[市民平和訴訟の会・東京]上告理由補充書(第二)
(注)上告人の個人名は「*」で置き換えてあります。
平成九年(行ツ)第二四二号
上告人 * * * * *
外五五名
被上告人 国
一九九八年一〇月二三日
上告人ら代理人弁護士 白 谷 大 吉
池 田 眞 規
外二四名
最高裁判所 第一小法廷 御中
上告理由補充書 第二
確認の利益についての上告理由に、以下のとおり補充する。
一、はじめに
原判決が判決理由で使用した「確認の利益がない」という論理は、憲法九条の適用を
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回避するための手段であった。
日本国憲法施行後の主要な憲法九条訴訟において、日本の司法は、後に詳述するよう
に二つの例外を除いて、一貫して憲法九条の適用を回避してきた。二つの例外とは、長
沼ナイキ基地訴訟の第一審判決と砂川刑事特別法違反事件第一審の判決である。
その他の憲法九条訴訟においては、当該事案につき、憲法九条を適用するならば、国
の行為が違憲となるおそれがあるときには、日本の司法は一貫して、違憲判決を回避す
るために「訴えの利益なし」「確認の利益なし」「高度に政治的な事件であり司法の判
断になじまない・統治行為論」などの理由を使って違憲判決を回避してきた。
その結果、日本の司法は憲法に違反する日本政府の行為を放任するという高度に政治
的な役割を果たしてきた。
本件訴訟の違憲確認請求は、湾岸戦争に際して日本政府が、戦争の一方の当事者に巨
額な戦費を拠出し、ペルシャ湾に自衛隊の掃海部隊を派遣した行為が、日本国憲法第九
条に違反するから、その行為の違憲・違法の確認を求めるものである。
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何故、上告人らは違憲の確認を求めたのか。それは政府がこれらの違憲の行為を実行
する前に、上告人らが政府の行為の差止めを求める確定判決を得ることは、日本におけ
る現在の訴訟制度のもとでは完全に不可能なことであるからである。
しかも、政府が、戦争の一方の当事国に対し、戦争遂行に不可決の巨額な戦費を拠出
して戦争遂行に協力し、さらにペルシャ湾に自衛隊の掃海部隊を派遣した行為につき、
憲法九条を適用すれば、明らかに違反するという判断は、法律家の判断としては当然の
帰結である。原判決は、この当然の判断の帰結を判決に示すことを回避したいがために
、上告人の違憲の確認請求に対し、確認の利益がない、という論理を使った。これは日
本の司法の憲法判断回避のための常套手段の一つである。
原判決は、三つの理由を挙げて、確認の利益を認めなかった。
確認の利益を認めない理由として挙げられる理由は、専ら、政府の行為に対する憲法
の適用を回避することのみを意図したもので、それは理由というよりも、理屈である。
理屈は説得力がなくても判決に述べられると、一応理由にはなる。
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しかし、憲法第九条の正しい解釈からは、およそ程遠いものであることには変わりは
ない。この点については、更に主張を補充する。
本件補充書においては、原判決が確認の利益を認めない理由に対する、個別的な反論
に入る以前の問題として、戦後の日本国憲法下の日本の司法には、『憲法九条の適用を
回避する』という伝統的な傾向があること、この司法の伝統を受けて、原判決が「確認
の利益なし」という理論を安易に使用したことの反憲法的な重要な意味を検討する。
そして、この憲法判断の回避の傾向は、司法の国民的信頼の基本にかかわる問題であり
、最高裁判所の判決によって是正されねばならないことを特に強調するものである。
二、本件訴訟の重要な憲法的意義と司法の憲法判断の回避
日本国民として上告人らが違憲確認請求をした目的は、すでに政府により実行された
他国の戦争への戦費の支出及び掃海艇の海外派遣行為を、違憲行為として確認すること
により、政府が再びこのような違憲行為を繰り返すことを阻止するためである。
政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないようにすることを決意した日
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本国民によって制定された憲法の基本的な平和原則が、政府のなした戦費の支出及びペ
ルシャ湾への掃海艇の派遣によって無残に破棄され、「政府の行為によって再び戦争の
惨禍を繰り返す」危険が現に生じたときに、国民が憲法の番人である司法に対し、政府
の違憲行為を阻止すること、将来の違憲行為の再発(再犯)を防止する措置を求めたさ
いには、司法はこれに応じて、最大限の有効な措置をとるのが司法の重要な責務である
はずである。司法において、事前の措置をとることが時間的に不可能な場合は、事後に
おいて違憲の確認措置をとることは政府に対する重要な警告となるのである。
しかるに、従来幾多の憲法九条訴訟が提起され、すでに判決がいくつか言渡されてい
るが、いずれも、憲法九条に違反する政府の行為を認定して、国民の請求を認容するこ
とができたにもかかわらず、特殊な訴訟理論を駆使して、憲法判断を意図的に回避して
、国民の請求を退けてきたのである。その結果、憲法に忠実であるべき司法が、ことも
あろうに政府の違憲行為を追認し、これに荷担するという由々しき政治的な役割を果た
してきたのである。
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本稿において、原判決が憲法問題についての右のような司法の由々しき傾向を引継い
で、従来と同様な論法によって、憲法判断が可能であるにもかかわらず、憲法判断を回
避するという誤りを繰り返した事実に鑑み、ここに改めて憲法九条訴訟における日本の
司法の対応の実情を追跡し、その誤りを検証することにする。
日本政府が第二次世界大戦後の日本国憲法施行下において、政府が憲法第九条の規定
に違反して、米国の国益に基づく軍事並びに政治戦略を承認し、米国の要請に基づく日
本再軍備政策を受け入れて、軍備を増強発展させてきた経過が事実として存在する。こ
の状況のなかで、国民と国との間で争われた憲法九条関連訴訟を系統的に検討すれば、
日本の司法が政治と憲法九条の相克状態に如何なる対応をしたかが明らかになる。
その上で、憲法九条訴訟について日本の司法が如何に対応したか、そして、発展する
世界の流れに如何に逆行した誤った方向に進んできたかを明らかにし、日本の司法に蔓
延した憲法判断回避の論理の重大な誤りを指摘することができる。
三、日本の司法の憲法九条訴訟における憲法判断回避の一般的傾向
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1、自衛隊は憲法九条に違反する、という解釈は通説であり判例である。
国の基本法である憲法は国家存立の基盤であり、国際情勢の変転による政府の対外
政策に対応して、無闇に憲法で定めた原則を変更してはならないことは理の当然であ
る。憲法九条は、国際紛争の解決のために武力を行使することを禁止し、一切の戦力
の保持を禁止していることは明らかである。したがって、戦争のために戦費を支出し
たり、または自衛隊の掃海艇を海外に派遣することは、憲法第九条に反すると解する
他はない。このような解釈は憲法学会の通説である。
また日本の司法が自衛隊並びに駐留米軍について憲法九条を適用し解釈した場合は
、すべて右と同様に憲法第九条に違反するという解釈をしているのは紛れもない事実
である。すなわち、砂川米軍基地の刑事特別法違反事件の第一審判決と長沼ナイキ基
地の保安林指定解除取消請求事件の第一審判決がそれである。
そしてさらに、日本の司法が、自衛隊並びに駐留米軍について憲法九条を適用し解
釈をした結果、自衛隊並びに駐留米軍は憲法九条に違反せず、合憲であると判決した
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ことは一度もない。
法律家はこの厳粛な司法の歴史的事実を忘れてはならない。
2、自衛隊違憲判決を避けるための司法の憲法判断回避の一般的傾向の意味するもの。
砂川米軍基地の刑事特別法違反事件の第一審判決と長沼ナイキ基地の保安林指定解
除取消請求事件の第一審判決で、憲法九条違反の判決がなされ、いずれも敗訴した国
側の上訴によって、違憲判決が取消され以後、日本の司法は、自衛隊並びに駐留米軍
の存在または行動について憲法九条の適用・解釈を迫られた場合、さまざまな理由を
工夫して、憲法九条の適用を回避する方針を決めて実行するようになった。
これは、憲法九条の適用を回避しないで憲法判断をしたならば、自衛隊は憲法違反
という判断をせざるを得なくなるからである。
回避するための理屈は、統治行為論、訴えの利益論、請求権不存在、あるいは民法
理論などの別の法律論などさまざまであるが、それらはいずれも憲法判断を避けるこ
とを目的としていることでは共通の論法である。原判決の「確認の利益なし」という
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理屈もこの部類に属する。これらの尤もらしい論法は、単に憲法判断を回避するため
の手段に過ぎないのである。その目的は憲法判断を回避することだけである。
このような日本の司法の傾向の意味するところは、日本の裁判官にとって自衛隊並
びに駐留米軍について憲法九条を適用して解釈するならば、自衛隊並びに駐留米軍は
、憲法解釈上論理必然的に憲法九条に違反する、という解釈をせざるを得ないことを
承知していること示している。にもかかわらず日本の司法にとって「憲法九条違反と
いう判断」はタブ−のようであり、「してはならない判断」のようである。
ここには、「司法の独立が存在しない世界」が存在しているように見える。
戦後の主要な憲法九条に関連する裁判の検討は後述する。
3、司法の憲法九条判断の回避がもたらした自衛隊増強の政治的効果。
日本の司法が憲法判断を回避する理由は、違憲判断をした場合は政治的に混乱を生
ずるかもしれないという政治的配慮から、憲法判断をして行政機関からの予想される
非難を受けたくない、という心理的な傾向にその原因があるように思える。
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しかし、このような司法の行為は、裁判官の憲法を順守する義務を放棄するもので
あり、のみならず行政のなした違憲行為を結果的には追認することになったことも事
実である。
その結果、現在にいたるまで自衛隊はその違憲状態を限りなく増殖し、あたかも憲
法九条が存在しない国に変質したかのごとき状態を現出するにいたっている。かくの
ごとき状態を現出することに手を貸した日本の司法の責任は極めて重大である。
国の基本法は、政府の対外政策にしたがって、安易に解釈論によって変更してはな
らないことは自明のことである。それにもかかわらず、日本の司法は、基本法の定め
た原則が無視され事実上憲法九条がなきに等しい状態が現出しているに対して、違憲
判断を回避することによって、違憲状態の存続に大きな貢献をしてきたのである。
4、司法の憲法判断回避は司法の積極的な政治的行為そのものである。
憲法九条問題が政治的あるいは統治行為の問題であるという理由によって、自衛隊
の憲法判断を回避することは、それによって、自衛隊の違憲状態を阻止することを拒
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否することになり、自衛隊の存続・強化を要求する政治勢力を利する、という極めて
政治的な行為となることを認識しなければならない。
要するに、司法が憲法判断を回避すること自体が極めて政治的な行為なのである。
だから「政治的である」ことを理由に憲法判断を回避することは、表面的には公正
中立を装いながら、その実は自ら政治的な行為をしているのである。
政治的な問題についての憲法判断を回避することによって、司法の中立・公正が維
持されるという神話がわが国の司法の世界に蔓延していることは由々しきことであ
り、司法の自己否定にもつながるものである。これは世界の潮流に逆らう我が国の司
法の後進性を示すものでもある。
したがって、裁判官は統治行為論や政治的問題を理由に憲法判断を回避するのはそ
れ自体政治的行為であり、憲法判断回避はまさに司法の自己否定である。
四、憲法九条に関連する日本と世界の政治的環境
一九四七年五月三日、戦争放棄と戦力不保持を定めた新しい憲法が施行された。
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第二次世界大戦の終結後、米ソの対立の激化が反映して、一九五一年、朝鮮戦争が勃
発し、日本では連合軍司令部の要請により同年警察予備隊が発足する。一九五四年には
自衛隊法が制定されて日本は本格的な再軍備時代に入ることになる。これは米ソ対立に
よる米国の軍備増強政策に従属して、日本の自衛隊は米軍の対ソ作戦のために、アジア
に展開する米軍の補完部隊として生成発展することになった。
その過程において一九六二年から一九七三年まで米ソの代理戦争といわれたベトナム
戦争が戦われ、日本は米軍の兵站基地・出撃基地となって米軍に協力したが、最後は米
軍の敗退によって終結した。
この間、米ソの核兵器を中核とする激しい軍拡競争は限界に達し、ソ連は経済的政治
構造的に崩壊し、一九八九年、米ソは東西冷戦の終結を宣言して和解をするに至るので
ある。そしてベルリンの壁は崩壊し、ワルシャワ条約機構も崩壊するにいたった。
これは、世界から大規模な戦争、特に核戦争の可能性はなくなる時代の到来を意味す
るものであった。これは、同時に、憲法第九条の原則が国際的に普遍的に通用する時代
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の到来を意味するものであった。
ところが、一九九〇年八月、イラクのクエ−ト侵略を契機に、米国を中心とした多国
籍軍の五〇万以上の大軍が中東に派遣・展開し、翌九二年一月、イラクを敵とする湾岸
戦争が勃発した。クエ−トに侵入したイラク軍の撃滅作戦は短期間で終了した。
この戦争において、米国は最大限の武力を世界に誇示し、それは実力で全世界に君臨
することを宣言することを意味するものとなった。
この君臨のために米国は必要以上の集中豪雨的な大規模の軍事大作戦を展開し、その
ための巨額な戦費のうち、日本は米国の要請に応じて、その戦費の約四分の一を拠出し
、自衛隊を派遣するに至ったのである。
この湾岸戦争への参加は、日本政府にとっては、その存在理由を失いかけていた自衛
隊に最大の存在理由を与えてくれた神の恵みであった。それは、同時に日本国憲法第九
条に対する、最大の侮辱であり、裏切りであった。
五、政治的環境に変化に対応する政府の憲法九条解釈の歪曲・転変の歴史的経過
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右に述べた憲法九条に関連する日本と世界の政治的背景の経過のなかで、日本政府は
憲法九条に違反する日本再軍備の現実の進展に応じて、その矛盾につき弁明を迫られる
のであるが、政府がなしてきた弁明はいずれも憲法九条解釈の歪曲の連続でしかなかっ
たのである。その経過を概観してみよう。
1、第一期 憲法施行後から自衛隊法施行まで。
この間における、政府の憲法九条解釈は、日本は一切の戦力は保持しない、という
解釈により、警察予備隊も保安隊も憲法九条で保持を禁止する戦力ではないと弁明し
ていた。
2、第二期 自衛隊法施行から米ソ和解まで(米ソ対立冷戦時代)。
この時期では、政府は自衛隊の合憲性の根拠を、急迫不正の侵略に備えて自衛のた
めの最小限度の実力を保持することは、憲法は禁止していない、と弁明していた。
その急迫不正の侵略の現実的可能性として、ソ連の脅威を強調していた。そのため
に自衛隊は、米軍の対ソ軍事戦略の補完部隊としての役割を目的として増強された。
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3、第三期 ソ連の崩壊・米ソ和解後から現在まで。
この時期では、ソ連の脅威が消滅したために、第二期において政府が主張していた
自衛隊の合憲性の根拠『ソ連の脅威』が消滅した。つまり、第二期の米ソ対立冷戦時
代において、日本政府が自衛隊の合法性の根拠として主張した「ソ連の脅威」という
弁明が使用不能となったのである。
激変したこの政治状況は、政府・自衛隊にとって、自衛隊の存在理由の消滅という
、かってない重大な事態が到来したことになる。政府が混迷のなかで、自衛隊の生き
残りのための弁解を模索していたところに、まさに地獄に仏とも言うべき、救世主が
現れたのである。それが湾岸戦争である。
つまり、湾岸戦争にさいして、日本は「国際貢献」のために、「金」も「自衛隊員
の血」も出せ、という米国の強い要請を受けた。日本政府は、これに飛びついて、ソ
連の崩壊・米ソ和解後の自衛隊の存在理由を「国際貢献」に求めることにした。
この時点で自衛隊の存在理由の根拠について、「ソ連の脅威」から「国際貢献」へ
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転換したのである。
そこには憲法九条(戦力不保持)、自衛隊法第三条(自衛隊の任務−わが国の平和
独立、安全)、日米相互協力・安全保障条約第六条(極東条項)などの違反について
の検討も配慮も全くなく、極めて曖昧な「国際貢献」という美名のもとに戦争協力と
念願の自衛隊海外派遣を一挙実現する機会到来とばかりに飛びついたのである。
国際貢献という概念は、中身の不明瞭な曖昧な概念であり、このような抽象的な如
何様にも解釈できる概念をその存在の合法性の根拠とすることは、自衛隊は「国際貢
献」という名目で今後、米国の要請があれば世界の何処にでも如何様にも軍事行動が
可能となることに道が開けることを意味するのである。
六、右の第二期(米ソ対立期)の憲法九条問題での政府と司法の対応とその特徴。
米ソ対立の時代の自衛隊・駐留米軍の存在について、政府の主張する憲法適合性は、
憲法九条を前提として「ソ連の侵略の脅威に備えて自衛のために必要最小限度の実力を
保持する」という詭弁的な説明ではあったが、解釈の限度として、「必要最小限度」と
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いう余り意味はないが一応の制約を自らに科していた。
そして、自衛隊や駐留米軍が対象となった憲法九条訴訟においても、憲法九条解釈を
めぐり、厳しい憲法論争が展開され、司法は、当初においては司法の独立を厳守して違
憲判断を示したが、後には違憲判断による政治的影響を恐れて、憲法判断回避に逃げ込
む方向に進むにいたるのである。それは、結果的には自衛隊の増強に協力することにな
るという極めて政治的な判決を一般化するに至ったのである。
以下、その経過を概観する。
1、自衛隊・米軍の存在の詭弁的合法論と一定の自制心
日本国憲法施行以後、米ソ対立が激化した時代において、米国は、対ソ連世界戦略
にもとづき、アジアにおける対ソ戦略のために在日米軍基地並びに米軍の駐留を日本
政府に要求し、さらに、在日米軍を補完する軍隊の創設と増殖を日本政府に要求し、
政府はこれを受諾して、前者については日米安全保障条約並びに行政協定の締結をも
ってこれに応じ、後者については自衛隊法の制定をもってこれに応じたのである。
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これらの行政行為や立法行為の憲法適合性をめぐって、憲法論争が激しく闘わされ
てきた。政府と与党は自衛隊の合憲を、野党は違憲を主張して対立した。
このように、米ソ対立の政治状況下において、その存在自体が憲法違反という非難
を受けながら増殖を続けた自衛隊は、憲法九条に明らかに違反するが故に、実態は軍
隊であるのもかかわらず、自衛隊は憲法九条で保持を禁止された戦力ではないという
見えすいた詭弁を弄することによって、国民を欺き続けていたのである。例えば、名
称についてさえも「軍隊」の印象を与える名称は一切使用せず、軍隊を自衛隊、戦車
を特車、軍艦を護衛艦、などと名称を詐称することを敢えてしたのである。
また、自衛隊の存在理由について、ソ連の脅威と急迫不正の侵攻に対する「自衛の
ため」を唯一の合法性の拠り所としていた。そのために、自衛隊の行動範囲も原則と
してわが国とその周辺地域と極めて限定されていたのであった。発足当初においては
行動範囲も日本の領海、領空内を原則とするなど厳しい制約に甘んじなければならな
かった。その後、次第に国民の目の届かないところで増強を続け、日米防衛協力ガイ
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ドラインの策定に及んで事実上、行動範囲を拡大し、日米共同作戦が遂行されること
が可能なまでにいたるのである。
しかし、その厳しい米ソの軍事的対立の時代において、朝鮮半島で戦われた「米軍
と韓国軍を中心とする国連軍」と「中国軍と北朝鮮の連合軍」との戦争であった朝鮮
戦争の際でさえ、更なる憲法第九条違反の非難を恐れて、日本政府は政府自身が自ら
戦争当事国となって、朝鮮戦争における米軍の戦争行為に協力するような行為は、敢
えて自制していたのであった。
すなわち、米国や韓国の政府が朝鮮戦争のために支出する戦費について、日本政府
がこれらの戦費を負担して提供することもしなかったし、また、内閣総理大臣の指揮
監督のもとに自衛隊の前身である警察予備隊を朝鮮戦争の軍事行動のために日本の領
域外である朝鮮半島地域に派遣することもしなかった。
こうして、憲法上から見ても、制度上から見ても、自衛隊は認知されない非合法の
存在であり、公然と憲法上容認された存在としての地位を得られなかったことには変
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わりはなかった。したがって、日本政府としても、自衛隊自身においても、「自衛の
ための最小限度」という限界を踏みはずすことや自衛隊を海外に派遣することにつき
自己抑制をすることによって、合法性を維持しようと務めていたのである。
しかし、そのような自己抑制をしたところで自衛隊が合憲的存在に変質するもので
もなく、憲法九条の適用・解釈からすれば、自衛隊が依然として違憲の存在であるこ
とには変わりはなかったのであった。
2、この米ソ対立時期における主な憲法九条裁判
右のような米ソ対立の時代における自衛隊または駐留米軍について、その憲法適合
性を争う国民的な大きな裁判がいくつか提起された。これらの憲法九条裁判の憲法判
断の傾向を概観してみると、興味ある特徴が浮かび上がってくる。
米ソ対立の時代において、自衛隊・駐留米軍関係の事件で憲法九条適合性が争われ
た事件のうち、主な事件の結果は次のとおりである。
○印 政府側勝訴 ☆印 憲法判断に入る
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●印 政府側敗訴 ★印 憲法判断回避
@、板付基地訴訟(民事事件)
●★ 第一審 一九五六年二月一三日福岡地裁判決
政府側敗訴の理由:民事上基地使用権終了による不法占拠
○★ 控訴審 政府側勝訴の理由:地主の請求は権利濫用・憲法判断なし。
○★ 上告審 政府側勝訴の理由:控訴審判決支持。
A、砂川刑特法事件(刑事事件)
●☆ 第一審 一九五九年三月三〇日東京地裁判決
無罪 理由 米軍の駐留は憲法九条違反
控訴審 跳躍上告
○★上告審 有罪 理由:統治行為論;高度の政治性を持つもので、一見極めて
明白に違憲無効でない限り司法審査の範囲外。
B、百里基地訴訟(民事事件)
__________(21ページ)_________
○★ 第一審 一九七七年二月一七日 水戸地裁判決
政府側勝訴の理由:統治行為論;高度の政治性を持つもので、一見極めて
明白に違憲無効でない限り司法審査の範囲外。
○★ 控訴審 一九八一年七月七日 東京高裁判決
政府側勝訴の理由:基地建設用の土地買収行為は公序良俗に反しな
い。
○★ 上告審 一九八九年六月二〇日 最高裁第三小法廷判決
政府側勝訴の理由:基地建設用の土地買収行為は公序良俗に反しな
い。
C新島ミサイル基地訴訟(民事事件)
●★ 第一審 一九六六年四月二七日 地裁判決
政府側一部敗訴 理由:住民の入会権
○★ 控訴審 政府側勝訴 理由:住民の入会権を否定
__________(22ページ)_________
憲法九条問題は統治行為に関する判断は裁判所
が判断すべき性質のものでない。
○★上告審 政府側勝訴 理由 上告棄却
D恵庭事件(刑事事件)
●★ 第一審 一九六七年三月二九日札幌地裁判決
無罪 理由 構成要件に該当せず。
検察側 控訴せず確定
E長沼ミサイル基地訴訟(行政事件)
●☆ 第一審 一九七三年九月七日 札幌地裁判決
政府側敗訴の理由 自衛隊は憲法違反。
○★ 控訴審 一九七六年八月五日 札幌高裁判決
政府側勝訴の理由 訴えの利益なし。
○★ 上告審 一九八二年九月九日 最高裁第一小法廷判決
__________(23ページ)_________
政府側勝訴の理由 訴えの利益なし。
F小西反戦自衛官事件(掃海艇法違反事件)
●★ 第一審 一九七五年二月二二日判決
無罪 理由 証拠不十分。
控訴審 破棄差戻し
●★ 差戻審 無罪 理由 構成要件に該当せず。
G(民事事件)
○★ 第一審 一九八〇年一一月 日金沢地裁判決
政府側一部勝訴の理由 統治行為論;高度の政治性を持つもので一
見極めて明白に違憲無効でない限り司法審
査の範囲外。
○★ 控訴審 政府側一部勝訴 控訴棄却
H沖縄刑特法事件(刑事事件)
__________(24ページ)_________
○★ 第一審 一九八〇年五月二日那覇地裁判決
政府側勝訴 理由 統治GG行為論;高度の政治性を持つもので、
一見極めて明白に違憲無効でない限り司法
審査の範囲外。
○★ 控訴審 政府側勝訴 控訴棄却
3、右の時代の憲法九条裁判の特徴
右の時代の憲法九条裁判を検討すると、次のような特徴がある。
第一の特徴:第一審においては、政府側の敗訴判決が圧倒的に多いこと。
すなわち、右の九件のうち、第一審についてみると、政府側敗訴の事件は、@板
付基地訴訟、A砂川刑特法事件、C新島ミサイル基地訴訟(一部敗訴)、D恵庭事
件、E長沼ミサイル基地訴訟、F小西反戦自衛官事件の六件であり、政府側の勝訴
の事件は三件である。すなわち六件は、民衆側(政府に対立する国民)が勝訴して
いるのである。勝訴率は実に六六%である。現在では考えられない数字である。
__________(25ページ)_________
第二の特徴:上級審になると、政府側勝訴が圧倒的に多くなることである。
すなわち、上級審での政府側の敗訴判決はF小西反戦自衛官事件のみであり、そ
の他はすべて政府側勝訴となっているのが際立った特徴である。
第三の特徴:憲法九条を適用して政府側が勝訴した憲法裁判は皆無である。
すなわち、自衛隊または米軍の駐留について憲法九条を適用し、憲法九条に違反
しない(合憲)ことを理由として政府側が勝訴した事件は皆無である。
第四の特徴:政府側が勝訴した事件は憲法九条の適用を回避して勝訴している。
すなわち、自衛隊または米軍の駐留にかかわる憲法九条裁判において、政府側が
勝訴した事件における判決は、統治行為論、訴えの利益不存在、民法や刑法などの
他の法律にもとづいて、自衛隊または米軍の駐留についての憲法九条の適用・判断
を回避して、政府側が勝訴するのが一般的傾向である。
第五の特徴:憲法判断をしたのは二件のみであるが、いずれも違憲判断である。
すなわち、自衛隊または米軍駐留について憲法九条を適用した結果、憲法九条に
__________(26ページ)_________
違反すると判断した事件は、A米軍駐留について憲法判断をした砂川刑特法事件第
一審判決とE自衛隊について憲法判断をした長沼ミサイル基地事件第一審判決の二
件である。
以上のように、湾岸戦争以前の憲法九条裁判の傾向をその特徴から検討すると、日
本の裁判所の第一審が自衛隊または米軍駐留について憲法九条適合性を判断すれば、
いずれも憲法九条に違反する旨の判断に帰着しているのであが、控訴審・上告審とな
ると、自衛隊または米軍駐留の違憲判断を回避するために、憲法九条の適用を回避す
る方針を堅持してきた、という明確な傾向が読み取れるのである。
そして、憲法判断を回避しなかったなら九条適用・解釈により「自衛隊は憲法違
反」という判断に帰着せざるをえない場合において、自衛隊の憲法判断を回避して、
しかも政府側を勝訴させるために、それぞれの事件の内容に則して幾多の理論が編み
出されたのである。それらの理論は、憲法判断回避を目的に編み出された理論であ
り、または既存の理論であって憲法判断回避に都合のよいものは利用されたのであ
__________(27ページ)_________
る。
一方、憲法判断を回避してなお政府側が敗訴したのは、板付基地訴訟第一審判決
(国の基地用地占有は不法占有)、恵庭事件(構成要件該当性なし)、小西事件(証
拠不十分)である。板付基地訴訟は統治行為論や訴の利益論を利用しなくても民事事
件として憲法判断に入らずに結論を出したのであり、恵庭事件と小西事件は自衛隊法
違憲判断に入るのを回避するためだけのために、あくまでも刑事事件として処理して
無罪にしたものであった。
こうしてみると、「憲法九条を自衛隊に適用すれば、自衛隊は憲法違反である」と
いう解釈は、米ソ対立の時代における裁判所の確定した判例であった、ということに
なる。それにもかかわらず、日本の司法は、この結論を判決で表明することを極端に
恐れていたこと、自衛隊に憲法九条を適用して違憲判断をすることの訴訟上の要求を
退けることに腐心してきたこと、これを合理化するために憲法九条問題は統治行為に
関する問題であるから司法が判断するべき問題ではないという原則を立てて憲法判断
__________(28ページ)_________
を回避してきたこと、その結果、司法によって違憲状態の阻止が可能であったにもか
かわらず、敢えて違憲状態を阻止することをせず、米国の要請のままに政府が軍事力
を強化することをを放置してきたこと、が明らかに認識することができる。
七、米ソ和解時代における政府の新たな憲法九条違反行為の特質
第三期すなわち米ソの和解時代に入るや、第二期の米ソ対立時代ではかって経験した
ことのない憲法九条違反の事態を政府が公然と強行するにいたったのである。
すなわち、日本が戦争の当事国ではない他国の戦争に対して、その戦費を日本政府が
負担し、かつ自衛隊を海外に派遣する行為をなすに至り、その政府の行為の憲法九条適
合性が問題となってきたのである。
前述の第二期時代つまり従来の米ソ対立時代において、考えられなかった憲法九条違
反の自衛隊の海外派遣行為が、重大な憲法違反行為が意図も簡単に実行されるようにな
ったのである。その政府の行為の合法性の根拠を「国際貢献」に転換したことはすでに
述べた。
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つまり米ソ和解後湾岸戦争勃発によってで自衛隊の憲法適合論が一変するのである。
自衛隊の存在理由の復活をかけた新たな自衛隊合憲論の登場である。
「国際貢献」という新たな自衛隊合憲論は法律論というには余りにも政治的であり、
非論理的な曖昧な概念である。それは、国際政治における外交関係にかんする儀礼的用
語に類するものである。これを自衛隊の憲法九条合憲論の根拠とすることは、法律論で
はないことは明らかである。
第三期における政府の自衛隊海外派遣や他国の戦費支出などの憲法九条違反行為の特
質は、第二期の時代において、国会でなされた政府と野党議員との間で展開された激し
い憲法九条論争は完全に欠落し、それらの憲法的配慮を排除し、政府は専ら、湾岸戦争
の支援のための戦費の支出、海上自衛隊の掃海艇のペルシャへ湾への派遣、カンボジア
への陸上自衛隊の派遣という政治的決定を閣議において先行させ、憲法上の配慮など意
に介せず、これを強行するようになったのである。
まさにファッシズムの再来ともいうべき事態を現出したのであった。国会での十分な
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憲法論議もなされないまま、内閣の閣議での政治的決断と、首相の命令による自衛隊の
出動の事実が先行したのである。
政府は、湾岸戦争を契機に、自衛隊が憲法九条の戦力不保持の規定に違反する事実へ
の考慮も放棄し、自衛隊法第三条所定のわが国の平和と独立そして安全という自衛隊の
任務に基づく行動範囲の限界(原則として領海・領空が行動範囲)の厳守についての微
塵の配慮もなさず、さらに、日米相互協力・安全保障条約第六条に規定する「極東の平
和と安全」という行動範囲の限定の条項などの違反についての配慮などは全くないまま
に、米国などの政治的要求に便乗して「国際貢献」という美名のもとに、戦争への協力
と念願の自衛隊海外派遣を一挙実現する機会到来とばかりに飛びついたのである。
彼ら日本政府の首脳部には、憲法的配慮は一切眼中にないままで、憲法九条違反行為
を白昼公然と非合法的に強行したのである。
政府の強行したペルシャ湾への自衛隊の派遣は、いかなる意味においても、憲法九条
はもとより、自衛隊法第三条、安保条約第六条に違反することは明らかであり、それは
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、憲法施行後に発生した最も重大な特筆すべき「憲法違反の政府の行為」である。
今回の右の政府の行為は、第二期の時代における政府のなした自衛という名目もと
になされた自衛隊の増強という政府の違憲行為に比較して、質的にもより高度な「違憲
行為」として弾劾されなければならないことに特に留意されなければならない。
八、司法は政治的であることを理由に法的問題の判断を回避すること許されない。
国連憲章第九六条に基づき、国連総会は一九九四年一二月に「核兵器の使用と威嚇は
国際法に照らしいかなる場合においても違反となるか」という法律問題について国際司
法裁判所に対し、勧告的意見を求める、という決議をなした。この決議は国際司法裁判
所に送付された。この決議を受けた国際司法裁判所は、同裁判所で裁判をうけることが
出来る全世界の国に対し、意見の陳述(文書提出並びに口頭陳述)を求めて審理した結
果、一九九六年七月八日、約二七〇頁及ぶ「勧告的意見」をハ−グの平和宮にある大
法廷で言渡し、これを国連総会事務総長に送付した。
この勧告的意見において、米国やフランスの政府は、国際司法裁判所に対し、核兵器
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の違法の問題は政治的な軍縮交渉に悪影響を及ぼすおそれがあるなど様々な理由を上げ
て司法が判断すべきではないと強硬に「国際法適合性についての判断を回避せよ」と主
張した。
しかしながら、国際司法裁判所のこれに対する見解は次のようなものであった。
国連総会の提起した法律問題について「当裁判所が下す意見の結論が、どんなものにな
ろうと、国連総会における当該事項に関連する討議の部分が出てきて、その交渉に新た
な材料を提供するであろうことは承知している。それ以外の点において当裁判所の意見
が及ぼす影響がどのようなものであるかは評価の問題である。したがって、このことを
もって管轄権の行使を拒否すべきやむにやまれぬ理由とみることはできない」として
「判断回避」の要求を一蹴したのである。
これまでの判決や勧告的違憲において、国際司法裁判所は、問題が政治的であること
を理由として判断を回避したことはない、と言われている。国際司法裁判所は、核兵器
の使用と威嚇の国際法適合性についての今回の勧告的意見においても同様な態度を貫徹
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した結果、政治的であることを理由に適合性の判断を回避することはしなかったのであ
る。国際間で争われる事件や国際問題についての法律的な諸問題も、国際政治における
対立にその原因があるにもかかわらず、敢えて国際司法裁判所は、判断を回避するべき
やむにやまれぬ理由が見出せない以上、法的判断をするべきだ、というのである。
同様に、一国の国内における政治的事件において、憲法の適用・解釈が争われる事件
は、国家の行為の憲法適合性が争われる以上、当然に政治的背景があり、政治的な政策
や意見の対立にその事件の発端があるのが通常である。そのような事件が裁判となった
場合に、その事件が政治的であること、或は統治行為に属することであることを理由に
憲法適合性の判断を回避することは、裁判で判断を求められた法律問題への回答を拒否
することであり、司法の任務を放棄するものである。のみならず司法が政治的対立の一
方の立場を擁護するという政治的行為をしたことになる。
これをもって、日本の司法を顧みると、自衛隊の海外派遣や外国の戦争の戦費の支出に
憲法九条を適用して憲法判断をせよ、という国民の司法に対する要求に対し、司法は
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、政府の主張を受け入れて、様々な理由をもって憲法判断を回避をしてきた。このこと
は、すでに具体的に指摘したとおりである。
ここで改めて問われていることは、現に違憲状態が日本の政治のなかに存在している
場合に、これに対する憲法九条の適用による法的判断が司法に求められた際に、司法が
これを回避することが正しいのか、という問題である。
これに対し、回避するのは誤っているというのが上告人らの主張である。
国際司法裁判所は、要するに政治的であることを理由に適合性の判断を回避すること
を拒否したことは先に述べた。その結果、勧告的意見では、明らかに核保有国の政府の
主張する「国際法適合性の判断を回避せよ」との要求を拒否し、「核兵器の使用と威嚇
は一般的に国際法に違反する」という意見を宣言したのである。しかも、国際司法裁判
所の勧告的意見で表明する判断が軍縮交渉に悪影響を及ぼすおそれがある、つまり、日
本流に言えば国際間の政治的な交渉に影響を及ぼすおそれを承知の上で、敢えて判断回
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避を拒否したのである。国際司法裁判所の裁判官一五名(現在一名欠員)のうち、五名
は核保有国出身の裁判官である。その裁判官が、自国の政府代表が、判断回避を求めて
陳述しているにもかかわらず、断固として裁判官の良心に従って、自国の国益に反する
結果となるかもしれないことを承知の上で、このような判断を示したのである。
憲法九条裁判において、違憲状態が存在するので、これに憲法九条を適用して憲法判
断をすることができたにもかかわらず、敢えてこれを回避してきた日本の司法は、国際
司法裁判所の裁判官の見識に学ばなければならない。
憲法判断を回避することが、裁判官としての良心の要求と憲法遵守義務に反すること
は当然のことである。
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九、日本の司法が憲法九条の適用を回避する理由
1、憲法九条の規範の普遍性と憲法九条を取巻く政治的背景の特殊性
イ、憲法九条の規範は、戦争による惨禍を経てきた人類が、武力によらざる国際
紛争の解決への道を模索するなかで到達した最良の規範である。
戦争放棄並びに戦力不保持の原則は、核兵器の登場した大量殺戮戦争時代に
入った人類が生き残るための唯一の道を示す規範であり、人類全体に通用する
普遍的価値を有するものである。日本国民は、この普遍的価値を「全世界の国
民は平和に生きる権利を有する」と憲法に規定することによって公的に確認し
たものと言える。
歴史的にみれば、憲法九条の規範は、今世紀に入り第一次世界大戦を経て無
差別戦争観から戦争違法観への戦争観の発展、国際連盟規約そして不戦条約か
ら第二次世界大戦を経て、「国際紛争での武力の威嚇と行使を慎むこと」を基
本的な原則にかかげた国連憲章へと発展した戦争観の歴史の延長線上にあり、
また、一九世紀後半以来の国際条約による戦争の手段及び方法の規制から第二
次世界大戦後に顕著となった国際人道法への国際法の発展を背景にしているこ
とも明らかである。
国家間の戦争がその規模において世界的となり、武器の発達において人類の
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滅亡を可能にする終局兵器が登場するに及んで、国際紛争を武力で解決しない
という規範を人類が確立しない限り、人類は自滅することが現実的となった以
上、憲法九条の普遍的価値はもはや疑う余地はない。
日本の司法が憲法九条のこのような普遍的価値を無視することは、いかなる
理由をもっても許されないことである。それは平和に生きることを願う人類の
期待を裏切ることになる。
ロ、一五年戦争を含む第二次世界大戦とその収束の政治過程において、特殊な政
治的現象が表面化した。それは第二次世界大戦において米英仏ソ中を中核とす
る反ファシズム統一戦線の連合した国家群がファッシズム国家日本・ドイツ・
イタリアに勝利した後に、資本主義国家群と社会主義国家群の政治的軍事的対
立として表面化した。この対立のなかで、日本は資本主義国家群に加担すると
いう政治選択を行った。
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この特殊な政治的現実が、憲法九条の前述の普遍性の対立物となるのである。
2、日本の敗戦の戦後処理の基本原則(普遍性)と米国の国益(特殊性)
イ、日本の敗戦の戦後処理の基準は、反ファシズム戦争勝利者側の日本への基本
要求(ポツダム宣言)と恒久平和(不戦)である。
具体的には、日本の天皇制ファシズム国家の侵略戦争責任の追求、日本の民
主化そして侵略戦争遂行能力の根絶である。これらが完全に実施されることが
日本の再生の原則であったし、現在もそうである。
一方、勝利者米国の国益としては、戦争終結後に表面化した社会主義国家ソ
連(後にアジアの社会主義国を含む)を仮想敵国とする戦略上の観点から、日
本の継続的占領は不可欠であった。そのためには、日本国内の対米治安の確保
と反共思想の保証として、天皇の権威を利用することは有効であり、それを必
要としたのである。
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こうして、米国は日本の継続的安定的占領状態の維持のために天皇を利用す
ることを決断し、その代償として天皇の侵略戦争責任を免除することになる。
その結果、制定された新生日本の憲法は政治的妥協の産物となった。
これが憲法の諸原則の普遍的価値とそれとは異質な戦後日本の特殊な政治的
状況との間における矛盾を生み出す原因となる。
憲法における普遍性に関する条項は、憲法前文、第九条、基本的人権、民主
的国家機構の諸規定であり、特殊性に関する条項は、天皇条項(第一条乃至第
八条)である。この両者は異質の対立物である。
ロ、天皇の侵略戦争責任の不問は、基本的には天皇を頂点とする旧軍人・旧政治
家・旧官僚(裁判官を含む)の戦争責任を不問にすることとなった。
この点がナチスドイツに対する侵略戦争責任追及と全く異なる。
この不問責によって侵略戦争時代の天皇制ファッシズム支配体制の精神的・
思想的土壌を根絶し、真の民主主義国家に生まれ変わる機会を失った。
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戦後の日本は、この旧き土壌についての根本的な反省をすることなく、これ
を社会的・政治的に温存することになった。これは現在までも存続している。
この旧き土壌の典型例は、日本の官民挙げてのアジア蔑視思想であり、アジ
アへの侵略・支配の当然視の思想である。そして、この旧き土壌は、やがて後
の日本再軍備を容易に受入れる精神的・思想的・政治的土壌となった。
日本再軍備政策(湾岸戦争の戦費支出もその延長である)の憲法適合性を争
う憲法九条訴訟は、以上のような憲法規範の普遍性と政治的特殊性の対立とい
う根源的課題の上に乗って争われているのである。
3、憲法九条訴訟は日本再軍備政策に対する根本的批判である。
前述した憲法の天皇条項と連動する米国の国益に基き、米国の日本への要求は
、占領状態の継続、さらに朝鮮戦争を契機とした軍事的協力の要求、次に再軍備
要求、自衛隊創設・増強から日米合同演習へとエスカレ−トしてゆく。
憲法で確認された恒久平和の普遍的価値を無視しながら止め処もなく進行して
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ゆく政治的現実のなかで不可避的に生ずる人権侵害事件が、憲法九条訴訟として
登場するに至る。
したがって、憲法九条訴訟では、この「特殊」な政治的現実に対し、憲法九条
の「普遍」的価値を対置して、その「特殊な政治的現実」である自衛隊の存在及
び行動が、九条の「普遍」的価値に適合するかどうかが問われるのである。
法論理的には特殊性が普遍性に優先することは、特別な理由がない限りありえ
ない。国側は、その「特殊」性を高度の政治性を強調して、「普遍」性から解放
された自由な聖域化を意図する。人権侵害を受けた国民の側は、当然に、「普遍
」性の基本的立場を貫徹することを司法に対し要求し、司法が政府の立場に迎合
することの傾向を批判する。
4、裁判所が憲法九条の普遍的価値を裁判の基準として採用しない理由は何か。
日本の司法は何故憲法九条の普遍的価値を無視するのであろうか、という深刻
にして根源的な問題を解明しておく必要がある。
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イ、自衛隊の憲法九条訴訟において、日本の司法が憲法九条の適用・判断を回避
して、政府の違憲行為を追認・容認するという画一的傾向に固まってきたこと
は、すでに詳述した。
このような画一的傾向が続く本質的な理由として考えられるのは、日本の司
法界で、前述した侵略戦争時代の天皇制ファッシズム支配体制の精神的・思想
的土壌が真摯な反省や追求の対象とならなかった(因みに司法界には公職追放
はなかった)ことに原因があると思われる。
何故なら、この土壌こそが憲法九条の普遍的価値と対立しこれを否定する政
治的特殊状況(日本再軍備)を容易に受け入れる役割を果たしたからである。
憲法九条裁判を担当する裁判官の心理の中に、この旧き土壌を無意識的に受け
入れているのではないだろうか。
ロ、しかし、これを個々の裁判官の責任のみに帰するのは酷に過ぎるかもしれな
い。意識するとしないとにかかわず司法行政の指導部がこの古き精神的・思想
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的土壌を継承しているところに問題の核心があると言えよう。例えば、自衛隊
は憲法九条に違反するという判決をした裁判官をして、その判決以後退官する
までの二十年近くの歳月を東北地方の家庭裁判所勤務で終わらせ、また、かつ
て青年法律家協会脱会の勧告を拒否した裁判官が「島流し」のように地方の家
庭裁判所勤務を強いられてきた。このような人事措置は、他の裁判官に対する
心理的牽制になることは明らかである。
これでは憲法九条裁判を担当する裁判官は憲法判断を回避して身を守るしか
ない。
こうして日本の司法の独立の崩壊現象が生まれてきたのである。
ハ、ヨ−ロッパ民主主義国の司法の独立の実情と日本の司法を比較する。
ヨ−ロッパ民主主義国では、裁判官は基本的人権としての自由権を司法の独
立の観点を維持しながら享受している。すなわち政治活動、集会結社、言論の
自由などの基本的人権を司法の独立を守る立場から行使しているのが一般的で
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あり、常識である。
日本の司法との極端な違いの例は、ドイツ、フランス、スエ−デン、フィン
ランド、スペイン、ギリシャなど各国に存在する裁判官組合である。
民主主義発祥の国ギリシャの場合、裁判官組合への加入率は九〇%といわれ
ており、裁判官らが裁判官組合に加盟する目的の第一は「司法の独立を守る」
ためであるという。その理由は、個々の裁判官の力だけでは司法の独立は守れ
ない、裁判官に対するさまざまな干渉に対して司法の独立を守るためには組合
に結集するしかないからだ、という。
フランスの裁判官組合は、ギリシャの軍事政権による裁判干渉に抵抗したギ
リシャの裁判官の国際的救援活動をしたのである。
ヨ−ロッパ諸国の裁判官組合の国際的な連合組織も結成されている。
またヨ−ロッパの裁判官たちの市民としての活動も活発である。
ヘルシンキで開かれた国際民主法律家協会(NGO)主催の「核軍縮に関す
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るシンポジウム」(一九七八年)に参加する日本代表団をヘルシンキ空港に迎
える役割を担当していたのは、フィンランド民主法律家協会に所属する現職の
高裁判事であり、その協会の会長は保守党に所属する法務大臣であった。
また右のシンポジウムに参加したフィンランド代表は現職の高裁判事であっ
た。
ベルリンで開かれた国際反核法律家協会(NGO)主催の「核抑止論の克服
に関するシンポジウム」(一九九〇年)の議長は、ドイツの現職の高裁判事で
あった。
ヨ−ロッパ民主主義国家の裁判官達の現実の行動を見ると、彼らは当然の義
務として真剣に「真の司法の独立とは何か」を考え、司法の独立を守ることを
日常的に実践していることがよく理解できる。彼らは、国民と掛け離れて存在
して中立公正を装うのではなく、一人の国民として自らが憲法で保障された結
社、表現、言論の自由を実践をすることにより、裁判の公正と権威の担保とし
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、市民の信頼と尊敬を得ているのである。
ニ、こうしてみると、日本の裁判官の市民的自由(表現、言論、集会、結社)の
実践の欠如の惨状は、ヨ−ロッパ民主主義諸国の通常の司法状況に比較すると
極めて異常とも言える現象である。まさに司法の未開発・後進国である。
この異常現象は、平和憲法訴訟における憲法九条の普遍的価値を裁判の規範
とすることに逡巡することと無縁とは思えない。
侵略戦争時代の天皇制ファッシズム支配体制のもとでは、周知のとおり、司
法は行政に従属しており、司法の独立は存在しない時代であった。そして行政
及び司法官僚は天皇の名において国民を支配していた。そして支配する側も支
配される側もこのような支配体制のもとで社会生活を営んできた。このような
社会生活を受け入れて成育した精神的・思想的土壌は、社会制度が変わっても
容易に変わるものではない。日本の敗戦後における戦後処理に際して、旧支配
体制のもとで育まれた右の精神的・思想的土壌は真摯な反省や追求の対象とな
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らなかったのである。特に司法界においては無傷のまま、一人の公職追放もな
く、新しい日本国憲法下の司法として引継がれたのである。
つまり、旧支配体制下で「司法が行政の下僕」であった時代の裁判官らが、
その体制を支えた精神的・思想的土壌についてまで真摯な反省や追求を経由し
ないままで、「憲法と良心にのみ従って裁判を行う」ことを義務づけられた画
期的な「行政から完全に独立した司法」を担当することになったのである。
旧支配体制のもとでの司法界のなかで育まれた、司法は行政の下僕という精
神的・思想的土壌が、新しい日本国憲法のもとでの司法界に温存されているこ
とは否定できない。日本の司法が未だに「司法の独立」を達成していない事実
がそれを証明している。
それは、新憲法下の司法が、憲法の原則に従って行政に対し厳しい判断をす
ることが稀であり、特に憲法九条訴訟において、様々な理由を考え出して憲法
の適用を回避する傾向に顕著に見られるのである。
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憲法判断回避の問題は、司法の独立の欠如の問題であり、また裁判官の市民
的自由の欠落の問題でもある、ことを指摘せざるを得ない。
一〇、本件訴訟において憲法九条の適用を回避する「やむにやまれぬ」理由はない
1、原判決が「違法の確認の利益がない」という理由で、上告人の確認請求を退け
た真実の理由は、憲法九条の適用を回避することにあった。
それは、前述の憲法判断回避という日本の司法の従来の傾向を安易の継承した
ことにその原因があることは明らかである。
確認の利益を認めない原判決の理由についての反論は、すでに上告理由書第四
章で述べたとおりであるが、若干補足する。
2、確認の利益を認めない原判決の理由の要旨
原判決は、上告人らが「平和的生存権を民事上の具体的請求権の根拠として主
張するのであれば」という前提の上に立って、確認の利益が認められない理由と
して三つの理由をあげる。
__________(49ページ)_________
第一は、権利侵害の除去を求めあるいは侵害された被害の損害賠償を求めるべ
きである、またその後に生じ得る別の権利侵害を防止する必要があるなら、端的
にその権利侵害につき差し止め等の救済を求めるべきである。
第二は、国の根幹的行為を違憲違法と確認してその後の違法行為の連鎖を断ち
切ることが有効という主張は、具体的にどのような権利関係の変動が生ずるかは
明らかではないから採用できない。
第三は、平和的生存権が戦争を予防する権利であるとしても、そのことから過
去の行為の違憲違法を確認する利益を肯認すべきことにはならない。
3、確認の利益を認めない原判決の理由の根本的な誤り
この三つの理由のいずれも、憲法九条の規範の示している現在の国際社会にお
ける普遍的価値の実現を求める本件訴訟の趣旨乃至観点から見れば、確認の利益
を否定する理由としては、到底成り立ち得ない、いずれも全く説得力のないもの
ばかりである。
__________(50ページ)_________
イ、第一の理由は要するに、権利侵害の除去、権利侵害の差止め、事後の損害賠
償請求をするべきである、というのである。
これは、「政府の行為」の実情を無視したもので、国民に不可能を強いる暴
論である。
本件にかかわる「政府の行為」の実情は次のようなものである。
上告人の違憲確認を求める「政府の湾岸戦争への戦費支出行為」について言
えば、当時の橋本龍太郎大蔵大臣が米国の招きで渡米し、米国の財務長官と二
人だけで密室で極秘会談をし、湾岸戦争への九〇億ドル(一兆二〇〇〇億円)
の支出を約束して帰国するという事実が先行する。そして、これを国会の審議
・了解も経由しないで、各省庁の予算の予備費をかき集めて国費の支出を実行
するという行政機関内部の公開されない事務的な事実が、上告人らが憲法評価
の対象としようとする政府の行為の具体的な事実である。
__________(51ページ)_________
憲法九条の適合性にかかわる重大な事項であるにもかかわらず、国会の審議
にもかけられないままで、政府の行為として短時日の間に強行されたのである
。この政府の行為の過程は、国民の反撥をおそれた政府は、国民には知らされ
ないないまま、秘密裏にし進行したのである。
このような場合、これらの事実は断片的な新聞報道により、湾岸戦争に戦費
の負担を米国から要求されている、という情報が流されていても、それが何時
、どのような方法で、日本政府からどこの機関に支出されるのか、国民には皆
目知る術がないのである。
このような状況のままで訴えを提起したならば、裁判所から「違憲判断を求
める政府の行為を具体的に特定せよ」と求められるにきまっているのである。
憲法判断の対象とする「政府の行為」を具体的に特定できるのは、すでに政
府の違憲行為は終了している後の段階であるのが通常のことである。
原判決の「本件において違憲確認を求める利益がない」という理由には、こ
__________(52ページ)_________
のような場合においても「権利侵害の除去や権利侵害の差止め」が可能である
ということを前提とした論理なのである。つまり、違憲の政府の行為が終了す
る前に、違憲の政府の行為により受ける権利侵害を除去または差し止めをせよ
、という論理である。
仮に、短時日に、訴えの提起がなされたとしても、第一審、控訴審、上告審
と続く現在の裁判制度のもとでは、当事者の協力により迅速な審理を実施した
としても、判決確定までには数年間の日時を要することは司法の関係者である
ならば、自明のことである。
例外的に、権利侵害の状態が、裁判が確定するまでの数年間継続していた場
合であるならば権利侵害の除去を求める訴えも可能であるかもしれない。
しかし、本件の戦費の支出行為のごとき場合、右のごとく行政機関の内部に
おいて非公開のままに行われる一回の単純な支出行為である。これを支出が実
行される事前に支出の日時・方法についての情報を入手しなければならない。
__________(53ページ)_________
このような不可能に近いことである。
原判決の論理からすれば、このような不可能に近い行為を国民に強いるもの
である。右のような政府の違憲・違法な行為に対する国民の側からの告発の訴
訟について、政府の行為の実行前に、その権利侵害の除去を求める訴えを提起
せよ、ましてや差止請求をせよという論理は、まさに国民からの政府の違憲・
違法行為に対する司法上の救済措置を拒否するに等しいものである。
また、原判決は、差止請求など不可能である場合には、損害賠償を求めれば
足りるかのごとき論調である。違憲の戦費支出行為による権利侵害に対して、
事後的な損害賠償で問題が解決できるような筋合いではない、ことは明白であ
ろう。
この場合、国民の側から見て必要なことは、政府が二度と違憲行為を行わな
いための保証として、政府のなした行為が違憲行為であったことを確認をする
ことである。その損害賠償を求めることが国民の真意ではない場合があるので
__________(54ページ)_________
ある。
本件においては、損害賠償を求めるのは上告人の真意ではないのである。
ロ、確認の利益を認めない第二の理由は、「具体的にどのような権利関係の変動
が生ずるかは明らかではないから採用できない」というものである。
これは意図的に問題を回避している。問題は簡単明瞭である。上告人らが問
題にしているのは、政府が「他国の行う戦争遂行のために戦費を支出する」行
為である。これをはぐらかして「具体的にどのような権利関係の変動が生ずる
かは明らかではない」というのである。どのように権利関係の変動があろうと
も、政府の「他国の戦争への戦費支出行為」に関する限り、明白な具体的事実
である。この政府の「他国の戦争への戦費支出行為」が違憲行為であることを
確認する判決が出されるならば、「今後の違法行為の連鎖を断ち切ることに極
めて有効である」ことは明らかである。確認の利益を認めない第二の理由は全
く問題にならない程、不当である。
__________(55ページ)_________
ハ、確認の利益を認めない第三の理由は、「平和的生存権が戦争を予防する権利
であるとしても、そのことから過去の行為の違憲違法を確認する利益を肯認す
べきことにはならない」というものである。これは、全く論理的にも何ら確認
の利益を否定する理由としては意味のない説明である。
「平和的生存権が戦争を予防する権利」であれば、「過去の行為の違憲違法
を確認する利益を肯認する」のが通常の常識である。原判決の論理は通常の常
識の逆である。
4、原判決の「確認の利益を認めない」論理は憲法の普遍的価値の否定である。
原判決の「確認の利益を認めない」論理は、以上に検討したごとく、法論理的
に矛盾し、破綻し、理由として成り立たないものである。
何故このように無理なこじつけとしか言いようがない論理を展開して、政府の
行為の違憲を確認する利益を認めようとしないのか。
その理由を要約すれば次のようなものとなろう。
__________(56ページ)_________
原判決の裁判官らが、憲法九条の普遍的価値を承認して、この憲法規範に基づ
き判決をなした場合、上告人らの指摘する政府の行為が憲法九条に違反する、と
いう結論(判決)に帰着するほかないことを認識したであろうことは明らかに推
察することができる。そこで、前述した日本の司法の憲法判断回避の伝統的な傾
向に安易に従うことにして、違憲判決を出すわけにはいかない、と言う結論に到
達することになる。その上で、憲法判断回避の論理として「確認の利益を認めな
い」論理を展開することになった。
判断経過の具体的な状況はともかくとして、結果的には、原判決は「違憲確認
の利益はないというどうにでもなる論理」を、「憲法九条の普遍的価値」よりも
優位に置いて判決をした事実は明白である。
憲法九条に違反した戦費の支出や掃海艇の派遣の事実は結果的には追認され、
再び「政府の行為によって戦争の惨禍が繰り返される」事態に日本の政治が進行
し始めるに至っており、司法がこれに協力するという結果をもたらしているので
__________(57ページ)_________
ある。
司法の独立を放棄した、その国の末路は、ドイツの司法がワイマ−ル憲法の原
則を放棄してナチスに迎合したドイツの例を見れば十分であろう。
日本の憲法九条が現在世界的に注目され、「戦争のない世界をつくる」ことが
世界的な市民運動となって展開し始めている現状のもとで、最高裁判所は、これ
を機会に「憲法九条と司法の独立」の問題を真剣に考えて判決をする時期にきて
いることを認識されることを強く希望するのでものである。
日本の司法はもう政府の行為の憲法違反を容認することは止めるべきである。
本件訴訟において憲法九条の適用を回避する「やむにやまれぬ」理由はない。
以 上
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