党・政
 府が侵略(そうでない戦争であっても)への加担行為(基地提供・
 自衛隊動員・戦費負担等)を決めたとしても憲法の基本原理は変え
 られず、憲法に違反する行為は司法により是正されなければならな
 いことが強く求められている。
  日本は侵略戦争だけでなく自衛のための戦争をも放棄した非武装
 の国であるはずだが、いわゆる普通の国(侵略戦争のみ否定ー侵略
 するといって侵略した国はない)であるフランスよりも積極的にア
  __________(11ページ)_________

 メリカの武力攻撃への協力に突き進もうと支援策を練ってきたし、
 今後もその姿勢を変えようとしていない。
  原審裁判所が、湾岸戦争に対する被上告人の加担行為を正視する
 ことを避け、憲法的に厳しく事実を評価・判断することを怠ったこ
 とが憲法を無視・否定した政府の行動を追認し、ついには日本の全
 身を麻痺させ平和主義憲法の機能喪失へと導いている側面があるこ
 とは否定できない。
  今一度、日本国憲法の平和主義・平和的生存権の真髄を捉え直さ
 なければならない。

二、湾岸戦争における被害

1 アメリカのイラク調査報告
  アメリカの元司法長官ラムゼー・クラークを中心とした調査団が、
 湾岸戦争における被害を詳しく調査し、「Metal of Di
 shonor」(一九九七年発行)と表題した報告書を出している。
 この報告書は、単に湾岸戦争での直接の被害についてだけでなく、
  __________(12ページ)_________

 アメリカの世界的核戦略の一環として湾岸戦争を捉えて、それに関
 連するあらゆる事件を調査しており、非常に価値が高く、二〇〇ペー
 ジをはるかに超える膨大な量がある。それ故、その全部を紹介する
 ことは到底不可能なために、湾岸戦争に直接関連した項目のみを紹
 介するに留める。

(一)イラク国民の被害
  湾岸戦争による被害の特徴として、戦闘行為による直接の被害に
 ついてだけでも、その規模の大きい事が驚かされる。マスコミの報
 道では、「ピンポイント攻撃」等と、あたかも一般人への被害はご
 く小さいように報道されていたが、実際は生活の基盤となる、電気
 施設、水道設備、マーケット、等の徹底した破壊であり、最も被害
 を被ったのは、一般人であった。さらに、戦争後、今日まで七年間
 という長期にわたって続けられている経済制裁によって、イラクの
 人々の生活は、根本から破壊されていると言っても過言でない。こ
 の様子は、[第六部・湾岸戦争でイラクや諸国が被った環境被害]
 において、五人の専門家によって報告されている。この報告のうち
  __________(13ページ)_________

 第二十一章については、控訴審において書証(甲六号証の1および
 2)として提出済みであるので、他の四人の報告書を付属資料とし
 て、その翻訳文を添付する。(付属資料3〜6)

(二)湾岸戦争の攻撃側の被害
  湾岸戦争においては、いわゆる「多国籍軍」と報道された、湾岸
 戦争に派遣された兵士達にも、大きな被害をおよぼしている。マス
 コミ等により伝えられた公式の報道では、多国籍軍関係者の死者は
 百人足らずで、あたかも攻撃側の被害は無きに等しいかのように書
 かれているが、戦争後に派遣された兵士の間に次々に重い疾病が生
 じており、いわゆる「湾岸戦争症候群」と言われる。こうして、湾
 岸戦争により実質的な被害にあった派遣軍関係者は、公式発表の何
 千倍にも達している。アメリカの国防総省は、当初はこの病気の存
 在自身を否定していた。しかし、被害者達のねばり強い告発によっ
 て、ついに存在を認めざるを得なくなったのである。この湾岸戦争
 症候群の最も大きな原因の一つとして、湾岸戦争に使用された「劣
 化ウラン」が非常に大きく疑われている。ところが、現在に到って
  __________(14ページ)_________

 も、劣化ウランが原因の一つであることを、アメリカ国防総省は未
 だに認めようとしない。しかも、国防総省の原因を追究する姿勢は、
 極めて消極的である。これは何を表しているのであろうか? これ
 らの事実については、[第二部・劣化ウラン(DU)兵器は、どの
 ように湾岸戦争に参加した兵士に障害を与えたか]において、三人
 の執筆者により報告されている。この中の第五章は、湾岸戦争に従
 軍した看護兵の体験記であり、信憑性が極めて高い。また、この報
 告は、控訴審において、書証(甲五号証に1および2)の一つとし
 て既に提出済みであるので、今一度読み返して頂きたい。その他の
 二人の報告については、この補充書の付属資料として、日本語の翻
 訳文を添付する。(付属資料1,2)

2 最近の新聞報道
  イラクの状態については、マスコミでも時々出ており、湾岸戦争
 およびその後の経済制裁が、最も弱い子ども達にしわ寄せされてい
 ることを、明確に示している。さらに一審においては、イラクに何
 回も訪問して、現地の状況を詳しく捉えてきた人が、証言している。
  __________(15ページ)_________

 最近の報告は付属資料に示す。これは、週刊金曜日1997年9月
 5日号の抜粋である。(付属資料7)このような事態となったのは、
 湾岸戦争の戦闘による被害およびその後の経済封鎖の被害によるが、
 その政策を支援した日本国政府の責任は免れない。これは、日本政
 府も批准した、国際連合「子どもの権利条約」に明確に違反してい
 る。
  その条約は前文で、既に国際的に承認されている、国際人権条約
 と同様に、「人間の尊厳と基本的な人権の承認が世界の自由、正義
 および平和の基礎をなすこと」を再確認し、子どもは、国際法にお
 いても、平和的生存と発達のための子どもの固有の諸権利を保障さ
 れている。
  特に、「締約国は、子どもをまき込んでいる武力紛争において、
 自国に適用可能な国際人道法の規則を尊重し、かつその尊重を確保
 することを約束する」と規定している。

3 テレビドキュメントによる報道
  湾岸戦争に参加した攻撃側の被害は「湾岸戦争症候群」として、
  __________(16ページ)_________

 参加した人々に襲いかかっているのは、既に述べたとおりであるが、
 最近では、その派遣軍の参加者の子ども達に対して、被害がより深
 刻に広がっており、先天性の異常が急増している。この子ども達は
 「湾岸戦争ベビー」と言われて、社会的に大きな問題となっている。
 その様子は、一九九八年一月二五日午後一〇時から一一時までに、
 NHK衛星第一放送で放映された。(付属資料8)

[付属資料](最後に添付)

 1 第五章. 二次的被害:湾岸戦争中に合衆国軍は、劣化ウラ
        ン被曝をどのように受けたか;ダン・ファーヘイ

 2 第七章. もう一つの生体実験;ドロレス・リムバーナー

 3 第二二章.劣化ウラン弾が砂漠を白熱させる;エリック・ホー
                  キンス

 4 第二三章.劣化ウランの残骸がどのようにイラク、クェート
                   およびサウジアラビアを害毒したか;シーグワル
                   ト・ホースト・ギュンター
  __________(17ページ)_________

 5 第二四章.イラクの常置使節団から国連人権センターへのノー
                   ト(スイス・ジュネーブ、一九九六年五月二一日)

 6 第二五章.原子炉は米国の最初の標的;スージー・T・ケー 
                  ン

 7 「週刊金曜日」一九九七年九月五日号「劣化ウラン弾の恐怖」
       七一ページから七五ページ

 8 ビデオ・NHK衛星第一テレビ、
    「GULF WAR BABY 湾岸戦争の後遺症に悩むア
   メリカ」一九九八年一月二五日放送

三、日本の戦後と裁判所
  __________(18ページ)_________

  日本国憲法は、前文において「政府の行為によって再び戦争の惨
 禍が起こることのないやうに決意し・・・この憲法を確定する。」
 と述べている。いうまでもなく、日本国憲法は一五年戦争に対する
 反省を踏まえて制定されたものである。しかし、日本では、ドイツ
 と比較して戦争犯罪に対する責任追及が戦勝国側の都合(とりわけ、
 アメリカの対日占領政策)により不徹底であったために、日本国民
 自らが戦争責任問題について深く自覚することが不十分であった。
  例えば、ドイツでは、一九七九年の西ドイツの大統領選挙におい
 てCDU(キリスト教民主同盟)の有力候補フィルビンガーが、戦
 時中海軍法務官として逃亡水兵に死刑を求刑したことが「ツァイト」
 紙で暴露され、その結果失脚している。このような法律に従った行
 為でも人間性に反する限り違法であるという認識が日本では決定的
 に欠けている。
  第二次世界大戦後の国際法の原則で一番重要なものとされている
 ものにニュルンベルグ原則がある。これは、一九四六年一二月一一
 日の国連総会決議九五(T)で次のように定式化されている。
  __________(19ページ)_________

 (1) 次の行為は、個人責任を生じる国際犯罪である。
  a、平和に対する罪、b、通例の戦争犯罪、c、人道に対する罪
 (2) 個人が国家元首又は責任ある政府の官吏として行動した事実は、
   犯罪の責任を免れ させない。
 (3) 個人が政府または、上官の命令に従って行動した事実は、犯罪の
   責任を免れさせない。但し、その事実は刑の軽減のために考慮さ
   れることはあり得る。

  この原則に従えば、戦時中、治安維持法に基づく特定思想や宗教
 に対する弾圧と処罰、とりわけ、旧植民地における裁判官の判決が
 国際法上の犯罪に該当した事案があったことは否定しえないであろ
 う。しかし、残念ながらこのような意味での裁判官に対する戦争責
 任追及は日本ではなされなかったし、自分から戦争責任を感じて辞
 任した裁判官は殆ど見あたらない。僅かに青木英五郎元裁判官の名
 前があげられるのみである。
  憲法七六条三項は「すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してそ
 の職権を行ひ、この憲法及び法律のみに拘束される。」と規定して
  __________(20ページ)_________

 いる。
  ここでいう「良心」とは、ニュルンベルグ原則を支える国際人道
 法の基礎であり、すべての社会規範の基礎であり、人間性の基礎で
 ある「良心」につながるものである。つまり、ハーグ条約でも、ジ
 ュネーブ条約でも常に繰り返される「マルテンス条項」は、交戦者
 が「人道主義の法と大衆の良心の命令に・・・由来する国際法原理」
 に服さなければならないことを規定している。従って、裁判官がま
 ず、立脚すべきは、人類の未来を見つめた憲法の基本精神と、裁判
 官自身の人間性なのである。

四、日本国憲法と非武装

1 憲法の常識的理解
  ところで、日本国憲法の最大の特徴として徹底した非武装があげ
 られることは明らかである。日本語を理解する能力のある日本人が
 憲法第九条を素直に読む限り、名目の如何を問わず、一切の武力行
 使が禁じられていることは明らかである。実際に、一九四六年七月
  __________(21ページ)_________

 四日の帝国憲法改正委員会において当時の首相吉田茂は、「自衛権
 による交戦権、侵略を目的とする交戦権、このふたつを分けること
 が、多くの場合に於て戦争を誘起するものであるが故に、斯く分け
 ることが、有害なりと申し」て、第九条によって自衛戦争も否認す
 ると述べていたのである。このような当たり前の解釈が大きくゆが
 められていったのは、アメリカの対日占領政策の変更によるもので
 あることは周知の事実である。

2 日本国憲法と国連憲章
  それでは、この日本国憲法第九条の規定は、夢物語に過ぎないの
 であろうか。最近、「普通の国」論という言葉のもとに軍備増強を
 はかるべきであるとの主張が語られ、その主張との関わりで国連の
 安全保障理事会における常任理事国入りが語られることがある。
  ところで、国連憲章は、戦争を原則として違法化している点では、
 不戦条約以後の国際法の流れにしたがったものである。しかし、国
 連憲章五一条が自衛戦争を容認するとともに集団的自衛権を認めて
 いる点で、明らかに日本国憲法の徹底した非武装主義とは異なって
  __________(22ページ)_________

 いる。国連の安保理構成自体が戦勝国による世界支配の側面をもっ
 ていること及び日本に徹底した非武装をとらせたことの背景に戦勝
 国側の日本の再軍備に対するおそれといったパワーポリティックス
 の背景があったことは否定しえない。しかし、日本国憲法が徹底し
 た非武装主義をとったのは、単にこのようなパワーポリティックス
 にのみ規定されたものではない。侵略戦争に対する反省とヒロシマ・
 ナガサキという原爆被害を体験した国家として、戦争そのもののも
 つ悲劇性の認識から人類社会の先取りとして非武装主義をとったの
 である。
  アインシュタインは、「核エネルギーという宇宙エネルギーの解
 放は、人類の思考方法以外のすべてをかえてしまった。かくて人類
 は未曾有の危機に直面している。」と述べたが、核エネルギー(そ
 れだけではなく、環境問題を含む人類が生み出した科学知識とこれ
 に基づく産物)が人類全体に対してもつ意味を理解しないと現在の
 人類全体に及ぼしている危機を理解することができない。人類が地
 球上に現れてから一〇〇万年以上がたつといわれているが、このよ
 うな意味での種全体の生存そのものに対する危機は、ここほんの五
  __________(23ページ)_________

 〇年程度にしか過ぎない。これからの僅かの時間(おそらく一世紀
 程度であろうか。)が人類の未来にとって極めて重要な意味を持つ
 時期なのである。この時期に核戦争被害地ヒロシマ・ナガサキをも
 つ国の国民として生きる裁判官を含む我々の人類の未来に対する責
 任は重大である。
  確かに、今、米ソの対立による冷戦が終結し、コンピュータに依
 存して、全面核戦争をするか否かを米ソの指導者にすべてを委ねて
 いた全面核戦争の危機は遠のいたように見える。しかし、この危機
 が完全になくなったわけではない。今も続く米ロの先制核攻撃準備
 態勢のもとでは、核戦争を遂行するかどうかを決めるには、先制攻
 撃か否かをレーダーと直結したコンピュータの判定に依存せざるを
 得ない。ところが、米露は、北極をはさんでミサイルを対峙させて
 いるが、ミサイルの到達時間は、多く見ても三〇分程度であり、先
 制攻撃であるか否かの判定時間は更に短くなる。旧ソ連の解体と、
 冷戦の終結、そして米露間の対立の緩和は、コンピュータの誤作動
 を先制攻撃と勘違いしなくなった確率が高くなったという程度にし
 か過ぎない。
  __________(24ページ)_________

  ちなみに、米国では、一九七九年一一月九日に、コロラドスプリ
 ングスにある北米防空司令部(NORAD)でのコンピューターの
 誤動作によって誤ってソ連ミサイル攻撃の警報が出されたが、警報
 が六分後に解除されたという事故があった。米上院の軍事委員会報
 告によると警報装置のブラウン管に疑わしい映像が映し出される度
 に緊急の検討会議が開かれるが、一九七九年から一九八〇年六月末
 までの一年半における検討会議の回数は、三七〇三回に及びそのう
 ち、一四七回は、直接北米大陸に対する脅威のあるものであり、そ
 のうち四回について交えた脅威評価会議が開かれたとされる。これ
 まで核戦争が起こらなかったことが幸運であったとさえ言えるので
 ある。
  他方、米ロの緊張緩和の影で地域紛争が続発しており、民族間の
 対立は、むしろ増大してさえいる。この対立をあおっているのが、
 武器ビジネスである。このような地域紛争、民族対立が今後の人類
 全体に対する脅威とならない保障はどこにもない。今、必要なこと
 は、人類社会の一員であるという自覚をもち、相互に信頼しあう国
 際社会を築いていくことである。日本国憲法が前文で「われらは、
  __________(25ページ)_________

 平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しよ
 うと勤めている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思う。
 われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和の
 うちに生存する権利を有することを確認する。」という方向こそが、
 人類の歩むべき道なのである。

3 国内の「普通の国」論vs世界の全面完全軍縮の流れ
  このような核兵器(更には、科学技術)が人類に対してもつ意味
 を考えるとき、最近、声高に叫ばれている「普通の国」論のもつ危
 うさは明らかであろう。国内ではこのような「普通の国」論が叫ば
 れてはいるが、目を世界に転じるとき、今、少しずつではあるが、
 人類は日本国憲法が考えたあるべき方向へ向かいつつあるのである。

(一)国際司法裁判所の勧告的意見とその後の世界の流れ
 その一つが、国際司法裁判所による核兵器の使用及びその威嚇に関
 する勧告的意見である。
  __________(26ページ)_________

  一九九六年七月八日、ハーグにある国際司法裁判所は、国連総会
 が決議に基づいて同裁判所に求めていた「いかなる状況においても
 核兵器の威嚇または使用は国際法のもとで許されるか」との勧告的
 意見を求める要請に対し、「核兵器の使用及び威嚇は、一般的に武
 力紛争に適用される国際法、とりわけ人道法の原則および規則に反
 することになる。」という画期的判断を示した。これについては、
 「しかしながら、本裁判所は、国際法の現状および利用しうる事実
 の証拠にたって考えると、国家の存亡が危険にさらされている自衛
 の状況において、核兵器の威嚇または使用合法であるか、違法であ
 るかについて、確定的に判断を下すことができない。」との留保が
 伏せられているものの、この勧告的意見のもつ決定的影響は極めて
 大きかった。
  例えば、一九九六年九月、米国ウイスコンシン州の住民夫妻が米
 海軍の「低周波無線施設(ELF)」(世界を航行する原子力潜水
 艦に核兵器発射の大統領命令を発信するアンテナ)の電柱を切り倒
 し、「破壊活動罪」(最高懲役一〇年)、「財産損壊罪」(最高懲
 役五年)で起訴された裁判で、郡巡回裁判所の一二人の陪審員が破
 壊活動罪は無罪とした。ただ、財産損壊罪を有罪とした。
  __________(27ページ)_________

  同じく一九九六年九月にベルギーで核兵器基地に入り「核兵器は
 違法」の横断幕を掲げた二人に無罪判決が出され、翌一〇月には、
 ドイツの裁判所で、米軍指令施設に入った七人に無罪判決が出され、
 同年一二月には、英国の裁判所で核弾頭輸送中のトラックを止めた
 二人に無罪判決が出されている。
  このような無罪判決は、上告人らが一審以来主張し続けている「殺
 さない権利」と密接な関係があることは明らかであろう。
  更に、このような裁判所による判決だけではなく、軍事専門家や政
 治家の間にも核兵器をなくそうという動きが強まっている。

(二)民衆の主導による世界平和
  ところで、もう一つ認識すべきことは、国際司法裁判所に前記の
 勧告的意見を出させたのは、世界の非政府組織(NGO)の力であ
 るということである。NGOが非同盟諸国と協力しながら、国連総
 会を動かして勧告的意見を求める総会決議を採択させ、更に多くの
 政府に核保有国の圧力に抗して核兵器の使用が違法であるとの意見
 を陳述させ、そして、日本を含む全世界から届けられた三〇〇万を
  __________(28ページ)_________

 超える署名が国際司法裁判所の裁判官を動かし、先ほどのような核
 兵器の使用は原則的に違法という結論を出させたのである。
  このように世界のNGOの力が世界平和をリードしているのは、
 核兵器問題だけではない。もっとも大きな成果を上げたのは、地雷
 禁止条約である。NGOが自らが専門家の協力を得て、条約案を起
 草し、これを各国政府に迫り、結局超大国アメリカの圧力をはねの
 けて署名、批准、そして発効までもたらしたのである。
  核兵器についても国際司法裁判所の勧告的意見後、専門家を交え
 ての国際NGOによって核兵器条約が起草された。今、地雷禁止条
 約に習って各国政府に検討と協力を呼びかけているところである。
  日本国憲法、とりわけ、平和的生存権のもっとも大きな意味は、
 国境を越え、お互いに民衆が平和を築き上げようとしたことである
 が、今その動きがますます強まっているのである。

(三)ハーグ平和会議一〇〇周年と全面完全軍縮(非武装)
  このようなNGOの動きの延長に、来年、一九九九年、ハーグで
 一八九九年に開催されたハーグ平和条約一〇〇周年を記念する集会
  __________(29ページ)_________

 が企画されている。ここでの最大の目標は二一世紀を戦争のない世
 界にしようという動きである。これは決して夢物語ではない。核兵
 器の被害認識の深まりとともに、戦争をなくさない限り人類は絶え
 ず、絶滅の危機のもとに生きなければならないことが明確に意識さ
 れてきているのである。それは、まさに日本国憲法が制定にあたっ
 て認識していた事実である。
  最高裁判所が、被爆国の裁判所として、そして、世界に先駆け、
 人類に未来を先取りした憲法をもつ国の裁判所として、戦争をなく
 し、殺人に協力しない国家を宣言する必要があるのである。 

五、基本的人権の侵害による精神的苦痛と損害賠償

1 憲法は、第三章国民の権利及び義務、第一一条で「国民は、すべ
 て基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基
 本的人権は、侵すことができない永久の権利として、現在及び将来
 の国民に与へられる」と規定し、さらに第十章最高法規、第九七条
 一項で「この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年
  __________(30ページ)_________

 にわたる自由獲得の努力の成果であって、これらの権利は過去幾多
 の試練に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことができない永
 久の権利として信託されたものである」と規定する。
  基本的人権について、憲法がかくも重ねて強調しているのは、人
 権、人間の自由をあらゆる国家権力から不可侵なものとして保障す
 るという理念に基づいて、その価値を規範化した、国家権力に対す
 る法的制限の基本秩序であるということからくる。
  こういう人権・自由の基礎法であるところに憲法の最高法規性の
 実質的根拠があり、「実質的最高法規性の原則があって初めて、形
 式的最高性を確認した憲法第九八条第一項が導き出されるという、
 「密接な憲法思想史的関連」(芦部信喜・憲法学。1五七頁)から
 見て九七条一項は「最高法規」の冒頭を飾るにふさわしいものであ
 ると言われている(川添利幸「憲法の最高法規性」演習憲法二〇頁、
 注解一四六二頁)。
  基本的人権の尊重・擁護が憲法上、いかに重要な位置を占めてい
 るかを証して余りあるとともに、この人権侵害を担保する機能とし
 て期待されているのが、裁判所による「一切の法律、命令、規則又
  __________(31ページ)_________

 は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限」(憲法第八一
 条、違憲審査権)であり、最高裁判所はその終審裁判所である。
  然るところ原判決はこの期待を裏切ったのである。

2 憲法が保障する基本的人権として平和的生存権、納税者基本権が
 あることは既に詳述した。
  上告人らは被上告人による湾岸戦争に対する戦費支出、掃海部隊
 派遣により、平和的生存権を侵害され、「多国籍軍による国際法違
 反の湾岸戦争に加担させられ、イラク人民に対する暴虐かつ残忍な
 殺戮行為等の片棒を担がされた」ことによる精神的苦痛を被ったと
 して被上告人に対して損害賠償を請求しているのである。
  これに対し原判決は「個人の内心的感情も、それが害されること
 による精神的苦痛が社会通念上受忍すべき限度を超えるような場合
 には、人格的な利益として法的に保護すべき場合があり、それに対
 する侵害があれば、その侵害の態様、程度いかんによっては、不法
 行為が成立する余地があるものと解すべきであるが、内心的感情を
 害されることによる精神的苦痛が社会通念上受忍すべき限度を超え
  __________(32ページ)_________

 たと評価されるためには、一定の特殊な地位にあること等によって
 通常の社会生活の中では生じえないような深刻な不快感、焦燥感等
 が生ずるなどすることが必要である」が上告人らの主張する精神的
 苦痛はこれに該当しない、と述べるだけで、憲法に定める基本的人
 権の重大な侵害であると言う上告人らの主張については一切、触れ
 ることなく、民法上の不法行為論で上告人らの請求を退けており、
 憲法判断を回避している。
  原判決はその判断でさえ、湾岸戦争の実態──被上告人による侵
 害行為が有する違法性の程度と、これによる上告人らの被害者利益
 ──「戦争に加担しないで平和に生きたいという思い、人殺しに加
 担したくないという信念、自己の納めた税金を戦争のために使わせ
 たくないという願い」とを対比することなく、「一定の特殊な地位」
 にないことを理由に(もっともこの点も明確ではない)上告人らの
 主張を切って捨てたのである。

3 原判決が言う「一定の特殊な地位」とは、いったい何を意味する
 のか。
  __________(33ページ)_________

 原判決はこれには黙したままである。
 上告人らはこの言葉自体、憲法第一四条が定める「すべて国民は、
 法の下に平等であって、人種、信条、特別、社会的身分又は門地に
 より、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」と
 定める法の下の平等原則に反する響きを感じる。
  前述したとおり憲法の骨格をなす基本的人権の侵害により被害を
 受けた者が、裁判所に対しその救済を求めるために、何故に「一定
 の特殊な地位」を必要とするのか。
  それを言うのであれば被上告人による憲法違反である戦費支出、
 掃海部隊派遣の違法行為を糾弾し、その責任を追求すべく本訴を提
 起した原告、控訴人、上告人らこそ「一定の特殊な地位」に立って
 いると言うべきではないかと思料されるのである。

4 原判決及び一審判決は上告人らの主張する精神的苦痛は、多数決
 原理を基礎とする決定に不可避的に伴うものであって、間接民主制
 の下における政策批判、上告人らの見解の正当性を広めるための活
 動等によって回復されるべきものであると言う。
  __________(34ページ)_________

  原判決等に指摘されるまでもなく、憲法第一二条は「この憲法が
 国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これ
 を保持しなければならない」と定めており、上告人らの本件訴訟に
 よる被上告人に対する請求は、憲法第一二条が定める基本的人権(抵
 抗権──注解憲法T二四一頁)の行使として位置づけることもでき
 るのであり、かつ原判決等が言う「上告人らの見解を広めるための
 活動」の一環であるという側面も有している。
  しかし乍ら本訴における上告人らの被上告人に対する慰謝料請求
 は、純粋に憲法が定める基本的人権たる平和的生存権を被上告人に
 よって侵害され、耐え難い苦しみを味あわされたことによる損害賠
 償請求であり、原判決はこの上告人らの請求について正面から判断
 していないのである。
  被上告人による国民に対する基本的人権の侵害に対する司法的救
 済としては、上告人らによる国家賠償請求という営為を積み重ねる
 こと等によってのみこれを抑止することがてきるのである。
  原判決等のようにこれを政治活動等によって回復をはかるべきだ、
 と言うのであれば司法の存在価値自体が問われることになる。
  __________(35ページ)_________

  最後に、原告・控訴人・上告人の各証言・陳述・陳述書・上告理
 由書・補充書も全訴訟記録と共に是非再度読み検討されるよう要望
 する。
  __________(36ページ)_________


インデックスページに戻る